◎専門調査レポート


営農集団組合とサイロ組合の活動  
−広島県庄原市小用地区−


駒沢大学経済学部 教授 石井 啓雄



 本年 5 月 7 日〜 8 日の 2 日間の日程であったが、私は広島県庄原市を訪ね、
小用営農集団組合の組合長乗政豹三氏と同市農業振興課長(農業委員会事務局長)
滝口英昭氏ほかのご協力の下で、庄原市小用地区の営農集団組合及び小用酪農協
業組合の営農活動と水田転作、そして飼料作などについて調査する機会を得た。
以下はその報告であるが、最後に地域営農集団組合活動の意味について若干の考
察を付することとしたい。

庄原市農業の概要

一般的動向

 昭和29年、旧庄原町を中心に7カ町村の合併によって成立した庄原市は、今で
は広島県立大学なども存在するが、平成77年の総世帯に占める農家の比率は34.7
%と、全体としては中国山脈のなかにある農山村的な市である。総人口は今でも
減少が続いており、その平成7年の昭和40年対比は、84.4%である。戦前の農業
は米と和牛(比婆牛)を軸としたものであり、戦後、水田酪農や野菜作が加わる
が、今でもその基調に変わりはない。農家数、農業就業人口および農業粗生産額
の最近の推移は表 1 、表 2 のとおりである。

広島県略図


表 1  農家数および農業就業人口の推移(庄原市)

注: 1 )広島県庄原市「庄原市の概説(平成10年 4 月現在)」による。
   2 )原資料は農業センサス結果および県農林水産統計年報。
   3 )「専業農家」欄の( )内はうち生産年人口の男子がいる農家数。
   4 )表中、Sは昭和、Hは平成の意(以下同じ)。

表 2  農業粗生産額等の推移(庄原市)

注: 1 )広島県庄原市「庄原市の概説(H10年 4 月現在)」による。
   2 )原資料は農業センサス結果および県農林水産統計年報。

 この二つの表が示すこととヒアリングで得られた情報から、近年の庄原市の農
業の動向では次のようなことが重要であると思われた。

 ア 一部に規模拡大と新規参入の動きは見られるものの、高齢化、兼業化と絡
  み合うかたちの農地の貸付や売却などによって農家でなくなっている世帯も
  かなりあり(その一部は転出する)、農家の数は確実に減ってきている。

 イ 今では農家の 3 / 4 は第・種兼業(大部分は通勤兼業)であり、専業農
  家でも老人専業が多く、男子生産年齢人口に該当する農業就業者がいる農家
  は全市で100戸に満たない。農業就業者の高齢化も著しく、平成 7 年で58%
  が65歳以上であった。

 ウ 農業生産の中心はやはり米(10アール当たり収量540kg程度)である。その
  他の土地生産では野菜―広島菜、ほうれんそう、アスパラガス、トマト等―
  が増加傾向にあり、その特徴としては、@1000万円以上の粗収益をあげる農
  家が数戸でてきている。A農協系統販売ではなく、経理だけは農協を通すも
  のの量販店との直接取引をする者が増えてきているなどといったことを指摘
  できるが、しかしなお野菜生産の農業生産全体に占める比重は低い。畜産の
  ウエイトはかねてからかなり高かったが、最近では家畜全体の飼養農家数及
  び飼養頭羽数ともに停滞的である。採卵養鶏がかなりの生産額をあげている
  が、これは大規模飼養者がいるためで、多くの農家とは関係がない。

 エ 以上のことから、庄原市の農業には現在目立って生産を伸ばしているもの
  はなく、農家と農業就業者の動きからしても、残念ながら明るいものを感ず
  るのはむつかしい。その原因は主に、米価、乳価、牛肉価格などの低迷と水
  田転作の拡大などにあると思われるが、しかし、それにもかかわらず耕作放
  棄地の多発といったことはなく、これには地域営農集団の果している役割が
  大きいと思われた(農地問題とあわせてさらに後述)。

