★ 農林水産省から


「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」の概要について −21世紀に向けた生産振興のマスタープラン−

畜産局畜産経営課 堀井 輝彦




はじめに

 「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針(以下、「基本方針」と
いう。)」は、「酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律」(昭和29年法律第
182号)に基づき農林水産大臣が定めており、いわば「酪農及び肉用牛生産の振
興施策のマスタープラン」と言えるものである。この基本方針は、従来より「酪
農近代化方針」として策定・公表されていたものを58年に肉用牛を加え、第1次
基本方針として策定・公表して以来、おおむね5年を目途に見直しが行われてお
り、今回で第4次の「基本方針」となる。


今回の基本方針のポイント

 今回の見直しのポイントは、新たな「食料・農業・農村基本法」およびこれに
基づき策定・公表された「食料・農業・農村基本計画」に即し、大家畜が利用で
きる草資源の有効活用による食料自給率の向上を図るとともに、酪農及び肉用牛
生産が有する農山村地域の活性化、国土保全、良好な景観の形成等の多面的機能
についても、その十分な役割発揮を図ることとしていることである。

 このため、土地基盤に立脚した大家畜生産の振興を打ち出しており、輸入飼料
に依存する傾向が見られる畜産経営を見直し、自給飼料の利用率向上を推進する
ことで、家畜排せつ物の草地への還元利用等畜産環境にも配慮した資源循環型畜
産経営の構築ならびに食料自給率の向上を図ることとしている。

 そのほか、規模拡大等により顕在化してきた畜産環境問題については、昨年の
「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」の公布・施行を踏
まえ、施設整備等による家畜排せつ物の適切な管理および有効利用を図ることと
しており、また、昨年より検討委員会を立ち上げて検討していた担い手確保対策
について、わが国の実態を踏まえた日本型畜産経営継承システムの推進を盛り込
んでいる。

 また、流通・消費部門等についても、今回、集乳および乳業の合理化に加え、
肉用牛および牛肉の流通の合理化についても新たに数値目標を設定し一層の流通
コストの低減を図るとともに、牛乳・乳製品や牛肉に関する消費者への情報提供
を図るなど消費者とのパートナーシップを構築していくこととしている。


基本方針の概要

酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本的な指針

 良質な動物性たん白質等の供給源としてのみならず、農山村地域の活性化など、
さまざまな役割を果たすことが期待される酪農及び肉用牛生産については、土地
利用型農業の基軸であるという本来の意義を再認識し、「土、草、牛」という生
産要素のバランスがとれた酪農経営および肉用牛経営を確立することにより、そ
の持てる力が最大限に発揮されるよう、振興を図っていくこととしている。

 また、国民生活において生産者と消費者を結び付ける重要な役割を果たしてい
る処理・加工、流通及び販売部門については、相互の連携を一層推進し、消費者
ニーズに応じた牛乳・乳製品および牛肉の生産・供給を推進するとともに、メデ
ィアや学校教育等を通じ、牛乳・乳製品や牛肉の優れた特徴等について積極的に
情報提供を図っていくこととしている。

 以上を踏まえ、高品質で、かつ消費者の支持を得られる適正な価格での牛乳・
乳製品および牛肉の安定的な供給、酪農及び肉用牛生産の健全な発展ならびに経
営の安定を図ることとしている。


生乳の地域別の需要の長期見通し、生産数量の目標、牛肉の生産数量の目標なら
びに乳牛および肉用牛の地域別の飼養頭数の目標

1 牛乳・乳製品、牛肉の消費の見通し                  

 目標年度(平成22年度)の望ましい食料消費の姿にかかる国内消費仕向量は、
緩やかに増加し、牛乳・乳製品では1,318万トン、牛肉では166万トン(枝肉換算)
を見込んでいる。 

