★ 農林水産省から


たい肥等特殊肥料の生産・出荷状況調査結果について

大臣官房統計部生産流通消費統計課
統計管理官 佐藤 正康


はじめに

 わが国の畜産は、食生活の高度化等を背景として大きな発展を遂げてきた。

 しかし、1戸当たりの飼養規模の拡大や地域における混住化の進行により、家畜排せつ物による悪臭や水質汚染といった畜産環境問題の発生がマスコミに取り上げられるなど、国民の高い関心事になってしまった。

 ところが、家畜排せつ物は、このように畜産環境問題の発生要因となる一方、土壌改良資材や肥料としての利用価値が大きい貴重なバイオマス資源でもある。このため、家畜排せつ物を適切に管理し環境問題の発生を未然に防止・軽減させたり、家畜排せつ物の利活用を促進することで、資源の有効活用を図る具体的な施策が展開されている。


 ここに紹介する調査結果は、家畜排せつ物を利用してたい肥等を生産・販売している業者の実態を明らかにするため、農林水産省統計部が平成16年11月に実施したもので、昨年6月にその概要を公表し、昨年12月にその詳細結果を報告書としたものである。

 調査は、肥料取締法に基づき都道府県知事に特殊肥料の生産業者として届出(平成15年9月1日現在)を行っている者(よって、専ら自家利用の目的で生産している者は対象外)のうち、動物の排せつ物を原料として生産している業者を対象に、平成15年11月1日〜平成16年10月31日(1年間)の生産・出荷状況(自計申告)を、回答のあった4,069生産業者(回収率84%)について集計したものである。

 なお、一般に特殊肥料には、魚かす、米ぬか、油かす、草木性植物由来のものなど多様なものが含まれるが、本調査でいう「たい肥等特殊肥料」とは、動物ふんたい肥(動物の排せつ物を原料に含み、これをたい積又はかく拌し腐熟させたもの)、動物の排せつ物(乾燥ふんなど)及び動物の排せつ物の焼却灰である。


調査結果の概要

1 たい肥等特殊肥料の生産業者

 回答のあった4,069の生産業者について業者数をみると、最も多いのが「農家」(51%)で、次いで「畜産業を営む会社」(20%)、「営農集団」(10%)の順となっている。一方、これらの業者による年間生産量は445万5,645トンで、そのうち最も多いのが「畜産業を営む会社」(37%)で、次いで「農家」(22%)、「JA等農業団体」(14%)の順となっている。

 このように「農家」は、業者数では全体の半数を占めるが生産量は2割にとどまっており、特殊肥料生産の中心は、「畜産業を営む会社」となっている。(図1)

図1 たい肥等特殊肥料の生産状況

 また、年間生産能力は、約半数(46%)の業者が「500トン未満」で、次いで「500トン以上〜1,000トン未満」(18%)、「1,000トン〜2,000トン」(16%)、「2,000トン〜5,000トン」(13%)となっている。なお、1業者当たり平均生産量(年間)は1,095トンとなっている。(表1)

 主な生産業者の特徴は、次のとおりである。

表1 特殊肥料の年間生産能力規模別割合


(1)農家

 農家は生産業者数全体の半数を占めるが、生産量の割合でみると22%にとどまっている。(図1)

 年間生産能力は63%の業者が「500トン未満」で、1業者当たり平均生産量は467トンと全体平均の4割程度である。(表1)

 生産物の仕向先は、「販売」の割合は55%と他の生産業者に比べて低くなっており、「自家の経営耕地へ還元」(22%)と「稲わら等との交換・無償譲渡」(17%)が比較的高くなっている。(図2)

図2 特殊肥料の仕向先割合

(2)畜産業を営む会社

 畜産業を営む会社は生産業者数全体の20%であるが、生産量の割合でみると37%と最も高いシェアとなっている。(図1)

 年間生産能力は「500トン未満」が29%と最も多くなっているが、「500トン以上〜1,000トン未満」、「1,000トン〜2,000トン」、「2,000トン〜5,000トン」の業者もそれぞれ20%程度あり、1業者当たり平均生産量は2,101トンと全体平均の約2倍である。(表1)

 生産物の仕向先は、他の生産業者に比べて「稲わら等との交換・無償譲渡」(22%)が高くなっている。(図2)

(3)その他の会社及びJA等農業団体

 肥料会社等のその他の会社やJA等農業団体は、生産業者数及び生産量とも全体の1割程度である。(図1)

