★ 事業団から


酪農ヘルパー利用向上のために何をすべきか −意見交換会から

企画情報部情報第一課 武田 紀子




酪農ヘルパーと農林水産省、関係団体の担当が意見交換

 1月6日、東京・京橋の大野ビルで、5人(男性2人、女性 3 人)の酪農ヘル
パーと農林水産省、農畜産業振興事業団、全国農業協同組合連合会、全国酪農業
協同組合連合会の担当者が集まり、(社)酪農ヘルパー全国協会の主催による意見
交換会が行われた。

 へルパー利用向上、働きやすい職場づくりのために何をすべきかなどについて、
それぞれの立場から意見が出され、充実した意見交換会となった。

 ここでは、ヘルパーから見た現場の実状、問題点などに対する率直な意見を紹
介し、さらに、農林水産省他関係団体の各担当者から示された計画等から、今後
の方向性を模索したいと思う。

 その前に、まず、1月に公表された「酪農ヘルパー利用組合実態調査」(平成10
年 8 月 1 日、以下「実態調査」という。)から最近の利用状況等を見てみたい。

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【主催者を代表して、(社)酪農ヘルパー
全国協会星井静一専務が挨拶】

最近のヘルパー利用状況

伸びる加入率

 利用組合加入戸数は20,337戸で、全酪農家に占める割合は54.4%、昨年より2.4
%増加した(図 1 )。北海道では66.4%、都府県では49.8%となっている。活動
範囲内にある 1 利用組合当たり平均の酪農家戸数は84.1戸で、うち利用組合加入
戸数は52.8戸である。

◇図1:利用組合加入戸数及び全酪農家に対する加入率の推移◇

定期利用、不定期利用ともにわずかに増加

 定期利用の状況を見ると、最近 1 年間でヘルパーの定期利用を行った酪農家は
15,594戸で、加入戸数全体の76.7%である。1戸当たり平均利用日数は12.5日で、
昨年より0.2日増加した(表1)。引き続き月1回程度の利用が主体であるが、定
期利用農家数が着実に増加している(図 2)。

 不定期利用は、1戸当たり平均利用日数が4.9日で、昨年より0.1日の増となった。

表1 定期利用の年間平均利用日数
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◇図2:定期的ヘルパー利用実績(年間利用日数別戸数の推移)◇

再編統合等の合理化で、減少する利用組合数

 利用組合数は、平成2年度に酪農ヘルパー事業円滑化対策事業が実施されて後、
年々増加し、平成 9 年末には392組合となったが、平成10年8月では、385組合と
 7 組合減少した。北海道等で新組合の設立があったものの、一部で再編統合が行
われ、合理化が進められたためである(図 3 )。

◇図3:酪農ヘルパーの利用組合数の推移◇

酪農ヘルパー利用料金はわずかに値上がり

 搾乳牛30頭、乾乳牛 5 頭、育成牛10頭の計45頭の規模で、ヘルパー2人を朝晩
セット利用した場合の標準利用料金は、北海道では193円下がったものの、都府県
で78円上がり、全国平均では24,829円と昨年より48円上昇した(表 2 )。

表2 標準利用料金
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 注:搾乳牛30頭、乾乳牛5頭、育成牛10頭でヘルパー2人を朝晩セット利用
   した場合の1日当たり標準料金


指定助成対象事業で酪農ヘルパー事業を推進

 酪農ヘルパー制度は、当初、年中無休の酪農家が冠婚葬祭や傷病時に相互扶助
的に行っていたものを「酪農家の集まりでヘルパーを恒常的に雇用する」という
発想で、不測の事態に対処し、また、計画的に休日を取得できる体制をつくろう
という主旨から、その体制づくりと普及が図られてきた。平成 2 年度に、全国段
階及び都道府県段階に、農畜産業振興事業団が助成して基金を造成し、その運用
益をもってヘルパー事業の推進を継続的に行おうとするもので、都道府県ヘルパ
ー協会、利用組合の事業活動に充てられている。その後、新規採用ヘルパーの実
践研修や酪農ヘルパー養成研修委託施設整備に対する助成、傷病時の酪農ヘルパ
ー利用に係る互助制度をモデル的に実施する利用組合に対する助成が実施され、
また、平成10年度からは、酪農ヘルパーへの就業を希望する学生への 2 年間の就
学資金や就業前の酪農体験実習の経費を助成する事業が新たに実施されている。