2 生乳の地域別の需要の長期見通し 

(1)飲用向け需要量(地域別全国計)534万トン(表1)
(2)乳製品向け需要量(全国計)  448万トン
(3)自家消費等需要量(全国計)  11万トン
(4)需要量計   993万トン
表1 飲用向け需要量
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3 生乳の地域別の生産数量の目標

 1頭当たり乳量の増大等を通じた生産コストの低減等の生産課題が解決された
場合に実現可能な目標として、近年の酪農経営の地域的動向、飼料生産基盤の地
域差、乳牛の能力向上等を考慮し、設定している。

 生乳生産量(全国計) 993万トン(表2)
表2 生乳の地域別の生産数量の目標
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4 牛肉の生産数量の目標 

 経営規模の拡大等を通じた生産コストの低減等の生産課題が解決された場合に
実現可能な目標として、近年の肉用牛および乳牛の飼養構造の変化等を踏まえ、
設定している。

 牛肉生産量(全国計) 63万トン(枝肉換算)

5 乳牛および肉用牛の地域別の飼養頭数の目標 

 生産努力目標を達成することを旨として、酪農経営および肉用牛経営の地域的
動向、飼料生産基盤の地域差、地域内・経営内一貫生産の進展等を考慮し、設定
している。
表3 乳牛および肉用牛の地域別の飼養頭数の目標
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近代的な酪農経営および肉用牛経営の基本的指標

 他産業並みの所得を確保しつつ、主たる従事者の年間労働時間を他産業並みの
2,000時間以内とした「ゆとりある生産性の高い経営」を実現することを旨とし
て、10年程度後を目標とした多様かつ実現可能な類型を、酪農経営および肉用牛
経営について設定している。(別表)

 経営指標では、土地基盤に立脚した循環型大家畜経営を確立する観点から、飼
料生産〜家畜飼養〜家畜排せつ物の土地還元を一体的にとらえ、飼料生産指標、
環境指標等それぞれの部門に関する基本的な指標を一体的に提示している。また、
規模拡大による生産性向上およびゆとりの創出等を実現するための経営類型とし
て、酪農部門については、酪農家3戸の協業経営を想定した法人経営を新たに追
加している。
経営指標
1 酪農経営
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2 肉用牛経営
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流通・加工の合理化に関する基本的な事項

1 集乳および乳業の合理化に関する基本的な事項 

(1)生乳の計画的かつ安定的な供給および適正な価格形成

@生産者団体の自主的な取り組みにより、需要に見合った生産を確保し、用途別
の供給を適切に実施するための計画生産を一層効果的に実施するとともに、指定
生乳生産者団体の広域化を踏まえた集送乳の合理化、需給調整体制の整備等の推
進をすることとしている。

Aまた、透明性の高い公正かつ適正な生乳取引及び価格形成の推進をすることと
している。

(2)乳業の合理化と牛乳・乳製品の安全性の確保

 乳業の合理化等を図るため、一定規模(1日当たり生乳処理量2トン)以上の乳
業工場における牛乳・乳製品にかかる製造販売コスト、乳業工場数について、ま
た、品質の向上や安全性等を求める消費者の要請等に応えるため、一定規模以上
の飲用牛乳工場数におけるHACCP手法の普及目標を設定している。

(3)国産牛乳・乳製品の消費拡大

@消費者ニーズに対応した適切な情報の提供および正しい知識の普及、新しい消
費スタイルの提案などきめ細かい消費拡大対策等の推進をすることとしている。

A今後の需要の伸びが期待できるチーズ等乳製品における原料乳の安定供給の確
保を図ることとしている。
表4 集乳および乳業の合理化に関する目標
○製造販売コストの目標
(1日当たり生乳処理量2トン以上の工場)
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注1:原料バター・脱脂粉乳の現状は9年度のも
   のである。
 2:製造販売コストには原料乳代・一般管理費
   および支払利子は含まない。
 3:製造販売コストは、資材価格の変動など今
   後の経済変化によって大きな影響を受ける
   ことがあることに留意する必要がある。

