★ 事業団から


地球にやさしい循環型農業を目指して 

―畜産経営環境向上国際シンポジウムから―

企画情報部 情報第一課


 平成13年11月8・9日の両日、宮崎県宮崎市において「地球にやさしい循環型
農業を目指して〜宮崎で学ぶデンマークの知恵〜」と題して、畜産経営環境向上
国際シンポジウムが開催された(社団法人国際農業者交流協会・宮崎県国際農友
会主催による)。

 わが国畜産は、国際化の進展の中で、その競争力を高めることはもとより、家
畜排せつ物の管理やその利用の促進等が大きな課題となっており、今後ともより
一層、環境問題に配慮した効率的な畜産経営の展開が求められている。

 このシンポジウムは創意工夫等により過大な設備投資を抑えて家畜排せつ物の
処理・利用を適切に行っている環境対策先進国のデンマークから畜産経営者等を
招き、わが国の関係者とともに今後のさらなる取り組みを研究討議するとともに、
相互理解と友好親善の増進のため開催された。

 当日は、約250名の畜産関係者が出席し、デンマーク・ダールム農業大学校植
物栽培学講師ニルス・エリック・シュミット・エスパーセン氏による「畜産農家
におけるふん尿の効果的な利用」、また養豚農家でありバイオガスプラント設置
農業者協会会長であるケント・スコーニング氏による「デンマーク養豚農家の視
点から見たヨーロッパの環境規則」の基調講演などが行われた。極めて、示唆に
とんだ内容であったので、ここに主催者のご了解を得て、紹介することとする。
 
注:社団法人国際農業者交流協会
  昭和63年、社団法人国際農友会(昭和27年設立)と社団法人農業研修生
  派米協会(昭和41年発足)が統合して設立された。主な業務として@農業
  青年の海外派遣、A開発途上国等海外諸国の農業研修生等の受け入れ等を行
  っている。


畜産農家におけるふん尿の効果的な利用

ニルス・エリック・シュミット・エスパーセン氏 基調講演
 【エスパーセン氏】
農業と自然:焼畑農業から企業的農業へ

 農業は単純な焼畑方式以来、人口の大小にかかわらずその周りの自然に影響を
与えてきた。

 工業、都市、農業に関わるあらゆる活動は、自然界に何らかの影響をもたらし
ている。農場は徐々に拡大し、地球上に広がり、農業は自然の一部になった。専
門化した集約的な畜産業によって、例えば、栄養分の全体的な循環が増えたため、
環境への流失が増加した。

 同時に、これらの流失物が人類に悪影響を及ぼしていることについて、科学的
な知識を持つようになった。飲料水の水源である河川や海の汚染を招いたことな
どにより、集約的農業手法がもたらす悪影響に関心を深めた。将来は農業も、工
業と同じように関係者の環境に対する責任が大きくなることは間違いない。


農業に関する現在の問題点

■ニオイ(臭気):

 畜舎の排気からのニオイ
 ふん尿貯蔵所(たいきゅう肥、スラリー)からのニオイ
 たいきゅう肥、スラリーの畑への散布からのニオイ

■騒音:

 畜舎、牧場からの騒音、動物や機械によるもの
 (豚、鶏、排気音など)

 ほ場での農作業によるもの
 (トラクター、その他の農業機械)

■農薬の使用:

 風の方向による直接の影響やニオイの問題。

 流失し、人間の食物や動物のえさに残留し、生物圏に長期にわたり悪影響を及
ぼす。

■養分流出:

 窒素がアンモニアの蒸発により流失。

 ― 畜舎から(動物およびたいきゅう肥、スラリーから)
 ― 貯蔵施設から(たいきゅう肥、スラリー)
 ― 散布作業から(気象条件、散布方法)

 窒素は根周りから排水施設を経て河川、海へと流出する。

 リン酸は無制限に蓄積を促し、土壌、水源環境の自然な養分含有量のバランス
を崩す。大量の場合は直接流出する。(主に養豚、養鶏農家にとっての問題)

  カリウムは過剰の場合は流出する。(おもに酪農家にとっての問題)等の問題
がある。


デンマーク農業における歴史的推移

 1870年に、ある科学者がデンマークの農家に対して、家畜のたいきゅう肥は重
要な肥料であるが、正しく取り扱い、貯蔵しなければ河川に問題を起こす、と警
告を発した。しばらくして、化学肥料の使用が一般的で安価な方法になり、科学
者の警告は忘れられた。

