◎専門調査レポート


飼料作受託組織における農協の多様な関わり方 −北海道十勝管内の事例−

宮崎大学農学部  助教授 福田 晋

 

 

 




はじめに

 平成10年度現在、全国で500を超える粗飼料生産受託組織が形成されてい
る。とりわけ北海道は、大規模酪農経営における粗飼料生産ピーク時期における
労働節減、ゆとりのある経営の実現の要請等からその先進地となっており、多様
な受託組織が設立されて酪農家に貢献している。

 本稿で取り上げる事例はその中で農協が関わるものである。農協が受託組織に
関わる形態としては、鹿追町農協1)を典型とする直営型が代表的であるが、本
稿の事例はオペレーターは配置するが機械は所有せず、他の受託組織への仲介・
調整機能を果たす清水町農作業受委託協議会の受委託調整型と委託者による組織
化を図っている帯広川西農協のデーリィサポートという受委託組織である。いず
れも農協に組織の事務局を設置している。以下では、2つの組織の構成や事業内
容の評価とともに、支援組織への農協の関わり方という点に着目して報告する。


受委託調整型組織 −清水町農作業受委託協議会(農業サポートセンター)−

組織と事業内容

 清水町における当該組織の設立は、他地域と同様に「農業機械の過剰投資」の
現実を直視したことによる。7年に機械装備など農家の実態調査を行った結果、
機械余りの実態が確認できたことが組織化のスタートである。当然のことながら
農業機械販売の経済事業でマイナスの影響を受ける農協は、当初、組織構築と再
編に消極的であったという。しかしながら、役場が積極的に対応したことと、再
編に積極的な人材を組織マネージャーに当てたことが結果的に奏功し、準備期間
を経て9年に農協と町が主体となって清水町農作業受委託協議会が設立されている。

◇図1 清水町農作業受委託協議会の組織と受委託の仕組み◇
sen-g01a.gif (20595 バイト)

sen-g01b.gif (13445 バイト)

 図1に組織の概要と作業の仕組みを示す。組織の構成員として、農協、町のほ
かに道の農業改良普及センター、農業委員会、製糖工場、農家代表(酪農部会代
表、機械部会代表)から組織されており、任意団体の形態をとっている。しかし
事務所を農協に置き、マネージャーは農協職員、農協と町は事業収支の不足分に
ついては折半するという運営原則から分かるように農協が主体となっている組織
である。とりわけ農協が営農指導事業の一環として位置付けているという特徴を
見いだせる。この点は最後に再度検討しよう。

 事業原則としてオペレーターのみを常雇し(正職員は3名、臨時オペレーター
は民間業者と若手農業者)、機械はなるべく所有せず(汎用コンバイン1台のみ
を所有)、農家や営農集団から借り上げた機械を利用した形での受託事業と受託
事業の再委託=受委託調整を行っている。また、オペレーターを、再委託先であ
る営農集団や民間コントラクターにセンターから派遣しているのが当該センター
の特徴である。

表1 清水町農作業受委託協議会の作業実績
sen-t01.gif (26342 バイト)
 注:( )内は農家戸数、オペレーター派遣は日数を示す。

 表1に9年度から11年度までの受託作業内容実績(再委託を含む)を示す。基本
的にセンターのオペレーターが請け負う牧草、デントコーンなどの飼料作物の受
託面積が大きく、業務の柱になっていることが分かる。飼料作物については、従
来から機械共同利用の集団が稼働しており、現在も営農集団の形態は存在する。
センターは活動している営農集団の自走式ハーベスターを借り上げて、受託作業
を行っている。

 一方、てん菜移植、小豆・大豆収穫の畑作関係の受託は再委託を基本としてい
る。てん菜は管内の作業受託を経営の柱としている農業生産法人(5戸)に再委
託し、自らのオペレーターを派遣している。豆類は受託中心であるが、一部を営
農集団に再委託し、また、繁忙期に他の農家から雇用労働力をあっせんする業務
も行っている。

 表1の作業実績から注目すべきは、飼料作物の面積は増えているが、委託農家
数は大幅に増えていないのに対して、てん菜、小豆、耕起、たい肥散布などは委
託農家数が増加することで受託面積が増加している点である。これは、飼料作に
ついては、多くの営農集団が活動してきた経緯があり、そのような集団や個別完
結型と併存しているため大幅な利用増加はないものの、潜在的需要のあった畑作、
たい肥散布の作業委託が徐々に農家間に浸透しているためと推察される。酪農、
畑作地帯である清水町の農業を支援する組織として機能していることが理解でき
る。

