新年のごあいさつ

独立行政法人 農畜産業振興機構
理事長 山本 徹


 平成17年を迎え、新春のお慶びを申し上げます。

 昨年は台風の相次ぐ襲来、新潟県中越地震の発生など天災が多発し、日本各地に甚大な被害をもたらしました。罹災された方々に衷心よりお見舞い申し上げますとともに一日も早い復興を祈念しております。

 昨年のわが国の畜産業についてみますと、平成15年12月末の米国におけるBSEの発生、国内外における高病原性鳥インフルエンザの発生など家畜疾病が畜産物の国内需給に大きい影響を与えた年でもありました。

 米国のBSEの発生に伴う輸入停止措置により、牛肉の輸入が大幅に減少しました。このため、牛肉の生産量は、枝肉価格が堅調に推移していることから出荷の前倒しもあり前年を上回っております。また、肉用子牛の価格も肉専用種を中心として高水準で推移しました。一方、消費量は輸入量の減少により前年を下回って推移しました。

 豚肉の生産量は前年と同水準で推移しましたが、米国BSEの発生や国内外の鳥インフルエンザ発生に伴う代替需要から輸入量、消費量とも増加し、卸売価格は強含みで推移しました。

 また、鶏肉や鶏卵については、鳥インフルエンザの国内外の発生が需給に大きな影響を与えました。特に中国やタイにおける鳥インフルエンザの発生により、これらの国からの鶏肉の輸入停止措置が行われたことから、輸入量は大幅に減少するとともに、消費量も減少傾向で推移しました。わが国では山口県で昨年1月に79年ぶりに鳥インフルエンザが発生しました。大分県、京都府でも続発し卸売価格は低水準で推移しましたが、関係機関が協力して全力をあげて対策を講じた結果、終息宣言が行われた4月からは回復傾向で推移しました。鶏卵も、鳥インフルエンザの影響によりひなの導入が遅れたことなどから生産量が減少し、卸売価格は強含みで推移し、年末には14年ぶりの高値となっています。

 酪農については、生乳生産量はほぼ昨年並みと見通されています。猛暑にもかかわらず、他の飲料との競合が強まる中で、牛乳などの消費が伸びず、課題となっている脱脂粉乳の在庫量の過剰状態の解消にも至っておらず、このための実効性のある対策の推進が求められています。

 食の安心、安全についての関心が高まる中、牛肉トレーサビリティ法(「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」)のうち生産・と畜段階は、平成15年12月1日から実施されましたが、昨年12月1日からは、牛肉の流通段階も含めて法律が完全施行されました。このトレーサビリティが的確に運用され、消費者の信頼を得られるよう関係者が一体となって積極的な取り組みを行っています。

 また、家畜排せつ物法(「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」)に定めた管理基準が5年間の猶予期間を経て昨年11月に全面的に適用されました。ともすれば厄介者だった家畜排せつ物は、今後さらに環境保全や循環型農業の確立といった観点から管理の適正化を図り、資源としての有効利用の促進を図って行くこととなります。

 当機構としても畜産業振興事業の一環として畜産環境緊急特別対策事業を実施し、畜産環境問題の解決へ努力してまいりました。

 一方、国際情勢についてみますと、WTO農業交渉は、紆余曲折を経て昨年7月にドーハ・ラウンドの枠組み合意が行われました。この枠組み合意では、(1)貿易歪曲的な国内支持が多い国ほど大幅に削減を行う、(2)輸出信用を含む輸出補助金を期日を設けて撤廃する、(3)一般の品目は高関税ほど大幅に削減する階層方式を採用するが、各国が指定するセンシティブ品目は別の取り扱いを行う、こととなっています。今年は、12月に香港で開催される第6回閣僚会議に向けて具体的な数値の入ったモダリティ(国内支持、市場アクセス、輸出競争などの規律の大枠)確立に向けて交渉が行われることになります。

 2国間の貿易協定である自由貿易協定(FTA)については、日本は既にシンガポールとメキシコの間で締結しており、シンガポールとの協定は平成14年11月30日に発効し、メキシコは、本年中に発効する予定となっております。現在、タイ、マレーシア、フィリピン、韓国との交渉が進められていますが、昨年11月には、フィリピンとの交渉が大筋合意し、チリとの間ではFTAに向けた共同研究会が設置されました。

 今後ともWTO農業交渉、FTA交渉に当たっては、国内の農業改革との整合性を保つとともに、農林水産業の多面的機能への配慮、食料安全保障の確保など、各国が持つそれぞれの事情を踏まえた上での多様な農業が共存できるよう、慎重な交渉が進められるものと理解しています。

 当機構は、UR合意の国際約束に従って、乳製品の国家貿易機関として、毎年度、生乳換算数量で約14万トンのバターおよびホエイなどを着実に輸入し、需給の安定に努めているところです。

 畜産業の健全な発展のためには、良質で安心、安全な食料の供給を通じて、消費者の食に対するニーズの多様化と高度化に応えていくことが大切です。当機構はホームページ、刊行物を通じた情報提供、食に関するフォーラム、各種セミナー、消費者代表との意見交換会などをより一層充実してまいりました。

 農林水産大臣から当機構に示された業務の推進のための中期目標においては、生乳および牛肉の生産コストの2割程度の低減などを通じて、畜産物の生産の増大などに資するよう各種業務を効率的に実施することとされております。

 このため、価格安定業務、生産振興・流通の合理化・衛生・環境対策・食の安全対策などの畜産業振興事業および学校給食用牛乳供給事業の補助業務、加工原料乳生産者補給金交付業務、肉用子牛生産者補給金の交付業務、情報提供業務について、生産者・流通・加工関係者や消費者の方々のご理解とご協力を得ながら今まで以上に適正、かつ効率的に取り組んでまいります。

 当機構は、一昨年10月、農畜産業振興事業団と野菜供給安定基金が統合し、独立行政法人として発足しましたが、発足以来1年3カ月、皆様方のご支援、ご協力により、順調に業務の運営を進めることができたと考えております。改めてお礼を申し上げます。独立行政法人全体に対しましては、透明性の確保、一層の効率化などの観点から業務組織の不断の見直しが厳しく求められており、当機構におきましてもIT化の推進などによる効率的な組織業務運営に努めるとともに、時代の要請に即応した業務展開を図り、農畜産業および関連産業の健全な発展並びに国民消費生活の安定に努力してまいる所存です。

 今後とも、皆様方の格別のご支援、ご指導を賜れば幸いでございます。本年が皆様方にとって希望の持てる年となりますことをご祈念申し上げ、新年のあいさつといたします。


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