◎専門調査レポート


水田転作による稲発酵粗飼料の取り組み
−宮崎県国富町、新富町の事例−

九州大学大学院 農学研究院 助教授 福田 晋





はじめに

 つい先ごろ、新しい米政策のあり方について中間報告を提案した米の生産調整
研究会では、米づくりのあるべき姿として、「消費者ニーズを起点とし、家庭食
用、業務用、加工用、新規需要用、稲発酵粗飼料用等のさまざまな需要に応じ、
需要ごとの価格条件を満たしながら、安定的供給が行われ得るような消費者重視
・市場重視の姿を目指すべきである」と指摘している。

 水田を利用した粗飼料生産の切り札ともいえる稲発酵粗飼料は、需要用途は異
なるものの、ニーズに応じた米づくりの1つと明記されているのである。

 一方で、「麦、大豆について作付面積は増加している一方、需給のミスマッチ
の増大が見られ、その背景として「転作作物」の意識を持つ農業者が多いことが
挙げられる」と指摘している。水田稲作に代わる有利な作物がない状況では、多
くの農家が転作奨励金を確保することを主要な目的とし、作付けした作物に「転
作作物」の意識を持つことはある意味で当然である。その点で、畜産農家が飼料
作物を水田に作付けするのは、それなりのインセンティブを持っているといえよ
う。

 稲発酵粗飼料は、稲を作付けする点で農家の抵抗感は少なく、湿田の作物とし
ても有利性を持っている。多くの水田農家がとも補償と経営確立対策による10ア
ール当たり7万3,000円の魅力のもとに、稲発酵粗飼料作付けに取り組む誘因は持
つものの、今度は需要者への流通という新たな問題が生じる。

 ただ、川下の食品産業と異なり、畜産農家の飼料となる稲発酵粗飼料は、農村
内部のニーズの把握であり、品質のミスマッチなどは比較的容易に解消されるは
ずである。

 以下、現在どのようなシステムのもとで稲発酵粗飼料が生産利用されているか
検討し、その条件整備について考察してみる。

 直接の考察の対象にするのは、宮崎県国富町と新富町である。いずれも宮崎県
の中央部に位置する主要農業地帯であり、水田と台地に広がる畑作地帯を有して
いる。

 国富町は、日本一の生産を誇る葉タバコの粗生産額22.4億円をトップにきゅう
り(18.4億円)、ピーマン(5.8億円)などの施設園芸作物、米(12.1億円)、
肉用牛(9.9億円)であり、新富町においても鶏卵(33.8億円)、肉用牛(17.8億
円)、ピーマン(9億円)、鉢物花き類(8.9億円)、米(8.1億円)、葉タバコ(
8億円)など多様な複合農業が展開されている。

 いずれも米のシェアが小さく、葉タバコ生産が盛んで土壌クリーニング措置が
必要である。

 また、新富町では干拓地の湿田における転作作物導入が困難であったなどの背
景がある。


宮崎県における生産調整および粗飼料生産の特徴と飼料稲の取り組み

 宮崎県における米の生産調整の状況を平成13年の数字で見ると、対象水田1万6
,551ヘクタールに対して生産調整実績1万7,247ヘクタールで達成率は104%となっ
ている。

 うち飼料作物は7,528ヘクタールと12年の6,928ヘクタールと比べても飼料稲を
中心に大幅に増加している。ちなみに、平成12年の転作飼料作面積のうち、ソル
ゴー36.1%、一年生牧草33.1%、青刈とうもろこし21.2%と大きなシェアを占め、
飼料稲は445ヘクタールとなっている。 

 その飼料稲は、後述する国富町と綾町で平成8年に展示ほを設置して検討を開始
したことを契機としている。

 平成10年に湿田における転作作物として位置付けられ、推進を開始し、翌年用
の種子を確保し、平成11年には、県単新規事業として、種子安定供給事業により
総合農業試験場において採種事業を開始している。

 平成12年に宮崎県において口蹄疫が発生したことから、輸入稲ワラ等に変わっ
て安全な自給飼料の安定確保体制の確立を推進している。その一環として、飼料
稲緊急生産拡大推進事業により20ヘクタールの採種ほを設置し、60トン(実績69
トン)の種子の緊急増殖に取り組んでいる。

 また、13年には飼料稲の作付け拡大と利用促進を目指した総合的な支援対策と
して、継続的な種子の確保や栽培技術の向上等を図るための飼料稲生産拡大推進
体制確立対策事業(県単事業)並びに収穫・調整集団の育成や条件整備の推進等
地域における稲ワラ等の供給体制を支援する国産稲ワラ等増産対策事業(国庫補
助および県単事業)を創設している。

