★ 農林水産省から


畜産物の表示とJAS規格について

消費・安全局 表示・規格課
課長補佐 田中 宏昭


はじめに

 私たちは、日々の暮らしの中でいろいろな情報に接しています。その中でも、食品の表示は、最も生活に密着した情報の一つと言えるでしょう。

 商品の流通が複雑化した現代社会では、生産現場と消費者との関係が希薄になりがちです。特に農産物や畜産物については、身近な人に農業関係者がいない限り、消費者が生産の現場に接することが難しいのが現状です。

 このため、消費者が商品を選択する際には、食品の外観から得られる情報だけではなく、文字や絵などから得られる追加的な情報が重要になります。食品の表示は、その価格と並んで、消費者が商品を選択する際にもっとも重要な要素の一つと言えるでしょう。

 生産者の側から見ても、食品の表示は、最終的な顧客である消費者に対して自らの商品の特性を伝えるためのもっとも身近な方法です。また、食品を販売する事業者にとっても、消費者の関心に対して適切に対応していることを示し、消費者の購買時の安心感を高めるためには、適切な表示は非常に重要なものです。

 とはいえ、表示には手間とコストがかかります。情報を提供する側にとっては、多くの場合、消費者が本当に関心をもっている情報を見極めることは難しく、また、人間が行うものである以上、表示に間違いが起こる可能性も否定できません。

 国民が安心して食生活を送るためには、安全な食品の供給に加えて、食品に関する情報がわかりやすく正確に提供されることが必要です。

 農林水産省は、消費者を重視した食品行政を進めるため、平成15年7月に組織を改変し、消費・安全局を新設しました。その発足から3年が経過しましたが、この間、食品の表示をめぐる状況はどのように変化してきたのでしょうか。

 食品の生産者、流通加工業者、販売者、消費者のいずれにとっても大きな意味を持つ食品の表示について、その現状と課題について整理してみたいと思います。


食品の表示とは

 食品の「表示」の範囲はどこまでをいうのでしょう。最近、インターネット通販で販売されていた商品の賞味期限が改ざんされていたという事件がありましたが、HPで公開されている情報も「表示」に当たるのでしょうか。

 「不当景品類及び不当表示防止法」(いわゆる景表法)では、対象となる「表示」を、「顧客を誘引するための手段として、・・・・広告その他の表示であって、公正取引委員会が指定するもの」と定義していますが、「表示」そのものが定義されているわけではありません。他の国内法にも、「表示」を明確に定義したものはないようです。

 一方、FAO/WHO合同食品規格委員会(コーデックス委員会)の「包装食品の表示に関する一般基準」によれば、「『表示』には、食品の容器・包装に記載されるものだけではなく、食品の近くに掲示され、または食品に付随して配布される、文字、写真、絵が含まれる。」とされています。

 これらから考えると、表示とは、「消費者が食品を選択する際に提供される文字や写真等の情報」と考えてよさそうです。


表示の目的

 食品の表示は、いろいろな目的で行われています。

 たとえば、アレルギー物質の表示は食品に起因する健康危害を未然に防止するためのものですし、銘柄牛の表示は消費者の購買意欲を喚起することが目的です。また、牛肉の個体識別番号を表示することは消費者の信頼の確保を目的としています。

 最近では、自主的に詳細な生産情報を表示した農産物や畜産物も販売されています。このような取り組みは、企業としての社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)を果たすべく、前向きに対応するものであり、今後も増えていく方向にあるでしょう。

 

行政による表示のルール

 行政が定める表示のルールは、表示の目的ごとに個別に定められています。たとえば牛肉について見ると、原産地は「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」(以下「JAS法」という。)、消費期限は「食品衛生法」、個体識別番号は「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」(以下「牛トレーサビリティ法」という。)により表示が義務付けられています。また、銘柄牛肉などの表示は事業者が自主的に行うものですが、このような表示に不正があった場合には「景表法」や「不正競争防止法」違反に当たります。

 このように、消費者にとって重要な情報の多くはいろいろな法律に基づいて表示が義務付けられ、また、任意で行われる表示についても不正な表示が禁止される仕組みになっているのです。




畜産物の義務表示

 まず、食品の表示のうち、すべての事業者に表示が義務付けられている事項について、畜産物を例にとって確認して行きたいと思います。

 「JAS法」では、一般消費者に販売される食品を大きく生鮮食品と加工食品に分けて、おのおの義務表示事項を定めています。畜産物のうち、食肉や鶏卵(殻付き)は生鮮食品に、牛乳やハムは加工食品に分類されます。

