鳥取県/山崎 和夫
中国一の高峰大山の裾野の黒ボク畑に広がるナシ、ブロッコリー、シバなどで 有名な西伯郡中山町松河原。ここで永田信男さん(80)と奥さん(76)は二人だ けで経産牛34頭、子牛25頭、シバ2.3ha、飼料作物1.5haを経営している。鳥取県 では、農業就業人口のうちの55%以上を60歳以上の人たちが占める。しかし、永 田さんは、その中にあって、飛び抜けて元気である。 三重高等農林学校(現三重大学)卒の永田さんは陸軍船舶幹部候補隊の教官と して、香川県で終戦を迎え、縁あって広大な軍馬補充農場に、同僚や生徒と共に 入植、開墾といも類、陸稲などの栽培に励んだ。 昭和27年にこの中山町の地で1頭の乳牛を導入したのが畜産へのスタート。そ の翌年から派米農業研修生としてカリフォルニアで主に野菜を体験、その合間に 近隣の酪農家を視察し、意欲を深めたという。 帰国後、乳牛の増頭を図り、昭和42年には牛舎を改築、30頭規模とした。しか し、乳牛の疾病で3、4頭死亡、搾乳量も大幅に減少、経営的に苦しい時期を迎 えた。いろいろ検討の結果、昭和47年当時収益性の良かった乳雄の肥育を開始。 54年からは和牛の繁殖も始めた。 ところが畜種が多様化し、管理が複雑になってきた。乳質検査が強化される一 方で、和子牛価格が好調であったため、昭和57年から和牛繁殖経営一本に絞った。 現在は 1 年 1 産経営をクリアし、成果も実に良好である。 永田さんの管理の特徴は次の 3 点にある。 (1)徹底した記帳 繁殖牛の管理はすべて方眼紙を貼り付けた管理板に繁殖牛 1 頭ごとに父、母の 父、祖母の父を明記、1年分の種付け、分娩、妊娠鑑定、黄体の状況等を記入管 理している。また、毎日の作業の中でも繁殖牛の状態を把握している。 (2)発情確認と種付け 繁殖管理板を見て分娩後40日以内に発情が来ない繁殖牛に対して、獣医師に卵 巣の状態確認を依頼、黄体の状態に応じて処置してもらっている。その結果は管 理板に記録し、次の人工授精を決める。受胎確認は受診料の低減を図るため確認 可能な繁牛をまとめて獣医師に依頼している。 (3) 牛の早期離乳と自由に行動する群飼 繁殖牛は分娩後同居する期間は約1カ月で、早期離乳している。繁殖機能の回 復も早い。 離乳した子牛は分娩室兼子牛牛舎内を自由に行動する群飼である。 生後1〜5カ月の子牛は兄弟のように牛舎内を一緒に行動、見よう見まねでエ サの食べ方等を学ぶ。永田さんは「子牛はよくなれていて家内の尻にいつもつい て廻っている」と話す。 このような繁殖管理から永田さんの1年 1 産が継続して維持されているわけだ。 これは全くもって永年培った経験と研究、たゆまざる観察と記帳の成果。いつ までも、お元気で和牛飼育の先達として「老人パワー」で活躍されるよう望むも のである。