 さらに13年3月には、飼料稲の一層の生産拡大に資するために、飼料稲生産・給
与技術マニュアルを作成している。

 以上のような短期間の極めて集中的な施策事業と経営確立助成金の高い交付単
価に支えられて、宮崎県における飼料稲の作付け面積は、10年の38.5ヘクタール
(作付け市町村11)から11年139.9ヘクタール(同35)、12年445.4ヘクタール(
同38)、13年950.2ヘクタール(同42)と全国一の水準で普及拡大している。

【聞き取り調査に協力して下さる国富町の畜産農家】
【転作達成率100%を超える国富町の転作田】

稲発酵粗飼料の需給システム

稲発酵粗飼料の取り組み経緯

 国富町における取り組みの契機は、上述した日本一の葉タバコ生産の土壌クリ
ーニング効果と転作消化および畜産飼料増産に対する期待であった。8年度から新
たな転作作物としていち早く試験的に飼料稲の研究を始めている。

 推進上の母体として、12年7月に国富町飼料用稲生産振興会を役場、普及センタ
ー、JA、畜産農家代表、耕種農家代表で設立している。

 町では、国産粗飼料増産緊急対策事業(10アール当たり25円)の対象が稲発酵
粗飼料であるため、飼料用稲は稲発酵粗飼料としての生産を基本方針として推進
している。

 12,13年度生産調整実績を表1に、稲発酵粗飼料等の面積の推移を表2に示した。
宮崎県でも最も作付けの多い国富町では、13年で水田総面積1,690ヘクタールに対
して生産調整目標面積709ヘクタール、実施面積807ヘクタール、達成率113.7%と
なっており、いまや転作推進をする必要がないという驚くような指摘がある。

 この転作面積のうち193ヘクタールを稲発酵粗飼料、38ヘクタールをわら専用
稲、合計231ヘクタール(内200ヘクタールはKB3506(品種モーレツ))を占めて
いるのである。

 新富町では11年度に干拓地に飼料稲の試験ほ場を設置し、12年度には干拓地他
2つの水田地帯に飼料稲の団地を形成し、同時に耕種農家、畜産農家、関係機関の
調整を図るべく新富町良質たい肥・稲わら確保対策調整会議を設立している。

 当該組織は13年度に新富町粗飼料増産推進協議会(図1)に組織換えして、各地
域への転作集積が拡大している。転作の取組状況と団地・規模の集積については、
表3,4に示した。

表1 国富町における生産調整実績  
	              (単位:ha、%、戸)
           

表2 稲発酵粗飼料等作付面積の推移         
	                                                           (単位:ha、%)         


表3 新富町における転作の推移         
                             (単位:ha、%、戸)         


表4 新富町における転作団地・集積の面積         
                                  	                          (単位:ha、カ所)         


図1 新富町粗飼料増産推進協議会の概要         

    

稲発酵粗飼料の供給システム

 国富町では、例外的に耕種農家がJAに委託するケース(約25ヘクタール)、採
取用に耕種農家が営農集団と契約するケース(約8ヘクタール)があるが、基本的
に農家間の契約締結をすすめている。耕種農家と畜産農家同士あるいは農家集団
同士で契約し、行政は関与せず、無償で耕種農家が供給することを取り決めてい
る。従って、このような農家間、農家集団間の契約グループは85グループに及ぶ。
 
 飼料作物を作付けして経営確立助成に参加している農家は、畜産農家146戸(全
畜産農家322戸の約45%、零細繁殖農家、17戸の肥育農家は参加していない)、無
家畜農家370戸、合計516戸で全農家数の28%に当たる。 

 耕種農家は耕起、移植、収穫前の管理までを行い、収穫、乾燥調整を畜産農家
が行っている。現地で転作確認のチェックは行われるが、引渡し時の品質チェッ
クは行われていない。当町ではロールラップマシンを所有する畜産農家が少ない
ために、ほとんどはスタックサイロを利用している。 

 新富町では、農協の育苗センターで一括して育苗し、それを耕種農家に供給す
る。 

 耕種農家は田植え後水田管理を行い、町内のコントラクター(畜産農家)が収
穫して、自ら利用したり他の畜産農家に供給したりしている。 

 このような形態に至っているのは、畜産農家が畑台地に相対的に多く立地して
いるのに対して、水田地帯が沿海部に立地し両地帯が乖離しているという立地条
件が背景にあるといえよう。 