(1)生鮮畜産物の義務表示

 生鮮畜産物については、「JAS法」に基づき定められた生鮮食品品質表示基準により、「名称」と「原産地」の表示が義務付けられています。

 また、事前包装されたものについては、「名称」と「原産地」に加え、食品衛生法に基づき、「消費期限または賞味期限」、「保存方法」および「製造者の氏名住所」を表示する必要があります。

 さらに、牛肉については、「牛トレーサビリティ法」により、個体識別番号の表示が義務付けられています。

 なお、生鮮食品の義務表示は、小売業者だけでなく流通段階のすべての事業者が対象となっているため、表示の方法も、その業態に応じて異なっています。(ラベルによる表示のほか、小売業者ではポップ表示や箱による表示、流通業者では送り状や納品書等による表示も認められています。)

@名称

 名称については、その生鮮食品の内容を表すもっとも一般的な名称を記載することとされています。

 「JAS法」では、食肉については畜種の表示のみが義務付けられていますが、公正競争規約(業界団体が自主的に作成して公正取引委員会の認定を受けた自主ルール)に基づき、品種や部位についても表示されている場合が大半です。

A原産地

 生鮮食品の原産地は、農産物、畜産物、水産物それぞれの生産の実態を踏まえ、品目ごとに異なる方法で表示することとされています。

 畜産物については、国内産のものについては「国産」、外国産のものについては「原産国名」を表示することになります。





 生鮮食品の原産地として表示するのは、その成長過程において最も長く生育した場所です。したがって、外国から肥育素牛を輸入し、国内で肥育した場合、もっとも長く飼養された場所を確認し、正しい原産国を表示する必要があります。

 なお、畜産物の原産地については、国内での飼養期間に応じた特例的扱い(いわゆる3カ月ルール)が認められていましたが、平成17年10月以降、この扱いは廃止されました。




 また、地名を冠した銘柄畜産物において、銘柄名と原産地が異なる場合には、銘柄名だけでなく原産地を都道府県名で表示することも義務付けられました。

B消費期限または賞味期限

 消費期限は、品質の劣化の早い食品(おおむね5日以内)に記載されています。この期日を過ぎると衛生上の危害が生じる可能性が高くなることを示すものです。

 これに対し、賞味期限は品質が比較的長く保持される食品に記載されています。品質の劣化が遅いため、未開封の状態で定められた方法で保存されていれば、表示された期限を過ぎてもすぐに食べられなくなるわけではありません。15年7月までは、品質保持期限という用語も使われていましたが、現在は賞味期限という用語に統一されています。

 期限表示は、事業者が科学的根拠に基づき表示することとされています。一般に、生鮮食肉には消費期限が、鶏卵には賞味期限が表示されていますが、過熱加工用の鶏卵には、賞味期限に代えて採卵日や包装日などが表示されていることが多いようです。

C保存方法

 「要冷蔵(10℃前後)」や「4℃以下で保存」などの表示です。消費期限や賞味期限は、この保存方法が守られることを前提に示されています。

 なお、過熱加工用の鶏卵で常温保存するものについては、この表示が省略されている場合もあります。

D製造者の住所、氏名

 食肉については、一般に、加工包装業者や販売業者の名称と住所が記載されています。  鶏卵については、採卵または選別包装を行った者の氏名と施設の所在地が表示されていますが、輸入品については輸入業者の住所、氏名の表示が義務付けられています。

E個体識別番号(牛肉のみ)

 牛肉については、「牛トレーサビリティ法」により、国が一頭ごとに発行する個体識別番号を表示することが義務付けられています。この番号は、牛の生産段階から流通・消費段階を通じて一元的に記録・管理されており、独立行政法人家畜改良センターのホームページを通じて、消費者がその牛肉の品種や生産地を知ることができるようになっています。

個体識別番号は国内でと畜された牛肉にだけ表示されていますので、ごく一部の例外※1を除き、この表示がある牛肉は国産牛肉ということになります。(※1:輸入された生体牛を国内で短期間肥育した後にと畜した場合は、個体識別番号が表示されていても輸入国が原産国となります。)


(2)畜産加工品の義務表示

 牛乳やハム・ソーセージのほか、合いびき肉や味付け肉などは、畜産加工品に分類されます。

 これらについては、JAS法により定められた加工食品品質表示基準により、「名称」、「原材料名」、「内容量」、「消費期限または賞味期限」、「保存方法」、「製造者等の氏名住所」の表示に加え、輸入品には「原産国名」の表示が義務付けられています。また、生鮮食品に近い加工食品については、本年10月から「原料原産地」の表示を行うことになっています。