 オ なお新規就農の問題についていえば、廃農した酪農家の農地と施設を引継
  いで入った人のほか、小面積の土地を取得してハーブ栽培を始めた人などが
  いるといわれたほか、ひとつ非常に気になる話があった。庄原市の不動産屋
  が「田舎ぐらしの本」という名の月刊誌に広告を出したところ、これに応ず
  るかたちで40歳代の県外の資産家が農地を買い、「いくらでも買いたい」と
  いっているという話である。高地区(旧高村の地域)でのことだが、転作を
  めぐって意見の違いがあるともいう。

養牛の動向

表 3  牛の飼養動向(庄原市)

注: 1 )広島県庄原市「庄原市の概説(H10年 4 月現在)」による。
   2 )各年 2 月 1 日現在。

 農業センサス(戦後 5 年毎)の数字でみると、総農家戸数は昭和25年4,214戸、
40年3,882戸、平成7年2,631戸と減少しており、畜産分野では、乳用牛の飼養戸
数のピークは昭和40年の222戸、飼養頭数は717頭であってその後減少傾向にある。
また肉用牛(和牛)の飼養戸数は昭和25年には3,002戸もあって、当時の飼養頭数
は4,772頭であったが、同40年には2,203戸、3625頭といずれも漸減している。こ
うした状況は、@乳用牛については、昭和40年頃までは中国山地に広くみられた
水田酪農の展開が庄原市でもあったこと、A和牛は、戦後一定の時期までほとん
どの農家が水田稲作と結びつけて111〜 2 頭を飼い、使役につかいながら仔取り
をするという、これも中国山地に共通のかたちが、庄原市でも農家の最も一般的
なパターンであったこと、Bだがその後に、いずれも飼養戸数減の頭数増という
傾向が現れたこと、を示しているといえよう。

 その上で、表3は、高度経済成長後一定期間がたってから後の推移を示すもの
だが、近時の庄原市の養牛については次のような傾向が認められるといえよう。

 ア 酪農では、最近では多頭化はほとんど止まって、飼養農家の減少だけが進
  み、飼養総頭数も減少傾向で推移している。

 イ 耕運過程への機械の導入、農家労働力の兼業化、肉用牛化とともに、和牛
  の飼養継続農家は平均4〜5頭を飼うように頭数を増やしてはきたものの、
  また一部に乳用種の肥育を含めて肥育農家も現れてはきたものの、肉用牛(主
  に和牛)は全体としては飼養戸数、頭数ともに減少するようになっており、
  ここ数年そのテンポは速まっているようですらある。

 こうした傾向は一言でいえば、残念ながら養牛の衰退傾向であり、その原因に
は、畜産物価格の低迷、担い手の高齢化、後継者の減少と農業離れなどいろいろ
なことがあるのだが、以下ではそのうちのひとつの問題でもある地域内での粗飼
料の安定的確保及び営農集団活動と土地利用の権利調整の問題に絞ってヒアリン
グの結果を整理していきたい。


土地問題−営農集団と農地管理

 零細規模の稲作を基軸とする庄原市の農業において、担い手問題として非常に
特徴的で、また重要なのは集落を単位とする営農集団の存在であり、後で述べる
小用地区の営農集団はそのうちで最も典型的安定的なもののひとつである。
 庄原市には集落が194、農地は2,338ha(平成 7 年センサス、うち田2,054ha。
昭和40年当時の農地面積は3,084haであった)あるが、集落単位あるいはいくつか
の集落にまたがるものとして40の営農集団があり、水田の約半分がこの集団営農
の対象となっているといわれる。庄原市は水田の圃場整備に、水利体系の再編と
あわせて昭和50年代以降精力的に取り組み、平成 8 年度末には、2,000ha余の全
水田のうち1,800ha余りが事業完了をみているが、こうした整備ずみ水田の上に集
団営農が行われているわけである。営農集団による集団化の内容と程度にはいく
つかのタイプがあるが、最も典型的な集団化は、稲作の基幹的機械作業、水田転
作及びその団地化(転作田の固定あるいはブロック・ローテーション)について
行われている。一般に集団営農が成り立つか否かは、@地域の自然・立地条件、
A地域の人の和、B中心になる優れた指導的な人の有無、C強力な個別拡大志向
農家の存否など、いくつかの要因がからむ。また、営農集団がある地域では、な
い地域と比べれば個別突出型の規模拡大は進みにくく、そのかぎりで経営基盤強
化促進法による利用権設定も進みにくいとはいえるが、他方で耕作放棄は発生し
にくく、外部からの農地取得も行われにくい。念のために庄原市の数字をあげて
おくと、平成7年センサスによる耕作放棄地の面積は市全体で47.9ha(うち田で
24.7ha)で、耕作放棄地率は2.0%(田は、1.2%)にとどまっている。
 次に、農業委員会の資料から最近の農地の移動と転用、利用権の設定状況を整
理すると表 4 及び表 5 のとおりである。

