埼玉県/持田 妙子
埼玉県の西北部に位置する秩父地方は、急峻な山とこれに囲まれた盆地から なる山村地域で、都心からわずか70kmという距離にありながら豊かな自然と 歴史ある固有の文化を残し、首都圏などから年間約1,000万人の観光客が訪れ る。 この秩父地方の中心、秩父市の聖地公園では年 3 回、「埼玉県和牛子牛共励 会」が開催される。秩父郡とその北隣の児玉郡を中心に生産された黒毛和種子 牛約90頭が集合、優良牛の審査とせり(臨時市場)が行われる。「質がよく飼 いやすい秩父の和牛」をキャッチフレーズに県内外の買参人を集め、主要生産 地に引けを取らない価格水準で取引が行われるため関係者からの注目度も高く、 県内最大の畜産イベントの一つとなっている。 この和牛子牛共励会が、平成10年10月、55回目の開催を迎えた。生産者、 買参人など130名あまりが参集し、この日出品された85頭の子牛が競り人の威 勢の良いかけ声にあわせて次々に落札された。価格は去勢平均で409千円、最 高値573千円と好成績をあげ、盛会のうちに終了した。 秩父地域の和牛生産は昭和42年、県の畜産振興策の一つとして「秩父を和牛 の産地に」と島根産和牛を導入したことに始まる。和牛子牛共励会は、この秩 父産和牛の改良と育成技術向上を目的として、47年から春、秋の年 2 回ずつ 開催されてきた。生産者と農協、県が連携し良質な子牛の生産を目指してきた 結果、秩父は和牛子牛の産地として定着した。当初は20頭弱で行われていた共 励会も、「秩父和牛」の評判とともに徐々に出品頭数が増え、さらに児玉地域 の生産者が会員に加わって、現在では毎回90頭近くが集合するまでに発展した。 これからもますます出品頭数が増加する見込みであること、「秩父和牛」の良 さをもっと多くの関係者にPRしたい、ということから、平成10年度からは開 催を年 3 回に増やした。 30年余りの歴史とともに培った「秩父和牛」の人気に加え、近年の国産牛肉 の嗜好の高まりと、酪農家や、肥育農家の和牛生産への転向が追い風となり、 秩父の和牛子牛生産は成長し続けている。県では現在、秩父などで生産された 子牛を地域内で肥育し、埼玉県産牛肉としてブランド化する事業を進めている。 この共励会出身の和牛子牛たちもすでに市場で活躍しはじめており、「秩父牛 肉ブランド」が確立される日を目指している。
【共励会の風景】 |