 これらの表示に加え、加工食品の種類により、「食品衛生法」に基づいて、「成分」、「製造方法」、「殺菌方法」などの表示が義務付けられています。

 なお、加工食品の義務表示事項は生鮮食品とは異なり、その容器および包装に一括して表示することが義務付けられています。

@名称

 生鮮食品と同様に、その内容を表すもっとも一般的な名称を記載することとされています。食品の種類によっては、「品名」や「種類別」などと表示されている場合もあります。

牛乳及び乳製品の名称については、「食品衛生法」に基づき定められた「乳及び乳製品の規格等に関する省令」(乳等省令)により、37種類に分類されています。

 また、ハムやソーセージなどの食肉加工品のうち、個別に品質表示基準が定められているものについては、基準に従って名称を表示する必要があります。

A原材料名

 原材料名については、食品添加物以外の原材料と食品添加物とに分けて、それぞれ原材料に占める重量の割合の多いものから順に記載することとされています。

 このうち、お弁当に使用するハンバーグのように、原材料として2種類以上の原材料からなるもの(複合原材料)を使用した際には、複合原材料の名称の次に括弧を付してその原材料を記載することになっています。

 また、特色のある原材料(例えば、国産農産物、有機農産物など)を使用したことを表示する場合は、その原材料の配合割合も併せて表示することとされています。

 なお、アレルギー物質を含む食品(卵、乳、小麦、そば、落花生)を原材料に使用している場合には、その旨を記載することとされています。

B内容量

 重量、体積、個数などの単位を明記して記載することとされています。ただし、計量法により、バターやチーズなどは、その重量を表示することが義務付けられています。

C消費期限または賞味期限

 生鮮食品と同様に、事業者が科学的根拠に基づき表示することとされています。多くの場合は年月日が表示されていますが、缶詰のように製造から賞味期限までの期間が3カ月以上ある商品には、年月のみが表示されている場合もあります。

D保存方法

 生鮮食品と同様、製品の特性を踏まえて「直射日光を避け、常温で保存すること」などと記載されています。

E製造者などの住所、氏名

 加工食品では、商品の表示に責任を持つ業者の氏名とその住所が記載されています。製造者名の記載が原則ですが、製造者との合意により販売者名が記載されている場合もあります。なお、「食品衛生法」では製造所の所在地などを表示する(製造所固有記号でも可)こととされています。

F原産国名および輸入者名

 輸入された加工食品には、輸入者名と原産国名が記載されています。加工食品を輸入し、国内で小袋に包装し直した場合でも、原産国名を表示する必要があります。

G原料原産地名

 国内で製造・加工された加工食品のうち、合いびき肉や味付け肉のように生鮮品に近い食品については、最大重量を占める原材料の原産国を表示することが義務付けられています。

 この表示は18年10月に完全義務化されますが、現在、消費者の関心を踏まえ、更なる対象品目の追加も検討されています。


事業者による任意表示

 食品の中には、商品の特徴をより明確に示すための表示や、その商品の品質が優れているものであることを示すための表示が行われている場合があります。このような表示は、基本的には事業者が自らの責任により行うものです。

 しかし、品質や特徴が一定の水準を満たしていることについて、政府や第三者機関がこれを認証し、その表示を通じて消費者にこれを保証する制度があります。これが食品に関する任意規格です。

 このような規格には、健康への効用のある食品についての「特定保健用食品」表示や、品質や生産の方法などに特徴のある食品についての「JAS規格」表示などがあります。

 今回は、このうち、JAS規格について説明したいと思います。


(1)JAS規格の種類

 JAS規格は、@品位、成分などの品質についての基準を定めたもの(一般JAS規格)と、A生産の方法についての基準を定めたもの(特定JAS規格)に大別されます。また、平成17年の法改正により、B流通の方法についての基準を定めた規格も新たに設けられることになりました。

@一般JAS規格

 一般JAS規格は、ハム、ベーコン、ソーセージ、冷凍食品など、個別の品目ごとに、品質を保証するための基準を定めたもので、広く国民に知られています。




A特定JAS規格

 特定JAS規格は、特別な生産・製造方法や、特色ある原材料に着目した規格です。熟成ハムや地鶏肉などには、特定JAS規格が設けられています。





 また、原則として過去2年以上化学肥料および農薬を使用していない土地で生産された農産物や、これを飼料として給与した家畜から生産された畜産物は、有機JAS規格の認定の対象となっています。

