◎今月の話題


食品の安全性確保とHACCP

社団法人 全国牛乳協会 専務理事 難波 江








消費者の保護のために

 近年、食生活の多様化が進む中で、消費者の安全・安心、健康への関心はます
ます高まりをみせている。一方、PL法の施行、WTO協定の締結に伴う衛生規格の国
際化や各種規制緩和による市場の国際化など、食品の流通をめぐる環境が国際的
規模で急速に変化し、食品企業にとっては、これまで以上に国際化に配慮しつつ、
食品の安全性確保による消費者の保護に努めなければならない状況にある。
 このような状況のなかで、新たな食品の衛生管理の手法としてのHACCP(Hazard 
Analysis Critical Control Point)システムが注目され、国際的に広くこのシス
テムを導入する動きにある。我が国においても平成 7 年 5 月に食品衛生法の一
部が改正され、HACCPの原則に基づく「総合衛生管理製造過程」の承認制度の法的
導入が図られたことから、食品取扱業者の間で当該システムに関する関心が急速
に高まってきている。

 また、平成10年 5 月にはHACCP手法支援法(食品の製造過程の高度化に関する
臨時措置法)が公布され、HACCPによる衛生管理の導入等製造過程の管理の高度化
に係る金融・税制面での支援措置が制度化されるなど、国も当該システムの積極
的な導入を奨励している。

 HACCPシステムは、1960年代に開始された米国の宇宙開発計画において、宇宙食
の高度な安全性を保証するために開発され、1971年に公表されたシステムである。
1980年代に入りこのシステムの考え方が国際的にも評価され、1993年に、FAO/WHO
合同食品規格(CODEX)委員会から、HACCP原則適用のためのガイドラインが報告
されたことなどを契機に、世界各国においても製造者のみならず行政機関も食品
衛生規制の中にこのHACCP原則を取り入れる動きが急速にでてきている。



危害発生の予防

 HACCPシステムとは、HA(危害分析)とCCP(重要管理点)監視からなる食品の
衛生管理手法であり、従来の最終製品の検査に重点をおいた衛生管理の方法とは
異なる。原材料から製造・加工の工程を経て、最終製品の保管、流通に至るすべ
ての工程において、発生するおそれのある危害を予測し、これらの危害を制御す
るため重要な管理点を集中的に管理することにより製品の安全性確保を図るとい
う危害発生の予防に力点を置いた衛生管理手法である。

 さらに、このシステムの導入により、食品の安全性が向上することはもちろん、
企業の社会的信頼性が高まることが期待できる。特に、モニタリング及びその記
録保管は、結果的に、製造者自らの製造物に対する責任に関して立証が可能とな
る。また、行政庁による監視・指導、消費者からのクレーム等にも適切に対応で
きるという特徴がある。

 我が国の場合、HACCPの食品衛生管理への適用手法は、製造又は加工の方法及び
その衛生管理の方法について食品衛生上の危害の発生を防止するために HACCPに
基づく措置が総合的に講じられた施設については、従来の画一的な製造基準の適
用を除外するという制度で、諸外国と異なり、その導入は任意となっている。



普及が進む乳業界

 平成8年5月2日、食品衛生法施行令の一部が改正され、対象食品として牛乳・
乳製品及び食肉製品が指定されたが、その後、容器包装詰加圧加熱殺菌食品及び
魚肉ねり製品が追加指定されている。
 乳業界においては、早くから当協会が中心となりHACCP導入モデルの作成、講習
会の開催等前向きに取り組んで来た。
 本年 1 月には、36社、86工場で177品目が、また、 6 月には、58社、100工場
で212品目が厚生大臣から、総合衛生管理製造過程を承認され、残る工場の多くも
導入を計画準備中であり、他業界にさきがけて新しい手法による衛生管理体制の
構築が拡大、定着しつつある。
 HACCPシステムは、世界各国においてもその評価、導入の動きが活発になってい
る。
 今後、食品の衛生管理の手法としてその導入が国際的に一般化するものと考え
られ、国際流通食品はもとより、国内的にも、当該システムの導入による衛生管
理の徹底が、食品の流通や取引における重要な要件として広まりをみせるものと
思われる。
 食品衛生法に基づく総合衛生管理製造過程の承認制度の対象食品については、
今後更にその拡大が予想されるが、食品企業にとっては本制度への対応はもとよ
り、対象外の食品についてもHACCPシステムの導入等による品質保証体制の整備構
築への取り組みが重要かつ緊急な課題となっているといえる。
 HACCPシステムの基本は、検証結果に基づく見直しも含めた適正な実施計画の作
成とその適正かつ継続的な実施にある。そのためには、施設設備の改善もさるこ
とながら、企業トップの目的意識と推進意欲、従業員への教育訓練の徹底等によ
るマンパワーの確保が最も重要な要素と考えられる。
 今後ますます、本システムへの理解が浸透し、その導入が図られ、安全な食品
の供給を通じて消費者の信頼をより強固なものとし、わが国食品産業の更なる発
展につながることを期待したい。


なんば こう

 昭和32年帯広畜産大学獣医学科卒業。同年北海道衛生部。47年厚生省環境衛生
局乳肉衛生課、58年同課長を経て、平成 3 年から現職。

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