★ 農林水産省から


国内における高病原性鳥インフルエンザの発生について
(発生の経過と防疫対応の状況等)

消費・安全局 衛生管理課



1 山口県における発生(第1例目)について



1 発生の概要

所在地:山口県阿武郡阿東町

発生農場:採卵鶏農場(飼養羽数:34,640羽)

2 発生の経過

(1)平成16年1月11日、管轄家畜保健衛生所から山口県庁経由で農林水産省に鳥インフルエンザの発生を疑う旨の連絡があり、独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構動物衛生研究所(以下「動物衛生研究所」という。)において死亡鶏等の病性鑑定を行ったところ、1月12日、H5亜型のA型インフルエンザウイルスの感染が確認されたため、当該鶏は高病原性鳥インフルエンザの患畜と確定された。

(2)引き続き、動物衛生研究所において、死亡鶏等の病性鑑定を行ったところ、1月13日、検出された高病原性鳥インフルエンザウイルスは血清亜型がH5N1であることが確認された。

3 防疫対応の状況

(1)初動防疫措置として、発生農場について部外者の農場への立入制限、卵の出荷自粛、鶏舎の消毒等を実施した。

(2)発生確認後、公衆衛生部局とも連携しつつ、家畜伝染病予防法及び高病原性鳥インフルエンザ防疫マニュアルに沿って、発生農場の飼養鶏全羽の殺処分、消毒、周辺農場における移動の制限、疫学調査の実施等、必要な防疫措置を講じたところである。このうち、発生農場の防疫措置については、1月21日に完了した。

 ※移動の制限:鶏等の家きん、病原体を拡げるおそれのある物品等を対象とし、発生農場を中心とした半径30km以内の区域で実施

(3)1月15日、専門家による会合(第2回家きん疾病小委員会)を開催し、以下のような助言をいただいた。

 (1) まん延防止措置等については、

  ア 当面、防疫マニュアルに沿ったまん延防止措置を徹底すること

  イ 清浄性確認は臨床症状の有無を基本に実施すること

  ウ ワクチンの使用については、現状では適切でないが、万一、発生が拡大した場合等に備えその備蓄を検討すること

 (2) 感染経路の究明については、引き続き、疫学関連農場等の調査等を進めること等

(4)2月3日、専門家による会合(第3回家きん疾病小委員会)を開催し、以下のような助言をいただいた。

 (1) 清浄性確認については、マニュアルに基づき立入検査、抗体検査、ウイルス分離検査を進めること

 (2) 移動制限の解除については、清浄性確認の検査結果を踏まえ、本小委員会の助言も得ながら検討すること

 (3) ワクチンの備蓄については、現時点で使用することは不適切であるが、万が一まん延防止のために使用せざるを得ない場合には家畜伝染病予防法に基づく農林水産大臣又は都道府県知事の指示に従い、計画的・組織的に使用することとされ、具体的な方法については本小委員会の意見を聴くこと

等が報告された。

(5)2月14日、移動制限区域内の養鶏農家を対象に実施した清浄性確認のための検査において、全ての鶏群において異常を認めず、また、抗体検査及びウイルス分離検査で全ての検体について陰性が確認された。

 同日、山口県から、移動制限措置の期間について協議があり、農林水産省からは、2月19日午前0時までとする方向で検討中であるが、2月18日の高病原性鳥インフルエンザ対策本部において確認した上で改めて連絡する旨回答した。

(6)2月18日の高病原性鳥インフルエンザ対策本部において、移動制限措置は2月19日午前0時までとすることを確認した。

4 その他

 農林水産省では、2月3日、移動制限期間中に出荷できない鶏卵について、鶏卵価値の減少に対する補てん(減少額の1/2、輸送及)び保管に対する補助(補助率1/2)を行う事業(高病原性鳥インフルエンザまん延防止措置緊急対策)を実施することとした。



2 大分県における発生(第2例目)について



1 発生の概要

所在地:大分県玖珠くす九重ここのえ

飼養状況:14羽(チャボ13羽、あひる1羽)

