★ 機構から


牛乳乳製品の消費に関する意見交換会

総括調整役 山崎 隆信


1 開催の趣旨

 当機構の業務については、農林水産大臣が定めた中期目標において、消費者の方々への情報提供に当たっては、「消費者の視点に立ってその要望に応えた分かりやすい情報とするため、企画段階からの消費者、有識者等の参加を促進し、食の安全・安心関連情報等消費者の関心の高い情報を積極的に提供する」こととされています。

 また、牛乳乳製品の需給動向については、食料・農業・農村基本計画に示された「望ましい食料消費の姿」や「健康日本21」(21世紀における健康づくり運動)において、消費の増大が見込まれていますが、このところ鈍化傾向にあります。

 さらに、機構においては、牛乳乳製品関係の業務として、加工原料乳の生産者への交付金の支払い、国際条約に基づく、バターなどの輸入・売り渡し、あるいは、畜産業、乳業など関連産業の振興のための事業を行っています。

 以上のようなことから、消費者代表、牛乳乳製品関係の専門家、機構との間で、今後の牛乳乳製品の消費や健康に果たす役割などについて、情報や意見の交換を行うため、平成16年7月21日に、当機構会議室で、「牛乳乳製品の消費に関する意見交換会」を開催しましたので、その概要を紹介します。

2 出席者

 意見交換会へは、下記の方々のご出席をいただいたほか、当機構からは、山本理事長、菱沼副理事長などが出席しました。

(順不同、敬称略)

主婦連合会参与 和田 正江

全国消費者団体連絡会事務局 高野ひろみ

消費科学連合会企画委員 小西 靖子

日本生活協同組合連合会理事 阿南  久

東京都地域婦人団体連盟副会長 水野 英子

コープとうきょう理事 上田 尚美

全国学校栄養士協議会副会長 市場 祥子

同協議会理事 松本ふさ江

家庭栄養研究会副会長 蓮尾 隆子

農事組合法人ラッテたかまつ 高松久仁子

(社)日本乳業協会会長 中山  悠

(社)日本酪農乳業協会会長 海野 研一

女子栄養大学教授 三浦 理代

信州大学名誉教授 細野 明義

農林水産省生産局畜産部牛乳乳製品課長

松島 浩道



3 情報及び意見の交換

 出席委員からの情報提供および意見交換の概要は次のとおりです。

(1)牛乳・乳製品の生理機能性成分(三浦委員)

 牛乳・乳製品には、カルシウム、ビタミンDなどが含まれているという栄養的特徴に加えて、次のように人間の健康に役立つ機能(生理機能)を持つ成分がたくさんあります。

(1)カゼインホスホペプチド:カルシウムの吸収がよくなる

(2)オピオイドペプチド:鎮痛作用を持つ。寝る前に飲むと眠りを誘うといわれるのもこの機能

(3)ラクトフェリン:体を病原菌から守ったり、免疫力を高める

(4)ミルク・ベーシック・プロテイン:骨を作る骨芽細胞を増やす。古くなった骨を壊していく破骨細胞の働きを調整する

(5)共役リノール酸:体脂肪を減らして筋肉の増強を図るダイエット作用がある

(2)プロバイオティクスとしての乳製品(細野委員)

 私たちのおなかには、たくさんの微生物がいます。腸の中のバクテリアは、重さにして1キログラムくらいあるといわれています。

 乳製品には、このような人間の腸管で有益な効果をもたらす生菌(プロバイオティクス)として、乳酸菌、ビフィズス菌などが含まれているものがあります。

これらプロバイオティクスは、次のような機能性・有用性を持っています。

(1)抗菌活性:病原菌またはウィルスの増殖の抑制、下痢の治療・予防

(2)細菌増殖の抑制

(3)免疫の活性化

(4)酵素に対する作用:有害代謝産物の抑制、血清コレステロールの低減

(5)酵素運搬:乳糖不耐症の改善

(6)抗原(遺伝子)運搬:DNAワクチン、遺伝子治療

(7)抗変異原性・抗腫瘍性:ガン発症の抑制

(3)牛乳の消費拡大・普及(海野委員)

