社団法人 全国はっ酵乳乳酸菌飲料協会 事務局次長 佐藤 忠勝
はっ酵乳の生産量の推移は、この20年以上着実な伸びを続けている。ちなみに、 平成11年度の生産量は86万キロリットルで、20年前に比べると実に5倍以上、10 年前と比べても2倍近い伸びを示している。はっ酵乳のこの伸びは、この数年間、 消費が伸び悩む乳業界に限らず、食品業界全体の中にあっても異色的な存在とな っている。 このように、はっ酵乳が長年にわたって増加基調を保ってこられたのは、一言 で言って消費者が健康への関心を高めてきたことと、各生産メ−カ−がこうした 消費者ニ−ズに対応した新商品を積極的に市場に投入してきたことが挙げられよ う。そこで、はっ酵乳が好調を持続している背景、要因について種々な角度から 探ってみた。
社団法人食品需給研究センタ−が先般発表した平成11年1〜12月のはっ酵乳の 生産量(速報値)は、乳業、非乳業合計で86万キロリットルを超え、秋期以降の 伸び悩みで2ケタ伸長にはならなかったものの、前年比109.4%と高い伸長率で締 めくくることができた。 はっ酵乳の生産量の推移を年次別にみると、昭和50年代前半は10万キロリット ル台であったが、50年代後半から60年代初めにかけて20万キロリットルから30万 キロリットル台で推移した。63年には40万キロリットル台に乗り、平成4年には 50万キロリットル近くになり、さらに、6年には60万キロリットル台となった。 9年は2ケタ増で70万キロリットル台、そして昨年は前述の通り80万キロリットル 台に達した(注:はっ酵乳の生産量は、乳業、非乳業別に巻末資料P.44参照)。 総務庁「家計調査」で1世帯当たりのヨ−グルト購入金額をみると、平成11年 は8,524円、前年比109.9%と伸長している。これまでの推移を見てみると、60年 から62年は3,000円台で推移し、63年には4,000円台にのり、平成4年には初の 5,000円の大台を突破した。そして、7年に6,000円台にあと一歩、9年には7,000 円台と生産量同様順調に推移してきた。 家計調査では地域別の購入金額も報告されていて、一番消費水準の高い地域が 「関東」で、次いで「東北」、「東海」、「北陸」の順になっている。逆に消費 水準の低い地域が「九州」、「四国」、「中国」、「近畿」などで、まさに東高 西低に色分けされている。その理由は、天候なのか、食生活の習慣なのか、歴史 的なものなのか判然としないが、興味深い傾向が出ている。しかし、昨年の伸び 率を見てみると、「四国」、「中国」地区が高く、他の西日本地区も順調で、い ずれ近い将来「西日本」が「東日本」に追いつくかも知れない。 ともあれ、いずれの調査を見てもこの10〜20年間、ヨ−グルトの消費量は足踏 みすることなく堅実に増加カ−ブをたどってきた。
ところで当協会では、11年8月、首都圏内に住む20〜50歳代の主婦とその家族 員を対象に、はっ酵乳と乳酸菌飲料の常備状況や飲食状況を踏まえた上で今後の 需要拡大のための訴求点を見出すことを目的に、「はっ酵乳・乳酸菌飲料の飲食 実態調査」を実施した。 例えば、この調査の中のひとつ、「飲料カテゴリ−の世帯における常備状況」 を見ると、はっ酵乳(ヨ−グルト)が牛乳とともに高い。乳製品以外の飲料にお いては、炭酸飲料、果実飲料、コ−ヒ−飲料等を押しのけ、茶系飲料が高い常備 率を示している(図1)。また、常備している理由については、ヨ−グルトのう ち特に食べるヨ−グルトは「健康に良いので」と答えた率は「味が良いので」と 答えた率をはるかに上回っている(図2)。加えて、飲食用機会についても、食 べるヨ−グルトは、「朝食時」と答えた率が2位の「おやつ・間食」を引き離し トップを占めている(図3)。さらに、日頃どのくらい飲食しているのかという 質問には、年代によって多少の差はあるが、平均すると「週に2〜3日食べる」が 約半数を占め、「ほぼ毎日食べる」の30%を加えると約80%の人がヘビ−ユ−ザ −となっている。これら一連の調査結果を見ても、消費者の健康志向が如実に表 れ、はっ酵乳が子供から成人さらに高齢者に至るまで幅広い世代の食生活に定着 していることがはっきりうかがえる。 ◇図1:飲料カテゴリーの世帯における常備状況◇ ◇図2:各飲料カテゴリーの常備理由からみた位置付け◇ ◇図3:ヨーグルトの飲食機会◇ ・食べるヨーグルト ・飲むヨーグルト