表 4  農地法および農業経営基盤強化促進法による農地の(耕作目的の)
   権利移動転用(庄原市)

注:所有地移転には無償および小作地所有地移転を含む。

表 5  基盤強化法による利用権設定の年末現在存続面積(庄原市)


 農外からの農地転用圧力は中山間地域らしく特別に強いものとは思えない(農
用地区域以外でも農地価格は田で10アール当たり200万円程度という)なかで、耕
作目的の農地売買はそこそこにある(地価は農用地区域内の中田で平成9年に10
アール当たり75万円程度)といえるが、ここで注目していいのは、経営基盤強化
促進法による利用権設定が農業委員会によってきちんと管理されていることとそ
の設定率がかなりに高いこと(平成999年末現在で15.2%)である。

 通例、集団営農が行われる場合、その内部では事実上賃貸借的なことが行われ
ても、それが正規の賃借権(利用権)設定となることは少ないし、また水田転作
が集団的に行われる場合には一層そうである。庄原市の転作は相当に高率(表6
参照)であるし、集団営農が、相当広く行われていることを勘案すれば、表5で
みた利用権設定率はきわめて高いといえるであろう。

表 6  水田転作の推移(庄原市)


 ところでこれまでは、基幹的な機械作業は営農集団に依存しつつも自己所有水
田の水管理、施肥、草刈り、防除などは自分でやっていた農業就業者も、高齢化
が進めば、全部をはっきりと人に任せざるをえないこととなるはずで、そうであ
れば営農集団のなかでも今後は貸借が広がっていくと予想される。農業委員会も
乗政組合長もそうなれば正式に利用権設定を考えるという考え方であるが、その
場合には、小作料をどうするかということと労働力の不足が生じないかという問
題がでてくる。

表 7  最近の作物別転作実績(庄原市)

注:その他作物は、麦・花・樹苗・ソバ・密源レンゲ・芝・タバコなど。

 現在、庄原市の標準小作料は、10アール当たりで上田18,000円、中田13,000円、
下田6,000円(標準作業賃金は、田植で男女とも1日8,000円)であり、この金額
が実勢小作料の基準ともなっている。米価の動向などからすれば、今後小作料を
下げていかねばならないと考えられており、農業委員会も引き下げ指導を始めて
いるが、他方で貸手になっていく人の側には、「管理してもらえればタダでもい
い」という人がいるものの、「最低でも圃場整備にかかる償還分はほしい」とか
「生活費の一部にしないわけにはいかない」という人もおり、ここに解決しにく
い問題があるといえる。いずれにしてもここに今後のひとつの問題があるのは確
かであり、酪農のための自給飼料作を安定的に拡大する上でもこの問題は避けて
通れない問題だといえる。

 ここで転作作物は何かとみておくと表7の通りであるが、一言でいえば、庄原
市では若干の野菜以外になお収益性の高い転作作物を見出していないようである。
その決定的な理由は、この地方の強粘土の土質だといわれるが、そのため「調整
水田」や「自己保全管理」が約3割とかなりの割合に達してしまっている。青刈
稲を含めて飼料作物は 1 / 3 をこえており、これはかなり畜産に利用されてい
るのだが、なお十分だとは思えない。この点は小用地区の実態にそくして次でみ
ることにしたい。

 以上、庄原市全体の概況をみてきたが、これを念頭におきつつ、次に小用地区
の稲作と転作を中心とした集団営農、そしてそれとかかわりの深い小用酪農協業
組合の粗飼料問題に移る。


