★ 農林水産省から


農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)の改正について

食品流通局品質課  課長補佐 小島 吉量




はじめに

 近年、食品の消費形態の多様化や、味、鮮度、健康、安全性といった観点から
の食品に対する関心の高まりを背景として、消費者、生産・製造業者、流通業者
等から、商品に関する事実、価値が正しく消費者に伝えられ、消費者の適切な商
品選択を可能とするための表示制度の充実が求められている。
 また、有機食品について、不適切な表示や混乱がみられ、生産者、消費者双方
からその適正化が求められている。

 さらに、日本農林規格に関し、国際化の進展に伴い国際整合化が求められてい
るとともに、格付について、規制緩和、民間能力の活用等の観点から見直しを行
うことが求められている。

 これらの状況に対応するため、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関す
る法律(JAS法)の一部を改正する法律案が閣議決定され、国会審議を経て、去
る7月に成立した。平成12年4月1日の施行に向けて、政省令等の作定を進めてい
るところである。


現行JAS法の概要

 JAS法は、大きくJAS規格制度と品質表示基準制度の2つの制度で成り立ってい
る。

 JAS規格制度は、食品や木材など農林物資について適正かつ合理的な規格を制
定し、これを普及させることによって、農林物資の品質の改善や取引の円滑化、
使用または消費の合理化等を図っていこうとするものである。

 日本農林規格は、缶詰、ハム、こんぶ、合板、畳表など個々の農林物資の種類
ごとに、農林水産大臣が農林物資規格調査会の意見を聴いて制定する。制定され
た日本農林規格に基づいて、農林水産大臣の登録を受けた登録格付機関など公的
機関により農林物資の検査(格付)が行われると、格付の表示(JASマーク)が
当該農林物資に付されることとなる。すなわち、JASマークを付されたものは、
検査によって一定の品質が保証されたものであり、実際の民間における取引の指
標として、あるいは、消費者が商品を選択する上での目安として幅広く活用され
ているところである。現在、加工食品や木材を中心に、351規格が定められてい
る。

 なお、日本農林規格による格付を受けるかどうかは事業者の自主性に委ねられ
ており、格付を受けずJASマークの付されていない農林物資の流通も特段制限さ
れてはいない。

 他方、品質表示基準制度は、一般消費者の商品選択に資するため、農林物資の
品質に関する適正な表示を事業者に義務付けるものである。消費者保護の要請の
高まりに対応し、昭和45年に創設された。

 一般消費者がその購入に際してその品質を識別することが特に必要であると認
められる農林物資について、個々の品目ごとに、農林水産大臣が、事業者が守る
べき表示ルールとして品質表示基準を定めることとされており、これに従わない
事業者に対しては品質表示基準を守るべき旨の指示をするなど是正措置が講じら
れる。現在、食品について64の品質表示基準が定められており、加工食品につい
ては品名、原材料名や賞味期限などを一括して表示すべきこと、生鮮品について
は品名と原産地名の表示を行うべきことが定められている。

 日本農林規格による格付を受けるかどうかは事業者の任意であるのに対し、品
質表示基準は、一般消費者の利益を保護する観点から事業者に適正な表示を義務
付けるという強制的な性格を有しており、食品の多様化が進む今日においては、
消費者が食品の購入を行う際の判断の拠りどころとしてその充実が求められるな
ど、消費者保護行政を推進する上で極めて重要な役割を担っている。


食品の表示の充実強化

 今回のJAS法の改正事項の第1点目は、食品の品質表示基準制度を充実強化する
ことである。

 JAS法には、一般消費者の商品選択に資するため、食品を含め農林物資の品質
に関する適正な表示を行わせるという品質表示基準制度が設けられており、JAS
規格が定められている品目のうち必要があるものについて、品名や原材料名、賞
味期限などを表示すべきこと、また表示をする場合には消費者に見やすいよう一
括して表示すべきことなどを定めた表示の基準(品質表示基準)を農林水産大臣
が定めることとなっている。品質表示基準を守らない事業者に対しては、農林水
産大臣又は都道府県知事が品質表示基準を守るべき旨の指示をできることとされ
ており、それに従わない場合には事業者名を公表することができることになって
いる。現在、この制度に基づき、缶詰、果実飲料、ハム、しょうゆなど53品目に
ついて品質表示基準が定められている。また、別途JAS規格を定めることが困難
な農林物資についても、必要がある場合、農林水産大臣は品質表示基準を定める
こととされており、現在、パン類、ニンニク、生しいたけなど11品目について品
質表示基準が定められている。

 しかしながら、消費者の嗜好の多様化や経済のグローバル化に伴って食品の多
様化が急速に進み、様々な工夫を凝らした食品が日々生産、輸入され出回るよう
になっている中で、このように個別品目ごとに品質表示基準を定めていたのでは、
食品に関し適正な表示を徹底するという観点からは対応が不十分なものとならざ
るを得ない。消費者が自己責任の下に商品を判断し購入できるようにするために
は、そのための拠りどころとして、すべての食品について適正な表示を徹底する
ことが不可欠である。

