★ 農林水産省から


たい肥センターの機能強化によるたい肥の利活用の推進

畜産局畜産経営課畜産環境対策室 松本 博紀


 農業の現状をみると、畜産においては規模拡大に伴って排出される家畜排せつ
物の適切な管理と利用が重要な課題となっている一方、耕種農業においては、た
い肥の利用の減少等により農地の地力の減退が問題となっており、畜産と耕種の
連携による良質なたい肥の生産と利用の促進が重要な課題となっている。

 環境と調和した農業の推進は今後のわが国農業の重要な課題であり、平成11年
7月に成立した食料・農業・農村基本法においては、農業の自然循環機能の維持
増進を図るため、農薬および肥料の適正な使用の確保、家畜排せつ物等の有効利
用による地力の増進等を推進することとされている。また、同年7月に国会で
「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」、「持続性の高い
農業生産方式の導入の促進に関する法律」及び「肥料取締法の一部を改正する法
律」のいわゆる環境3法が成立し、これらに基づき、今後、家畜排せつ物処理施
設の整備を図るとともに、たい肥の利用と土づくりを積極的に推進することが必
要となっている。

 こうしたたい肥の利用促進を図る上で、たい肥の生産供給の中核となるたい肥
センターの果たす役割が極めて重要であることから、たい肥センターやたい肥の
利用を巡る現状等の分析に基づき、今後のたい肥センターの機能強化とたい肥利
用の拡大を図る方策等について、11年10月から12年3月にかけて菱沼毅農畜産業
振興事業団副理事長を座長に、畜産および耕種関係者からなる「たい肥センター
機能強化検討委員会」において検討された概要を、耕畜の連携強化によるたい肥
の利用促進、たい肥センター等の家畜排せつ物処理施設の機能強化を図るための
参考として、ご報告する。


たい肥の生産と利用の現状

たい肥の生産と利用状況

 たい肥には自給的に生産されているものと販売に供するために生産されている
ものがあり、販売に供されるたい肥の生産量は、5年では265万トン、9年では
301万トンとなっており、増加傾向にある。

 たい肥の利用状況全体についての統計はないが、稲作については農林水産省が
「農業経営統計調査報告(米及び麦類の生産費)」の中で調査しており、稲作に
おけるたい肥の施用量は、昭和40年の10アール当たり545キログラムが、平成9
年には同125キログラムとたい肥の施用量が減少している。

 土壌に施用した有機物は、土壌の物理的性質の改善(団粒形成を促進し、保水
性、透水性を良好な状態にする)、化学的性質の改善(保肥力を高める)、生物
学的性質の改善(土壌微生物のエネルギー源となり土壌微生物の働きを活発化す
る)等に役立つとともに、分解過程において植物の養分である窒素、りん酸を供
給するなど、地力の増進に重要な役割を果たしている。

 土壌中の有機物の含有率を、水田で見ると、昭和34〜44年当時5.09%であった
ものが、平成元〜5年には4.84%に減少しており、普通畑についても6.96%から
6.59%に減少している。これは前述のたい肥の施用量の減少が大きな原因の1つ
と考えられている。

 地力増進法に基づき国が定めている地力増進基本指針において、たい肥の標準
的な施用量として、稲わらたい肥換算で、水田では10アール当たり1〜1.5トン、
普通畑で同1.5〜3トンと定めており、これに基づき多くの都道府県において、主
な作物ごとにたい肥の標準的な施用量を施肥基準等として定めている。


たい肥センターにおけるたい肥生産等の状況

 全国のたい肥センター数(農林水産省の補助事業及び都道府県単独事業で導入
されたもの)は約2,500施設ある。11年8月に農林水産省統計情報部が行った郵送
調査(家畜排せつ物等のたい肥化施設の設置・運営状況)によると、1施設当た
りの平均生産量は年間825トンとなっている。(本調査の対象は、補助事業によ
る施設に限定されていない。)

 たい肥の利用を推進するためには、たい肥の成分分析や散布サービスの実施が
重要な課題となるが、たい肥利用の促進対策を講じている施設の割合は65%で、
その内訳は、成分分析42%、散布サービス33%、品質表示16%となっており、成
分分析の実施率は高くなりつつあるが、まだ、散布サービスや品質表示の実施率
は低く、今後、たい肥の利用を促進するためには、たい肥の成分分析、成分表示、
散布機能の一層の促進が重要な課題となっている。