 日本酪農乳業協会の大きな仕事として、牛乳の消費拡大・普及があります。その過程でアンケート調査をしたところ、消費者の方は、牛乳の成分としてカルシウムしか意識しておらず、タンパク質、ビタミンのことは知らなかったという結果でした。

 また、牛乳は太るというのは迷信で、同じカロリーなら他の飲料より牛乳を飲んでいる人の方がやせるというデータも出ています。

 普及運動の標語として「スリー・ア・デイ」運動をやっています。1日につき(ア・デイ)3回(スリー)乳製品を取ろうということです。私はいろいろなもの(トマトジュースと牛乳を混ぜたスープやカフェオレ)と組み合わせて1日3本牛乳を飲んでいます。

(4)乳業界としての認識と対策(中山委員)

 業界としては、牛乳・乳製品の消費の停滞傾向について次のようにみています。

(1) この10年の消費者の食生活の変化に乳業がついて行っていない。茶、コーヒー飲料は成長を続けている一方、乳を使う飲料は停滞している

(2) 食に対する健康・安全・安心・おいしさという面でも、業界の技術開発・製品開発が追いついていない

(3) 普及・啓発が一層必要

(4) 市場が少子高齢化で大きくなっていない

 こういう中で、乳業協会としては、学校給食の提供、「スリー・ア・デイ」運動、オピニオンリーダー向けの料理講習会などに取り組んでいます。

 また、WTO、FTA交渉といった国際化の中で、牛乳・乳製品の世界も大競争の時代に入っています。これに対応するには、一歩進んだ食品の加工原料として多面的な利用技術を開発するとともに、もっと価値ある新製品を開発することが肝要と考えています。

(5)成長期における牛乳の重要性 (市場委員)

 牛乳は、戦後、子供達の体位の向上や健康な成長に大きく貢献しました。また、学童期が一番カルシウムの吸収がよく、この時期にどれだけのカルシウムを摂取したかで、一生の骨の健康が決まるといわれています。したがって、牛乳は学校給食の土台です。

 このような牛乳の重要性や利用方法などについては、子供達への食育の授業だけではなく、PTAや地域へも情報発信しています。

 牛乳消費の停滞は残念なことで、進む少子化・老齢化を考慮しても、健康のためにはもっと利用が拡大するよう牛乳の飲用、料理面の研究や工夫をしていきたいと思います。

(6)給食でのリクエスト(松本委員)

 クラス訪問で、給食で何かリクエストはありますかというと、低学年では「牛乳以外の飲み物をほしい」との声があり、また、幼稚園では「白い色以外の色が付いているもの」に人気があるようですが、飲みやすい方法を工夫して対応しています。

 また、米飯給食が増える中で、牛乳といかにおいしく食べられるか組み合わせ方などを工夫しています。

 同じコロッケでもチーズ入りは大人気なように、子供達は基本的に、牛乳をはじめチーズなどの乳製品は大好物だと感じます。

(7)食文化面からの給食と普及(蓮尾委員)

 牛乳が栄養的食品として果たしてきた役割は大きいと思いますが、(1)カロリー上必要、カルシウムを取るために必要という理由だけで牛乳を給食に取り入れる、(2)ご飯食に牛乳をつける、(3)牛乳を飲む時間帯を給食のお昼に限定する、これらのように、子供達にとって無理・負担がかかる形に限定しないで、牛乳を通じた食文化を育むようなよりおいしい飲み方を工夫できないでしょうか。

 また、牛乳についても、安全・安心を確保するためには、安定した生産、加工工程の情報開示が必要という面を消費者に十分伝えることによって、牛乳に対する関心は高まってくるのではないかと思います。

(8)消費者への情報提供としての牛乳パックの表示(阿南委員)

 消費者は、牛乳の脂肪分について、脂肪をとりすぎないよう非常に敏感になっています。

 日本生協連の牛乳は、牛乳の脂肪分の季節的変化を折れ線グラフで、牛乳パックに表示しています。そのような乳脂肪分の表示を十分に行うとともに、消費者が本当に望んでいる加工品(乳製品:例えばカルシウムや鉄分を強化したもの)を開発していくことが必要でないかと思います。