小用地区の集団営農と酪農協業

小用営農集団組合による集団営農

 小用地区の営農集団については、これまで筆者がかかわっただけでも二つの報
告書がある。※

 このリポートでは、その営農集団の詳しいことはそれに譲り、過去からの経緯
について主要点だけを略記することとする。小用地区は、庄原市の中心部から東
に3km、山に囲まれている(林野率60%)ことでまとまりを持った約60戸、約67
ha(うち田58ha)の農地からなる小地域である。地区の周辺部分は棚田で、かつ
ては圃場区画も非常に小さく、水利は六つもある溜池に依存していた。平均所有
水田面積は1ha弱で中国山地としては必ずしも小さいわけではないが、昔は生産
力の低い水田稲作と和牛の仔取りを中心とした農業が営まれていたのであった。

※農水省構造改善局農政部農政課「昭和55年度農業構造改善基礎調査報告書−広
島県庄原市小用地区−」

 農政調査会「平成5年度農用地有効利用方策等に関する調査研究事業報告書−
研究会討議要旨編−」

 この地区に小用営農集団組合が設立されたのは昭和52年であったが、その直接
の契機は、県営圃場整備事業の実施であった。以来20年以上、組合長乗政豹三
(71)氏の献身的な努力に支えられて組合は着実に地区の農業と農家、そして地
区としてのまとまりの維持に役立ってきた。組合の概要は表8の通りであるが、
今回の調査との関係で重要なのは、第一に、機械化という農業技術の変化と若い
労働力の通勤兼業化、または他出という状況の下で、「故郷を維持していく」と
いう目的意識で、大型機械の共有を行い、稲作の機械作業は能力的に可能なもの
がなるべく多勢で担いつつ、その他の作業は個々に行うことで、コスト面でも労
力面でも可能なかぎり合理的な農業を行おうとしてきたこと、第二には、事実上
強制的な水田転作について、より良い作物を集団的に作るべく、土地利用面でも
作業面でも組合として協同し、マイナスを最小限にくいとめ、可能な限り収益化
しようとしてきたことであろう。
【小用営農集団組合長 乗政豹三氏(左)】
 組合は第一の点では、明らかに大きな成果をあげてきたといえるが、しかし第
二の点では集団転作によって転作奨励金の加算を確保しつつも、収益性の高い転
作作物の定着による高収益の実現という点では、必ずしも成功しているとはいえ
ないように思われる。その理由は転作面積の割当てと転作奨励金の額がほとんど
毎年のように変動すること、小用地区の土質が重粘土で排水が悪く、とうもろこ
しや小麦には不向きで適当な転作作物が今なお見つからないことである。

 稲藁の飼料化を別とすれば畜産的土地利用との関係では転作こそが問題である
はずなので、次にこの転作問題をもう少し詳しくみていこう(表 9 参照)。

表 8  小田営農集団組合の概要

注:小用営農集団組合「営農集団組合20周年記念、あゆみ」による。

表 9  小用営農集団組合の水田転作の実績


 小用営農集団組合では、乗政組合長が中心になって、独自のとも補償(互助制
度)によって、転作しても10アール当たり75,000円の所得が確保できるようにと
しつつ、早くから転作田のブロック・ローテーションを続けてきた。地区の土地
条件にあって、高い収益を期待できる作物があれば、転作団地の固定化もしたい
というのが乗政組合長などの気持ちであったが、涙ぐましい努力にもかかわらず、
結局望ましい転作作物がみつからなかった。また、転作割当て面積の変動、奨励
金単価の引き下げ、助成方式の変更などが繰り返されてきたため、ブロック・ロ
ーテーションの一巡後は、組合独自のトモ補償はやめ、団地固定化も諦めてブロ
ック・ローテーションだけは続けながらも、10年ぐらい前からはイタリアンライ
グラスを中心とした転作となった。それは、一面では、半ば「捨て作り」的なが
らも、和牛農家の需要があるという意味では地域内で一応有効に利用される転作
でもあるといえる。

