信州大学経済学部 教授 茂木 信太郎
恒例の外食産業売上高ランキング調査(第25回)の結果が発表された。 ランキング上位20社を表に示したが、外食産業売上高ナンバーワンは、日本マ クドナルドである。同社の1998年の売上高は、3,779億円で、期末店舗数は2,852 店舗である。以下、ほっかほっか亭総本部(年間売上高1,726億円、3,248店舗)、 すかいらーく(1,624億円、1,081店舗)、日本ケンタッキーフライドチキン(1,3 20億円、1,198店舗)と続く。 第1位の日本マクドナルドは昨年、1個130円のハンバーガーを65円でセールス するというキャンペーンを実施し(7月、8月、12月)、マスコミでも大々的に取 り上げられたことはご存知のところであろう。その結果、売上高も前年度比13.4 %増となっている。 同調査では報じられていないが、昨年1年間の同店の来店客数(延べ数)は、9 億8千6百万人である。ハンバーガー1個に挟まれるミートパティの重量は約45グ ラムであるが、年間の牛肉使用量は3万9千トンにのぼる。フライドポテトの年間 販売量は10万4千トンである。今更ながらに外食ビジネスのビッグスケールを思 い知らされるところである。
今回のランキング調査結果を見て、過去24回の調査結果と異なる特徴は、ラン キング上位社で減収企業(前年と比べて売上高が減った企業)が格段に増えたこ とである。 表では、20社中、減収企業が9社ある。(前年調査結果では3社であった。) これを、売上高上位50社で見ると17社(前年は10社)、同100社で見ると37社 であった。(前年は29社) このように、上位といえども売上高を伸ばすことのできない外食企業が激増し た。 外食産業市場全体も、昨年(98年)はマイナス成長(▲0.9%、(財)外食産業 総合調査研究センターの推計)であったので、いよいよ外食産業も市場成熟の時 代を迎えているという見方ができる。 もっとも、外食産業市場は92年以降(すなわちバブル経済の崩壊以降)長らく 低迷を続けている。この7年間の平均の市場成長率は年率1%以下である。外食産 業市場は91年までは、平均すると毎年1兆円ずつ市場規模を拡大してきたが、最 近7年間の平均では2千億円程度である。 外食企業は、このような市場環境の下では、市場成長期と同じような企業戦略 のままであると、競走を勝ち抜いていくことができないということになる。 表:外食産業売上ランキング上位20社 資料:日経流通新聞1999年4月22日号 注:( )内は前年の順位
ランキング調査の結果は、次のような企業の動きを反映したものではないかと 思われる。 第1のグループ。新しい市場環境への対応を果たし、その成果が具体的に現れて 増収を達成している企業群。 第2グループ。他社に先駆けて新市場開拓を果たし、増収している企業群。 第3グループ。新しい市場環境への対応を進める過程で、一時的に減収を被って いる企業群。 第4グループ。市場環境への対応が不十分で、競合企業との競走に後れをとって しまい減収した企業群。 第5グループ。新しい市場環境の変化に無自覚で、対応を怠っていて減収に陥っ た企業群。 第1と第2グループは増収企業であり、第3以下は減収企業であるが、成熟市場下 で勝ち残っていくのは第1グループであり、第4以下はこのままでは負け組みに格 付けされてもやむを得ないということになる。第2と第3グループは、現時点では 自己改革の状況や競合企業の動向など、不確定要素もあるが、今後の成長の期待 が持てる企業群である。 市場成熟段階にある今日の外食事業で難しいと思うことは、既存の枠組みの中 で新しいメニュー開発を続けていても市場開拓の活路を切り開いていくことには ならないということである。 メニューそのものは、まねされ得るものなので(参入障壁が無い)、品質の優 位性を創る何らかの手法(機器や技術)を導入するか、圧倒的なコスト競争力を 確保するか、さもなければ新規のメニューにふさわしい新業態を開発して新市場 を開拓するという方向を目指すことになろう。 事実、今回の調査で増収を果たした企業は、このような試みを積み重ねてきた 企業群であるとみることができる。
もぎ しんたろう昭和53年法政大学大学院経済学専攻修士課程修了。(社)食品需給研究センタ ー研究員、(財)外食産業総合調査研究センター主任研究員などを経て、平成7 年4月信州大学経済学部助教授。8年10月より現職。