2 発生の経過

(1)平成16年2月16日夜、管轄家畜保健衛生所から大分県庁経由で農林水産省に鳥インフルエンザの発生を疑う旨の連絡があり、動物衛生研究所において死亡鶏の病性鑑定を行ったところ、2月17日、H5亜型のA型インフルエンザウイルスの感染が確認されたため、当該鶏は高病原性鳥インフルエンザの患畜と確定された。

(2)後日、検出された高病原性鳥インフルエンザウイルスは血清亜型がH5N1であることが確認され、遺伝子配列の解析の結果、ウイルスは山口県で分離されているウイルスと近縁であることが明らかとなった。

3 防疫対応の状況

(1)既に、飼養鳥は、死亡したか又は検査のため全羽処分済みであった。

(2)初動防疫措置として、発生場所について既に部外者の立入制限、鶏舎の消毒等を実施している。

(3)さらに、発生確認後、公衆衛生部局とも連携しつつ、発生場所の消毒、周辺における移動制限、疫学調査の実施等、必要な防疫措置を講じたところである。

(4)2月23日、専門家による会合(第4回家きん疾病小委員会)を開催し、以下のような助言をいただいた。

 (1) 発生時には、その後の疫学的検討に資するよう、防疫従事者の感染防御に万全を期しつつ、適切な採材等に努めること

 (2) 移動制限区域の取扱いについては、発生が小規模であったこと等も踏まえ、マニュアルの規定を踏まえつつ、第1次清浄性確認検査で異常が認められなかった区域については、順次、移動制限区域から搬出制限区域に変更し、さらに、第2次清浄性確認検査で異常が認められなければ、搬出制限区域を縮小することが適当であること

 (3) 2例目の発生も踏まえ、全国的な監視体制及び発生予防対策の強化を図ること

 (4) 1例目における防疫対応の経験を踏まえ、今後の移動制限の範囲・期間の具体的な運用やモニタリングの方法等について、今後事務局でマニュアルの改正案を作成し、委員の意見を聞くこと

(5)2月27日移動制限区域における第1次清浄性確認検査の結果異常が認められなかったことから、大分県からの農林水産省に対する協議の結果、2月28日午前0時をもって移動制限区域を縮小し、発生場所から半径5kmから30kmまでの区域については搬出制限区域に切り替えることとした。

(6)3月3日までに行われた第2次清浄性確認検査の結果、異常が認められなかったことから、3月4日午前0時をもって、発生場所から半径5kmまでの移動制限区域を残し搬出制限が解除された。

(7)第3次清浄性確認検査の結果異常が認められなかったことから、半径5kmまでの移動制限区域は、3月11日午前0時をもって解除された。



3 京都府における発生(第3例目)について



1 発生の概要

所在地:京都府船井郡丹波町

発生農場:採卵鶏農場(飼養羽数:198,000羽)

2 発生の経過

(1)平成16年2月26日深夜、京都府から農林水産省に鳥インフルエンザを疑う旨の連絡があり、動物衛生研究所において死亡鶏等の病性鑑定を行ったところ、2月28日、H5亜型のA型インフルエンザウイルスの感染が確認されたため、当該鶏は高病原性鳥インフルエンザの患畜と確定された。

(2)後日、検出された高病原性鳥インフルエンザウイルスは血清亜型がH5N1であることが確認され、遺伝子配列の解析の結果、ウイルスは山口県、大分県で分離されたウイルスと近縁であることが明らかにされた。

3 防疫対応の状況

(1)初動防疫措置として、発生農場について、部外者の立入制限、卵の出荷自粛、鶏舎の消毒等を実施した。また、発生農場を中心とした半径30km以内の区域について移動自粛を要請した。

(2)さらに、発生確認後、公衆衛生部局とも連携しつつ、発生農場の飼養鶏の殺処分、消毒、周辺農場における移動制限、疫学調査の実施等、必要な防疫措置を講じたところである。このうち、発生農場の防疫措置については、3月22日に完了した。

(3)発生農家では、2月20日頃から異常を疑う多数の死亡が発生していたものの、京都府に報告せず、その一方で、2月25日、26日には鶏を兵庫県及び愛知県の食鳥処理場に出荷していた。