 この転作は、現在では機械作業をするオペレーターのほかは、7〜10人の組合
員の出役で営農組合として行うという体制をとり、できた牧草は、畜産農家(和
牛農家と小用酪農協業組合の農家)に(乾草 1 m×40cm×40cmの 1 梱包を250円
で)買って貰うというかたちをとっている。組合長によれば、これまではこの牧
草が消化されていたのであるが和牛農家の減少と転作割当面積の拡大で、今は余
る傾向がでてきているという。

 ところで、小用酪農協業組合は、この転作の作業を引き受けているわけではな
く、いわば小用営農集団組合がつくった牧草を買うという立場である。それは酪
農協業組合員のすべてが営農集団組合の組合員とは限らないということもあるが、
なによりも小用地区の転作牧草が酪農家の粗飼料に対する要求と完全にはマッチ
していないということの結果でもある。

 最後に、現在の農政が重視している地域営農集団の法人化問題について一言付
言しておこう。庄原市は、今日営農集団の法人化を奨励しており、例えば法人登
記に要する経費の 1 / 2 を補助している。そして、その下で二つの営農集団が
既に法人化しているというが、小用営農集団組合の場合は、たとえば17〜18万円
はかかる登記料に見合うメリットがあることも思えないといったことなどから、
さしあたり法人化を考えてはいない。

 小用営農集団組合では、乗政組合長が中心になって、独自のとも補償(互助制
度)によって、転作しても10アール当たり75,000円の所得が確保できるようにと
しつつ、早くから転作田のブロック・ローテーションを続けてきた。地区の土地
条件にあって、高い収益を期待できる作物があれば、転作団地の固定化もしたい
というのが乗政組合長などの気持ちであったが、涙ぐましい努力にもかかわらず、
結局望ましい転作作物がみつからなかった。また、転作割当て面積の変動、奨励
金単価の引き下げ、助成方式の変更などが繰り返されてきたため、ブロック・ロ
ーテーションの一巡後は、組合独自のトモ補償はやめ、団地固定化も諦めてブロ
ック・ローテーションだけは続けながらも、10年ぐらい前からはイタリアンライ
グラスを中心とした転作となった。それは、一面では、半ば「捨て作り」的なが
らも、和牛農家の需要があるという意味では地域内で一応有効に利用される転作
でもあるといえる。

 この転作は、現在では機械作業をするオペレーターのほかは、7〜10人の組合
員の出役で営農組合として行うという体制をとり、できた牧草は、畜産農家(和
牛農家と小用酪農協業組合の農家)に(乾草 1 m×40cm×40cmの 1 梱包を250円
で)買って貰うというかたちをとっている。組合長によれば、これまではこの牧
草が消化されていたのであるが和牛農家の減少と転作割当面積の拡大で、今は余
る傾向がでてきているという。

 ところで、小用酪農協業組合は、この転作の作業を引き受けているわけではな
く、いわば小用営農集団組合がつくった牧草を買うという立場である。それは酪
農協業組合員のすべてが営農集団組合の組合員とは限らないということもあるが、
なによりも小用地区の転作牧草が酪農家の粗飼料に対する要求と完全にはマッチ
していないということの結果でもある。

 最後に、現在の農政が重視している地域営農集団の法人化問題について一言付
言しておこう。庄原市は、今日営農集団の法人化を奨励しており、例えば法人登
記に要する経費の 1 / 2 を補助している。そして、その下で二つの営農集団が
既に法人化しているというが、小用営農集団組合の場合は、たとえば17〜18万円
はかかる登記料に見合うメリットがあることも思えないといったことなどから、
さしあたり法人化を考えてはいない。