 町内には9つのコントラクターが存在しているが、このうち7つの組織が飼料稲
の収穫を担当している。 

 13年度、約101ヘクタールの飼料稲作付けのうち約70%に当たる69.9ヘクタール
をこれらコントラクターがカバーしている。 

 ちなみに町内最大の団地である王子干拓団地では、図2に示すように、41戸で構
成される王子干拓団地協議会と4つのコントラクターとの間を上述した新富町粗飼
料増産推進協議会が斡旋・調整して面積を配分している。実際には役場担当者と
団地の役員が話し合いを持って調整しており、4つの配分された作付け団地はロー
テーションされている。 

 このように、2つの町ともに推進組織があるが、国富町が契約段階では農家の取
り決めに任せているのに対して、新富町ではコントラクターが収穫することもあ
って、役場が契約斡旋まで介入しているという形態の相違がある。       

図2 新富町粗飼料増産推進協議会の概要



稲供給価格とコスト

 新富町では、取り組み直後は無償で耕種農家が畜産農家に供給していた。つま
り、耕種農家はとも補償と経営確立助成金7万3,000円を受領するが、収穫前まで
の栽培管理過程のコストを償うことなく畜産農家に供給していることになる。
 
 しかしながら、13年度から一定の生産コストを畜産農家が負担すべきとの指摘
があり、10アール当たり2,000円を支払っている。また、水田管理が十分に行われ
て収穫が多かった場合には、1,000円を上限として追加支払いを行っている。 

 さらに畜産農家に稲発酵粗飼料給与技術確立による補助金2万円(10アール当た
り)が支払われる場合、畜産農家は2,000円を上乗せして購入することになる。 

 従って、畜産農家は通常4,000円で購入していることになる。 

 県などの推計によると新富町における耕種農家の10アール当たりの栽培管理コ
ストは農薬費、燃料費、労働費、減価償却費等含めて約3万5,000円である(ただ
し苗代は町、JAの補助)1。助成金7万3,000円に譲渡価格2,000円ないし4,000円を
加えてコストを差し引くと、約4万〜4万2,000円の収益となる。 

 一方、畜産農家サイドでは、コントラクターによる収穫作業コストが1万2,000
円であり、TDNキログラム当たりコストは29円(生草収量3,458キログラム、乾物
収量913キログラム、TDN収量414キログラム)と見込まれる。補助金2万円からコ
スト1万2,000円と譲渡価格2,000円ないし4,000円を差し引くと、畜産農家の手元
には6,000〜4,000円が残ることになる。 

 一方、国富町では基本的に無償で取引が行われている。従って、7万3,000円か
ら苗代(1/3は町補助)、農薬、肥料代の物財費2万5,000円を差し引いて4万8,0
00円の収益となる。ただし、耕種農家が全作業委託をすると、とも補償金2万3,0
00円のみ耕種農家が受け取り、経営確立助成金4万3,000円は受託側が得ることに
なっている。 

 国富町では低コスト化対策として、乾田直播き栽培に取り組んでおり、これに
より1万円(10アール当たり)のコスト削減を見込んでいる。
       
1鶴見昇三「WCS稲の団地化と耕畜農家の連携」農政調査会『効率的自給飼料生産
利用実態調査結果報告書』2001年3月、pp142-176参照


稲発酵粗飼料の需給構造分析

 前節で見た譲渡価格とコストの関係を稲発酵粗飼料の需給関係で再度考察して
みよう。

 図3の縦軸は稲発酵粗飼料の費用および価格、横軸は取引量を示している。需要
曲線は、他の購入飼料価格より低い価格以下でしか顕在化しない。一定購入価格
水準から右下がりの需要曲線を示している。まったく補助金がない場合、供給曲
線(S0)は縦軸に交わるかなり左側に位置しているものと思われる。

 図3からわかるように、まったく補助政策がとられず、現状の購入粗飼料が存在
する場合、耕種農家と畜産農家との稲発酵粗飼料の取引はほとんどないものと思
われる。

 ところが、先の説明でわかるとおり、とも補償、経営確立助成金により耕種農
家には7万3,000円の助成金が交付される。畜産農家にも国産粗飼料緊急対策事業
による2万円の助成金が交付されている。また町独自の苗代助成金もあり、供給曲
線は大幅な右下方シフト(S1)、需要曲線も実質的に右上方シフト(D1)してい
るものと思われる。

 従って、実際の需給均衡点(Q1)では大幅に取引量が増えることを示している。

 ただし、実際には畜産農家に有利な無償譲渡ないし2,000円程度の取引が行われ
ているということは、均衡価格よりも低い水準で取引が行われていることを示唆
している。