【兵庫県関連】

 (1) このうち、兵庫県の食鳥処理場において、未処理であった出荷鶏の簡易検査を実施したところ、2月28日陽性となり、ウイルスも分離されたため患畜とされた。また、当該食鳥処理場に26日、27日に岡山、広島両県から搬入され、未処理であった鶏についても簡易検査を実施したところ、同日、岡山県からの鶏について陽性が確認された(ウイルスは、3月3日、H5N1型と判明。)

 兵庫県では、2月28日、当該食鳥処理場について、消毒と部外者の立入制限を行うとともに、半径30km以内の農場に移動自粛を要請し、立入検査を実施することとしていたが、29日、関連農場等が特定できたことから、移動自粛の範囲を半径5kmとし、区域内の農場について疫学調査を実施していた。清浄性確認検査の結果等から移動自粛要請を解除することが適当であるとされたことから、3月17日午前0時をもって、移動自粛要請を解除した。

 (2) また、この食鳥処理場で処理された食鳥残さが香川県の化製処理場で処理されており、3月1日、この食鳥残さについて検査を行ったところ、インフルエンザウイルスが確認された(3月5日H5N1型と判明)。しかし、化製処理後のフェザーミール及びチキンミールについて同様に検査を行ったところ、インフルエンザウイルスは確認されなかった。香川県では念のため、当該処理場を改めて消毒を実施し、同処理場は営業を3月5日まで自粛した。

【愛知県関連】

 (3) 一方、愛知県の食鳥処理場においては、当該鶏は全て食鳥処理済みとなっており、食用以外のものの一部が出荷されていることが判明したが、既に返送されている

 愛知県においても、関連農場が疫学調査を実施された。

 (4) また、この食鳥処理場で処理された食鳥残さが三重県の化製処理場で処理されていたが、同処理場では牛由来残さを処理していることから、化製処理後のミールは焼却されている。三重県では念のため当該処理場について消毒を実施した。

(4)3月3日、専門家による会合(第5回家きん疾病小委員会)を開催し、以下のような助言をいただいた。

 (1) 発生の確認の遅れも踏まえ、当面、半径30kmの移動制限区域を維持し、第1次清浄性確認が終了した時点で今後の取扱いを検討すること。

 (2) 発生農家から鶏が出荷された食鳥処理場等については、京都からウイルスが侵入したものと考えられることから移動制限はかけず、疫学関連農家等の調査を徹底すること。

 (3) 今回、発生確認まで時間を要したこと等を踏まえ、都道府県、関係団体に対し、発生防止対策と監視強化について再度徹底すること等

(5)3月31日、移動制限区域における第1次清浄性確認検査の結果、異常が認められなかったことから、京都府からの農林水産省に対する協議の結果、4月1日午前0時をもって移動制限区域を縮小し、発生農場から半径5kmから30kmまでの区域については、搬出制限区域に切り替えることとした。

(6)3月7日以降、3月24日までに計8羽のカラスから血清亜型H5N1のA型インフルエンザウイルスが分離された(いずれも移動制限区域内。概要は以下のとおり)。



4 京都府における発生(第4例目)について

1 発生の概要

所在地:京都府船井郡丹波町

飼養状況:ブロイラー農場(飼養羽数:14,600羽)

2 発生の経過

(1)第3例目の発生農場から北東へ5km離れた農場の死亡鶏について、平成16年3月3日、簡易検査を実施したところ陽性反応が見られた。引き続き、ウイルス分離を行っていたところ、鳥インフルエンザを疑う結果が得られたため、3月5日、動物衛生研究所において死亡鶏等の病性鑑定を実施した。この結果、分離されたウイルスはH5亜型のA型インフルエンザウイルスであることが確認されたため、当該鶏は高病原性鳥インフルエンザの患畜と確定された。

(2)引き続き、動物衛生研究所において、死亡鶏等の病性鑑定を行っていたところ、3月8日、検出された高病原性鳥インフルエンザウイルスは血清亜型がH5N1であることが確認された。

