◎地域便り


北海道 ●アイヌに学んだオーガニック精神「あべ牛」

北海道/阿部 一雄


 
 
「あべ牛」の生みの親
阿部牛肉加工(株)社長
 阿部正春さん
   
白老牛サーロインステーキ用肉
 
白老牧場の肥育牛舎は美人揃い!?
 
 
 
 「食品を作っていると言う意識で牛を育てる」と語るのは、北海道白老町の阿部正春さん(72歳)。

 阿部さんは、「ブリーディング白老牧場」とここで育てた牛を加工するための工場を経営しており、牧場では約300頭の黒毛和種のメスを肥育している。

 阿部さんは、白老に畜産業を営む両親のもと16人兄弟の15番目として生まれた。

 当然、家は裕福とは言えず小学校もほとんど行けなかった。 

 腹が減ったり、病気になると地元のアイヌの人たちが助けてくれた。

 その時学んだ多くの知恵が、時を経た現在、牛を育てることに生かされている。オーガニックにこだわるのもそうした経験からである。

 現在、阿部さんの大きな夢は「あべ牛」と言うブランド牛の肥育経営哲学の確立である。

 「柔らかくて美味しく健康な肉をつくる。これにこだわるとおのずとメスだけの肥育になってしまいました」と語る阿部さんの牧場は食品を作っていると言う意識から、牛舎はいつも清潔でにおいがないのが自慢である。

 えさは牧草やおからと言った植物性のたんぱく質が中心であるが、最大のポイントは飲料水においている。生き物は全て水によって健康が保たれると言う信念から、天然の地下水を汲み上げて牛に与えている。それ以外はいっさい口にさせない。

 また、畜産の世界では使用が当たり前になっている医薬品などを与えない代わりに、野生動物たちが薬として食べている火山灰の間にところどころあらわれる石炭のように真っ黒な土を森から取ってきて食べさせている。食欲増進のためには、野生の木の皮を粉末にしたものを与えている。これらは全てアイヌから学んだ知識である。

 今後の目標は、オーガニックの精神を土台に北海道らしい安全で清潔な牧場経営のノウハウの構築を目指すと共に、循環型の農業化の第一歩として、肥育により発生したたい肥を現在は草地に還元しているが、これを有機肥料として店頭での販売につなげていきたいと考えている。これは牧場にとっての新たな売上の拡大と同時に、経営上の大きなコスト削減策の柱になると力強く語ってくれた。

 なお、「あべ牛」は、都内有名シェフのお店で食べることができる。また、食肉の販売は、直営加工場売店にて購入できる。

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