熊本県/上村 佳朗
平成10年 5 月 1 日、熊本県内の平坦地域にある下益城、菊池、鹿本地域の畜 産農家の褐毛和種繁殖牛94頭が、阿蘇の草原に放牧された。平成10年度「熊本型 放牧」の第1陣である。入牧した牛たちは、舎飼いのストレスからの解放を喜ぶ かのように草原へ駆け出し、緑の牧草を食み始めた。 この事業は、阿蘇地域の豊富な草資源を活用し、平坦地の肉用牛を阿蘇の牧野 に放牧することにより、肉用牛生産農家の規模拡大及び経営のコスト低減を目的 としている。平成 8 年から熊本県畜産農協によって始められ、今年で 3 年目を 迎える。平成9年度からは県単独の事業として熊本型放牧促進事業を創設し、牧 野整備費や衛生繁殖費等に係る助成を行い、同農協の支援を図っている。放牧実 績としては平成 8 年度、39頭、放牧延べ日数3,362日、平成9年度は、82頭、放 牧延べ日数5,406日、平成10年度は150頭を計画しており、放牧頭数は順調に伸び ている。 取り組みの背景として、@阿蘇地域では、従来から恵まれた草資源を利用した 肉用牛の放牧が行われてきたが、牧野には入会権(旧来慣習)が存在しており、 他地域の牛が利用することは少なかった。しかし、現在では、牧野組合員の減少 及び高齢化等により放牧頭数が減少し、草資源に余裕が生じている。A一方、平 坦地域の肉用牛生産農家は、規模拡大や低コスト肉用牛生産に意欲的であるが、 飼料生産基盤の確保や労働力不足に苦慮している等の状況があった。 そこで、平坦地畜産における土地基盤の不足解消及び肉用牛の省力低コスト生 産と阿蘇草原の有効活用を図るため、広域放牧「熊本型放牧」への取り組みが始 まった。 効果として、@平坦地の預託農家は、放牧に取り組むことで、省力化と低コス ト化が可能になり、増頭意欲が高まっている。A受入牧野では、余剰草の有効活 用と牧野組合運営の向上につながっている。B阿蘇の草原を介して、阿蘇の畜産 農家と平坦地の畜産農家との交流が図られている。C熊本型放牧促進事業により 阿蘇地域の草原の広域的利用が大きく進展した等があげられる。
【緑豊かな阿蘇草原へ】 |