 2つの町とも肉牛農家が相対的に分厚く存在しており畜産振興という意識が高い
ために、飼料用稲の取引過程で畜産農家=需要サイドの意向が強くなっており、
低水準の取引価格が実現していると考えられる。さらに、国富町では、新富町の
ように畜産地帯と稲作地帯と離れておらず、コントラクターを介した取引ではな
く、近隣農家同士の顔の見える関係が畜産農家に有利に作用していると思われる。

図3 稲発酵粗飼料の需給構造



稲発酵粗飼料の普及要因と持続的生産に向けた課題

 新富町においては、技術的に以下のような課題が指摘されている。

 第1に飼料稲の漏生籾対策がある。専用機でなくモアーで収穫するために籾が落
ちるという問題である。これには品種選択やほ場の固定化などの対策が考えられ
る。

 第2に、ジャンボタニシ等の病害虫対策である。飼料稲水田のまわりの早期米
への影響が懸念されている。

 第3に収穫時の雨天対策がある。14年度はテテップからモーレツに品種変更して
対応している。また、収穫・乾燥調整作業の労働・コスト節減問題は重要な課題
であり、これは稲発酵粗飼料のみならず、コントラクターが抱える粗飼料収穫調
整作業の問題とともに解決すべき課題である。

 一方、専用稲が地力収奪的であることは2つの町ともに確認されていることであ
る。

 特に新富町の干拓水田では毎年収量が低下しており、大きな問題となっている。
たい肥の投入を望んでいるが、畜産地帯から遠隔な上に、散布する主体がいない
ことがネックとなっている。その点、国富町では、JAの支援センターが散布主体
となったことでたい肥センター等のたい肥需要が著しく伸び、稲発酵粗飼料の転
作田でも投入が進んで、地力問題を克服していることは参考になろう。

 また、新富町では耕種農家に肥培管理を含めて栽培管理を怠っている農家が散
見され、品質、収量に影響が出るといったケースもある。このような現象は、自
らの経営に影響しない飼料稲の生産が、高収量、高品質の生産物を生産しようと
いうインセンティブを耕種農家に働かせないために生じていると理解される。こ
の点、一定地域内の「顔の見える関係」の契約に基づく国富町では、このような
事実を指摘する声がなかったことも興味深い。流通する粗飼料のチェックという
観点とともに今後とも重要な視点である。

 以上のように、現状ではいくつかの問題も抱えながらこれほど急速に稲発酵粗
飼料が普及したのは、以下のような要因が重層的に規定しているといえよう。

 すなわち、@最高7万3,000円の経営確立助成事業の実施A口蹄疫等による自給
飼料確保の自覚B種子代の全額町補助Cイネ科による栽培技術の慣れD水田たば
こ後作による土壌クリーニング効果E繁殖農家が多くイタリアンなどと同じ牧草
系でし好にマッチF畜産農家と耕種無家畜農家との連携が要因として挙げられる。

 中でも、経営確立助成事業が大きく貢献していることは言うまでもない。先の
需給モデル分析でも明らかなように、転作が定着し、本作になっているか否かは、
この助成事業がなくなったときに、どのような状況になるかによるといえる。あ
るいは金額は削減された場合に、自給飼料作物定着のための助成事業が、水田農
業確立という視点から、別の視点に置き換えることが可能かどうかという点が極
めて重要になってくる。

 さらに、Fで指摘した耕畜連携は、それ以上に重要な意味を持っているといえ
る。国富町では稲作農家等は栽培管理まで行い、畜産農家に無料で供給している。
このような無償売買は、国富町のみの事例ではなく、協議会における調整のもと
での合意形成の結果であり、地域で重視すべき調整システムが合理的に働いた結
果ともいえる。

 しかし一方、生産コストを反映して価格形成を行った有償取引が行われている
地域もある。つまり、このようなさまざまな取引システムは、ある意味で現在の
高額の経営確立助成に支えられたものであり、この助成がなくなった場合、もし
くは減額された場合、どの程度の取引コストがかかるのかという経済的条件の吟
味が現在喫緊の課題なのである。

 このような条件吟味を行いながら、生産者は自らの経営判断で稲発酵粗飼料に
取り組むことが出来る生産力環境を早急に整備すべきである。

 さらに、供給サイドである耕種部門と需要サイドである畜産部門を仲介するコ
ーディネーター役となる組織の存在が稲発酵粗飼料の流通にとって何よりも重要
であることを最後に指摘しておきたい。

謝辞:本調査を行うに当たって、宮崎県畜産課、宮崎県中部農林振興局および児
湯農林振興局農畜産課、国富町森林振興課、新富町農業振興課の方々並びに地元
の農家の方々には大変お世話になりました。この場を借りて改めて厚くお礼申し
上げます。

【調査のため現地に赴く筆者】
【転作田にたたずむ国富町の家畜農家の皆さん】

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