★農林水産省から 

食の現状と今後の消費者施策のあり方− 消費者懇談会報告−

食品流通局 消費生活課 廣瀬 勝士




はじめに

 この6月に消費者懇談会(農林水産省食品流通局長の私的懇談会)が、消費者
の視点からみた食の現状、今後取り組むべき課題等について検討した内容を「食
の現状と今後の消費者施策のあり方」と題して整理し、それを食品流通局長に提
出したところである。

 以下、消費者懇談会を設置した趣旨や報告の内容を簡単に紹介する。


消費者懇談会設置の趣旨

 わが国の食料消費が量的拡大から質的向上にシフトする中で、消費者ニーズは
ますます多様化、高度化している。近年、特に消費者は「健康」、「安全」につ
いて強い関心を持つ一方、自らのライフスタイルに合わせた食生活を志向する傾
向にある。

 こうした中で、食料供給サイドとしては生産から加工、流通に至る各段階にお
ける食料供給システムの一層の高度化、効率化を図ることにより、消費者ニーズ
に柔軟に対応していくことが必要である。

 また、行政においては、従来にも増して消費者の視点を踏まえた施策の展開を
図ることが重要となっている。

 このため、今後の食品流通行政に、より消費者の視点を反映させていくことを
目的として、今後の食生活、食料消費等について意見を幅広く伺うため、有識者
から構成される「消費者懇談会」を開催したところである。

 同懇談会は、平成9年7月から10年6月まで計5回にわたり開催され、その委
員は消費者団体、栄養・教育の専門家、企業の消費者対応部局、マスコミ、企業
のマーケティング担当等の有識者を中心に構成されている。各回毎に消費者の関
心の高いテーマを設定し、それに関する有識者からの話題提供と自由な意見交換
により議論、検討が進められた(委員名簿等は文末参照)。


食の現状と今後の消費者施策のあり方の概要

 消費者懇談会の検討内容の取りまとめは、「食の現状と課題」及び「今後の消
費者施策のあり方」の2部より構成されており、以下では事務局(食品流通局消
費生活課)がまとめた概要を中心としてその内容を紹介する。


食の現状と課題

 1 消費者をとりまく状況の変化

 消費者をとりまく経済・社会的環境の変化に伴い、食の外部化、簡便化、高級
化等の食生活の多様化が進む中で、消費者は食に対して「健康」、「安全」、「安
心」を求める等、かつての「量」の重視から「質」の重視へと変化している。

 一方、生産現場と消費との距離のかい離、消費者の農業・調理体験等の実体験
の減少等により、若い世代を中心にして、食に関する基礎的な知識の欠如や関心
の薄れもみられるようになっており、食に対する関心にはライフステージ等によ
り大きな差が生じてきている。

 また、農業生産、食品製造・加工業、流通業、外食産業においては、消費者ニ
ーズを取り入れ効率化を図るとともに、食品企業においては消費者相談対応部門
の充実・強化が図られてきている。

 2 食と健康

 食と健康は一体不離の関係にあり、適切な食生活の実践が健康的な生活を送る
上での必要不可欠な条件といえる。

 特に、近年、食生活と生活習慣病との関連が指摘される中、世代によっては脂
質の摂取比率が適正範囲を超えるなど栄養バランスの崩れが現実のものとなり、
生活習慣病の増加等が懸念される状況にある。

 また、消費者の健康志向が高まる一方で、栄養摂取の自己評価は実態からかい
離し、望ましい食生活への行動が伴わない状況にあり、望ましい食生活としての
「日本型食生活」の実践、そのための普及啓発は予防医学の観点からも重要な課
題であり、生涯学習のテーマとして推進していく必要がある。

 3 子供の食生活

 子供の食生活の現状をみると、個々の栄養摂取のばらつき、肥満の増加、欠食、
孤食等の問題が生じてきており、また、食に関する体験をみると、調理体験は少
なく、また、農業体験はあるものの観光農園等での収穫作業が多い状況にある。

 子供の食生活の乱れは、核家族化を背景とする家庭での食生活の知恵の伝承の
希薄化や生産現場とのかい離による農業体験、食体験の欠如などを背景とする食
に対する関心の低下や基本的知識の不足が原因と考えられる。

