★ 農林水産省から


鶏卵の賞味期限表示等について

畜産局食肉鶏卵課 課長補佐 梶島 達也


 昨年11月、食品衛生法施行規則及び食品、添加物等の規格基準の一部が改正さ
れ、鶏卵の賞味期限表示や液卵の衛生対策等が義務付けられることになり、本年
11月 1 日から施行されることとなっている。

 そこで、これら改正された規則等の概要を簡単に紹介するとともに、養鶏農家
やGPセンター(選別包装センター)の課題等についてもいくつか触れてみるこ
とにする。


1 経緯

サルモネラによる食中毒が増加

 近年、サルモネラによる食中毒が増加傾向を示し、特に、原因食材が判明して
いるもののうち(注:原因食材が判明しているものは、36%にすぎない)、卵類
及びその加工品の割合が高いこと等から、平成9年6月、食品衛生調査会食中毒
部会において、鶏卵のサルモネラ対策を検討するよう勧告がなされ、10年7月に
は、食品衛生調査会から厚生大臣に対し、鶏卵の期限表示等を行うよう意見具申
が行われた。

食品衛生調査会意見具申の概要

生産段階

 ・農林水産省による衛生管理指導徹底の要請 

流通段階(GPセンター等)                      

 ・重度破卵、孵化中止卵の食用禁止             
 ・衛生管理マニュアルの作成                   
 ・生食用鶏卵の期限表示の義務化等             

消費段階

(飲食店等)
 ・生食用鶏卵以外の加熱工程の義務化等

(消費者)
 ・家庭向け卵のサルモネラ対策マニュアルの作成
 ・高齢者、乳幼児等のハイリスクグループに対して生卵等の食用を避けるよう
  啓発活動

 この間、日本養鶏協会等鶏卵関係10団体は、鶏卵の期限表示等が業界の取引実
態等を反映し、業界関係者が実施可能な規則となるよう厚生省に働きかけを行っ
た。同時に、10年7月からは、業界の自主的な取り組みとして、生食用殻付卵
(主にスーパー等で販売されているパック卵や業務用の段ボール卵)の賞味期限
表示が開始された。

食品衛生法施行規則の改正

 厚生省は上記の意見具申を受け、殻付卵の期限表示等に関する食品衛生法施行
規則及び食品、添加物等の規格基準の一部を改正する省令を10年11月25日付け官
報に掲載したが、生食用殻付卵の期限表示については、業界が既に実施している
自主的な取り組みと同様のものとなっている。

 こうした状況の中、農林水産省としては、消費者の安全性に対する関心に応え
つつ、鶏卵の安定的な供給及び消費拡大を図るとの観点から、安全性を確保し、
かつ、関係者が実行可能な規制となるよう、厚生省に対し働きかけを行った。

 また、平成10年度第三次補正予算(景気対策特別枠)において、農協等が行う
GPセンターの施設整備(とりわけ衛生対策)に対して助成するとともに、業界
団体が行う取り組みを支援するとの観点から、11年度から、日付表示マニュアル
の作成等に対し助成することとしている。

 鶏卵の賞味期限表示に関しては、これまでは生食用殻付卵の賞味期限表示を中
心に検討や対応が進められ、関係者や消費者の関心ももっぱら生食用殻付卵に向
けられていた。しかしながら、今回の改正では加熱加工用の殻付卵や液卵も対象
となっており、この中には鶏卵生産者やGPセンター関係者等が関心を持って取
り組まなければならない事項が多数含まれている。


2 主な改正内容

 そこで、生食用殻付卵、加熱加工用殻付卵、殺菌液卵、未殺菌液卵の別に表示
に関する今回の主な改正点と液卵の規格基準のうち関連すると思われる事項の概
略を示すこととする。

(1)表示の基準

  容器包装を開かないでも容易に見えるよう、見やすい場所に記載すること

 @ 生食用の殻付卵

  ア 生食用である旨
  イ 品質保持期限(注 1 )である旨の文字を冠したその年月日
  ウ 10℃以下で保存することが望ましい旨
  エ 品質保持期限を経過した後は飲食に供する際に加熱殺菌を要する旨
  オ 生産農場又は選別包装施設の所在地及び氏名(輸入品は、輸入業者の所
    在地及び氏名)

注 1 :食品衛生法施行規則第5条においては、品質保持期限と同一の期限を示す
   文字として適当であると厚生大臣が定めた文字も使用できるとされており、
   平成 7 年2月17日厚生省告示第19号において、「賞味期限」が告示されて
   いる。鶏卵の期限表示においては、賞味期限を用いることとしている。

注2:ア及びエについては、厚生省の通達により、生食の場合は賞味期限内に使
   用し、賞味期限経過後は十分加熱調理する必要がある旨の表示でも差し支
   えないとされている。 

 A 生食用以外の殻付卵

  ア 加熱加工用である旨
  イ 産卵日、採卵日、選別日又は包装日である旨の文字を冠したその年月日
  ウ 飲食に供する際に加熱殺菌を要する旨
  エ 生産農場又は選別包装施設の所在地及び氏名
   (輸入品は、輸入業者の所在地及び氏名)

 B 殺菌液卵

  ア 名称
  イ 品質保持期限である旨の文字を冠したその年月日
  ウ 殺菌方法、保存方法、添加物
  エ 製造所の住所及び製造者名(輸入品は、輸入業者の所在地及び氏名)

 C 未殺菌液卵

  ア 名称
  イ 未殺菌である旨
  ウ 消費期限又は品質保持期限である旨の文字を冠したその年月日
  エ 保存方法、添加物
  オ 飲食に供する際に加熱殺菌を要する旨
  カ 製造所の住所及び製造者名(輸入品は、輸入業者の所在地及び氏名)