 以上のような飼料作、畑作受託業務に携わる一方で、たい肥輸送、飼料作物輸
送は専門の輸送業者(4社)に委託している。


受託組織運営の課題

1 人的投資の重要性 −マネージャーとオペレーターの確保−

 受託作業は年間の作業計画を運営委員会で決め、直前に再度調整する。この受
託作業の調整、作業計画の立案は、マネージャーの重要な役割であり、このよう
な機能を果たす人材がオペレーターとは別に存在することが人的投資として極め
て重要な点である。また、上述した常雇いのオペレーターの中の2名は、従来そ
れぞれ酪農と畑作の経営者であった。サポートセンター設立に当たって、コント
ラクターの基本は「プロの優秀なオペレーターの確保である」という理念のもと
に、2人を説得してサポートセンターの専属コントラクターとして確保した経緯
がある。オペレーターは年間就業確保の困難さから臨時雇いに流れる傾向がある
が、委託農家よりも高品質、高収量の生産物を上げるための人的投資が鍵を握る
というポイントを示唆している。

2 機械技術進歩に応じた作業体系−クローラ型トラクター−

 深い雪に閉ざされる冬の作業をいかに確保するかは、北海道のコントラクター
の最大の課題であるといって良い。清水町では融雪剤散布を受託作業に取り入れ
ているが、その際に大変有効な機械がクローラ型のトラクターである。従来の大
型トラクターであると深い雪の中では駆動できないという難点があったが、クロ
ーラ型では可能であり、融雪剤の散布を普及させた。これにより10日近く早く雪
が解け、麦や牧草の播種が早く、収量が増加するというメリットを持っている。

 現在は清水町の農業法人が所有するクローラ型機械を借りて作業を行っている
が、将来的にこのタイプのトラクターが普及すると、作業体系がコントラクター
を主体にした利用体系に大きく変わる可能性を秘めている。今後はこのような技
術開発に対応した人材育成と確保および農地の集団的利用が追求されなくてはな
らない。


経営成果と展開方向

 酪農家からは作業労働の軽減(とりわけ婦人労働の軽減)のみならず乳質、乳
量ともに向上したという指摘がされている。サポートセンターの採算としては、
4年目で町と農協からの助成がなくても運営できる段階にまで達している。これ
は、「当初無駄な機械投資をせず、稼働に余裕のある機械は有効に使おうという
センターの理念を理解してくれる人のみ参加すればよく、まったくサポートセン
ターの存在を宣伝はしなかった」わりには早期に軌道に乗っていると言える。要
因の1つは10年から冬場の作業として融雪剤散布を作業受託に取り入れたことで
ある。そして、より重要な点は、収入の柱となる作業料金について極めて厳格な
作業原価試算を行っており、それに基づいた料金体系を採用していることである。
補助金収入を前提とした原価を償わない安価な作業料金を設定している受託組織
がある中で、コストを反映した的確な料金設定は見習うべき点である2)。

 サポートセンターは、将来的に自らが作業受託を行うよりも作業受委託の仲介
・調整機能を果たすことに重点を置き、農家と作業受託組織が支える地域農業の
マネージメント機能を持つ組織への発展構想を描いている。このことは、現在の
作業受委託仲介・調整機能を果たす一方で、受託作業を行うサービス事業体の育
成機能も担っていることになる。したがって、現在のマネージャー機能はより強
化されるが、オペレーター部門はリスク対応としてのみ存続させる方向である。
このような方式の先駆的モデルの1つは中札内農協であり、現状はその途上で人
材確保、専門組織構築を図っていると言える。


利用者による受委託組織 −帯広川西農協デーリィサポート−

組織と事業内容

 JA帯広川西管内は農家数500戸、酪農家数80戸であり、農家戸数からすると畑
作農家が多い地帯である。デーリィサポートは6年12月に農協が事務局となって
設立された酪農家40戸(12年現在)からなる作業受委託組織である。組織発足前
は飼料作は個別完結型、営農集団による共同作業に加えて、運輸会社を母体とす
るコントラクターへの委託もあった。しかし、その民間コントラクターが撤退し、
利用していた酪農家25戸が受託業務を引き継いだことが組織化の原点である。

 7年度に運輸会社から一部機械を購入し、9年度までは機械1セットで対応して
いたが、10年度には構造改善事業で新たな機械を購入して2セット体制をとって
いる。ただし、現在でも会員が所属する営農集団等から機械の借り入れは行って
おり、固定資本を増やさずに効率的運営を図っている。

