◎調査・報告


食品情報

脱脂粉乳と緑葉タンパク質との組み合わせによる
健康増進機能を高めた新しい食品の設計

京都大学大学院農学研究科 食品生物科学専攻 食品生理機能学分野
教授 吉川  正明
講師 大日向 耕作


はじめに

 牛乳はタンパク質、糖質、脂肪およびミネラルを高濃度で含有する優れた食品であることは言うまでもないが、牛乳から脂肪を除いて得られる脱脂乳または脱脂粉乳は、肥満や高脂血症を防ぐという観点からは、さらに理想的な食品と言える。しかしながら、バター生産の際に大量に派生する脱脂粉乳は十分には有効利用されていないのが現状である。そこで、牛乳および脱脂粉乳に欠けている食物繊維、ビタミンCおよび抗酸化物質をほかの食品により補うことによって、健康増進機能を高めた食品を設計し、脱脂粉乳利用の促進を図る目的で、各種緑葉粉末(茶殻、ケール粉末または大麦若葉粉末)を脱脂粉乳に添加した飼料をマウスおよび高血圧自然発症ラット(SHR)に投与した際の効果を検討した。


緑葉タンパク質

 緑葉野菜は食物繊維、ビタミンCおよび各種抗酸化物質を豊富に含むことから、健康増進機能が注目されており、通常の食品として利用されるばかりでなく、ケール粉末、および大麦若葉粉末などがいわゆる健康食品として出回っている。緑葉タンパク質の主成分であるRubisco (Ribulosebisphosphate carboxylase/oxygenase)は光合成の際の炭酸固定に関与する酵素であり、すべての植物に存在し、緑葉タンパク質の3分の1〜2分の1を占めることから、地球上で最も大量に存在するタンパク質と言われている。また、Rubisco large subunitは植物タンパク質としては例外的に理想的なアミノ酸組成を有することから、栄養価の高いタンパク資源として期待されている。われわれは、ホウレンソウRubiscoから、記憶学習増強作用を示すオピオイドペプチド(Yang S et al. FEBS Lett. 2001;509: 213-7, Yang S et al. Peptides, 2003; 24: 235-8)および、血圧降下作用を示すアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチド(Yang Y et al. J Agric Food Chem, 2003; 51: 4897-902, Yang Y et al. J Agric Food Chem, 2004; 52: 2223-5)が、消化管プロテアーゼの作用により派生することを見い出してきた。一方、各種植物は酸化ストレスから自身を守るために、様々な抗酸化物質を種特異的に含有しており、代表的な例としては、茶ポリフェノール(カテキン)や大豆イソフラボンなどがある。特に、茶カテキンは抗がん作用、脂肪低下作用、および血圧降下作用を有する素材として注目されている。われわれは、緑茶を抽出した際に、第一煎でカフェインは大部分が抽出されるのに対し、カテキンは4分の1〜2分の1しか抽出されず、Rubiscoに至っては全く抽出されないことを見出した(吉川, 第2回宇治茶健康フォーラム講演要旨集, 2000, 55-67)。今日、ペットボトルなどに充填された茶の消費量は著しく大きいが、その生産の際に派生する茶殻はほとんど有効利用されていないのが現状である。そこで、カフェインの大部分が除かれ、カテキンとRubiscoを含む安価な緑葉素材として茶殻を取り上げた。


試験結果の要約

 脱脂粉乳の生活習慣病予防機能を強化するために緑葉成分として、茶殻ペースト、ケール粉末または大麦若葉粉末を5%添加した高脂肪飼料を4週齢の雄性ddYマウスに7日間投与したところ、茶殻ペースト添加の場合にのみ副睾丸周囲脂肪重量が有意に低下した。一方、体重、血しょう中のトリグリセリド、遊離脂肪酸、血糖、コレステロールレベル、および抗酸化パラメータに有意差は認められなかった。なお、茶殻ペースト3%添加では、副睾丸周囲脂肪重量の有意な低下は見られなかった。5%茶殻ペーストに含まれているのと等量の茶ポリフェノール(カテキン)を脱脂粉乳に添加した場合にも、副睾丸周囲脂肪重量は低下したことから、カテキンが中性脂肪低下作用を担っていると考えられる。

