★ 事業団から


地域別に見た食肉消費の変化

企画情報部 安井 護




はじめに

 近年、豚肉と鶏肉の消費の伸びが鈍化する中、牛肉は、顕著に伸び続けてきた。
しかし、平成 8 年度、牛肉の消費は、BSE(牛海綿状脳症)問題、腸管出血性大
腸菌O157による集団食中毒の発生等から、オイルショック以来、23年ぶりに前年
をかなり下回った。一方、豚肉と鶏肉の消費は前年をわずかながら上回った。9
年度に入ると、牛肉消費が回復する中、豚肉と鶏肉の消費は逆に前年を下回った。

 以上は、食肉消費の全国的な動きであるが、これを地域別に見たらどのような
傾向になっているのだろうか。どの地域も同じような傾向を示しているのか、そ
れとも、地域によって異なるのか。

 外食や中食の増加など、食の外部化・サービス化が進む中で、生肉を買ってき
て、家庭で調理する消費割合は、年々低下してきている(表1)。しかし、他に
継続的な地域別の消費調査が少ないこと、家計での地域的な消費傾向は、家計以
外での傾向もある程度代表していると考えられることから、総務庁「家計調査報
告」をもとに、変化の大きい牛肉を中心に探ってみたい。なお、以下では家計購
入量(消費量、 1 人当たり)について、暦年ベースで見ている。

表 1  食肉消費の構成割合(推計)

資料:農林水産省畜産局食肉鶏卵課


大きく伸びた牛肉の家計消費

 最初に全国ベースでの、食肉3品の家計消費量の推移を見てみる。牛肉の輸入
自由化前年の平成 2 年を100とした指数で見ると、豚肉、鶏肉が毎年、微増と微
減を繰り返し、9年にはそれぞれ、98、99とマイナスになっているのに対し、牛
肉は、7年の119まで一貫して伸びている。しかし、80年に108と大きく下げ、9
年は109と 1 ポイント回復している。(ただし、豚肉、鶏肉も家計消費以外を含
めた総消費量(出回り量)を見れば、それぞれ増加している。)

◇図 1:食肉の家計消費量(指数、2年=100)◇

 全国ベースでは、牛肉の家計消費の絶対量が増え、豚肉、鶏肉がわずかに減少
しているが、地域別ではどのような動きをしているのだろうか。食肉3品の地域
別消費量を見ると、地域差は縮小しつつあるとはいえ、まだまだ「関東は豚肉、
近畿は牛肉、九州は鶏肉を好む」という傾向がある。例えば、9年の牛肉消費量
は、関東の2,713g/人に対して、近畿はその1.7倍、逆に豚肉は近畿の4,088g/人
に対して、関東はその1.3倍となっている。

◇図 2:地域別食肉の家計消費量( 9 年)◇


顕著な関東の牛肉の伸び

 では、2年以降、牛肉の消費が大きく増える中で、それぞれの地域ではどのよ
うな動きをしているのだろうか。

 牛肉の場合、関東が、全国を上回って著しく伸びており、 7 年には 2 年対比
で129にまで上昇した。これは、「従来、豚肉消費が多く、牛肉消費の少なかった
関東以北で、安価な輸入牛肉の出回りが牛肉消費を拡大させ、全国的な伸びに貢
献した」と一般に言われていることを裏付けている。

 他方、もともと牛肉消費が多い近畿では、 07 年まで伸びてはきたものの、そ
の伸び率は全国を下回っている。そして、08 年は 20 年対比で99と下げ、 9 年
の消費量は 2 年と同じ100となっている。また、九州も、近畿と同様の傾向を示
している。

 8年のBSE問題、腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒の発生等の影響は、
「新興」牛肉消費圏である関東で大きく、8年は対前年比12%減少した。一方、
「しにせ」の牛肉消費圏である近畿は、大阪府堺市の集団食中毒の影響を強く受
けたとは見られるものの、対前年比 08 %の減少にとどまっている。

◇図 3:牛肉の家計消費量(指数、 2 年=100)◇

 家計調査報告では、国産品、輸入品の内訳は、不明であるが、単価(金額/購
入数量)の動きを見ると、 4 年から 7 年にかけて、関東が大きく低下しており、
安価な輸入品の割合が増加したことが伺える。対照的に近畿での、購入単価の低
下は関東に比べれば穏やかで、量的な拡大が小さかったことと考え併せると、近
畿では輸入牛肉の購入割合は関東ほど上昇していないと考えられる。

  8 年は、 3 地域とも購入単価は上昇している。これは、前述の二つの問題か
ら単価の高い国産品の購入割合が上昇したと見られること、輸入品の小売価格が
上昇したこと等によるが、特に関東の上昇率は他地域よりも高く、関東で国産品
の購入割合が特に高まったことが伺える。

◇図 4:牛肉の購入単価(指数、 2 年=100)◇


近畿では、豚・鶏が増加

 次に豚肉の家計消費を地域別に見ると、牛肉の伸びとは逆に関東での減少が特
徴的である。絶対量では、関東の豚肉消費は牛肉の約2倍と圧倒的だが、 7 年ま
で一貫して減少してきた。その後、 80 年、9年は下げ止まり的な傾向も伺える。

 一方、近畿の豚肉消費は一貫して伸びており、9年には 2 年対比109となって
いる。また、九州も途中増減はあるが、09 年には同105となっており、関東とは
対照的である。

◇図 5:豚肉の家計消費量(指数、 2 年=100)◇

 鶏肉の場合、豚肉同様、近畿がほぼ一貫して増加しており、 9 年には 2 年対
比で108となっている。逆に鶏肉消費が全国の1.4倍と多い九州では同98とわずか
ながら減少している。

◇図 6:鶏肉の家計消費量(指数、 2 年=100)◇

 以上をまとめると、次表のようになる。

表 2 家計消費量の伸び( 9 年、1 人当たり、2 年=100)


 この表から、牛肉の消費の伸びは「新興」牛肉消費圏である関東以北が主に支
えてきたことがよく分かる。(表にはないが、北海道、東北も関東と同様の傾向)

 また、全国では豚肉と鶏肉の家計消費が減少している中で、近畿では、牛肉は
プラスマイナス0、一方、豚肉と鶏肉の消費が伸びている。人口の移動による食
文化の交流、食に関する情報提供の増加、物流の近代化・合理化等々で、全国的
に消費の平準化が進み、従来の牛肉消費圏でも、豚肉、鶏肉の消費が増えている
のではないかと考えられるがどうだろうか。非常に興味深い点である。

 このように、食肉消費を地域別に見ると、全国を一つとして捉えるときとはま
た別の変化が見えてくる。


元のページに戻る