統計情報部 構造統計課 杉浦 照夫
畜産統計調査は、毎年 2 月 1 日現在の乳用牛、肉用牛、豚、採卵鶏について、 飼養戸数、頭羽数、規模別分布等を調査している。 平成10年 2 月 1 日調査結果が、この度まとまったが、その主要特徴は、飼養 頭羽数は微減ないし横這いであったが、飼養戸数が 5 〜 7 %減少したことから、 少数大規模化が一層進んでいることが浮き彫りになったことである。 それぞれの飼養戸数、頭数の状況は、下表のとおり。 家畜の飼養戸数・頭数(総括表) 注:採卵鶏は、種鶏のみの飼養者及び成鶏めす羽数1,000羽未満の飼養者を除く。
乳用牛の飼養戸数は、年々減少してきているが、平成10年には前年に比べ5.1% 減少の 3 万7,400戸となった。これは、飼養者の高齢化、後継者不足が減少の要 因となっていることに加えて、飼料価格が7年10月以降上昇し、その後も高い水 準にある影響等から、小規模な飼養者層を中心に減少傾向にあり、前年(5.3%減) と同程度の減少率となった。 ◇図1:乳用牛の飼養戸数、頭数の推移◇ 一方、飼養頭数も、5年以降、搾乳向け後継牛の出生割合の低下傾向を反映し て一貫して減少傾向を続けてきたが、10年も同様の傾向をたどり、前年比2.1%減 の186万頭となった。 これを経産牛・未経産牛別にみると、経産牛は前年に比べて1.2%減の119万頭 となったが、北海道では、生乳生産の確保から、前年並みないし微増(0.4%増) となった(都府県で2.3%減)。 これに対して未経産牛は、堅調な肉牛販売価格を反映した交雑種牛生産の増加 等により搾乳向け出生めす子牛が減少したこと等から、前年に比べて3.5%減の6 6万9,600頭となった。経産牛の場合より減少率が高く、今後の生乳生産への影響 が心配される。地域別にみても北海道2.1%減、都府県5.3%減となっている。 1戸当たりの飼養頭数をみると、小規模な飼養者層を中心に飼養戸数が減少傾 向を続けている中で、飼養頭数がわずかな減少で比較的安定して推移しているこ とから、飼養規模の拡大が着実に進展し、10年においては前年に比べ 2 頭増の5 0頭となった。 特に、総飼養戸数の約3割、頭数の約 5 割を占める北海道では、戸数で3.6% 減に対し、頭数ではマイナス0.8%とわずかな減少にとどまったことから、83.2頭 となり、都府県(36.6頭)の2.3倍となっている。 表1 乳用牛の種類別飼養頭数 表2 乳用牛の全国農業地域別飼養戸数、頭数(平成10年) 規模別の飼養戸数・頭数の動きをみると、成畜50頭以上の階層では総じて増加 しており、特に「100頭以上」の階層では、生乳生産の確保による飼養規模の拡大 からそれぞれ大幅な増加(戸数で18.8%、頭数で22.4%)となった。 この結果、50頭以上の階層の総飼養戸数・頭数に占める割合は、戸数では22.9 %(前年より1.8ポイント増)、頭数では48.9%(同2.6ポイント増)となり、こ の階層のシェアは年々高まる傾向にある。 ◇図2:乳用牛の成畜頭数規模別飼養戸数・頭数の推移(構成比)◇
肉用牛の飼養戸数は、13万3,400戸で前年に比べ6.6%減となった。要因として は、飼養者の高齢化、後継者不足に加え、牛肉輸入自由化やUR農業合意に基づ く関税率の引き下げ等国際化の進展の影響による小規模の飼養者を中心とした減 少、更には肉牛販売価格が、牛肉需要の回復傾向等から比較的堅調に推移してい るものの、飼料価格が依然高い水準にあること等が挙げられる。 ◇図 3:肉用牛の飼養戸数、頭数の推移◇ 一方、飼養頭数は、昭和63年までは乳用種を中心に増加し、平成元年以降は肉 用種を中心に増加したが、6年をピークとして、その後は肉用種の頭数が減少に 転じたことから減少傾向で推移してきたが、10年においては、284万8,000頭で前 年並み(0.1%減)となった。 ただし、内訳をみると、肉用種は2.2%の減少、乳用種は3.5%の増加となって いる。それぞれの要因をみると、@肉用種については、肉用種の子取り用めす牛 頭数が、 6 年以降 減少したことから子牛生産頭数が減少してきており、これ を反映して、10年においても「肉用種頭数」は2.2%減となった。