 年間生産能力は、両者とも「2,000トン〜5,000トン」や「5,000トン以上」と比較的規模の大きい階層での割合が高いことから、1業者当たりの平均生産量は全体平均の1.6倍〜1.7倍となっている。(表1)
生産物の仕向先は8割以上が「販売」で、「稲わら等との交換・無償譲渡」等の割合は1割未満となっている。(図2)

2 生産状況

(1)生産方法

 特殊肥料の生産方法は、「たい積・切り返し」(46%)と「自動かく拌機」(41%)が多く、次いで「密閉型発酵槽」が7%、その他(「火力(天日)乾燥」等)が6%となっている。(図3)

図3 特殊肥料の生産方法別割合

 これを家畜排せつ物の種類でみると、「牛ふん尿(乳用牛)」や「牛ふん尿(肉用牛)」では「たい積・切り返し」がそれぞれ46%、72%と最も多く、その場合の製造期間は142日、194日、切り返し回数は8.0回、8.4回となっている。

 また、「豚ふん尿」や「鶏ふん」では「自動かく拌機」がそれぞれ45%、49%と最も多く、その場合の製造期間は78日、63日となっている。更に「密閉型発酵槽」での利用も牛ふん尿に比べて比較的多く(それぞれ12%、16%)、その場合の製造期間は38日、34日となっている。(表2)

表2 特殊肥料の生産方法別製造期間等

(2)特殊肥料の種類

 特殊肥料の種類は「動物ふんたい肥」が89%と大宗を占め、乾燥したまま利用する「動物の排せつ物」が10%、焼却してその灰を利用する「動物の排せつ物の焼却灰」は、わずかとなっている。(図4)

図4 特殊肥料の種類別及び副資材利用の有無別割合

(3)製造原料(動物ふんたい肥)

 たい肥化には、一般に副資材が利用される。これをたい肥生産量の大宗をしめる「動物ふんたい肥」でみると、「副資材を使用している」ものが77%となっている。(図4)

 副資材の利用は原料搬入量の約3割(重量割合)となっており、主に「チップ・おがくず」などの木質系素材の利用(特に、原料が牛ふん尿では13%〜17%)が多いが、鶏ふんでは同素材の利用は4%と少なく、「バーク」や「戻したい肥」の割合が10%とやや多い。なお、「その他」としては、生ごみ等の食品廃棄物が多い。(図5)

図5 特殊肥料の原料割合

 なお、副資材を利用している割合を動物ふんの種類でみると、牛ふん尿では非常に多く(乳用牛で92%、肉用牛で86%)なっているが、鶏ふんでは5割未満となっている。(図6)

図6 副資材利用の有無別割合


3 販売状況と課題

(1)販売と価格

 販売に仕向けられたものについて生産業者別にみると、農家や営農集団、JA等農業団体は、主に耕種農家等の個人を対象に販売しているのに対し、畜産業を営む会社等会社組織は、肥料会社や小売業者等を対象に、より広く商業ルートへの販売を行っている。(図7)

図7 特殊肥料の販売先割合

 これを販売の地域的な範囲でみると、主に個人を対象としている農家やJA等農業団体は市町村内を販売範囲としている割合が多く、これに県内他市町村を加えた県内の割合は9割を超えている。(図8)

図8 特殊肥料の販売範囲割合

 これに対し、畜産業を営む会社等会社組織は、市町村内の割合は3割未満と低い反面、県外の割合が約3割と広域に渡る販売を行っている。

 販売形態は、袋詰めのものが全体の41%で、それ以外はバラとなっている。袋詰めの割合が比較的高いのは、畜産業を営む会社(51%)、肥料会社等のその他の会社(61%)で、商業ルートへの販売を行っている業者である。(図9)

図9 特殊肥料の販売形態割合

 販売価格をみると、袋詰めでは10kg当たり「100円以上〜200円未満」が全体の45%(平均価格168円)、バラでは1トン当たり「2,000円以上〜4,000円未満」が全体の39%(平均価格3,417円)と最も多くなっている。

 なお、生産業者別には、畜産業を営む会社で袋詰め及びバラ価格とも、生産業者全体の平均価格よりも2割〜3割安い傾向にある。(表3)

表3 特殊肥料の販売価格別割合(袋詰め及びバラ)

