新年のごあいさつ

独立行政法人 農畜産業振興機構 理事長 山本 徹


 平成16年を迎え、新春のお慶びを申し上げます。

 昨年の農畜産業をめぐる情勢についてでありますが、まず、国際情勢についてみますと、世界貿易機関(WTO)の閣僚会議は、昨年9月にメキシコで開催され、貿易以外のテーマである投資などのシンガポールイシューについての交渉が決裂したため、交渉の大枠いわゆるモダリティを確立できませんでした。米国、EUは農産物の市場拡大と自国の国内支持、輸出補助金の温存を意図しており、一方途上国は、先進国に対し、国内支持などの撤廃、市場アクセスの大幅拡大を求めるとともに、自らには特別な扱いを主張したため、先進国と途上国の対立は解消されませんでした。また、自由貿易協定(FTA)については、日本は既にシンガポールと結んでいますが、メキシコをはじめタイ、マレーシア、フィリピン、韓国などとの交渉が進められる情勢にあり、農産物の取扱いが大きいテーマです。

 WTO、FTA交渉に当たってわが国は、国内の農業改革との整合性を保つとともに、農林水産業の多面的機能への配慮、食料安全保障の確保など、各国が持つそれぞれの事情を踏まえた上での多様な農業が共存できるよう、厳しくかつ強力な折衝を行うことになります。

 このような中、当機構としましては、先のUR合意に基づき、乳製品の国家貿易機関として、毎年度、生乳換算数量で約14万トンのバターおよびホエイなどの輸入を実施し、その使命を果たしてきており、今後とも輸入乳製品の売買業務を的確に実施してまいります。

 一方、わが国の農畜産業についてみますと、牛肉の生産量は、出荷頭数の減少により、前年を下回っておりますが、消費量は、BSEの影響が克服され、回復途上であった前年を上回って推移しております。また、昨年8月から輸入牛肉(チルド)の関税が緊急措置によって引き上げられたこともあり、卸売価格は、おおむね安定上位価格を上回って推移しました。このほか、肉用子牛の価格も肉専用種を中心として高水準で推移しました。

 豚肉および鶏肉については、生産量が14年度に引き続き増加傾向となりましたが、一方で、牛肉消費の回復によるBSEの代替需要の減少や暖冬の影響による鍋物需要の減退により、卸売価格は低水準で推移しました。豚肉は、昨年8月に関税引き上げの緊急措置を発動し、さらに、11月末から調整保管を実施し、こうした中で年末にかけてと畜頭数が減少したことなどから卸売価格は回復しました。鶏卵は、生産量が増加する一方、消費量がおおむね横ばいで推移していることから、卸売価格は低落しています。

 酪農に目を向けると、生乳生産量は昨年並みと見通されていますが、冷夏の影響から、加工乳を中心に飲用乳の生産量が減少しました。

 畜産は、今日わが国農業の4分の1を占める基幹分野にまで発展してきました。畜産業は、生産のみならず流通・加工分野など関連産業の裾野が広く食料産業の中で雇用の確保など大きい役割を果たしてきております。同時に、良質で安心、安全な畜産物への消費者ニーズに応えていくとともに、国際化の進展、内外価格差の改善要請や消費者の低価格志向に沿った、効率的な生産・流通によるコストダウンのための一層の努力が求められています。

 一方、農林水産大臣から機構理事長に示された中期目標の中で「乳用牛、肉用牛および豚の飼養戸数および飼養頭数の減少などの課題に対応し、国の政策目標である食料・農業・農村基本計画に掲げる生乳および牛肉の生産コストの2割程度の低減などによる畜産物の生産の増大などに資するよう、畜産物の価格安定に係る業務、畜産に係る補助事業などを以下のとおり実施する。」とされています。当機構といたしましては、これを受け、価格安定業務、生産振興・流通の合理化・衛生・環境対策・食の安全対策などの畜産業振興事業および学校給食用牛乳供給事業の補助業務、加工原料乳生産者補給金交付業務ならびに肉用子牛生産者補給金の交付業務について、今まで以上に適正、かつ効率的に取り組んでまいる所存です。

 最近、食生活の乱れが指摘されるようになりましたが、これが青少年の健全な心身の発達の阻害や生活習慣病の原因であるとして、その解決が国家的な課題となっています。政府は、食育や地産地消の推進、農業体験の実施、食育を担当する教諭の育成など、その積極的な推進に取り組んでいます。

 特に畜産物は、重要なタンパク、ミネラルの供給源として、国民の健康な体づくりに貢献するとともに、精神を明るく前向きにさせる役割を果たしてきました。わが国が世界一の長寿国となったのは、畜産物、米、野菜、魚をバランスよく食べる日本型食生活を実践したことが大きく貢献しており、畜産物を今後とも健康な食生活を果たす重要な食材として位置付け、その役割を適正に評価して行く必要があります。

 畜産物を含め食品は、国民の生命と健康を守る観点から、安全・安心を第一に考えなければなりません。このため、昨年7月、リスク評価(食品健康影響評価)を行う独立の機関として、内閣府に食品安全委員会が設置されるとともに、農林水産省にも消費・安全局を設けるなど食品の安全・安心に向けた取組体制が強化されました。

 当機構におきましても、家畜個体識別システム定着化事業などの畜産業振興事業を実施するほか、中期目標に示された「国の政策目標である食料・農業・農村基本計画に掲げる望ましい食料消費の姿、食品の健康に果たす役割などについての理解を深めるとともに、同基本計画に掲げる農業生産に関する課題の解決、食品安全に係るリスクコミュニケーションの充実などに資するよう、情報収集提供業務を実施する。」に基づき、消費者代表との意見交換会の開催や食品の安全・安心に係る情報提供などを積極的に推進してまいります。

 当機構は、昨年10月、野菜供給安定基金と合併し、わが国の畜産、野菜、砂糖、蚕糸の振興業務を担うこととなりましたが、業務の執行、組織の運営に当たりましては、今まで以上に適正、効率化、透明性を確保しつつ、農畜産業および関連産業の健全な発展並びに国民消費生活の安定に努力してまいる所存です。

 皆様方にも格別の御支援、御指導を賜れば幸いでございます。本年が皆様方にとって希望の持てる年となりますことをご祈念申し上げ、年頭のあいさつといたします。

独立行政法人農畜産業振興機構

理事長 山本 徹


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