Aこれに対し「乳 用種数」は、堅調な肉牛販売価格を反映して、交雑種牛の生産が近年増加傾向で 推移していること、6年夏期の猛暑の影響による種付け時期の遅れ等により、7 年後半以降に分べんした頭数(今、飼っている牛)が増加していること、過去の 減少要因であった6年夏期の猛暑により分べん頭数が減少した時期の子牛は、す でに出荷時期を過ぎている(すでに飼っていない)こと等から、前年に比べて3. 5%の増加に転じている。 表 3 肉用牛の種類別飼養頭数 注:交雑種の( )内の構成比は、乳用種に占める割合である。 1戸当たりの飼養頭数は、飼養戸数が減少している中で、6年までは増加して きた飼養頭数が、その後わずかな減少にとどまっているため飼養規模の拡大につ ながり、10年には前年に比べ 1 頭増の21頭となった。特に、乳用種の 1 戸当た り飼養頭数は、交雑種牛の飼養頭数の伸びを受け、飼養規模の拡大が大きく、 6 頭増の111頭となった。 なお、交雑種牛の飼養頭数についてみると、調査を開始した 3 年には18万6,1 00頭で、乳用種頭数の17.3%を占めるにすぎなかったが、10年には前年に比べて 27.2%と著増して56万6,200頭となり、乳用種頭数の51.0%を占めるまでに高まっ ている。 飼養戸数・頭数の動きを地域別にみると、飼養戸数・頭数とも最も多い主産地 域である九州は、戸数で5.4%減少したが頭数では前年並み(0.2%増)となって おり、次いで東北では戸数で7.5%、頭数で2.9%それぞれ減少した。この2地域 で全国に占める割合は、飼養戸数で 7 割強、飼養頭数で 5 割に及んでいる。 ただし、近年の動きをみると東北の占める割合は低下してきており、代わって 乳用種を主体とした北海道が総頭数の15%を占め、年々高まる傾向を示している。 表 4 肉用牛の全国農業地域別飼養戸数、頭数(平成10年) 1戸当たり飼養頭数は、いずれの地域とも拡大した(全国平均21頭)。地域別 にみると、北海道が110.3頭で、全国平均の5.2倍となっており、酪農の主産地域 という立地特性を反映し、全国の乳用種の飼養頭数シェアの69.8%を占めている。 一方、肉用種の飼養を中心とする東北(11.4頭)、九州(17.0頭)は、主産地域 ながら小規模経営にとどまっている。 以上のような状況下においても、「200頭以上」の大規模な飼養者層は年々増加 しており(戸数で5.0%、頭数で5.2%増加)、この結果、「200頭以上」層の総飼 養戸数、頭数に占めるシェアは、戸数ベースは1.9%であるが、頭数では41.7%を 占めるに至っている。 肉用種の子取り用めす牛の飼養動向をみると、戸数ベースでは、肉用牛飼養戸数 の86.4%と大部分を占めているが、その飼養規模は小さく、4頭以下の階層が約 6割を占める。 ただし、19頭以下の各階層が前年に引き続き減少する中、20頭以上の各階層で は増加しており、規模拡大の傾向が続いている。特に、「20〜29頭」及び「30〜 49頭」の飼養者層では、東北、九州の主産地域等での飼養規模の拡大からそれぞ れ10%前後の増加となった。 ◇図4:肉用牛の総飼養頭数規模別飼養戸数・頭数の推移(構成比)◇
飼養戸数は、昭和61年以降10%を上回る減少率で推移していたが、平成10年に は1万3,400戸で前年に比べて6.9%の減少と10%台を下回った。減少の要因とし ては、飼養者の高齢化、後継者不足、飼養環境の悪化等が挙げられるが、10年に おいては、肉豚販売価格が比較的堅調に推移していること等が、減少幅の縮小に 寄与したとみられる。 ◇図5:豚の飼養戸数、頭数の推移◇ 一方、飼養頭数は、990万4,000頭で0.8%増加した。これには、大規模な飼養者 層における規模拡大に対応し、子取り用めす豚頭数の増加が寄与している。すな わち、2年以降、子取り用めす豚頭数が減少して推移したことから、総飼養頭数 も減少傾向を続けていたが、 7 年以降の堅調な肉豚販売価格を背景に、 8 年から子取り用めす豚頭数の減少 率に歯止めがかかり、逆に10年には0.6%増と回復に転じたことによる。 