 高コレステロール食条件下で、脱脂粉乳に緑葉成分として茶殻ペースト、ケール粉末または大麦若葉粉末を5%添加した飼料、および5%茶殻ペーストに含まれるのと等量のカテキンをマウスに7日間投与した場合に血しょうコレステロール低下作用は認められなかった。

 4週齢の雄性SHRに、カゼイン、脱脂粉乳、および脱脂粉乳に茶殻または茶カテキンを添加した飼料を8週間投与したところ、脱脂粉乳投与群ではカゼイン投与群と比較して、体重、副睾丸周囲脂肪、および血しょうコレステロールの有意な低下が認められた。脱脂粉乳に茶殻5%を添加したところ、副睾丸周囲脂肪はさらに低下した。また、脱脂粉乳への茶殻5%の添加によりSHRの成長に伴う血圧上昇は有意に抑制された。等量のカテキンのみでも血圧上昇抑制作用は認められたが、その作用は弱いことから、茶殻中のカテキン以外の成分も血圧上昇抑制に寄与していると考えられる。一方、単回投与の場合は茶殻ペーストの血圧降下作用は相当量の茶カテキン単独の作用よりも弱かった。茶カテキンは投与2時間後にのみ一過性の血圧降下作用を示したが、脱脂粉乳と同時投与することにより2時間から8時間後まで持続的な血圧降下作用を示した。従来、乳タンパク質は茶カテキンの作用を阻害すると言われてきたが、以上の結果は乳タンパク質の添加によりカテキンが作用の持続性を獲得することを意味している。


実 験

1.高脂肪食給餌マウスの脂肪蓄積に対する各種緑葉の影響(その1)

方法

 実験動物として3週齢雄性ddYマウスを使用し、4日間、固形飼料(CE-2)で予備飼育し、体重により5群に分けた。室温22℃、12時間の明暗サイクル(明期7:00-19:00)で飼育した。試験飼料はAIN93Gを基本とし、タンパク質として14%となるように、カゼインあるいは脱脂粉乳を添加した。緑葉の配合率はそれぞれ5%とし、タンパク質が14%となるように脱脂乳を配合した。なお、茶殻ペーストの凍結乾燥品のタンパク質含量は25%、ケールは4.6%、大麦若葉は24%である。脂質は、大豆油7%および精製ラード15%を添加し、脂肪由来の熱量が全熱量の約45%の高脂肪食を作成した。試験飼料を7日間与え、3時間絶食した後に、採血・解剖し、分析に供した。なお、有意検定はStudent t-testを用いて脱脂粉乳摂取群と比較した。

結果および考察

 群飼育のため積算摂食量の有意検定は行っていないが、脱脂粉乳+茶殻ペースト群の積算摂食量は脱脂粉乳摂取群の90.4%で、そのほかの緑葉摂取群は脱脂粉乳摂取群に近い値を示した(表1)。体重増加量は群間に有意差は認められなかった(図1-1)。体重1グラム当たりの副睾丸周囲脂肪重量は、緑葉摂取群の中で、脱脂粉乳+茶殻ペースト群のみが脱脂粉乳群と比較して有意に低い値を示し(図1-2)、茶殻ペーストが抗脂肪蓄積作用を示すことが明らかとなった。

表1 積算摂食量に対する影響

図1-1 体重変化

図1-2 副睾丸周囲脂肪

2.高脂肪食給餌マウスの脂肪蓄積に対する茶殻の影響(その2)。

方法

 1の結果より、各種緑葉のなかで茶殻のみが抗脂肪蓄積作用を示すことが判明した。そこで、以下では茶殻の抗肥満作用の用量依存性について検討した。茶殻および茶殻ペーストを使用し、それぞれを3%および5%添加した試験飼料を作成した。1と同様に大豆油7%および精製ラード15%を添加し、脂肪由来の熱量が全熱量の約45%の高脂肪食とした。試験飼料を7日間与え、3時間絶食した後に、採血・解剖し、分析に供した。また、血中の抗酸化力と酸化ストレスをフリーラジカル分析システムを用いて測定した。