小用酪農協業組合とその飼料作

 小用酪農協業組合は昭和52年設立の任意組合で、かつて組合員は8戸だったが、
高齢化や後継者がサラリーマンになったことで3戸が酪農をやめたので、今は5
戸で構成されている。3戸は小用地区の農家で小用営農集団組合の組合員でもあ
るが、 2 戸は他の営農組合に属している。
【350m3のサイロ2基】
 この組合は地域ではサイロ組合と呼ばれているが、それが実態を的確に表して
いる。サイロ4基(1,070m3、350m3×323、300m3)のほかトラクター(4台)、
コーンハーベスターなど飼料作用の機械を共同所有し、また栽培、収穫作業など
を必要に応じて協同で行っている。どこかの集落の転作などをひきうける場合は
組合の経理で種子代、肥料代などをだしているが、全体としては、組合員各戸の
飼料作は組合所有の機械を使って各戸の責任と負担で行い、他の組合員はそれを
協同作業で手伝うといったかたちである。組合は出役に対して、時間男子1時間
1,000円の労賃計算しているが、費用を償って、組合の経理が損益ゼロになるよう
なかたちで、組合員が組合からサイレージを買うというのが基本的な運営の方式
である。現在サイレージの値段は、トウモロコシ、イタリアンライグラスとも313
kg当たり18円と予定されている。当初の機械、施設などの導入には補助金を活用
したが、償却積立はしていない。また、組合員が組合からサイレージを買うも買
わないも建て前としては自由であるという。こうしてみると組織としてはきわめ
てルーズだという印象をうけるが、飼養規模(各50頭程度)や各人の年齢、さら
に酪農についての考え方などがほぼ揃っていることで、その方がかえって協同が
維持されやすいのだという印象を受けた。組合員は、畜舎の制約もあることから
増頭よりも、305日で8,000kgといった高泌乳性を追求した方が有利であり、労働
力の制約もあることから、粗飼料も含めてより購入飼料に依存した方が手取り早
いといった気持ちを抱きつつも、しかし平均3.5産ぐらいまで牛を優しく飼いたい
し、いい粗飼料を自給したいという気持ちの方が勝っているように思われた。そ
のため近隣で、トウモロコシに向いたよい田があればその田の転作を引き受けて
共同で飼料作を行ってもいた。

 だが、そのことはまた小用地区の転作飼料作に対しては、必ずしも積極的にな
れないという姿勢ももたらしているのであった。小用営農集団組合のオペレータ
として稲作の基幹作業には出ながらも小用地区の集団転作は引受けられないとい
うのである。その理由は、小用の土地が強粘土質でトウモロコシが作れない、イ
タリアンライグラスでもトラクターは入るが2トンの運搬用ダンプカーは埋まっ
てしまって、圃場で効率的な収穫作業ができないといったことである。そこで先
に述べたように、営農組合が牧草乾草を作ってくればそれを買うという受身の態
度にとどまることにならざるを得ないわけである。牧草転作の地域内循環といっ
てもことは簡単でないことを教えられたといえる。

 ここで堆肥組合のことを付言しておきたい。平成9年度の地域営農組織高度化
特別事業により、高地区営農集団連絡協議会を事業主体として、小用酪農協業組
合もこの協議会に参画し、総業費9,360万円(うち地元負担3,244万円)で、960m2
の堆肥舎および関連施設が建設され堆肥組合が設立された。畜産農家が(乳牛年
間 1 頭あたり5,000円の処理料を払って)持ち込むふん尿に稲藁と籾ガラを加え
て完熟堆肥をつくり、営農集団に還元して、良い米(こだわり米)の生産に資す
るとともに畜産公害を防止しようという構想である。地元では堆肥センターとい
う呼称が定着しつつあり、センター長には酪農をやめた元小用酪農協業組合長が
ついた。そして作業部を設けて堆肥を各営農集団に還元、田に散布することが始
められたが、この散布は10アール当たり1.3トンで、堆肥が6,000円、散布料が
1,000円とされている。小用営農集団組合は、和牛農家は独自でふん尿処理ができ
るという理由でこの堆肥組合には加入しなかったのであるが、この堆肥組合のあ
り方も地域ぐるみの営農のあり方のひとつとして記録しておきたい。
【堆肥センター正面(堆肥舎960u)】
営農集団が弱い地区での個別酪農経営の場合

 最後に、小用地区とは別に、街道に面した木戸地区で、単独で大規模酪農をし
ているF(65)さんを訪れて、そのお話をうかがった。この地区は、後継者の兼
業化がより進んでいて、営農集団はあるが、それは稲作の機械作業ととも補償(全
水田10アール当たり20,000円の拠出、転作田に国の奨励金とあわせて10アール
60,000円を支給)だけを行うもので、転作は全く戸別の、いわゆるバラ転になっ
ている地区である。こういう地区の場合、小用地区のように強力な集団営農を行
っている地区と比べて、どのような違いがあるのかを中心に簡単に記しておきた
い。

