★ 機構から


十勝ブランドを国内外にアピール
〜ナチュラルチーズ国際交流会議、日本初開催〜

酪農乳業部 乳 製 品 課 長      野村 俊夫
調査情報部 調査情報第一課  長野秀  秀行


 ヨーロッパのコピーではない個性ある十勝のナチュラルチーズをアピールする。そのような思いから今回、ヨーロッパのチーズ工房生産者連絡会議である「ナチュラルチーズ国際交流会議(コミテ・プレニエ・フロマージュ)」が日本で初めて十勝の地に実現した。本会議は、欧州からの参加者約60人と国内生産者ら約100人が一堂に集い、生産技術の情報交換や生産者間の連携強化を図ることを目的として、6月22日から3日間にわたって開催された。「ナチュラルチーズ・コンクール審査会」(24日)、「国際ナチュラルチーズフェア in 十勝」(21〜26日)も併せて開催され、十勝ナチュラルチーズを広く国内外にアピールする試みが行われた。その会議の模様などを報告する。

会場には8カ国のチーズ関係者が集った

「コミテ・プレニエ・フロマージュ」

「コミテ・プレニエ・フロマージュ」は、ヨーロッパ4カ国(フランス、イタリア、スペイン、スイス)におけるチーズ関係者の連絡会議として、1990年フランスで発足した。欧州4カ国のチーズ関係者が参加して年2回、各国持ち回りで開催している。今回は、初のヨーロッパ域外開催であり、その地に日本のナチュラルチーズ先進地・十勝が選ばれた。会議では、フランス農商務省乳製品担当官のリポー氏ほか欧州チーズ関係者、および三上帯広畜産大学名誉教授によるチーズの生産技術に関する講演などが開催された。会議要旨は以下のとおり。

会議報告要旨

1.フランスの農家製チーズ生産者
 フランスでは、自家生産した生乳でチーズを製造する農家製チーズ生産者が存在する。フランス全体でおよそ8,000戸のうち、ヤギ乳チーズが4,000戸(ヤギ酪農家の45%)、牛乳チーズが2,500戸(乳牛酪農家の2.5%)、羊乳チーズが1,500戸の農家製チーズ生産者が存在しており、3家畜種合計の農家製チーズ生産量は55,500トンに達する。

講演・報告会(23日)

 農家製チーズは伝統的に地域市場での日銭稼ぎや自家消費用として生産されていたが、農村の過疎化を背景とした1960年代の政府の農家経営支援政策により、農家の規模が拡大し、農家製チーズ生産への特化が進んだ。
 農家製チーズ生産者は、3種類の職業を熟知しなければならない。@生乳を生産する「酪農家」、A自家生産した生乳からチーズを製造する「チーズ生産者」、B製造したチーズを自ら販売する「販売員」。これら3種類の職業を一体的に行うことで、消費者のニーズを農家生産に生かすことが可能であり、大量生産品よりも高い付加価値をつけることができる。
 フランスの農家製チーズはほとんどが直販されている。農家製チーズ生産者は消費者に直接農家へ買いに来てもらうため、消費者を農場に引きつけるさまざまな努力を行っている。農家に滞在してもらう農家民宿、農家周辺の観光ツアーや観光グルメ散策の提案などである。

2.フランスの原産地統制呼称(AOC)制度と日本の十勝ブランド
 フランスでは、法令に基づき「原産地統制呼称(AOC)制度」が定められている。AOCは、農産品の原産地呼称を公的に保護する制度で、1905年に制定された法律を基礎に確立した制度である。現在では、ロックフォール(青カビチーズ)、ブレス鶏(「畜産の情報 海外編」2005年3月号 グラビアを参照)、コニャック、アルマニャックなどの農産品が制度の認定を受けており、乳製品のAOCはチーズ42品目、バター2品目、クリーム1品目が指定されている。
 AOCは、地理的表示に公的な信頼性を与えるとともに、農産品の地理的限定性という付加価値を与えることで地域の農業保護に貢献している。2000年にAOCの認定を受けたモルビエチーズ(フランスのフランシュ=コンテ地方原産のチーズ)をみると、生産量は99年の2,300トンから2004年に6,500トンへ、事業者数も2000年の25事業者から2004年に40事業者へと大幅に増加している。その結果、酪農家の減少にも歯止めがかかっており、フランシュ=コンテ地方はAOCの認定製品を持たない地域と比べて、離農者は2分の1以下に収まっている。

分科会(24日) 