(2)販売促進のための取組み

 販売促進のための取組みは、「完熟たい肥の製造に努めている」が約8割と非常に高く、「価格を安く設定している」、「たい肥利用者の要望やニーズの把握に努めている」、「運搬又は散布作業のサービス(有料含む)を行っている」が約4割となっている。

 これを生産業者別でみると、肥料会社等のその他の会社は他の業者と異なった傾向となっており、例えば「価格を安く設定している」では最も低く、「たい肥利用者の要望やニーズの把握に努めている」、「微生物資材などの添加剤を利用している」など、他の生産業者に比べて販売の工夫や商品の付加価値に関する項目の割合が高く、商業ルートへの販売を意識したものとなっている。(図10)

図10 販売促進のための取組み(複数回答)

(3)今後の生産意向と生産・販売上の課題

 今後の生産意向は、「生産量を維持する」が7割を占め、「生産量を増やす」が約2割となってる。「生産量を増やす」を生産業者別にみると、肥料会社等のその他の会社が約4割と他の業者に比べて突出して高い割合となっている。(図11)

図11 今後の生産意向

 また、生産・販売上の課題は、「価格が安いために採算が取れない」が5割、「施設の維持費用が高い」が4割、「販売が伸びず採算が取れない」及び「設備更新に必要な資金が得られない」が約3割と、高い割合となっている。

 これを主な生産方法でみると、自動かく拌機及び密閉型発酵槽で「価格が安いために採算が取れない」、「施設の維持費用が高い」の割合が高くなっている。(図12)

図12 生産・販売上の課題(複数回答)

(参考)自家発生の家畜排せつ物の利用状況

(1)たい肥生産に利用される自家発生の家畜排せつ物

 回答のあった4,069業者のたい肥の年間生産量は445万5,645トンであったが、これに利用された家畜排せつ物は974万4,604トンで、このうちの約75%(734万5,345トン)は自家発生の家畜排せつ物であった。(表4)

表4 家畜排せつの利用状況

 これを、家畜を飼養している者についてみると、767万8,392トンの家畜排せつ物のうち約96%(734万743トン)は自家発生の家畜排せつ物であった。

 なお、飼養規模階層別にみると、どの畜種も飼養規模が小さい階層では他から家畜排せつ物を搬入する割合が高くなっているのに対し、飼養規模が大きい階層では10%以下と低く、自家発生した家畜排せつ物を利用している割合が高い。(図13)

図13 他からの搬入した家畜排せつ物の割合(家畜飼養者のみ)

(2)自家発生の家畜排せつ物の仕向

 家畜を飼養している場合の自家発生した家畜排せつ物の仕向先としては、たい肥化等の処理を行った上で「販売」したものが67%、稲わら等との「交換・無償譲渡」が16%、「自家の経営耕地へ還元」が6%となっているほか、発電等を目的としてメタン発酵や直接燃焼する「エネルギー利用」が1%となっている。(図14)

図14 家畜排せつ物(自家発生)の仕向先割合

 なお、自家経営耕地への還元状況を単位頭羽数当たりの経営耕地規模でみると、経営耕地面積が大きくなるほど「自家の経営耕地へ還元」の割合が高く、特に乳用牛や肉用牛で顕著な傾向が見られる。(図15)

図15 自家の経営耕地への還元割合
(単位頭羽数当たりの経営耕地規模)

 


おわりに

 この調査は、大規模にたい肥を生産している業者を対象にその生産・販売状況を把握する目的で行ったものであり、(1)自給も含むたい肥の総生産量、(2)地域で発生する家畜排せつ物のうち、たい肥生産に仕向けられる量(割合)等の視点を捉えたものではないため、今後このような統計ニーズに対応した調査の実施が待たれるところである。

 なお、関連する調査として、統計部では平成11年度には「家畜排せつ物等のたい肥化施設の設置・運営状況調査」を、平成12年度には「家畜飼養者によるたい肥化利用への取組状況調査」を実施しているので、併せてご利用いただければ幸いである。

 最後に、本調査にご理解・ご協力頂いた関係者の皆様に深く感謝申し上げるとともに、この調査結果が広く関係方面に活用されることを期待してやまない。


 なお、本調査結果の概要は、農林水産省ホームページの「農林水産施策について》統計》農林水産統計データ」【http://www.maff.go.jp/www/info/index.html 】にも掲載している。

 


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