近年、医学をはじめとした科学技術の進歩により、日本人の平均寿命が伸びる とともに、消費者の健康への関心が高まっている。また、本格的な高齢化社会を 迎え、今後も健康ニ−ズが一段と強まることが予測される。こうした背景の下、 食品および食品成分と健康との関わりについてさまざまな知見が明らかになって きている。例えば、厚生省が指定する「特定保健用食品」の許可を受ける食品に ついては、この数年急増しているが、中でもはっ酵乳と乳酸菌飲料で許可された 食品数は40種類を超え、今や特定保健用食品の主流を占めるに至っている。 また、乳酸菌と健康との関わりについては、かなり以前から多くの大学や研究 機関の研究者によって研究され、毎年学会でその研究成果が発表されている。特 に、最近では予防医学の観点からプロバイオティクス(宿主の常在腸内菌叢のバ ランスの改善によって、有益な作用をもたらすもの)の研究が世界的に進み、そ の最も代表的な微生物として乳酸菌やビフィズス菌が挙げられている。これまで に知られている乳酸菌、ビフィズス菌の主なプロバイオティクス機能は、整腸作 用は言うに及ばず、血中コレステロ−ルの低減、発がんリスクの低減、血圧降下、 免疫活性の維持などが取り上げられ、今後も種々の保健効果が発見されることが 予想される。まさにはっ酵乳は、研究者の間で「機能性食品」として位置付けら れつつあるのである。 このように、はっ酵乳が大きく伸びた要因の1つに、はっ酵乳が牛乳の持つ栄 養成分ばかりでなく、生きた乳酸菌の生理的効用が期待できる商品であることが 挙げられる。このことを裏付ける前述の「はっ酵乳・乳酸菌飲料の飲食実態調査」 の結果の1つを紹介しよう。この調査で、今後、はっ酵乳を飲食したいと答えた 人の理由の上位3項目は、「成人病の予防になる」、「便秘に効果がある」、 「お腹の調子を整える」で、「栄養が消化吸収されやすい」、「カルシウムが入 っている」等の栄養的側面を抑え、上位はいずれも乳酸菌の持つ生理的効用とな っている(図4)。 ◇図4:ヨーグルトの飲食意向の理由◇
前述のとおり、はっ酵乳が伸びた要因として、第1にはっ酵乳の商品内容が消 費者の健康志向にマッチしたものであることが挙げられるが、第2にこうした消 費者ニ−ズに対応した商品を積極的に市場に投入してきた生産メ−カ−の努力に 触れないわけにはいかない。 ご承知のように、はっ酵乳の歴史は紀元前から始まったと言われ、ヨ−ロッパ やアジアをはじめ世界の人たちの大切な日常食品として食されてきた。わが国で も、古い医学書によれば、平安時代にさかのぼるが、工場で生産されるようにな ったのは明治以降のことである。しかし、明治以降といっても生産されていたの は、現在でいういわゆるハ−ドタイプのヨ−グルトで、原材料を寒天やゼラチン でプリン状に固め、甘味料や香料を添加し風味をつけたものが一般的であった。 現在のように、飲むタイプやソフトタイプ、さらにはフル−ツタイプやプレ−ン タイプなどバラエティに富んだ商品開発が行われるようになったのは昭和40年代 以降のことである。それ以降、はっ酵乳の生産を始めるメ−カ−が急激に増え、 当然販売アイテム数も拡大された。現在では、はっ酵乳を生産するメ−カ−が全 国で大小合わせ約150社あると言われ、販売アイテム数も600〜700あるとされて いる。換言すれば、はっ酵乳の商品開発量のカ−ブと前述の生産量統計のカ−ブ がほぼ比例して伸びたといっても過言ではない。 当協会では毎年1回、北海道から九州まで全国の市販品を約200種収集し、商品 開発の動向を調査しているが、ここ2〜3年間の傾向を下記のようにまとめてみた。 (1)新規性のあるフル−ツを投入したタイプ この1年特に目立った素材としてブル−ベリ−、ラズベリ−のほかに、以前か ら定番となっているストロベリ−、アップル、オレンジ、ピ−チ、アロエ、さら にさくらんぼ、梅、メロン、マンゴ、パイン、バナナ、グレ−プなど多様なフル −ツが投入され、ミックスタイプも多く出ている。新規開発で1番多い分野であ る。 (2)素材の持つ機能性を重視したタイプ ビフィズス菌やガッセリ−菌など菌種を選定したもの、食物繊維、ビタミン、 カルシウム、鉄、オリゴ糖など特定の成分を強調したもの、さらに最近では有機 素材を使ったものなど広範囲にわたっている。 (3)ダイエット志向を反映したタイプ かなり以前から市場に定着し、現在でも人気のある低糖、低脂肪タイプ、さら に低カロリ−や無脂肪のタイプなどである。 (4)乳原料の産地や生乳などを強調して自然を志向したタイプ 産地を強調したものの代表は「北海道」であるが、全国各地の酪農地域名、例 えば「那須高原」、「大山高原」等の地域名を冠したり、「生乳使用」、「生乳 仕立て(仕込み)」など自然志向に訴えたタイプで全国各地で数多く出回ってい る。 (5)厚生省許可表示やマ−クを活用したタイプ 「特定保健用食品」許可表示やマ−ク、「HACCP」承認表示やマ−クを記して 商品の安全性やイメ−ジアップを狙ったものも最近増えてきた。 そのほか、製法を強調したもの、乳牛の種類(例えば、ジャ−ジ−種)を強調 したもの、野菜を添加したもの、子供向けに開発したものなど広範囲に及んでい るが、1言で言えば、消費者の健康ニ−ズに訴えたものが大部分と言えよう。 また、飲食用機会については、前述の通り牛乳同様「朝食時」や「昼食時」に 飲食していただくのが理想と言えるが、ファッション性を強調し「おやつ、間食 時」など消費者の好きな時に、好きなように飲食してもらえば良いというポジシ ョニングの商品も数多く見受けられ、今後も増加していくことが予想される。 このように、メ−カ−各社のしのぎを削った商品開発が現在の生産量を押し上 げていると言えよう。
前段において、はっ酵乳の生産量を支えている要因としてメ−カ−各社の商品 開発の面について述べたが、次にマスコミ(特にテレビ局)のバックアップ及び メ−カ−各社の販促強化について触れてみたい。 まず、マスコミのバックアップであるが、記憶に新しいところでは11年2月に フジテレビ系の人気番組「発掘!あるある大辞典」でヨ−グルトの健康パワ−が 取り上げられ、一時はCVS(コンビニエンスストア)や量販店の棚から商品がな くなるほどのパニックとなった。この放映効果は2、3月の販売実績を押し上げ たばかりでなく、その余波は数カ月続き11年の年間実績も大きくアップさせた。 また、9年にNHKの人気番組「ためしてガッテン」でヨ−グルトが取り上げられ た時も、同様の効果があり、年間の生産量が2ケタ伸長したのである。 特に反響の大きかった2番組について触れたが、その他にも、民放局でも何度 か取り上げられ、新聞や雑誌でヨ−グルト特集が組まれたりした事例まで挙げる と枚挙にいとまがない。はっ酵乳がこれほど多くのマスコミで話題になるのは、 裏を返せば時代のニ−ズを満たした魅力的な商品だとも言えるのだろう。 こうしたマスコミの華やかな展開と並行して、メ−カ−各社の地道な販促宣伝 活動も見逃すわけにはいかない。大手メ−カ−を軸としたテレビコマーシャルの 投入、新聞雑誌広告、消費者キャンペ−ンのほか、日常の店頭宣伝活動、パブリ シティ活動なども生産量を押し上げた要素として忘れてはいけないと思う。
このように、はっ酵乳は11年度まで順風満帆の勢いに乗ってきたが、昨秋から 本年前半にかけて、やや消費が伸び悩んでいるのが実情である。しかし、前述の とおり、はっ酵乳には時代を先取りした商品価値がある。新商品の開発や既存品 のテコ入れなどを行うとともに、地道な宣伝PR活動を重ね、より多くの人には っ酵乳の商品価値を伝えていくことが重要である。日本人1人当たりのはっ酵乳 の消費量は長い歴史を持つヨ−ロッパ諸国と比較すると、5分の1〜2分の1という 現状を考えても、パイはまだまだ拡がっていくと確信している。