(9)飲料のスタイルと牛乳への関心 (上田委員)

 家で何か飲むときに、牛乳が出てくることはなく、外でも若い人が歩きながら何か飲んでいるシーンでも、牛乳が登場することはないですね。

 消費者の学習会での関心は、ヨーグルトやチーズといった乳製品の話題が多く出ますが、牛乳そのものには関心がないようです。生産者との交流についても同様ですが、健康とか効能には関心が高いので、そういう面でのアピールが必要かと思います。

(10)牧場だからこそできること(高松委員)

 酪農の傍ら、9年前からアイスクリーム、チーズ、ヨーグルトの製造販売を行っています。また、昨年は酪農教育ファームの認定を受けました。

 総合教育で牧場へ来た子供達は、最初は一様に「牛はくさいやんけ」などと言って少しためらいがありますが、牛の乳絞りをし、牛乳を飲んでもらい、アイスクリーム、バター作りをしたら、帰るときには「おばちゃん、また来るわな」と言ってくれます。私は、子供達が「自分たちが学校で飲んでいる牛乳って、あんな牛さんから出てくるのだな」というこうとを感じてくれたかなと思っています。

 4年前に、牧場にせっかく来ていただいたお客様にアイスクリームを委託販売ではなく、直接食べていただきたいと、山の喫茶店「夢ラッテ」をオープンしました。

 いずれにしても、牧場にしかできないことが私のできることだという意味で、牧場経営の傍ら、「牧場体験」を企画しています。

(11)ヨーグルト商品の表示(和田委員)

 主婦連合会で昨年、表示の調査をしたところ、ヨーグルトについて表示が多すぎ、理解できないという結果でした。また「豆乳ヨーグルト」という商品があり、ヨーグルトは牛乳からできるため、おかしいのではと商品名を見ると、発酵豆乳食品となっていました。

 さらに、ヨーグルトについては、健康に対してのいろいろな期待を持たせるような「免疫力を高め、ガンの予防に役立つ」という表示が製品ではないですが、売り場に書いてありました。

 消費者にとって、非常に大きな情報である表示について、もう少し慎重にしていただきたいと思います。

(12)牛乳びんの軽量化とチーズの開発(水野委員)

(1) びん牛乳はリターナブルの面からも好きですが、高齢者には重いので、小さく軽いびんの普及を考えていただきたい。
(これに対し、中山委員から200CCびんの軽量化について研究中との発言がありました。)

(2) 牛乳が余った場合はチーズに回して、個性的な日本のチーズを開発していただきたい。

(これに対して、中山委員から、日本でもカマンベールチーズが開発されましたが、ハードタイプ、ファンシータイプのようなものはこれからですので、乳業協会へ要望を伝えたいとの発言がありました。)

(13)飲用のスタイルと牛乳の位置づけ (高野委員)

 清涼飲料、お茶がある中で、牛乳は後になってしまうのが現状かと思います。学校の給食で栄養面は理解していても、半ば強制的なので、高校になって飲まなくなるのは、解放されたという意識もあるのではないかと思います。

 OLさんが、コンビニで昼食を買う場合、牛乳ではなくて乳製品のヨーグルトとおにぎり1個という取り合わせだそうです。これは、乳製品とご飯という組合せもですが、氾濫しているものの中から選択して消費されるという動向かと思います。

 牛乳の消費を伸ばすにしても、食生活全体の中での位置づけを明確にした上で、提案していく必要があると思います。

(14)飲みやすい牛乳の開発と正しい情報の普及(小西委員)

 牛乳の消費を上げるには、後味のいい(清涼感のある)もので、牛乳の成分が取れてその効能があるもの、しかも、自販機での販売のように、手に入りやすい、そういう商品が開発できればいいと思います。

 消費科学連合会では、牛乳を使った料理講習会を年に5〜6回やっていますので、そういう場で、牛乳は太るなどの誤解を解く正しい情報を知らせることが大切だと思います。


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