◎今月の話題


良いものを、消費者に責任を持って届けるために

鹿児島県黒豚生産者協議会  会長 沖田 速男(養豚経営)






 

黒豚へのこだわり

 「今は、質よりも量、しかし、やがて、量よりも質の時代がきっと来る」。

 昔、NHKのテレビ番組「明るい農村」の取材で「なぜ、黒豚にこだわるのか」と
聞かれてそう答えたことを覚えている。

 今、「黒豚」ばやりである。どこに行っても、「黒豚」が売られている。ほん
の10数年前、昭和60年には鹿児島の黒豚は、世間から見向きもされず、絶滅
の危機にあった。それがこんなに人気が出て、逆に少々戸惑っている。

 私は、昭和30年代から、黒豚一筋に養豚をやってきた。その当時、鹿児島で、
豚と言えば在来の黒豚(藩政時代、琉球から移入され、明治時代にイギリス・バ
ークシャー系の導入等で改良)で、昭和40年の母豚頭数は40,257頭と県
内の全母豚頭数の95%を占めていた。

 その後、経済成長とともに食生活が変化し、豚肉の需要が高まり、ランドレー
ス等の大型種の導入、普及が進む。分娩頭数が少なく、増体率が低い黒豚を飼う
農家は急速に減少し、昭和60年には黒豚の母豚は3,352頭(県内の全母豚
頭数の3.6%)と激減した。

 鹿児島県では、県の貴重な資産である黒豚の火を消してはならないと、畜産試
験場で、昭和46年から系統造成に着手した。しかし、当時、県の担当者が全国
の養豚関係の会議に出ると「鹿児島は、まだ、経済性の低い黒豚にこだわってい
るのか」 と冷やかされたという。 昭和57年に発育に主体をおいた第1系統豚
「サツマ」が、平成3年に肉質の向上に主体をおいた第2系統豚「ニューサツマ」
がそれぞれ完成された。

 黒豚人気の高まりもあり、母豚の飼養頭数は平成9年14,700頭(県内の
全母豚頭数の12.4%)にまで回復している。


放牧と直販の試み

 昭和52年、私は国有地11haを借りて、日本では珍しい放牧養豚を本格化し
た。繁殖母豚は種付け後、分娩まで運動場に出している。肥育豚については、生
後90日から出荷する240日齢まで、放牧している。自然の中で、ストレスも
少なく、肉質が良い。また、病気も少なく、母豚が長持ちし、産子数、分娩回転
率も安定する。現在の年間出荷頭数1,200頭(母豚80頭)を、1,500
頭とすることを当面の目標としている。

 おいしい豚肉を作ることは出来た。次は、自分が作ったものを消費者に直接届
けたい。平成4年から大阪の自然食品を扱うグループに「沖田黒豚牧場」と明記
して、出荷を始めた。と畜場の問題、カット処理の問題等があったが、今では週
に20頭まで拡大している。また、県内のスーパーや、加工業者とも取引をして
いる。


証明制度で自信と責任を

 平成2年、生産者が一体となって、消費者の求める、安全でおいしい黒豚肉の
安定生産のため、「鹿児島県黒豚生産者協議会」(9年8月現在、会員数150
名)が設立された。5年からは、私が会長を務めている。協議会には、県内で黒
豚を生産しているほとんどの系列、グループが加入し、それらの出荷頭数は県全
体の9割を占めている。

 4年4月、協議会は、「かごしま黒豚証明制度」を発足させた。この証明書の
交付対象は、(社)日本種豚登録協会の品質基準に基づくバークシャー種の産子
であり、県内で生産・肥育して出荷された肉豚である。1頭につき2枚交付し、
生産者名と処理年月日を明記する。証明書を付けることによって、生産者は生産
物に対して自信と責任を持つことができる。また、他県産黒豚との差別化と、流
通サイドの情報を生産現場にフィードバックできる利点もある。

 この証明制度は、黒豚を高く売ろうという考えだけではうまく運営できない。
良いものを作って消費者に責任を持って届けたい、そのための証明書である。私
も証明書の交付を受けているが、「沖田が作った黒豚が、良くなかった」と言わ
れないよう、安全でおいしいものを作ろうと、強い意志を持って生産している。


さらなる品質の高位安定を目指して

 鹿児島県には、代表的な県産品を「かごしまブランド」として指定し、県とし
てバックアップする制度がある。8品目、10産地が指定されており、畜産物で
は「鹿児島黒牛」が入っている。

 現在、「かごしま黒豚」の指定が検討されている。ブランド指定の条件として、
品種、生産地に加え、飼養条件(肥育後期に甘しょを10〜20%添加した飼料
を60日以上給与し、出荷日齢は概ね210〜270日)等を盛り込むこととし
ている。

 これまで各生産者はそれぞれ、自分が最良と考える飼い方でやってきたので、
統一した飼養条件を盛り込むことについては、抵抗もある。しかし、月に1回上
場している東京食肉市場での買参人の評価では、「品質にばらつきがある」とい
う厳しい意見もきく。だからこそ、安定した品質の豚肉を生産し、販売していく
ためには、飼養条件の統一が重要であり、欠かすことが出来ない。

 これからも、かごしま黒豚という「名声」におぼれることなく、品質的にも高
位安定を目指し、良いものを作って、自信を持って、消費者に届けていきたい。

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