 100年以上経過した後、河川や海の汚染が広がり、エネルギー価格上昇につれ
て肥料の価格も上昇し、エネルギー供給とともに畑の肥料としてたいきゅう肥、
スラリーの取り扱いおよび処理に対する関心が高まった。

 以下、過去30年間の家畜ふん尿に関する規制等の取り組みは次のとおり。

1974年:非政府組織(NGO)や科学的事実に影響を受けた政治家は、水の汚染を
    広げないためには工業、農業に対して規制を設ける必要があると認識し
    た。

    その結果「環境改善法」が施行され、汚染を引き起こすことは違法にな
    った。

1980年代初め:窒素、リン酸、農業有機廃棄物についての公開討論が行われた。
    (NPOレポート)

1986年:環境法の施行。(汚染を引き起こした者は汚染、さらにそれによる被害
    に対する弁償をしなければならない)

1987年:水源環境計画Iが施行された。農家に対する規制は次のとおり。
  ― おもにスラリー用の十分な貯蔵設備(9ヵ月間分を備える。)
  ― たいきゅう肥、スラリーの散布は草の成長期または土壌の温度が5℃以
    下の場合に限定する。
  ― 毎年10月20日までに畑の65%を緑にする。(冬作物、刻んだわら、また
    は春作物に草を下植えする)
  ― ヘクタール当たりの家畜数を制限する。
  ― わらの焼却は禁止する。
  ― 1997年までに農薬使用を50%削減することを目指す。
  ― 1997年までに窒素成分流失を50%削減することを目指す。

1990年:すべての農家が次のことが行えるよう「植物保護証明」取得を義務付け
    る。
  ― 60〜75種類の最も一般的な雑草、害虫、病気を識別する。
  ― 農薬の選択、容量、散布の時期と方法など農薬の最適な使用による統合
    植物保護を目指す。
  ― 農薬の取り扱いに際し、人間、作物、環境を最善に保護する。
  ― 散布器具、スプレーヤーや付属品を間違いの無いよう取り扱う。

1991年:次のような規制の強化。
  ― 輪作計画の作成。
  ― 窒素の推奨供給率に関連した窒素肥料使用枠を導入。
  ― すべての農家に施肥計画、肥料記録を義務づけ、肥料を過剰投与した作
    物に罰金を課す。
  ― 施肥計画に関しては、たいきゅう肥、スラリーの窒素効率を制限し、土
    壌注入器具などの使用による最適な投与法を使うように仕向ける。
  ― たいきゅう肥投与期間にさらなる制限を加える。

1998年:デンマーク近海の水質検査により、窒素の含有率がまだ高すぎることが
    分かったので、水資源環境計画IIを施行。
  ― 窒素の流失を食い止めるため、低地の永久草地の範囲を広げる。(肥料
    の使用は禁止)
  ― 植林。(混合種による2ヘクタール以上の植林に対する助成金)
  ― 従来の農場から有機農場への転向。
  ― 流出しやすい土地の範囲を拡大する。(農薬、肥料の使用停止あるいは
    削減のため農家に補助金)
  ― 間作の面積を増やすことを義務づける。(草の下植え、あるいは主作物
    収穫直後に油脂作物を植え付ける)
  ― すべての作物に対し窒素投与率の10%削減。
  ― ヘクタール当たりの家畜数を更に減らす。
  ― 農家の窒素使用率を最小限にする。
  ― 給じ基準や方法を最適なものにし、科学的に、また現実的にリン酸代謝
    の削減を推奨する。
  ― これらの規則が守られるように公式な農場検査官による検査回数を増加
    する。

2000年:これらの規制が環境に与える影響について引き続き評価する。

 過去30年の経緯の中で、農業関連代表者たちは現在まで引き続き、この仕事の
枠組づくりに関与している。

 前述の法律の作成にかかわったさまざまな政府の機関の中には、農家だけでな
く、農家が利用する公正な指導機関からも代表が出ている。これは科学と現実的
な農業を結びつけるために必要なことであるが、特に農家にとって法律を受け入
れ易くするためのものである。(図1)

◇図1:デンマーク農業の構成◇


家畜廃棄物に関する現行の法規制

 環境保護と農業手法に関する規制は次の3つの要素に絞られる。

1.ヘクタール当たりの家畜数に関する規制。

 肉牛牧場(LUの3分の2は肉牛から発生):
  ヘクタール当たり最高1.7LU(面積の70%以上が粗飼料の場合は最高2.3LU)