表 5 豚の種類別飼養頭数 1戸当たりの飼養頭数は、着実に拡大しており、10年においても、前年に比べ 57頭増の739頭となった。また、1戸当たり子取り用めす豚頭数は、前年に比べ5 頭増の79頭となった。 飼養戸数・頭数の動きを主産地域でみると、九州では戸数で3.9%減少したが頭 数では2.4%増加、同様に関東・東山では戸数で6.9%減少し頭数で0.5%増加、東 北では戸数で10.0%減少し頭数では1.4%の増加となっており、総じて主産地域に おける生産の特化と大規模化が進んでいる。なお、この3地域の全国に占める割 合は、飼養戸数・頭数ともに 7 割強に及んでいる。 表6 豚の全国農業地域別飼養戸数、頭数(平成10年) 1戸当たり飼養頭数をみると、全国的に飼養規模は拡大しており、地域別にみ ると、飼養戸数・頭数とも全国に占める割合は 1 割を満たない東海が881.9頭と 最も大きく、次いで、九州の851.6頭となっている。 特に注目すべきは、「2,000頭以上」の大規模な飼養者層が戸数ベースで、4.1 %増加し、この階層の全体に占める割合は、戸数では5.9%占めるにすぎないが、 頭数では45.4%(1.6ポイント増)となった。 ◇図6:肥育豚飼養頭数規模別飼養戸数・頭数の推移(構成比)◇
採卵鶏の飼養戸数(種鶏のみの飼養者及び成鶏めす羽数1,000羽未満の飼養者を 除く。)は、平成10年には5,390戸で前年に比べて4.8%減少した。その要因とし ては、飼養者の高齢化、後継者不足、飼養環境の悪化等から、小規模な飼養者を 中心として減少傾向で推移していることに加え、10年においても、飼料価格が依 然高い水準にあることが挙げられる。 一方、成鶏めす飼養羽数(種鶏及び 6 カ月未満のひなを除く。)は、1億4,5 51万羽で前年並み(0.1%増)となった。近年の成鶏めす羽数( 3 年から9年ま では成鶏めす300羽未満の飼養者を除く。)の動向をみると、4年、5年は増加し たが、 6 年から 8 年にはわずかな減少に転じ、その後、 9 年は 7 年度後半か らの堅調な鶏卵価格を反映してわずかに増加した。10年については、小・中規模 な飼養者層における飼養中止や飼養規模の縮小等があったものの、大規模な飼養 者層における規模拡大等がみられたこと等から、前年並みとなった。 1戸当たりの成鶏めす羽数は、年々拡大しており、成鶏めす羽数1,000羽以上の 飼養者基準による前年との比較では1,300羽増の 2 万7,000羽となった。 地域別の動向をみると、主産地域である関東・東山では飼養戸数で3.0%減少し たものの、成鶏めす羽数では2.9%の増加、同様に東海では戸数で5.1%減少した が羽数で1.0%の増加となった。また、九州では戸数で5.0%、羽数で3.8%それぞ れ減少となった。 なお、この3地域で全国に占める割合は、飼養戸数で約6割、飼養羽数で5割 強となっている。 ◇図7:採卵鶏の飼養戸数、成鶏めす羽数の推移◇ 表 7 採卵鶏の全国農業地域別飼養戸数、羽数(平成10年) 注1:飼養戸数は種鶏のみの飼養者及び成鶏めす羽数1,000羽未満の飼養者を 除く数値である。 2:飼養羽数は、種鶏及びひな( 6 カ月未満)を除く成鶏めす羽数である。 1戸当たり成鶏めす羽数は、いずれの地域とも規模拡大しているが、全国平均 を上回っている地域は、北海道( 4 万6,800羽)、東北( 4 万5,100羽)、中国 ( 3 万5,900羽)、北陸( 3 万2,100羽)となっている。一方、主産地域である 東海( 2 万5,300羽)、関東・東山( 2万5,300羽)、九州( 2 万5,100羽)は、 いずれも全国平均を下回っている。 飼養規模の拡大傾向の中で注目すべきは、「10万羽以上」の階層の動向であり、 戸数で6.1%、羽数で3.6%それぞれ増加した。この結果、「10万羽以上」の階層 の総飼養戸数、羽数に占める割合は、戸数では6.6%にすぎないが、羽数では47. 8%(前年は46.2%)を占めるに至っており、そのシェアは年々高まる傾向にある。 ◇図8:採卵鶏の成鶏めす羽数規模別飼養戸数・羽数の推移(構成比)◇
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