 また、国際的にも、食品のすべての品目を対象として、どのような事項を食品
に表示すべきか、またそれをどのように表示すべきか等を定めたルールが国際規
格として既に定められている(コーデックス包装食品一般表示規格)。食品全体
を通ずる横断的な表示ルールを定め、消費者の保護や公正な取引の確保を図って
いくことは、国際社会においても常識となりつつあるといえる。

 以上の状況を踏まえ、改正JAS法においては、すべての食品について表示の適
正化が図られるよう、農林水産大臣は食品についての横断的な品質表示基準を制
定しなければならないこととしている。また、実際には食品の製造実態や流通、
消費の実態は多様であり、個別品目の商品特性に着目して品目横断的な品質表示
基準の追加や変更が必要な場合も考えられることから、個別品目ごとの表示ルー
ルも、農林水産大臣は従来どおり品質表示基準として定めることができるように
している。

 さらに、改正法においては、原産地の表示を「品質表示」に含め、原産地につ
いてもその表示ルールを品質表示基準として定めることが可能となるよう措置し
ている。生鮮食品についてはその原産地によって消費者の受け止め方が異なり、
実際に取引される価格も異なっている現状に照らせば、消費者の経済的利益を保
護するためには原産地表示についてもその適正化を図っていくことが必要だから
である。

  このほか、適正な食品表示を徹底するという観点から、品質表示基準を守らな
い事業者に対するペナルティーも強化されている。従来の指示、公表という措置
に加え、指示され、かつ、公表された場合においてもなお品質表示基準を守らな
い事業者に対しては強制力を伴う命令を発出することができることとしている。

 今後、具体的に食品横断的表示ルールを品質表示基準として定めていくことと
なるが、その際にはコーデックス包装食品表示一般規格などの国際規格を考慮す
るとともに、農林物資規格調査会の意見を聴き、消費者や製造業者、流通関係者
など利害関係人の意向を踏まえて定めることとされている。


有機食品の検査認証・表示制度の創設

 改正の第2点目は、有機食品の表示の適正化である。

 消費者の健康志向や安全志向の高まりの中で、現在では、有機食品である旨の
表示を付した食品が広く流通し、販売されるようになっている。

 有機食品の概念は、生態系を利用した物質循環を基本とし、生産、加工等の過
程において化学合成物質を原則として使用せず、環境負荷を最小にすることを目
的とするものであり、生産者が地域の生産条件を踏まえ、様々に工夫しながら取
り組みが拡大されてきた経緯がある。

 農林水産省においても、平成4年に「有機農産物及び特別栽培農産物に係る表
示ガイドライン」を定め、有機農産物や無農薬栽培農産物について基準や認証方
法、表示方法を示し、表示適正化に向けた事業者の自主的な取組を促してきた。

 しかしながら、これら農法への取り組みが拡大するに従い、また、これらの農
法を経て生産された農産物に対する消費者の関心が高まるにつれて、有機食品に
関する様々な問題点が顕在化してきている。

 ばらばらな基準の下で生産が行われ、中には有機質肥料を使用しただけで「有
機栽培」等と表示する例もあるなど表示の混乱も見られることから、消費者にと
っては何を拠りどころに判断して良いのかが分からず、その適正な商品選択が妨
げられているといった実情にある。

 また、生産者にとっても、様々な基準や表示がはんらんすることは、有機農法
に対する真剣な取り組みに対し適正な評価が行われないことになり、結果有機農
法に対する取り組みが阻害されることとなりかねない。

 さらに、流通段階においても、統一的な基準やその生産方法を確認する仕組み
がないことには、有機農産物の取り扱いを積極的に進めることができず、そのこ
とが有機農産物の今後の発展にとって支障を及ぼしかねない状況となっている。

 国際的にも有機農法(organic農法)に対する関心の高まりの中で、その基準、
認証の仕組みや表示のあり方について検討が進められている。昨年5月にカナダ
のオタワで開催されたコーデックス委員会食品表示部会においては、有機食品の
基準等について、畜産関連部分を除きおおむね各国間の合意が得られ、今年7月
には、コーデックス委員会の総会において国際規格として成立したところである
(なお、有機畜産物の規格については、引き続きコーデックス委員会で検討され
ている。)。

 このような状況を踏まえ、有機食品についての明確かつ統一的な基準を定める
こと、検査・認証の仕組みを整備すること、それに基づいて適正な「有機」表示
が行われるようにすることが急務となっている。

 このため、改正法においては、生産または製造の方法に特色がありこれにより
価値が高まると認められる農林物資のうち、一般消費者を保護するためその表示
の適正化を特に図る必要があるもの(政令で指定)については、その生産または
製造の方法について認証を受けたもののみに、例えば「有機○○」などの名称の
表示を付すことができることとするなど、必要な事項が盛り込まれているところ
である。

 今後、「有機農産物」や「有機加工食品」の規格を日本農林規格として定め、
JAS法に基づく的確かつ公正な検査・認証の仕組みを整備するとともに、不適正
な表示を排除する観点から、当該検査・認証を受けたもののみが「有機農産物」
あるいは「有機加工食品」などの表示を付して流通することとなる。
◇図:JAS法改正のポイント◇