 養豚場(LUの3分の2は豚から発生):
  ヘクタール当たり1.4LU

 複合型農場:ヘクタール当たり1.4LU
  *1LUとは1家畜単位で、100キログラムの総窒素成分生産量。(約母牛1頭
  または母豚3頭)

2.家畜のたいきゅう肥、スラリーその他の廃棄物の貯蔵設備、投与方法に関す
 る規制。

 A)最低6カ月の貯蔵設備

 B)豚スラリーの最低窒素活用:
    60%(2年目は10%)
   牛スラリーの最低窒素活用:
    55%(2年目は10%)
   使用済み敷わらの最低窒素活用:
    25%(2年目は15%)
   その他の排泄物の最低窒素活用:
    50%(2年目は10%)

 ・スラリーは散布後12時間以内に土にすき込まれなければならない。
 ・収穫から10月1日までは牧草と冬の菜種にのみ使用可能。
 ・2月1日以後は使用可能。
 ・ふんは収穫から10月20日まで、冬の作物(小麦)以前にのみ使用可能。
 ・ふんは10月20日以後であれば使用可能。

3.施肥、緑肥作物、間作作物、休耕地に関する規制。

 ・輪作計画。
 ・施肥計画。
 ・緑肥作物(65%)
 ・間作作物(6%)


将来の対策

 デンマークでは毎年12万トンの窒素をアンモニアとして放出している。

 8%は農業以外の活動から、3%は作物から、4%は放牧した家畜から、7%
はミネラル肥料から、26%は畜舎およびたい肥・たいきゅう肥・スラリーの取
り扱いから、52%は畑に投与されたたいきゅう肥・スラリーから。

 ある程度の窒素は前述の規制で削減することができるが、さらに次のような方
策がとられようとしている。

 −農家に対し、たいきゅう肥、スラリーの適切な管理と取り扱いにより、畜舎
  からアンモニアの流出を防ぐ指導を行う。
 −スラリータンクに所定のふたをする。
 −スラリーを所定の場所に散布、または注入する。広範囲の散布は禁止する。
 −飼料用わらへのアンモニア処理を禁止する。

 これらの方策により、12万トンのアンモニアを約9万トンに削減できると期
待されている。


農家と法律

 農業は、環境汚染、家畜の飼養頭数に関してますます批判されるようになって
きた。自国の3倍の人口に食糧を供給しているデンマーク農業は、農村地帯の養
分循環の主役である。これらの事実から農業団体は、生産方法と家畜群の規模に
ついて理解と容認を得ようとしてきた。

 それには、社会が定めた規則に従うことが不可欠である。現在ではデンマーク
の農家は、作物や家畜の世話をするという一番の関心事から、時間をとられる経
営に関する仕事が増えているが、農業以外の社会からの信用を維持するには規則
が必要だと感じている。その結果として、環境だけでなく農家にとっても利益を
もたらす多くの法律がある。


経験者グループ

 農業者たちは「経験者グループ」を作り、数軒の農家が定期的に集まり同業者
と個人的な経験を話し合い、指導サービスを呼んで畑や畜舎に来てもらい、農家
が共有する問題を話し合ったり、解決したりしている。コーチング(指導)は安
くて効果的である。このような農家ネットワークは、若く、偏見がなく、知識欲
にあふれた農業者たちが経費の削減、利益の増加、時代に即して自然や環境に良
い影響を与えるため大学等の(情報)資源を利用し、発展してきた。


農業の規約

 デンマークの農業者組合はすべての農家が同意できる農業に関る規約を発表し
た。

 われわれ農家は:

■生産方法について消費者等と建設的な対話ができるよう、自分の生産に関して
 の情報を開示する。

■環境的、道徳的要求に合った高品質の生産品を作ることを保証する。

■環境と健康を考慮して肥料、農薬、薬品を使う。

■科学的にテストされた副作用の無い農薬、薬品だけを使う。

■農薬の使用を最低限に抑えるため、最適な植物育種、輪作、自然の抵抗力など
 を統合して生産を行う。

■土壌の肥よく性と収益を考慮し、農場にある養分を最大利用する。

■動物愛護に力を入れるが、人畜共通伝染病などには適切に対応する。

■生産の過程において、地表水、地下水の重要性を考慮する。

■農村の生物多様性を積極的に維持する。


排せつ物処理

 たいきゅう肥およびスラリーの処理には次の方法がある。

■たい肥作り(好気性)