 組織を図2に示しているが、40名の会員を地区ごとに4つのグループに分け、専
任マネージャーのもとに地区マネージャーを置いている。地区マネージャーは組
織役員も兼務し、専任マネージャーとともに委託農家との連携を保ち、作業手順、
機械配置、オペレーターの配置などについて打ち合わせ等を行う。

 オペレーターは、作業機械ごとに配置しており、自走式ハーベスター、タイヤ
ショベル、ダンプトラックの作業ごとに専任2名とサブ1名、トラクター(モアー
コンディショナー)に専任1名の計10名配置している。いずれも時間給(1時間当
たり2,500円、ダンプは庸車で同6,000円)と出動旅費(1日当たり2,000円)の賃
金形態をとっている。専任オペレーターは人材派遣会社を通して期間契約する者
や、直接デーリィサポートと契約する者、酪農後継者、会員など多様な構成とな
っているが、固定的費用源となる年雇いオペレーターはいない。

 利用の申し込みは「受委託作業利用申込書」を提出し、直前に「受委託作業契
約書」を交わして徹底する。オペレーターは作業が終了すると、作業面積、時間
などを日報に記録し、マネージャーの確認を経て事務局である農協畜産部に提出
する仕組みとなっている。

◇図2 デーリィサポートの組織◇
sen-g02.gif (25930 バイト)


事業実績と経営収支の改善方策

 10年度と11年度の事業実績を表2に示している。牧草の作業面積がとりわけ拡
大したこともあり10年度の895ヘクタールから11年度1,100ヘクタールまでに受託
面積が増加している。また、たい肥散布や耕起作業等に加えて、畑作主力品目で
ある長芋掘り、デントコーンのマルチ栽培のマルチ張り作業にも新たに取り組ん
でいる。作業料金はさまざまな作業要求に応え、作業効率を上げる視点から時間
料金制をとっている。また、会員外(主に畑作農家)の作業受託も受けており、
会員外は20%割り増しの料金体系となっている。

 これら受託作業から入る収入に、国(指定助成対象事業)からの補助金、組合
員の負担金5万円(1戸当たり、年度により変動)、農協の助成金を加えて収入と
している。運営に係る負担金の徴収が利用組合的な組織となっている特徴であり、
農協が関わっても利用料金のみで運営する純粋の受託組織と対照的である。11年
度ではこの収入によって作業原価、借入金償還金、償却積み立て等の支出を賄っ
て40万円程度の単年度黒字となっている。

 以上のように11年度までは堅調な運営を行っていたが、12年度から国(指定助
成対象事業)の作業受託補助金が切れることによって厳しい財政が見通されるこ
とから2つの改革に取り組んでいる。1つは運営負担金を20万円に引き上げること
であり、2つ目は作業料金を20%引き上げることである。料金引き上げ自体が組
織運営の厳しい現実を物語っているが、作業料金のみでなく、基本料金的な運営
負担金をも引き上げたことは、会員自ら運営する組織という意識を反映している。
10年度に作業料金のみ一律20%上げた経緯があるが、このような変動料金のみの
引き上げは利用量の多い大規模農家に影響が大きい。したがって、組織運営があ
ってはじめて作業委託ができるという観点から、組織に属する会員の運営負担金
も上げようという合意に達した経緯がある。このように基本料金と変動料金を一
度に引き上げることは組織にとって苦渋の選択であったかもしれないが、会員が
組織運営の重要性を認識した上での合意形成が行われたと見るべきであり、それ
だけデーリィサポートの存在が会員農家にとって欠かせないものとなっていると
言えよう。

表2 デーリィサポートの作業実績
《収穫調製作業》
sen-t02a.gif (60774 バイト)
《その他の作業》
sen-t02b.gif (22976 バイト)
 注:収穫調製期間は 6 月14日〜10月11日


課題と展開方向

 12年度現在会員は40戸であり、11年度の35戸から増加している。これは単に5
戸増加したわけではなく、4戸が酪農をリタイアして離脱し、9戸が新たに加入し
たものである。これらの新規加入には飼料作の機械共同利用組合が解散して新た
に加わったものも8戸おり、共同組織から当該組織のような会員制の受託組織へ
の流れが1つの方向として顕在化している。これは組織存続にとっての大きな流
れと言える。

