◎地域便り


福島県 ●和牛放牧でよみがえった遊休桑園地

福島県 /高橋 信一


 「水田・里山放牧による新たな土地利用・家畜生産方式の推進のために」をテーマに、第4回全国放牧サミットが9月29日から2日間にわたり開催された。

 現地検討会場となった福島県安達郡白沢村の遊休桑園を活用した事例を紹介する。

 阿武隈山系に位置する当地は、水稲、畜産、養蚕を組み合わせた複合経営が主体で、かつては、全国有数の養蚕地帯であった。しかし、昭和60年頃を境に養蚕農家が大幅に減少し、桑園の遊休地化が目立ち始めた。遊休地化した桑園は、うっそうと枝が茂り、景観を悪くしているばかりか、害虫の発生源となるなどの問題を引き起こし、その対策が課題となった。

 現地検討会場となった白沢村の大内牧場は、24頭を飼養する和牛繁殖農家で、平成9年から自己所有地と近隣の農家が所有する遊休桑園合わせて1.51ヘクタールの放牧地造成に取り組むこととなった。

 大内さんが遊休桑園を放牧地に利用しようとしたきっかけは、「うっそうと茂った遊休桑園を何とかしたい。」という強い気持ちからで、さっそく地元の普及所に相談したところ、遊休桑園が立派な放牧場になった船引町の大森牧場を視察することになり、実際に自分の目で事例を見て、実現の可能性を確信することができた。

 タイミング良く、県畜産試験場でも放牧活用による肉用牛の生産技術開発試験に取り組むことになり、現地試験のための遊休桑園を探すために、安達農業普及所に相談したところ大内牧場が紹介され、県の指導機関が全面的に協力することになった。

 試験のテーマは、低コストで遊休桑園を放牧地に造成することで、桑の伐採、管理放牧、マクロシードペレットによる牧草播種、桑の木を活用した簡易牧柵、電気牧柵の設置などを行った結果、10アール当たりの造成費用(自力施工)は113,500円で、標準的な造成コスト130,000円に比べると10%程度抑えることができた。また、通年舎飼いに比べ、1頭当たりの飼養コストが約46%削減でき、年間労働時間も57%短縮できる結果が得られた。

 大内さんは平成13年に0.6ヘクタールの水田放牧にも取組み、牛の管理の手間が省けたことから、繁殖雌牛を6〜7頭増頭することができ、「放牧してから、牛の体調も良く、子牛が病気にかかりにくくなったし、こんなにいいものなのか。」と胸の内を語ってくれた。

 さらに、大内牧場の成果に興味を持った近隣町村の畜産農家を集めた「桑園放牧技術研修会」が、安達農業普及所主催で開かれ、当地では新たな放牧地造成が始まっている。

 
全国放牧サミットの様子(造成された遊休桑園:9月29日)
造成前の遊休桑園(大内牧場)

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