■脱水・乾燥、スラリーの分離

■動物排せつ物およびその他の有機廃棄物の密封(嫌気性)分解によるメタンガ
 ス生産


たい肥

 有機物質をたい肥作りのために分解するには通気が必要だが、熱を発生し多く
の窒素が放出される。(表1)

表1 家畜排せつ物からの養分消失


 有機物でたい肥を作る際には、窒素の放出を防ぐためたい肥の山をプラスチッ
クのような通気性のないカバーで覆う必要がある。有機農家の中にはこの方法で、
たいきゅう肥やわらの分解を速め作物の肥料にする。たい肥は分解を速めるため
6〜10カ月の間に数回機械で反転する。たい肥の山に熱交換器を入れ、熱を利用
しようという試みがなされているが、まだ商業ベースには乗っていない。


脱水乾燥

 集約的な乳牛、養豚分野でのスラリーの脱水は、固形物の少ないスラリーは輸
送量を減らせるばかりでなく、他のミネラル肥料と同じように投与できる濃縮液
体肥料の生産への道が開けるという興味深い可能性がでてきた。

 固形物と液体を分離する技術は最近急速に進歩してきた。もうすぐ、分離しな
いままのスラリー輸送にかかる経費と競合できるようになる。この分離から出来
た乾燥物質は肥料として、あるいは暖房の燃料として使用できる。


メタン・バイオガス生産

 前にも述べたように、1970年代初頭のオイル危機以来、石油に替わるエネルギ
ー源の開発が進んだ。その中でもバイオガス生産が過去25年関心を引いてきた。
簡単な裏庭での実験や農家の小規模施設から始まり、組合形式の設備まで開発さ
れた。現在、何戸かの生産者はデンマークと欧州の市場をカバーしている。


バイオガスの処理過程

 バイオガスの生産は簡単である。もしあなたが豚か牛の胃の中と同じような状
態が作れたら、バイオガス・プラントが作れたことになる。増殖装置は38℃(中
温度繁殖菌)または55℃(好熱性菌)で処理するように設定する。後者は「分解」
が速くなるので時間が短縮できる。

 バイオガス・プラントに求められるのは、農業者であれ技術者であれ、操業す
るのが簡単で収入が安定しているということである。

 公設や協同組合のプラントでは管理的な仕事はなるべく簡単にし、石炭、わら、
おがくず、天然ガスなどを使った他のエネルギー生産工場と競合できるようにし
なければならない。このような要求を満たすことができれば、多くの利点がある。

エネルギー

 原則的に、1頭の牛から1日に1リットルの石油に匹敵するエネルギーを生産
できる。豚2〜3頭でも同量を生産できる。もし、牛と豚のたいきゅう肥を混ぜ
ると、あるいは他の有機廃棄物をたいきゅう肥に混ぜると、生産は相乗効果によ
り増加する。ほとんどのプラントではバイオガスを燃料として熱と電気が生産さ
れ農場で使用されるが、余剰分は売却される。ある国ではバイオガスは車やバス
の燃料として使用されている。最も単純な炭化水素なので、ガスを液化するのに
高圧化が必要である。

肥料

 たいきゅう肥の肥料価格は炭化水素と炭酸ガスが有機物質から取り除かれてい
るので、栄養分が高くなっている。養分、特に窒素は分解のため炭化水素に変わ
り、植物が取り込みやすくなっている。同様に、分解されたたいきゅう肥は、50
%の硝酸と50%の炭化水素を含む最も一般的なミネラル肥料と同じような即効性
がある。

 協同組合のプラントでは、異なる生産者からの牛、豚、鶏などのたいきゅう肥
が混ざっている場合は、分解済みのたいきゅう肥の成分が植物の一般的な需要に
合うように加工されるので、多くの作物の万能肥料として使われる。