 しかし、一方で酪農家のリタイアがあることも事実であり、農協の130億円の
販売額のうち畜産関係が35億円と全体の約4分の1という現状を考えると、畑作部
門の受託業務への進出が今後の第1の課題といって良い。畑作部門との関わりで
はたい肥散布需要が潜在的に大きいことが把握されている。環境3法施行を契機
にたい肥舎やたい肥センターの設立が増えてくるが、そこに当該組織が入ってた
い肥製造、散布に関わるという構想である。また、畑作地帯の特徴を生かすとい
う意味からは麦作農家の麦かんロール作業委託の需要を開拓すること、上述した
長芋作業に関わることでデーリィサポートから地域農業を支えるファームサポー
トへの転換を図ることも可能であろう。

 第2に、オペレーターの確保も、将来にわたって考慮すべき重要な事項である。
現在直接組織と契約している2名のオペレーターについては、専従の年雇い型オ
ペレーターとして雇用したい意向がある。もちろん、優秀なオペレーターの確保
という観点からの対策であるが、冬場の仕事確保が大前提となることはいうまで
もない。また、後継者層が貴重なオペレーターとして機能しているが、将来経営
者として自立することを考慮すると、5年サイクル程度で酪農後継者を育成確保
する手段を検討する必要もあろう。後継者層のオペレーター確保とも関連して、
新規就農予定者や地域外の後継者が従事している酪農ヘルパーを、オペレーター
に取り込むことができるか否かの検討も必要となろう。

 第3に、組織自体の展開方向として目下の最大の課題は、法人化への取り組み
である。12年度に法人化へ向けた発起人会が組織され、具体化へ向けた話し合い
が行われている。現在の会員が構成員となり受託業務を行う新たなサービス事業
体が組織されることになる。すでに組織運営を強く意識した料金体制や作業受託
のあり方などに取り組まれており、すでにその礎はできているとみてよい。


支援組織としての農協の関わり方

 2つの事例に共通することは、農協が直接コントラクターに関わっているわけ
ではないが、それは決して当該業務に消極的なのではなく、むしろ積極的に営農
指導事業に取り入れている姿勢である。その原点は、農家の機械過剰投資を避け、
労働力負担を軽減してゆとりのある経営をもたらそうという点にある。十勝管内
にある直営方式の鹿追農協とは対照的であるが、農協がとるべき1つの方向を明
らかに示している。

 十勝管内では3、4年に機械メーカー等がコントラクター業務に参入したが、赤
字で撤退した経緯がある。これはオペレーターが機械を駆使した土木技術に頼っ
て作物を前提とした農業技術に対応できていなかったことがポイントであり、農
家にとっても信頼関係が形成できなかったという声を聞いたが、この点で飼料作
のための土壌分析、酪農部門という生産部門との連携、農家の意向をいかに把握
するかというソフト的機能の重要性、つまり本来の営農指導が問われているとも
言えよう。

 営農指導に調整仲介機能を前面に出す組織が有効であるためには、再三指摘し
たようにマネージャーの機能が重要となる。清水町サポートセンターでは農協職
員、デーリィサポートでは農家とその人材源は異なるが、機械維持管理のオペレ
ーターへの指示、労務管理、作業日程調整等の日常的なものから機械装備への先
見性、冬場の仕事選択、コントラクター部門の営農すべてに関わる幅広い知識な
ど地域農業のマネージメントをこなす能力が要求される。むしろ、このようなマ
ネージャーを養成する仕組みを作ることが最も重要なのかもしれない。つまり、
従来農協と農家の間で重視されることのなかった地域農業マネージメント機能が、
コントラクターの形成とその仲介組織を担うことによって改めてクローズアップ
されてきたと言えよう。

 最後に、営農指導の一環として受委託業務が行われていることの評価について、
次の点を指摘しておきたい。それは、利用農家が単に委託するだけでなく、高品
質の作物をコストを下げて生産するためには、どのような仕組みでコントラクタ
ーを利用すべきか、という点を農家に意識させようと取り組んでいることである。
これは、タイプを問わず十勝管内の農協主導型のコントラクターに共通している
特徴である。

 最後になるが、聞き取り調査にご協力いただいた十勝清水町農協の鯛治氏、帯
広川西農協の谷本氏、十勝農協連の太田氏、鹿追農協の井関氏に紙面を借りてお
礼申し上げたい。

1)鹿追町農協のコントラクター事業については、志賀永一「農協によるコント
 ラクター事業の取り組みと課題−北海道・JA鹿追町の事例」(畜産の情報・
 国内編2000.4)を参照されたい。

2)例えば、都府県でのとうもろこしハーベスタ収穫は、10アール当たりほぼ1
 万円が平均的であるが、減価償却費など計上せず50%安い料金設定で行ってい
 る事例もある。

元のページに戻る