(2)鶏卵の規格基準(食品、添加物等の規格基準)

 @ 食品の製造、加工又は調理に使用する殻付卵は、食用不適卵(腐敗卵、カ
   ビ卵、異物混入卵、血卵、みだれ卵及びふ化中止卵)であってはならない
   こと

 A 液卵を製造する場合、使用する殻付卵は食用不適卵であってはならないこ
   と

 B 液卵を製造する原料卵は、正常卵、汚卵、軟卵及び破卵に選別されている
   こと

 C 割卵から充てんまでの工程は、一貫して行うこと

 D 冷却後、容器包装に充てんする場合は、微生物汚染が起こらない方法によ
   り、殺菌した容器包装に充てんし、直ちに密封すること

 E 殻付卵を加熱せずに飲食に供する場合は、賞味期限を経過しない生食用の
   正常卵(注 3 )を使用しなければならないこと

注3:正常卵とは食用不適卵、汚卵(ふん便、血液、羽毛等により汚染されてい
   る殻付卵)、軟卵及び破卵(卵殻にひび割れが見える殻付卵)以外の鶏の
   殻付卵をいう。


3 賞味期限表示等の現状

家庭用は約半数が対応済み

 家庭用として、スーパーや一般小売店で購入するいわゆるパック卵については、
一般的には生食用殻付卵としての表示(本稿の 2 (1) @を参照のこと。以下同
じ。)が求められることになる。

 こうした表示が義務付けられるのは11月 1 日からであるが、昨年7月から業界
の自主的な取り組みが開始されていることから、既に表示を実施しているパック
卵が多数販売されている。

 日本養鶏協会が昨年 9 月に実施した調査においても、首都圏で購入した102パ
ックのうち、賞味期限表示のあるものが85%、取り扱い上の注意(生食用である
旨又は生食の場合は賞味期限内に使用する旨、10℃以下で保存すること、賞味期
限を経過した後は加熱殺菌すること)の全てを表示してあるものが51%となって
おり、調査した約半数が対応済みという結果であった。その後、関係業界の対応
が一層促進されていることから、家庭用パック卵の表示に関する対応は順調に進
んでいるといえる。

業務用段ボール卵についての取り組み

 鶏卵業界による自主的な取り組みは、家庭用パック卵のほか、一般消費者の目
に触れる機会の少ない業務用段ボール卵(いわゆる箱玉)についても行われてい
る。

 これら箱玉については、業界関係者によれば、新箱での表示は比較的順調に進
んでいるようであるが、再使用される箱での表示は必ずしも十分に行われていな
いとのことである。


4 GPセンター、採卵鶏農場の課題

 今回の賞味期限表示等の義務化により、鶏卵の生産・流通に多くの影響がある
と考えられるが、その幾つかについて私見を述べてみたい。

配送頻度の増加、小口化

 まず、賞味期限表示が実施されることにより、流通・小売関係者がより鮮度の
高い、すなわち、賞味期限がより後に設定された鶏卵を仕入れようとして注文を
小口化するとともに、多頻度の配送を納入先に要求するようになることが想定さ
れる。

 こうした動きは、小売店から卸売業者、GPセンター、生産者へと伝わってい
くことが考えられることから、多頻度・少量配送に応えていくための体制作りが
急務である。

クールシステム化等

 同時に、生産から流通・消費まで一貫したクールシステムを構築して差別化を
図ろうとする動きも活発になっており、GPセンターや小売店では、既に実現に
向けた取り組みもみられる。今後は、生産農家が出荷する段階から小売店に至る
まで、あらゆる場面で空調システムや保冷車の導入が求められることが想定され
る。

 また、流通サイドから生産農場に対し、サルモネラ菌等に対する衛生管理体制
の向上が強く求められるようになることが考えられ、既にそうした動きがみられ
る。生産現場での衛生対策の強化が急務となっている。

業務用荷姿の変化

 生食用の殻付卵は、飲食店等においても10℃以下で保存することが義務付けら
れるが、現在、業務用で主流の10キロ入り段ボールでは、段ボールごと冷蔵庫に
保管することが困難であることから、GPセンターとしても、飲食店等からのよ
り小さな荷姿の要望に応えていく必要がある。

GPセンターにおける食用不適卵等の選別

 今回の改正では、液卵の製造等に関する基準も定められ、食用不適卵とされた
血卵、腐敗卵、カビ卵、みだれ卵等を液卵製造原料として供給することが禁じら
れる( 2 (2) @、A)。同時に、原料卵を正常卵、汚卵、軟卵及び破卵に選別
する必要もある( 2 (2) B)。このため、GPセンターにおいては、実需者か
らのクレームが生じないよう、選別の強化が求められるとともに、液卵製造メー
カーにおいても、より衛生的な製造・取扱いが求められる。

 また、割卵から充てんまでの工程は一貫して行い、直ちに密封することとされ
ていることから( 2 (2) C、D)、GPセンターで破卵等から製造される液卵
は、今後、液卵製造メーカーの加熱殺菌用原料液卵としては出荷できなくなると
ともに、全てヒートシーラー等によって密封して、直接実需者に出荷しなければ
ならない。

 今回の改正では、もっぱら家庭用パック卵の賞味期限表示への関心や理解が高
いようであるが、以上述べてきたように、業務用殻付卵及び液卵についても、鶏
卵卸売関係者のみならず、GPセンターや生産農家が対応を求められる事項が多
数あることがご理解いただけたと思う。

 今後、生産者やGPセンターの関係者が一丸となって、こうした課題に適切か
つ速やかに取り組むことにより、鶏卵の安全性を一層確実なものとし、消費者の
鶏卵に対する信頼を確たるものにしていただきたい。

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