 また、たい肥化施設の運営に当たっての問題点をみると、「販路の確保が困難」
37%、「たい肥の価格が安価」が29%、「施設の老朽化(修繕費が経営を圧迫)」
25%、「自家経営との労力調整が困難」22%「たい肥の品質の保持が困難」21%
となっており、これらへの対応努力が課題となっている。


たい肥の生産および利用の促進方策

 このような現状を踏まえ、たい肥センター機能強化検討委員会は、以下のよう
な、たい肥の生産及び利用を促進するための具体的な取り組みの必要性を提言し
ている。


たい肥を利用する耕種側の取り組み

 耕種側によるたい肥の利用が進まない要因としては、

@たい肥を使うメリットが十分理解されておらず、また、実際に使用するに当た
 ってのマニュアルの作成が進んでいないこと

A散布機械の整備の立ち後れとともに、散布労力が不足していること

Bたい肥を耕種サイドで保管・調整するためのストックポイントの整備が進んで
 いないこと

 等があげられる。

 このため、今後は、以下の取り組みを進めることが必要である。

@耕種側によるたい肥のストックポイントや散布機械および散布体制の整備

 耕種側においては、畜産側から供給されたたい肥に稲わら等を加え、栽培に適
したたい肥を調整したりというニーズがあることから、耕種側でのストックポイ
ントを整備するとともに、たい肥散布に要する労力を軽減するための散布機械お
よび散布体制の整備を推進することが必要である。

A土壌診断体制の整備

 たい肥の適切な使用を推進するためには、土壌診断の実施が不可欠であること
から、地域農業改良普及センター、農協等における土壌診断体制の整備が必要で
ある。

Bたい肥の施用マニュアル等の作成

 各都道府県においては、たい肥の利用を含めた施肥基準が定められているが、
さらにきめ細かい施用のためのマニュアルの作成が必要である。

Cたい肥の施用効果の実証展示、PRの推進

 たい肥の施用の必要性や効果について農家に対し分かりやすく紹介する必要が
あることから、そのための実証展示やリーフレット等によるPRを行うことが必要
である。また、既存の耕種側の組織である「環境保全型農業推進協議会」や「土
づくり運動推進協議会」による積極的なたい肥施用・土づくりの啓発活動の推進
が必要である。

Dたい肥の利用の優良事例の紹介

 たい肥を積極的に利用した産地作り等の優良事例の紹介やシンポジウムの開催
等を行う必要がある。

Eたい肥を積極的に利用した農産物の販売促進

 減化学肥料栽培農産物等のたい肥を積極的に利用した農産物の消費を拡大する
ため、既存の表示制度等を活用した販売の促進方策を検討することが必要である。


たい肥を供給する側の取り組み

 家畜排せつ物を主原料とするたい肥を供給する側の課題としては、

@生産されるたい肥の成分等の品質が安定していないこと
Aたい肥の生産技術にばらつきがあること
Bたい肥の成分分析の実施が不十分であること
C耕種農家に対するたい肥の散布活動が不十分であること
D化学肥料に比べて成分当たりのコストが高いこと

等、需要者である耕種農家のニーズに十分応えきれていない状況がある。

 また、最近、生ゴミ等のそのままでは廃棄物となるものを地域の未利用資源と
してとらえ、循環利用するためにたい肥化して土づくりに活用する取り組みがな
されるようになってきていることから、たい肥センターが家畜排せつ物と生ゴミ
等を一体的にたい肥化すること等により、地域のさまざまな有機性資源のリサイ
クルセンターとしての役割も期待されている。

 このため、以下の取り組みを通じ、たい肥センターの機能強化に努める必要が
ある。

@たい肥の成分分析と表示の実施

 肥料取締法の改正を受け、今後、窒素等の成分分析を行うとともに表示を行う
ことが義務付けられたことから、たい肥の成分分析および表示を行うことにより
たい肥の利用の促進を図る必要がある。

Aたい肥の散布作業の実施

 耕種農家におけるたい肥の散布労力の不足等に対応し、たい肥センターが散布
機械や散布体制を整備し、たい肥の散布活動を強化する。

B耕種サイドのニーズに合った品質のたい肥の生産

 たい肥利用の推進には、耕種側のニーズにあった品質のたい肥の生産が不可欠
であることから、作物の種類等に応じた成分・品質や銅・亜鉛の含有量の低いた
い肥の生産に努める必要がある。また、たい肥のブレンドやペレット化等により、
たい肥の一層の利便性の向上を図る必要がある。さらに、たい肥の生産技術の向
上、平準化を図る必要がある。

