◎地域便り


熊本県 ●周年放牧技術を核とした地域畜産の振興

熊本県/猪野敬一郎


 跡ヶ瀬牧野組合は熊本県阿蘇市、阿蘇北外輪山の高標高地域に位置し昭和44年24戸の農家で設立された。草地は寒地型永年牧草が中心で年2〜3回の刈り取りを行うほか、一部を周年放牧用のASP※草地として利用している。牧野組合ではスローガンに「融和と協力」を掲げ、坂口組合長以下8名の組合員全員で牧野運営に取り組んでおり、組織としての活動は実に34年にもわたっている。

 跡ヶ瀬牧野組合は平成7年から県草地畜産研究所および阿蘇農業改良普及センターと連携して周年放牧の実証展示を先駆的に取り組み、野草の積極利用、不凍水槽の導入をいち早く行った結果、現在の同牧野組合における周年放牧体系を確立した。また、平成10年からは組合員外(入会権者以外)からの預託放牧を開始した。預託放牧を始めるに当たって、預託料の設定や牛の運搬・飼養管理の業務分担など、牧野組合の受け入れ体制整備も早く、集落内の入会権調整のモデル的事例として他の牧野組合への良き模範となっている。既に預託放牧開始から6年が経過し、預託者との信頼関係も確立しており平成16年現在で預託頭数は149頭に上る。また最近では、放牧を行わなくなった牧野を積極的に借り受けて野草乾草を収穫するなど、牧野組合間の貸し借りといった既存の入会権の枠組み再構築にも取り組んでいる。

 周年放牧の実施により得られる具体的なメリットとしては以下のようなものが考えられる。(1)牛舎での飼養管理に係る労力が軽減される(2)冬期用飼料収穫調製作業が軽減される(3)畜舎の収容頭数に余裕ができ規模拡大が可能となる(4)畜舎の堆肥の搬出作業が低減できたい肥処理のコストの削減が可能になるD子牛生産コストの低減が図られ、収益性が向上する(6)1年を通じた牧野の有効利用が図られる、特に「飼養管理の省力化」の効果が他の牧野組合へ与えた影響は大きく、組合員の規模拡大も図りながら、さらに余裕のある牧野には入会権者以外からの預託牛を受け入れ、広域放牧へ発展させてきた過程は、他の牧野組合にとって良き刺激となっている。

ASP(秋期備蓄草地)に周年放牧される褐牛

(※ASP Autumn Saved Pasture、秋期備蓄草地)

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