結果および考察

 積算摂食量は茶殻および茶殻ペーストの添加により低い値を示したが、茶葉の種類による違いは認められなかった(表2)。体重増加に関しては、1と同様に、脱脂粉乳摂取群との有意差は認められなかった(図2-1)。体重1グラム当たりの副睾丸周囲脂肪重量は、茶殻および茶殻ペーストの添加量が3%では有意な低下は認められなかったが、脱脂粉乳+茶殻ペースト5%群および脱脂粉乳+茶殻5%群では有意に低下した(図2-2)。副睾丸周囲脂肪重量も茶葉の種類による違いは認められなかった。茶殻ペーストのほうが粒子が細かく、簡単に飼料へ添加できるため、以下の実験3、4、6および7では茶殻ペーストを用いることとした。血しょうトリグリセリド、遊離脂肪酸、血糖値、コレステロールを測定したが、脱脂粉乳群との有意差は認められなかった(図2-3〜6)。緑茶にはカテキンなど抗酸化物質が含まれているため、FRAS4を用いて酸化ストレスと抗酸化力を測定し、茶殻が抗酸化作用を示すか否かを検討した。酸化ストレスは、血中のヒドロペルオキシドは鉄を触媒としてラジカルを発生するが、このラジカルとN,N-ジエチルパラフェニレンジアミン(呈色物質)との反応を利用して測定している。一方、抗酸化力は添加した三価の鉄イオンをどの程度還元できるかを計測している。本実験条件では、抗酸化力および酸化ストレスは、群間に差は認められなかった(図2-7、8)。
マウスではアスコルビン酸を合成できるなど、酸化ストレスに対して抵抗性を有しているため、今後、酸化ストレスを負荷した条件での検討などが必要と思われる。

 以上の結果より、脱脂粉乳を含む高脂肪食に茶殻を5%添加した場合に、抗肥満作用を示すことが明らかとなった。そこで、次に、その作用機構を解明する一環として、緑茶ポリフェノール(カテキン)の脂肪蓄積に及ぼす影響を検討した。

表2 摂食量

図2-1 体重変化

図2-2 副睾丸周囲脂肪


図2-3 血しょうトリグリセリド
図2-4 血しょう遊離脂肪酸


図2-5 血糖値
図2-6 血しょうコレステロール


図2-7 抗酸化力
図2-8 酸化ストレス

3.高脂肪食給餌マウスの脂肪蓄積に及ぼす茶殻ペーストおよび茶ポリフェノールの影響

方法

 緑茶に含まれるポリフェノール(カテキン)が脂肪蓄積抑制作用を示すことから(Murase T etal. Int J Obes Relat Metab Disord. 2002; 26(11):1459-64)、茶殻ペーストの脂肪蓄積抑制の作用機構を解明する一環として、茶殻ペーストと茶ポリフェノールの脂肪蓄積に及ぼす影響を比較した。茶殻ペースト凍結乾燥品のポリフェノール含量は15.6%であり、茶殻ペースト添加飼料中には0.78%の茶ポリフェノールが含まれている。サンフェノンBG(ポリフェノール含量91.3%)を0.854%添加し、茶殻ペースト添加飼料に相当するポリフェノールを含む試験飼料を作成した。同様に7日間飼育した後に、解剖・分析に供した。なお、個々のマウスの摂食量を測定するため、本実験では個別飼育とした。