 Fさんは、農地改革前から1.2haの田と若干の畑をもった自作農だったが、昭和
27年から酪農を始め、畑のほか山を買って開墾して4.5haまで自作地を拡大した。
去年までは、搾乳牛20頭だったが、息子とも話しあって、「農家は家族としてや
らねばならないという信念で、そのためにはこれしかない」と決断し、息子(35)
夫婦と2世代で専業農家を続けるべく、農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)
を借りて、平成 9 年に畜舎を増築、搾乳牛も一気に80〜85頭に増やした。

 乳牛の飼養については、搾乳量は1頭当たりで8000〜9000kg、経営全体として
は日産2.1〜2.2トンをめざし、4産を目標にして更新は自家保留でいきたいとし
ている。そのため「家においたのでは脚が育たないので、いい牛は育成期間、北
海道に預託する」ことを始めている。飼料の面では、みんな兼業で引き受け手が
ないまま集落の営農組合長を昭和54年頃からずっと続けているため、立場上いわ
ばやむなく30aの稲作を続けているが、残りは全部イタリアンライグラス(3.7ha)
または混播放牧(2.5ha)である。トウモロコシはない。耕地6.5haのうち2.5haは
事実上の借地であるが利用権の設定はしていない。地主は4人、転作奨励金は地
主がとり小作料は無償である。畦畔の草刈りは地主がしている。この地区では転
作田はたまたままとまっているが転作作業は各戸がバラバラで、Fさんと2戸あ
る和牛農家との間でも共同作業はない。借地はそうした転作田の一部であるが、
粘土が強いので、Fさんにも全体の転作までまとめてひきうける気はない。「毎
日10万円の購入飼料代がかかっているし、百姓だから粗飼料を作りたいとは思う
が、労力と機械の制約もあるので、飼料作りの今以上の拡大は無理。当面は買い
餌で収入をだすしかない」というのがFさんの意見である。堆肥舎はあるものの、
堆肥は貯まるばかりで多くは野積みになっている。稲作農家は「ほしい。もって
きてふってくれ」とはいうが取りには来ない。「小用のようにしたいものだ」と
いうのがFさんの願望である。


むすび

 小用地区を中心に、広島県庄原市における稲作と飼料作の問題をみてきたが、
かつて水田稲作プラス和牛に酪農が加わるかたちで、それなりに安定した構造で
あった中国地方中山間地域の農業は、高度成長期の兼業化を経てのち、今新たな
時期に入っていると思われた。

 多くの地区で圃場整備を終えて、稲作は、集落・地区ごとの営農組合によって
それなりに維持されているものの、転作は安定的に定着できないまま今日に至っ
ている。酪農は、多数農家・少頭飼養の水田酪農から少数農家の多頭化に至った
が、今では多頭化も頭打ちの感じである。和牛は繁殖農家が根強く生きているも
のの、飼養戸数の激減に加えて、平成5年頃以降は、頭数の減少も始まっている。
労働力や土壌条件からくる制約もあって、転作が特に地域の酪農の粗飼料確保に
完全にむすびついて有効にいかされているともいえない。  

 「GATT・UR農業合意」以降の日本農業を取りまく厳しい内外情勢の下で、この
地域の稲作と畜産の今後を明るく描きだすことは率直にいってためらわざるを得
ない。だが、稲作にせよ、酪農にせよ、個々バラバラの営農にくらべていえば小
用地区における地域協業−小用営農集団組合による集団的な稲作と転作、小用酪
農協業組合(サイロ組合)による飼料作りの協業、そして堆肥組合−は、やはり
地域農業の維持・発展に大きな力をもっているということは確認された。転作作
物の地域内有効利用のためには、土地条件のさらなる改良とか、労働力のいっそ
う合理的な組織化とか、なお解決すべき問題はあると思われたが、農業をとりま
く外的条件をかえていくという展望をも持ちつつ、乗政組合長をはじめ地域の農
家のみなさんのご奮闘を願わずにはいられない。

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