 密閉されたタンクの中での無酸素処理は、アンモニアを気体として放出しない
ので肥料価値が高くなる。

ニオイ

 畑にまいた分解済みのたいきゅう肥やスラリーのニオイは、無酸素処理のため
非常に少なくなっている。

寄生虫

 寄生虫やその卵はバイオガスの工程で死滅するので、衛生的な肥料を畑に投与
することになり、薬品の削減にもなる。

雑草

 さまざまな植物の種子はバイオガス工程で、あるものは2〜3日で発芽能力を
失う。畑には雑草が少なくなり、除草剤の使用が減る。


バイオガスの経費

 農場の現在の設備にもよるが、機械化、発電設備、バイオガス設備への投資が
見合うには、農場の規模が要素になる。計算によると母牛100頭、または母豚
300頭というのが投資に対する利益を生む最小の規模である。

 多くの国ではこのような規模の農場はあまりない。そのかわり、5〜25戸の農
家が共同でプラントを設立している。デンマークでは法律により、小規模農家は
貯蔵設備を大きくし、資金をため上述のような利点があるバイオガス組合に加入
するよう政府から指導される。これらの組合プラントは他産業の有機廃棄物を処
理することにより生産を速め、所有者に利益をもたらす。

 もし、農家が市町村と協力してバイオガス・プラントを建設し、農業や他の産
業、家庭から出る生ごみなどの有機廃棄物を利用できれば、将来の道がまた広が
ることになる。このような原理に基づいた中央プラントがあれば、利益が上がる
だけではなく、環境保護の上からは最善の解決策であり、農家と非農家の間の建
設的な相互理解にも役立つ。


デンマークのバイオガス

 1970年代に先進的な農家やその仲間たちによって多くの小規模バイオガス・プ
ラントが建設された。その後、大型畜産牧場や組合経営の大規模なプラントが建
設された。現在、7万立方メートルの生産能力を持つ組合のバイオガス・プラン
トが約20あり、6,000万立方メートルのバイオガスとほぼ10万MWhの電力を供給
している。その他約25の農場にあるプラントでは約500万立方メートルのバイオ
ガスと15,000MWhの電力を生産している。


デンマーク養豚農家のバイオガス・プラント

ケント・スコーニング氏基調講演からの概要 
 【スコーニング氏】
 養豚農家である氏は母豚1,000頭を飼養し、年間25,000頭を出荷している。現
在はバイオガス・プラント設置農業者協会会長をつとめている。

 ふん尿を発酵させて発生するメタンガスや発酵熱をエネルギー化するバイオガ
ス生産で電力や良質な肥料を生産している協会の事例を紹介する。

 畜産と環境問題は、畜産のみならずあらゆる他の産業にも関係する大変重要な
問題をかかえている。単に農業の問題にとどめていてはいけないと主張した。人
口が増え続ける地球において、食料の供給量は今後一層大きな課題となるが、食
料生産に伴い発生する環境問題は世界的にさけて通れない問題である。日本もこ
の点に注目し、環境問題に積極的に取り組んでもらいたい。そのためには是非バ
イオガス生産技術の向上に注力してもらいたいとのことであった。

 同氏の農場の経営概況等は図2のとおりである。

◇図2◇



おわりに

 コーディネーターである九州大学大学院農学研究院福田晋助教授はデンマーク
と異なるわが国のエネルギー政策は原子力、火力、水力にたよっているわけだが、
自然にやさしいエネルギーとしてバイオガス、風力、地熱、太陽発電等の再構築
が必要なのではないか、と結んだ。

 家畜ふん尿や生ごみを材料としたバイオガスを発電や燃料に活用する取り組み
が注目されつつある。物質循環のサイクルの中で主にバクテリアによって分解さ
れる過程で嫌気性微生物で処理され生成されるのがメタンであり、人工的な施設
でメタン発酵により発生させるガスをバイオガスという。バイオガスはボイラー
燃料やエンジン、燃料電池の原料として再生利用することができ、循環型社会の
エネルギー源として期待されている。また、廃棄物を嫌気性処理したあとの液を
肥料として農地に還元することができ、有機肥料としての利用が注目されている。
バイオガス利用の先進国であるデンマーク・ドイツ等では家畜ふん尿を材料とし
てバイオガスプラントが多く稼動しており、実績を挙げている。石油代替の重要
なエネルギーと位置付け政府は技術開発を積極的に進めているが、わが国ではバ
イオガスプラントを導入しようとする気運はあるものの技術面、採算性の面から
本格的な稼動にはいくつかの問題がある。最近、北海道の酪農家を中心にスチー
ルサイロを再利用したバイオガスプラントが稼動するなど新しい試みも出てきて
いる。21世紀の循環型社会を考える上でこうした技術開発はこれからの課題とい
えるかもしれない。

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