◎地域便り


ふるさと牧場と仲間たち

山口県/清水 誠


 「もう、この名前で看板を出したんですよ」とちょっぴり後悔しているのが、
昨年もこのコーナーで紹介した、山口県防府市の山本さん(51歳)。現在黒毛和
種の繁殖用雌牛10頭、育成牛3頭、子牛6頭を飼育している自称林業家で、植林さ
れた山林10ヘクタールと水稲110アールの複合経営である。山本さんの自宅は、
防府市の北部にある久兼地区という山間の一番奥にあり、自宅から見渡せる山は
全て自分の所有地という環境にある。実際に山を歩いてみると、よくこれだけの
苗木を植えたものだと感心する。そもそも、歩いている道から自分でユンボを使
って、切り開いたそうで、その根気には頭が下がる思いである。 

 そんなタフな山本さんだが、さすがに、夏の下草刈りだけは一人ではできず、
雇用に頼っていたが、牛の林間放牧を試み、現在にいたっている。いわゆる廃用
の繁殖めす牛を数万円で購入し、山へ放すやり方であるが、それでも、かなりの
確率で受胎し、年間6頭程度の子牛を出荷できる。それ以上に、牛の下草刈り効
果は抜群で、今回訪れた8月でも林内や歩道はすっきりしており、ヤブ蚊なども
ほとんどおらず、快適な森林浴が体験できる。ここでは、4月上旬にコブシの花
が咲き乱れ、2月から6月にかけて、ヤブツバキが方々で赤い花を咲かせる。昨年
からは、山の頂上にある2.5ヘクタールの雑木を切り開き、シバ草地の造成を開
始した。その時に、(社)日本草地畜産協会から低投入型肉用牛展示牧場として
指定され、写真にあるような看板が県道沿いを含め3カ所に設置され、誰でも山
本さんの山を体験できるようになった。 

 8月19日、山本さんと交流のある有志が集まり、「辛夷の里牧場交遊会」が発
足した。この日集まったのは、山本さんの山でいろんな研究を試みる大学教授、
山への牛の放牧を広めたい県職員、自分の山で放牧をやりたい農業高校の先生、
都会の子供達に自然を体験させたい少年自然の家職員、山本さんと気の合う地元
の農家。山への牛の放牧に興味のある団体職員など。山本さんがいなければ接す
ることの無かったかもしれないNGO集団である。この日は、「牛を開放するこ
とが、人を解放する」を理念に、@山本さんのような経営を広める手助けをする
A辛夷の季節などに多くの人と交流をするB学問研究の場として、活用するC林
業、放牧、米作りなどを体験する−といった目標が夜遅くまで語られ、最後に決
まったのが「辛夷の里牧場交遊会」という名称で、既に「ふるさと牧場」で看板
を出した山本さんはちょっぴり残念そうであった。
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【次に出す看板は「辛夷の
里牧場」にしたいな】

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