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◇図:農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律の
                      一部を改正する法律概念図◇

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JAS規格制度の見直し

 改正の第3点目は、国際化の進展に対処し、規制緩和や民間能力の活用の観点
をも踏まえたJAS規格制度の見直しである。


規格の定期見直しの法定化等

 日本農林規格は、我が国唯一の農林物資に関する統一的なスタンダードとして
民間取引等において幅広く活用されているが、技術の進歩や需要者、消費者の嗜
好の変化等により、時間の経過とともに、必ずしも実態にそぐわないものとなっ
ている。日本農林規格がその期待される役割を十全に果たしていくためには、農
林物資をめぐる情勢変化に合わせて逐次規格を見直していくべきことが不可欠で
ある。このような観点から改正法においては、既存の日本農林規格のすべてにつ
いて、その制定又は見直しの日から5年以内になお適正であるかどうかを農林物
資規格調査会で再検討し、必要がある場合には改正や廃止などの措置をとるべき
ことを定めている。

 また、実際に規格を利用することとなる生産者や製造業者、流通業者、消費者
など関係者が自ら規格の必要性や内容の妥当性を主体的に判断することが適当で
あるとの考え方から、日本農林規格の制定や改正、廃止を行うに当たっては、こ
れら関係者の意見を集約する場である農林物資規格調査会の役割を強化すること
とし、同調査会の議決がなければ、農林水産大臣は、日本農林規格の制定や改正
等を行えないこととしている。

 また、国際間における物資の流通を円滑化する観点から農林物資についても国
際規格の策定が徐々に進められておりますが、国際社会においてWTO体制が定着
する中で、我が国唯一の統一的なスタンダードとして、日本農林規格が国際規格
の受け皿としての機能を適切に果たしていくことが求められている。このような
状況を踏まえ、日本農林規格を制定する場合には、国際規格の動向を考慮すべき
こととしている。 


事業者自身による格付の表示のための仕組みの導入

 改正前のJAS法においては、JASマークを付すため日本農林規格に適合してい
るかどうかを検査する場合は、第三者による検査(格付)を建前としており、事
業者自身がその生産または製造する農林物資に格付を行うことは認められていな
い。

 しかしながら、近年の状況をみると、民間の技術力の改善、発達等により、実
際の格付結果をみても規格不適合品がほとんどみられないなど、民間工場におけ
る品質管理体制への信頼性が昔とは比べものにならないほど向上しており、第三
者の関与がなくとも事業者が自己の責任においてその生産、製造する商品の品質
を的確にコントロールすることが十分可能であると考えられる。

 他方、規制緩和の流れの中で、事業者の経済活動に対する国や公的機関の関与
を最小限とし、事業者の自主性を尊重し、自己責任原則に立脚した制度としてい
くことが、いわゆる基準認証制度を含め行政の各分野で求められているところで
ある。

 このような状況を踏まえ、品質管理体制等の状況に照らし一定の基準を満たす
と認められる事業者については、第三者による格付を受けなくても、自ら格付を
行ってその生産または製造する商品にJASマークを付することができるようにし
ている。


登録格付機関等への民間能力の活用

 JAS法が昭和25年に制定されるまでは、農林物資に関する価格統制や需給統制
の必要性から国及び都道府県により農林物資の検査が行われていた。昭和25年に
制定されたJAS法においても、このような経緯もあり、検査主体としては当初国
と都道府県のみが位置付けられており、その後翌年には民間の非営利法人にも格
付権限を開放するなどの改正が行われたが、当時は営利法人については、格付結
果の信頼性が確保できないのではないかと考えられ、これに認証業務を認めるこ
とはしなかった。

 しかしながら、現在では、食品検査や有機認証などの分野においても数多くの
民間の検査機関がみられるところであり、高度複雑化する経済社会の中で、これ
ら民間機関における高度な技術力や知見を活用し、効率的な検査・認証制度とし
ていくことが、事業者負担を軽減する観点からも、また、民間の事業活動に対す
る公的関与を最小限とする観点からも求められている。

 このような状況を踏まえ、従来非営利法人しか行うことのできなかった日本農
林規格の認証業務を営利法人にも広く開放することとしている。また、内外無差
別の観点から、外国の検査機関にも認証業務を開放することとしている。

 なお、このように広く内外の営利企業に認証業務を認めるからといって、認証
業務の中立性や独立性が冒され、その実施が適切に行われないようになるのでは
意味がない。このため、認証機関の要件として法人の役員構成や他業の兼営に関
する要件を追加し認証業務の中立性や独立性についてより厳正な審査を行うこと
とするとともに、認証機関の更新制や、認証業務規程の作成義務、認証業務に関
する書類の保存義務の規定を設け、認証業務の事後チェック等に関しても遺漏な
きを期することとしている。
◇図:改正JAS法と国際基準との整合性及び規制緩和について◇

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