 なお、有機JAS規格を取得していない農産物への「有機」や「オーガニック」の表示は禁止されています。





 さらに、「食卓から農場まで」顔の見える食品を求める消費者のニーズに対応し、食品の生産履歴に関する情報を提供するのが生産情報公表JAS規格です。現在、牛肉、豚肉および農産物について規格が設けられています。

 たとえば牛肉の場合、この規格は子牛の生産から肥育、と畜段階までの牛の生産情報を、認定を受けた工程管理者が記録・管理し、店頭での表示やインターネットなどを通じてこの情報を消費者に提供することになっています。

 牛肉の生産情報公表JASでは、「牛トレーサビリティ法」で対象となっている情報(雌雄の別、生年月日、飼育場所など)に加え、給餌情報、動物用医薬品の使用記録などの情報も公表することとなっています。また、外国産牛肉もこの規格の認定を受けることが可能です。



 


表示禁止事項

 事業者が任意で行う表示の中には、ことさらにその商品が優良であるかのように誇張したものや、消費者の誤解を生じさせかねないものが見られます。また、定価を実際よりも高く表示した上で、値引きした価格を表示することにより、お買得商品であるかのように誤認させたりする表示もあります。

 「JAS法」では、義務表示事項として表示すべき事項の内容と矛盾する用語の表示を禁止するほか、実際のものより著しく優良であると誤認させる用語を用いたり、品質や内容物を誤認させるような文字、絵、写真その他の表示を行ったりすることを禁じています。また、牛乳以外の屋根型紙パック容器で、その上端の一部を一カ所切り欠いた表示を行うことも禁止しています。

 なお、平成18年10月以降、原産地の意味を誤認させるような表示(例えば、輸入黒豚肉を鹿児島県で加工して製造したハムに「鹿児島産黒豚ハム」と表示)を行うことは禁止されることになります。


不正表示への対応

 平成14年1月以降、食品の不正表示事件が頻発し、大きな社会問題となったことから、同年、「JAS法」が改正され、不正表示の公表が迅速化されるとともに、罰則の強化の措置が講じられました。

 現在、農林水産省では、この枠組みの下で、職員自らが不正表示の監視・指導を行っています。





 不正表示が疑われる場合、まず、農林水産省、都道府県または独立行政法人農林水産消費技術センターが、事業者に対して立入検査または任意調査を行います。

 その結果、不正表示が確認され、「JAS法」に基づく行政指導である「指示」を行った場合には、消費者への迅速な情報提供を図る観点から、事業者の同意がなくともその旨を公表することになっています。

 「指示」を受けたにもかかわらず、不正表示が改善されない場合は、農林水産大臣による「命令」が行われることになります。「命令」を受けてもなおこれに従わない場合には、「罰則」が適用されます。

 法改正以前は、個人・法人ともに50万円以下の罰金とされていましたが、改正後は個人については1年以下の懲役または100万円以下の罰金、法人については1億円以下の罰金が科されることとなり、その内容が大幅に強化されています。

 なお、不正表示に対して「JAS法」に基づく「指示」を行った事例のうち、消費者を欺くことを目的とした悪質な事例については、警察による捜査・起訴を経て、直ちに「不正競争防止法」による罰則が適用される場合もあります。



表示に関する今後の課題

 食品の表示は、消費者に対する情報提供を通じ、食品の安全・安心の確保に貢献しています。必要な情報をわかりやすく表示することの重要性は、事業者の立場から見ても明らかなことです。

 他方、表示にはコストがかかることから、このことを無視してあらゆる情報をあまねく表示するよう行政が義務付けることは適当ではありません。

 このような中、インターネット販売やカタログ販売などにおける事業者の情報提供のありかたや、商品と同時にサービスを提供する外食産業の情報提供のありかたなどは、今後も関係者が継続して検討していくべき課題でしょう。

 事業者にとって、正確な情報の記録と提供は時に新たな負担となりますが、コストで吸収できる範囲で消費者に対する情報提供を進め、購買時の安心感を確保していくことは、企業にとってきわめて重要なことです。

 確かに、多くの消費者は牛のトレーサビリティ番号をパソコンで調べてみようとまでは思わないでしょう。しかし、必要ならば調べられるという安心感こそが、生産と消費の距離が離れがちな現代社会においては、ますます大切になってくると考えられます。

 食品表示の取り組み、特に規格を含めた任意表示への積極的な取り組みは、情報を的確に受け止める賢い消費者と、顧客のニーズを常に意識する優れた生産者を育てていくための指標になるのかもしれません。




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