◎地域便り


宮城県 ● 地元の原料乳にこだわった本場オランダのチーズづくり

宮城県/岡田 明広


 丸森町は、福島県と境界を接している宮城県最南端の町である。町の南部は山がちな地形で、北部は阿武隈川沿いに開けた水田が拡がる農業地帯である。米と生乳の生産が盛んで、特に生乳は宮城県の市町村では第2位の生産量を誇っている(平成16年度統計)。

 丸森町は古くからの地域の農産物の集散の中心地で、町の観光の中核となっている斎理屋敷(さいりやしき)では、江戸時代から明治時代にかけて、地域の農産物の売買で一財をなした斎藤家の往年の姿を垣間見ることができる。

「チーズ工房丸森 ロン・ボス・カース(丸い森の家)」は丸森町の中心部から少しはずれた、酪農家の多い舘矢間(たてやま)地区の一角にある。

 岩ア 暁(いわさき さとる)さんは、7年前、日本人の生活と味覚に合うチーズづくりを目指して丸森町に移り住んで来た。彼は、大学で畜産学を修めた後、宮城県内のチーズメーカーに就職したが、大量生産と低価格を目指すメーカーの経営方針に飽き足らず、5年でそこを退職した。その後、一念発起しチーズの本場であるオランダに渡った。オランダでは、オランダ農業チーズ組合の組合長宅に住み込み、朝6時から夜10時までチーズづくりに没頭した。しかし、チーズに関しては、その伝統と歴史において一日の長のあるオランダで、一定の評価を得ることは並大抵なことではない。涙ぐましい1年あまりの研さんを経て、金銭とお世辞にはうるさいオランダで、組合長をして「私のゴーダと変わりない」、「本場に近い位置にある」と言わしめるほどにまで技術を習得した。


「日本人の食生活と味覚にあったチーズを」と代表の岩崎氏

帰国後、納得のいく原料を得るために、生産拠点となる場所を捜し続けて各地を渡り歩き、丸森町にたどり着いた。そこで、以前牛舎として使われていた建物を半年かけて、チーズ工房として改造し、使用している。

ここでは、オランダでも2〜3%しか行われていない伝統的な製法である農家チーズ製法で作られている。種類としては、ナチュラルチーズの1種であるゴーダチーズ(熟成度合いによって3種類)のほか、ストリングチーズ、デザートチーズのリコッタである。さらにほかのチーズにも新たに取り組んでいるところである。


ロン・ボス・カース(丸い森の家)の看板

「原料乳は地元舘矢間地区のものを使う」という信念の下、自分で納得のいくチーズ作りを目指しているため、決して生産量は多くなく、現在、販売先は地元の信頼できるレストランや小売店に限られている。

 質を落とすことなく、増えつつあるリピート消費者の要望に応えるべく生産量を確保することが彼の目標であり、課題である。



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