○牛乳・乳製品工場数の目標
(1日当たり生乳処理量2トン以上)
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注:乳製品工場は乳製品製造が主体、飲用工場は
  飲用牛乳処理が主体の工場である。

○HACCP手法の普及目標
(1日当たり生乳処理2トン以上の工場)
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注:HACCPとは、食品衛生法に定める総合衛
  生管理製造過程をいう。


2 肉用牛および牛肉の流通の合理化に関する基本的な事項 

(1)肉用牛の流通の合理化

 肉用牛の公正な取引および適正な価格形成を確保するため、家畜市場の再編整
備による取引頭数の拡大と機能の高度化による取引の効率化を推進するとともに、
流通コスト低減を図るため、繁殖から肥育までの地域内・経営内における一貫生
産および産地内食肉処理の推進をすることとしている。

表5 肉用牛および牛肉の流通の合理化に関する目標
○家畜市場の取引頭数の目標
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○食肉処理施設の1日当たりの処理能力および稼働率の目標
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注:肥育牛1頭を肥育豚4頭で換算

(2)牛肉の流通の合理化

 広域的な食肉処理施設の再編整備、効率的かつ衛生的な食肉処理・加工、産地
食肉処理施設における部分肉仕向割合の増加、高付加価値化の推進することとし
ており、その際の指標として、食肉処理施設の処理能力等の目標を設定している。

(3)国産牛肉の安全性の確保                                                   

 と畜場法に基づいた衛生管理基準の遵守等HACCP手法を取り入れた食肉処理の
推進をすることとしている。

(4)国産牛肉の消費拡大

 原産国表示の徹底、消費者への食肉知識の啓発普及、産地等銘柄の確立、需要
者のニーズに対応した牛肉および加工品の提供の推進、出荷ロットの拡大、定量
・定質な計画的供給の推進をすることにより外食産業等における国産牛肉の需要
拡大を図ることとしている。


その他酪農及び肉用牛生産の近代化に関する重要事項

1 家畜改良・新技術開発等

 家畜改良により、能力の向上と斉一化の推進を図るとともに生産性向上を図る
ための新技術の開発・普及

2 経営実態に応じた指導体制の整備 

  酪農及び肉用牛の個別経営体に関する経営管理情報のデータベース化を図ると
ともに、インターネットを活用した情報交換のためのインフラ整備

3 畜産経営の支援・連携体制の整備 

 労働時間の軽減、周年拘束性の解消を図るため、酪農・肉用牛ヘルパー、コン
トラクター(飼料生産受託組織)等支援組織の普及・定着を推進するとともに、
飼料・たい肥の交換、広域流通等の定着を図るため、耕種経営との連携体制の整
備

4 家畜衛生および畜産物の安全性の確保 

 慢性疾病等に対する病性鑑定機能の充実・強化、生産衛生管理体制等の整備等
を推進するとともに、農場段階におけるHACCP手法の開発・普及、飼料および飼
料添加物の適性な製造・使用等の徹底

5 国内有機質資源の活用等

 食品産業の副産物等国内有機性資源利用の促進を図りつつ、飼料穀物の適切な
輸入と価格安定対策および備蓄の適切な運用


おわりに

 この基本方針は、先述のとおり「酪農及び肉用牛生産振興のマスタープラン」
として公表したものであり、今後はこの基本方針に基づき、各般の取り組みを具
体化させていく必要がある。また、その取り組みを着実に実行し、基本方針の実
現を図るためには、国のみならず、地方公共団体、関連団体等の関係者が、連携
を強化して取り組んでいくことが必要である。

 このため、12年4月、農林水産省畜産局内に「21世紀に向けた畜産振興推進本
部」を設置したところであり、今後は同本部を推進主体として、具体的な取り組
み等についての検討を進めていくほか、地方公共団体や関連団体の指導・調整に
当たることとしている。つきましては、関係各位におかれては、本基本方針に対
する充分なご理解とご協力をお願いする次第である。

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