3 防疫対応の状況

(1)初動防疫措置として、発生農場について、3月3日から部外者の立入制限、鶏舎の消毒等を実施した。

(2)3月4日には、死亡鶏の発生が続いていたこと等から確認検査の結果を待たず、疑似患畜として殺処分を命じ、3月5日には飼養鶏の殺処分を完了3月11日には、すべての防疫作業が終了した。

 なお、移動制限区域については、第3例目と関連した発生であるため変更はない



5 感染経路の究明について



1 ウイルスの遺伝子解析

 山口、大分、京都のウイルスは近縁。

 山口、大分、京都のウイルスと韓国で昨年12月に分離されたウイルスは遺伝的に近縁な関係がある。

 山口のウイルスは、香港やベトナムで本病に感染した人から分離されたウイルスとは異なる。

2 現地調査

 山口と大分のケースについては、感染経路を疑わせる人、車両等の出入りは確認されていない。

3 渡り鳥の調査

 いずれの発生現場周辺でも渡り鳥が飛来していることが明らかになったが、発生地域で捕獲された野鳥(292検体)、採取された糞(577検体)からウイルスは分離されていない。

4 感染経路究明チーム

 農林水産省では、関係機関の協力を得て、我が国での発生の感染原因・感染経路を総合的に検証していくために、3月29日「高病原、性鳥インフルエンザ感染経路究明チーム」を設置した。

 

 

高病原性鳥インフルエンザに関する用語の解説

1  病性鑑定(びょうせいかんてい)

 血液などを検査して、その家畜がどのような病気に感染しているかを調べることです。

2  患畜(かんちく)

 高病原性鳥インフルエンザなどの法律で定められている家畜の伝染病に感染している家畜のことです。

3  血清亜型(けっせいあがた)

 鳥インフルエンザウイルスを含めたA 型インフルエンザウイルスの種類のことです。H亜型が15種類、N亜型が 9 種類ありその組み合わせにより決まります。このうち、高病原性鳥インフルエンザに該当するものは、H 5 及びH 7 亜型又は、ウイルスの病気にさせる性質の検査により病気にさせる性質が強いと判定されたものが該当します。

4  疫学調査(えきがくちょうさ)

 どこからその病気がやってきたのかを調べるため、病気が発生した農場における、鶏の移動、人や車の出入りや、飼料(えさ)の流れなどの病気の流行に関する様々なことを調べることです。これらの疫学調査の結果については、専門家により分析・評価が加えられ、感染源・感染経路特定のための検討が行われます。

5  清浄性確認(せいじょうせいかくにん)

 高病原性鳥インフルエンザウイルスに汚染されていないことを確認するために実施する検査です。鶏から血液や糞便を採取してウイルスに感染していないかどうかの検査を行います。

6  抗体検査(こうたいけんさ)

 抗体とは、人や鶏などがウイルスなどの病原体に感染したときに、自分の体を病原体から守るために体の中でつくられるものです。抗体検査とは診断をしたい病気に対する抗体があるかどうかを検出するための検査で、抗体が検出された場合には、その病原体に過去に感染したことがあるか、又は現在感染しているかのどちらかになります。

7  ウイルス分離検査(ういるすぶんりけんさ)

 鶏がウイルスに感染しているかどうかを調べるために、血液や気管のぬぐい液などから、ウイルスを増やしてその存在を確認するための検査のことです。高病原性鳥インフルエンザの場合、鶏の気管や総排泄腔(おしりの穴)から綿棒でふき取った材料を用いて行います。ウイルスの存在が確認された場合、その鶏は感染していることになり、患畜となります。

8  移動制限区域(いどうせいげんくいき)

 病気が広がるのを防ぐために、ある一定の範囲で鶏などの移動を制限しますが、移動制限区域とは、その制限を受ける区域のことです。

9  搬出制限区域(はんしゅつせいげんくいき)

 移動制限区域と同じ目的である一定の範囲から鶏などの持ち出しを制限しますが、搬出制限区域は、その制限を受ける区域です。

10 ミール(みーる)

 食鳥処理場において、鶏を肉に加工する過程で生産される食べることのできない部分の肉や羽などを加熱処理し、乾燥、粉末にしたものです。家畜などの飼料として利用されます。


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