 一方、今回の会議では、フランスの一部地域の農家製チーズ生産者集団が、独自にAOCよりも緩やかな基準を設けて、「地域ブランド」を確立している事例が紹介され、AOC獲得のみが地域振興のすべてではないこともアピールされて参加者の注目を集めた。
 わが国ではフランスと異なりAOCのような制度は確立していない。そうした中、十勝では地域のラベルである「十勝ブランド」の確立に向けた自主的な取り組みを行っている。
 十勝ブランドは、99年に発足した「十勝ブランド検討委員会(委員長:三上帯広畜産大学名誉教授)」を中心に現在、調査・研究活動を行っている。ブランドのコンセプトは、生産者や加工業者が自信を持って「十勝産」を作り、消費者に安心で安全な食品を農場から食卓へと届けることとし、主要4品目(納豆・豆腐・チーズ・牛肉)を対象にブランド化の検討を進めている。(「畜産の情報 国内編」2004年7月号 地域便りに関連記事)

イベント「ナチュラルチーズ・コンクール審査会

 本会議の併催イベントとして、「ナチュラルチーズ・コンクール審査会」が6月24日に行われた。本審査会は、十勝管内では初の試みである。国内外の100人の審査員が、本場パリのコンクールジェネラルの審査基準に則って、日本国内で製造された70品目(約9割が農家製チーズ)の審査を行った。

個性的な農家製チーズが出品された
 

国産チーズを内外の審査員が審査

 審査は日本の審査員が評価して金、銀、銅の格付けを行い、欧州審査員が感想やコメントなどを出した。欧州審査員のコメントは、出品者の今後の製品づくりに役立ててもらうため、翻訳されて出品者にフィードバックされた。受賞者は以下のとおり(かっこ内は製法)。

<金賞>
共働学舎新得農場(圧搾〈自然の皮〉、加熱圧搾〈自然の表皮〉、非圧搾〈表皮カマンベール〉、非圧搾〈表皮高脂肪〉、十勝千年の森・ランランファーム(非圧搾〈ヤギ+牛合乳・炭熟成〉)

<銀賞>
雪印乳業大樹工場(加熱圧搾、フレッシュ〈牛乳+クリーム〉)、十勝野フロマージュ(非圧搾〈表皮カマンベール〉、非圧搾〈表皮240g以上〉)、明治乳業十勝工場(非圧搾〈加熱処理〉)、十勝千年の森・ランランファーム(非圧搾〈ヤギ+牛合乳・熟成〉)

<銅賞>
士幌町立士幌高校(圧搾〈チェダー風〉)、更別チーズ工房有限会社(圧搾〈風味添加〉)、雪印乳業大樹工場(非圧搾〈風味添加〉)、共働学舎新得農場(非圧搾〈風味添加〉、非圧搾〈リネンス〉、非圧搾〈牛乳・熟成風味添加〉)、十勝野フロマージュ(非圧搾〈表皮高脂肪〉)、十勝千年の森・ランランファーム(非圧搾〈ヤギ乳・熟成〉)

受賞の喜び

欧州審査員のコメント(例)
・味わいに欠点はなし。甘みを感じられた。おいしい。
・外観は良い。バターの香りを感じるが、味わうために口に入れた瞬間に酸味を強く感じる。
・食感のまとまりはよいが、熟成のバランスと味のバランスが良くない。
・塩気が多い。熟成中の温度管理が高いのでは。

イベント「国際ナチュラルチーズフェア in 十勝」

 本会議に先立ち6月21日から5日間、併催イベントとして「国際ナチュラルチーズフェア in 十勝」が開かれた。本フェアはチーズ王国・十勝を世界に発信し、物産と観光振興をアピールすることが目的とされている。

 会場は初日からにぎわいをみせ、地元の中小生産者など33社が出店した。チーズ・乳製品の展示販売会「北海道ミルク&ナチュラルチーズフェア」では、試食をしながら、好みのチーズや乳製品を買い求めることができる。輸入チーズが並ぶ「国際ナチュラルチーズ見本市」や「十勝の物産 自慢市」など特設会場が設けられたほか、「ワインとチーズのトークショー」などのイベントも行われた。

5日間で来場者2万人と大盛況

「十勝ブランド」の確立に向けて

 近年、消費者の安全・安心志向が高まっている。こうした中で、「安全」、「新鮮」を前面に出した「十勝ブランド」を確立することは、十勝のチーズ産業を守り、振興していく上で欠かせない。「十勝ブランド」の命運は十勝の生産者の熱意に懸かっている。十勝の生産者が「十勝ブランド」を育て上げ、ほかの地域が真似できないチーズ作り、ほかの地域に負けないチーズ作りに自信を持って取り組める日が来ることを期待したい。

期間中はトークショーなども行われた

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