畜産局牛乳乳製品課 西村 博昭
近年、農産物全般において需要の伸びが鈍化する中、チーズは着実に消費を伸 ばしている数少ない品目の一つとなっている。昭和60年度と比較すれば、平成9 年度のチーズ総消費量は約 2 倍となっており、好調な伸びを見せている。 特に、昨年度後半からはワインブームの影響により消費は急速に拡大し、デパ ートで特設売場が設けられたり、ファッション雑誌等に特集が組まれるなどと、 チーズは大きな注目を浴びている。 このような状況の中で5月末に東京池袋の東武百貨店で行われた「国産ナチュ ラルチーズフェア98」(指定助成対象事業、主催:(社)中央酪農会議、(社) 全国牛乳普及協会)では、 5 日間で 5 万人以上が来場する盛況振りで、消費者 のチーズに対する関心の強さがうかがわれた。 本稿では、この度、当課で公表した平成9年度の「チーズ需給表」及び「国産 ナチュラルチーズの種類別生産量」等をもとに、最近のチーズをめぐる状況につ いて考えていきたい。なお、数字の詳細については、巻末の資料51ページを参照 されたい。
チーズの消費量は毎年増加している。平成9年度のナチュラルチーズの国内生 産量は34千トン(対前年比3.1%増)、輸入量は173千トン(同2.5%増)と、ともに過去 最大となった。また、チーズの総消費量(ナチュラルチーズ+プロセスチーズ) のうち国内生産量の占める割合は16%程度であり、言い換えれば輸入量は国内生 産量の 5 倍以上である。 毎年のチーズ輸入量の伸びは国内生産量の伸びを上回っており、消費量の増加 分の多くは、輸入量の増加によって補われていることが分かる(図 1 )。 ◇図 1 チーズ消費量の推移◇
日本では、当初、チーズは主に一流ホテルやレストランにおけるオードブル、 デザート等として、プロセスチーズを中心に生産・消費されてきた。 しかしながら、食生活の多様化・西洋化の変化につれて、特に家庭における各 種ナチュラルチーズの普及が急速に進み、平成2年度には遂にナチュラルチーズ の消費量がプロセスチーズを上回り、その格差も拡大傾向で推移している(図2)。 ◇図 2 ナチュラル、プロセス別チーズ消費量の推移◇ 次に平成 9 年度の国産ナチュラルチーズの種類別生産量を見てみよう(図3)。 国内のナチュラルチーズ製造量はゴーダが45%、チェダーが24%と、ハード・セ ミハード系とよばれるチーズが全製造量の7割程度を占めている。しかし、これ らは直接そのまま消費されるのではなく、主にプロセスチーズ原料用として使用 されている。これに続くカマンベールは全体の9%となっているが、その製造量 は対前年度比36%増とかなりの伸びを示している。味にくせがなく日本人になじ みやすいチーズとして着実に消費を伸ばしている品目である。また、製造量が少 ないためグラフには現れていないが、昨年度においてはモツァレラやカッテージ といったフレッシュタイプのソフト系チーズが大きく伸びているのが特徴的であ った。 ◇図 3 種類別ナチュラルチーズ生産量の構成( 9 年度)◇
これまでは健康志向の中でチーズの栄養価が注目されていること、海外旅行や イタリア料理ブームなどで、若い女性を中心に消費者が独自の味と香りになじん できていること等から、需要は毎年確実に拡大してきた。 しかし、日本市場では、主要食品のほとんどの消費が成熟状態にあると言われ る中で、今後もチーズの消費は順調に増加し続けるのだろうか。 ここで、日本と諸外国の1人当たりのチーズ消費量を見てみよう(図4)。平 成8年の日本人の 1 人当たり年間消費量は1.6kgであるが、これに対しアメリカ では13.7kg、消費量の多いフランスでは23.2kgにもなっている。この数字はそれ ぞれ日本の8倍、14倍に当たり、日本でチーズの消費が増えたといえども、諸外 国と比較すればまだまだ格段に少ないことが分かる。 チーズは世界的に最も親しまれている乳製品の1つだが、このように我が国に おける1人当たり消費量がいまだ西欧諸国に比較して非常に低い水準にあること から察すると、食習慣の違いを考慮しても、今後のさらなる消費拡大が大いに期 待できるのではないだろうか。 ◇図 4 主要国の 1 人当たり年間チーズ消費量( 8 年)◇ 国内のチーズの工場数の推移を見てみると(図5)、近年、乳製品工場数全体 が減少していく中で、産地の生乳を利用してチーズを造るミニプラントの設立等 により、チーズ工場数は現在も増加傾向で推移している。これらの国内チーズ製 造者は消費者のニーズにあわせて、日本人の嗜好にあった製品を次々と開発して おり、私たちがチーズを選ぶ選択の幅も大きく広がっている。 ◇図 5 乳製品工場の推移◇
チーズの需要が高まっていく中、国としても国内酪農・乳業の安定的発展のた め国産ナチュラルチーズ振興を重要な柱として位置づけ、製品開発、知識の普及 など種々の施策を講じてきている。 しかしながら、チーズは既に完全に輸入が自由化されており、価格の安い海外 製品との競争にさらされている。このため、国内のチーズ原料乳売渡価格は、他 の加工向け原料乳価よりも低い価格で取り引きされており、原料乳調達が難しい といった面もある。 今後、国産チーズの振興を図っていくためには、海外の製品と対抗できるよう な位置づけを確立することが重要である。このためには、多少値段が高くても消 費者が求めるような付加価値をつけた、日本人の嗜好にあった商品の開発、特に 新鮮さを必要とするフレッシュタイプのチーズの開発推進は、海外製品とのすみ 分けを図る上で有効である。また、優れた栄養分を持つが、処理・利用にコスト がかかるため、現在ほとんど利用されていない副産物のチーズホエイについて、 これを価値のある食品としての有効利用を図ることはチーズ向け乳価の上昇に貢 献するものであると考える。
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