 こうした中で、現在は385の利用組合に専任ヘルパー1,125人(うち女性223人)、
臨時ヘルパー1,372人、計2,497人が勤務している。
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【出席した5人の酪農ヘルパー】

意見交換会

酪農ヘルパー利用向上に必要なこと

<酪農家との信頼関係>

   酪農家から財産である牛を預かるという重大な仕事を請け負うヘルパーは、酪
農家との信頼関係を築くことが、利用向上を進める上で、最も重要と考える。そ
のためには、

・酪農家と話をする機会を増やし、ヘルパーの仕事について理解してもらう努力
 をする

・ヘルパーの側から誠意を示すことで、酪農家に理解、信頼を徐々に深めてもら
 う

・ヘルパーの向上心が大切

・人工授精師、削蹄師などの資格を取得することにより、酪農家が信頼できるヘ
 ルパーを目指す

など、ヘルパーの側からも粘り強く努力している様子が述べられた。
 
<酪農家の利用負担が軽減されれば…>

 現在、定期利用を行っている酪農家の全国の平均利用日数は年間12.5日(実態
調査)で、約月1回の利用となっている。利用回数はこれが限界なのか、まだ伸
びる余地があるのかとの問いかけに対し、

・月1〜2回程度の定期利用については、経済的に負担を感じてしまう酪農家も
 あるようだ

・特に小学生くらいの子供がいるところでは、毎月定期的に休みを取るところが
 多く、利用料が安くなれば、もっとヘルパーを利用し、旅行等家族で過ごす時
 間を増やすと思う

など、利用負担が軽減されれば、利用が向上するとの見方が示された。一方で、
利用料はヘルパー組織と安定的なヘルパー活動を支えるためには不可欠であり、
利用料の引き下げは、組織の維持を困難にしかねないことも事実である。

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【次々と発表させるヘルパーの熱意ある意見に、
出席した関係者も熱心に聞き入る。】
働きやすい職場づくりのために

<専門の事務担当者を>

 利用組合の約 9 割を占める任意組合組織では、人員に余裕がないため、事務全
般をヘルパーが行っているところがかなりある。この点について、


・現場に集中できるよう、事務担当者を配置してほしい

・ヘルパーが酪農家と直接交渉すると、私情が入りやすく、双方の負担となるこ
 とから、事務局があったほうがよい

などの要望が寄せられた。しかし、実際問題としては、利用組合ごとに事務担当
者を配置すれば経費がかかることになり、利用料に密接に関連し、簡単に解決で
きる問題ではない。
 
<牛舎にトイレを>

 最近建てられた新しい牛舎は別として、一般的には牛舎の近くにトイレの設備
がないことが多い。しかし、最近は女性のヘルパーが増加してきたことから、ト
イレの設置を酪農家に要望しているが、設置されたのはごく一部にすぎない。こ
のことについて、男性ヘルパーから、

・女性ヘルパーの採用が決まった時、トイレの設置を酪農家に要望したが、経済
 的に余裕がないなどの理由から、全体の5%程度しか設置してもらえなかった

・パートナーのヘルパーが女性なので、作業が2時間を超えると、体をこわしは
 しないかと心配になる

・女性には、途中で近くのコンビニ等を利用するようにいう

・男性でも体調がすぐれない時もあり、トイレは必要など、現場における実状の
 説明があり、基本的な職場条件の整備に対する対策が求められている。
 
<機械の整備は万全に>

 作業中に搾乳機などの機械の故障が発生した場合について、

・酪農家が不在の場合、基本的には業者に連絡して修理を依頼することになって
 いるが、ヘルパーが活動する早朝、夜間はメーカーと連絡が取れないことが多
 く、何とか自分で直して対応しなければならない

・酪農家に機械の不調を相談すると、「良く見つけてくれた」とすぐ修理、交換
 してくれることもあるが、「このままでいい」とか「余計な口出しをするな」
 と言われることもある

など、機械の整備は毎日の作業に影響することなので、定期点検などのルールづ
くりと、その励行が望まれている。
 
<望まれる作業の標準化とルールづくり>

 ヘルパーにとって、労働の場の大部分が酪農家であることからも、双方の要件
をうまくつなげていくことが働きやすい職場づくりには不可欠であり、そのため
には、


・ヘルパーからの申し入れについては、酪農家も真剣に考えてほしい

・ヘルパーが働きやすければ、酪農家も働きやすいはず

・利用する酪農家側とヘルパー側でそれぞれのマニュアルをつくるなど、技術的
 な面での加入酪農家の平準化が重要

など、数多くの経営事例を外から見る立場からの提案があった。また、酪農家は、
酪農家としての基準ばかりでなく、外からの目で自分たちの経営や環境を考える
姿勢が必要ではないかとの指摘もあった。