 人格や食習慣を形成していく上で重要な時期にあたる子供に対する学校教育等
における食教育の推進が重要である。

 4 食品の安全・安心

 近年、消費者の食品に対する安全・安心への関心の高まりが見られるが、この
背景には、「安全」なものについても知識や情報の不足、食品の生産現場からの
かい離による「不安」感が存在している。

 消費者は「不安」解消のため、食料品供給サイドに対して安全性の確保、表示
等を、行政に対して情報公開、指導監督等の強化を望んでおり、こうした要望に
応えるとともに、消費者の自立・自覚を促していくことが重要である。

 5 食生活と環境

 消費者の環境問題に対する関心は高く、その重要性を認識している一方で、家
庭での食べ残しや廃棄の増加がみられる。これは、環境問題への取り組みと簡便
化志向の流れとに相容れない要素のあることが理由として考えられるが、このよ
うなこともあって消費者の取り組みは十分とは言い難い状況にある。

 食における環境への負荷の軽減については、食料供給サイドにおける取り組み
とともに、個々の消費者の関心や意識を自らの問題としていかに食生活面で実践
していくかが課題となっている。


今後の消費者施策のあり方

 以上のような食をめぐる現状と課題を指摘した上で、消費者懇談会は「今後の
消費者施策のあり方」を次の 5 つの項目に分けて指摘している。

 1 食品の安全性の確保

 食品は「安全」であることが大前提であり、「農場から食卓まで」の全過程を
通じた食品安全対策の総合的な推進、HACCP手法・ISO9000等の導入を図り、消費
者の「安心」の確保に努めることが重要である。

 その際、環境ホルモン等の新たな科学的知見を踏まえた安全性対策の不断の見
直しが必要である。

 2 的確な情報の提供

 消費者が望ましい食生活を送ることができるようにするためには、消費者の選
択を容易にする「わかりやすい」情報の提供とともに、消費者を望ましい方向へ
と導くための「実践を促す」情報提供が肝要である。

 特に、消費者の適切な判断を促進する観点から、表示の充実や商品のデメリッ
ト情報の積極的な提供が必要である。

 また、関係機関における緊密な連携とともに、広範な浸透を図るための様々な
媒体を活用した効果的な啓発普及が必要である。

 3 消費者意向の反映

 食料供給サイド及び行政においては、今後とも消費者ニーズの的確な把握に努
めることが重要であり、消費者との接点を拡大する方向で消費者意向を反映する
仕組みを整備するとともに、パブリックコメントの導入など施策の決定過程等に
おいて消費者意向の適切な反映を図ることが必要である。

(注)「パブリックコメント」とは、政策等の趣旨、原案等を公表し、広く国民
  からの意見を求め、これを考慮しながら最終的な意思決定を行うことである。

 4 食と農の交流促進

 消費者が「自分の食べるものを理解し責任を持ち、食生活面で自立できるよう
になる」ためには、生産から消費までの実態、背景、更には食材の特性への理解
を深めることが重要である。

 消費者の食への関心の低下や「不安」の増大は、農業体験、調理体験等の実体
験の減少や情報の不足等によるものと考えられる。

 このため、消費の場面である「食」と生産の場である「農」の交流の促進等に
より、生産と消費の相互の理解を促進することが重要である。

 5 子供達の生きる力を育む食教育の推進

 人格や食習慣を形成していく上で重要な時期にあり、次代を担う子供達の食の
自立を促すためには、関係機関、地域社会が一体となって子供達への食教育を推
進していくことが重要である。

 子供に対して農業体験等、生産現場や食材に触れる機会を創ることは、食の大
切さの実感、好き嫌いの解消による食生活の改善での効果があり、さらには生命
の尊さの理解、子供達の中に生きる力、思いやりを育てていくことが期待される。


おわりに

 冒頭にも述べたように消費者懇談会は、消費者の視点から今回の報告を取りま
とめたところであり、行政としては報告の趣旨を活かし、今後の施策の展開に当
たりたいと考えている。

 また、関連する企業、団体の方々におかれては、この報告の趣旨に御理解をい
ただき、消費者の適切な選択・判断に資するためのより一層の情報提供等に御協
力いただくとともに、消費者の方々におかれては、食に対する関心を高め、自ら
判断・選択することに努めていただくことをお願いする次第である。


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