Cたい肥の生産コストの低減

 耕種農家でのたい肥の利用を促進するためには、たい肥の品質のみならず価格
も重要である。このため、たい肥の生産コストの低減方策の検討が必要であり、
たい肥化システムの違いによるたい肥の生産コストの分析等を行う必要がある。

D生ゴミ等の有機性廃棄物との一体的なたい肥化

 生ゴミ等の焼却によるダイオキシンの発生を抑制するため、地方自治体では生
ゴミのたい肥化に対する関心が高まっており、また、生ゴミのたい肥化と土づく
りを進めることは、地域の消費者と農業者との連携を深める上でも大きな効果が
期待されている。このため、たい肥センターが生ゴミと家畜排せつ物の一体的な
たい肥化に積極的に取り組む必要がある。


たい肥センターの組織化の推進

 このように、たい肥の生産および利用を推進するためには、その核となるたい
肥センターの機能の強化が重要である。しかしながら、たい肥センターの現状を
見ると、たい肥センターが個々バラバラの状態で組織化されていないこともあり、
たい肥センターの運営改善や、たい肥の品質向上方策、たい肥の利用拡大方策等
に関する相互の情報交換等が不十分であり、このことがたい肥センターの活動の
停滞やたい肥の流通利用が円滑に進まない要因の1つとなっている。

 このため、各都道府県に家畜排せつ物を主原料としたたい肥センターを組織化
した協議会を設置するとともに、これら都道府県協議会を会員とする全国たい肥
センター協議会(仮称)を設置し、センター相互の情報交換、機能強化方策や良
質たい肥生産技術、生産コスト低減対策の検討・推進、たい肥やたい肥利用農産
物のPR等のたい肥の利用の促進とたい肥センターをめぐる諸課題の解決のための
検討を行う必要がある。

 また、このようなたい肥センターの組織化によりたい肥の流通・利用を円滑に
進めている取り組みとしては、熊本県等の事例があげられ、例えば、熊本県では、
たい肥の流通システムを確立するため、「熊本県たい肥生産利用協議会」を設置
し、県内29たい肥センターの組織化を図るとともに、県全体の調整窓口として県
経済連内に「県たい肥情報管理センター」を設置し、たい肥センターとたい肥の
需要者との需給調整や良質たい肥共励会等の開催を行い、たい肥の利用の拡大に
成果をあげている。


おわりに

 このような「たい肥センター機能強化検討委員会」での検討を受け、農林水産
省では、指定助成対象事業のたい肥センター機能強化推進事業を12年度より拡充
し、全国および都道府県段階でのたい肥センター協議会の設置、広域流通の促進
のためのペレットマシン、袋詰め機等の整備にストックポイントを追加等の助成
内容の強化を図ったところである。

 現在、これにより全国および県段階においてたい肥センター協議会設置の準備
が進められており、多くのたい肥センター等の関係者の参加を得て、今後、各た
い肥センター協議会が本格的に活動を開始し、この下でたい肥の利用と全国各地
のたい肥センターの機能が一層強化促進されることが期待される。また、このた
めにたい肥センター機能強化推進事業等の畜産環境関連の各種事業を一層活用さ
れることを合わせてお願いしたい。

(参考)たい肥センター機能強化推進事業

1 事業内容

(1)たい肥センターによるたい肥分析・散布の推進

 たい肥センターによる耕種農家等へのたい肥の成分分析・散布作業に対し助成
する。

(2)たい肥センターによるたい肥の流通対策の実施

 たい肥センターにおけるペレットマシン、袋詰め機、散布機、ストックポイン
トの整備に対し助成する。

(3)たい肥センター協議会の設置等

 全国および都道府県段階に「たい肥センター協議会」を設置し、たい肥センタ
ーの機能強化のための相互間の情報交換、たい肥の流通・利用の促進のための方
策の検討を行う。また、事業の円滑な推進のため、技術指導等を実施する。

2 事業実施主体

 (財)畜産環境整備機構、全国団体、農協連、農協等

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