<もっとヘルパー同志の交流、発言の場を>

 ヘルパーの仕事は職人的性格が強く、相談する仲間も限られることから、今回
のように異なる地域からヘルパーが集まり、お互いの意見を発表しあったり、情
報を交換する場をもっと設けてほしいという強い希望が出された。

 また、それぞれの問題点を全国協会をはじめ、関係団体などの担当者を含めた
中で検討するという意味からも、こうした意見交換会は重要との意見があった。

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【ゆとりある酪農を支えるヘルパーの背中に
「牛にやさしい人が好き」のメッセージ】

これからの酪農ヘルパー事業に向けて

広域化の推進と支援組織の統合

 ヘルパーから出された率直な意見の中には、相互に矛盾するもの、やり方によ
っては組織そのものの存続に影響する可能性があるものも含まれている。こうし
た問題を将来に向けてどのように解決していくべきかについて、農林水産省他関
係団体の各担当者から次の 2 つの方向が示された。

 1つは、ヘルパー利用組合の統合を進めることにより、1組合の活動を地域的
に広げ、事務処理を統合して合理化するとともに、ヘルパーの労働力をより効率
的に利用できるようにすることである。

 もう1つは、酪農ヘルパー単独ではなく、飼料生産コントラクター、肉牛ヘル
パー等活動内容の異なる畜産支援組織を統合することにより、同一地域内におけ
る事務の合理化、各部門における労働力の空き時間の活用等を図り、地域全体と
して効率的な運営を行うシステムの確立である。

畜産総合支援システム確立対策事業の実施

 農林水産省は、畜産農家の労働時間の短縮、担い手の育成を図るため、農協等
が中核となって、酪農ヘルパー、肉用牛ヘルパー、飼料生産コントラクター等既
存の支援組織を再編統合しながら、@事務部門の統合により事務局運営経費を削
減、A酪農ヘルパーの朝夕の搾乳作業以外の時間、コントラクターの飼料収穫作
業期以外の時期の労働力等を活用し、完全燃焼させることにより、雇用経費を削
減、B汎用機械の有効利用により機械の償却費を削減する等により、ヘルパー利
用料金等利用農家の負担軽減を図るため、地域全体として効率的な運営を行うシ
ステムづくりを推進することとし、「畜産総合支援システム確立対策事業」を平
成11年度に実施することとしている。

 同事業では、@統合のための調整・検討等を行う協議会の開催、A新たな対象
作業、対象畜種に対応するための技術習得等のほか、ハードの面においても、@
新たな対象作業や受託作業量の増加に対応するのに必要な施設機械の増設、補充、
A経営主の傷病により一時的に家畜を預け入れるための簡易畜舎の整備、B出役
量の増加、要員の増加の中で作業の効率化を図るための情報機器等の整備につい
て助成することとしている。


おわりに

 「酪農ヘルパー利用向上のために何をすべきか」というテーマについて、ヘル
パーからは「酪農家との信頼関係の構築」が重要であり、「酪農家の利用負担軽
減」により利用向上が図られる可能性が示された。また、「働きやすい職場づく
り」のためには、「事務職員の配置」、「牛舎にトイレを設置」、「機械の整備」、
「作業の標準化、ルールづくり」、「ヘルパー同志の交流」、「発言の場づくり」
等について要望が出された。

 農林水産省他各関係団体の各担当者からは、これらのいくつかについて総合的
に解決を目指す方向として、「広域化」と「支援組織の統合」が示された。実態
調査で、利用組合数が再編統合等から平成10年に減少に転じたことからも明らか
なように、「広域化」による合理化は既に始まっており、「支援組織の統合」に
ついても農林水産省が平成11年度新規事業として「畜産総合支援システム確立対
策事業」を実施する。

 多頭飼育が進み、酪農家はじめ畜産農家が減少する中で、酪農ヘルパー制度は
定着、拡大の方向に進みつつある。担い手確保のためにも、この制度をさらに拡
大し、活用を図り、ゆとりある畜産経営を実現しなければならない。酪農ヘルパ
ー事業には、他の農業分野では見られないほど多くの若者が参入して酪農を支え
ているほか、酪農経営への新規参入につながっている例も見られる。ヘルパー事
業の将来に強い期待を寄せるとともに、今後の展開に注目していきたい。

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