結果および考察

 積算摂食量は群間に有意差は認められなかった(図3-1)。これまでの実験結果と同様に脱脂粉乳+茶殻ペースト群の体重増加量は脱脂粉乳群と有意差は認められなかった(図3-2)。また、脱脂粉乳+茶ポリフェノール群においては有意な低下が認められた。体重1グラム当たりの副睾丸周囲脂肪重量は、脱脂粉乳+茶殻ペースト群では低下する傾向を示したが、今回の検討では有意差はなかった(図3-3)。また、脱脂粉乳+茶ポリフェノール群では有意に低い脂肪重量を示し、脱脂粉乳+茶殻ペースト群よりもさらに低い値であった(図3-3)。摂食量に有意差がないにもかかわらず、茶ポリフェノール単独で脂肪蓄積抑制作用を有することから、茶殻の抗肥満作用はポリフェノールによるものであると推察できる。また、脱脂乳+ポリフェノール群のほうがむしろ強い抗肥満作用を示したことから、ポリフェノールそのものと比較して、茶殻に含まれるポリフェノールの利用率が低い可能性が考えられる。茶ポリフェノールは肝臓のβ酸化を促進し、抗肥満作用を示すことから(Murase T et al. Int J Obes Relat Metab Disord. 2002; 26(11):1459-64)、茶殻による脂肪蓄積抑制作用も同様の作用機構によるものと考えられる。

図3-1 摂食量の変化

図3-2 体重変化

図3-3 副睾丸周囲脂肪重量

4.高血圧自然発症ラット(SHR)の血圧に及ぼす茶殻の影響(長期投与実験)

方法

 4週齢の雄性SHRを、固形飼料で予備飼育した後に、試験飼育を開始した。茶殻乾燥物のポリフェノール含量は12.0%であり、脱脂粉乳+茶殻5%の精製飼料には0.60%のポリフェノールが含まれる。脱脂粉乳+茶殻5%と等量のポリフェノールを含む飼料をサンフェノンBGを用いて作成した。タンパク質が14%となるように、カゼイン、脱脂粉乳、茶殻の配合率を決定した。週に1回、血圧と体重を測定した。なお、血圧はMK-2000を用いて、Tail cuff法で測定した。8週間の飼育期間の後、先の1〜3の場合同様に、副睾丸周囲脂肪、血しょう中のトリグリセリド、遊離脂肪酸、およびコレステロールを測定した。

結果および考察

 脱脂粉乳+茶ポリフェノール群の8週間の積算摂食量は、脱脂粉乳群の87.4%と低い値を示したが、ほかの群は同程度であった(図4-1)。体重はカゼイン群で有意に高い値を示したが、ほかの群間では差は認められなかった(図4-2)。収縮期血圧は、脱脂粉乳+茶殻5%群の飼育2および4〜8週目において脱脂粉乳群と比較して有意に低い値を示した(図4-3)。さらに、飼育5および7〜8週目において脱脂粉乳+茶殻3%群が、飼育7〜8週目において脱脂粉乳+茶ポリフェノール群が有意な血圧低下を示した。これらの群の中で脱脂粉乳+茶殻5%が最も強力な血圧上昇抑制作用を示し、8週目では42 mmHgの血圧低下が認められたのに対して、茶殻5%に相当する茶ポリフェノールを含む脱脂粉乳+茶ポリフェノール群の血圧低下は21 mmHgであり、脱脂粉乳+茶殻5%の半分程度の血圧低下作用であった。したがって、茶殻の長期投与による血圧上昇抑制作用には、茶ポリフェノール以外の成分、例えば、Rubiscoの消化によって派生するアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドなども関与していると推察できる。

 脱脂粉乳投与群ではカゼイン投与群と比較して、副睾丸周囲脂肪の有意な低下が認められ、茶殻5%の添加によりさらに低下したが、図3-3の場合と異なり、相当量の茶ポリフェノールでは効果が認められなかった(図4-4)。なお、血しょうコレステロールは、脱脂粉乳投与群がカゼイン投与群より低い値を示したが、(図4-7)茶殻および茶ポリフェノールを添加しても変化しなかった。

図4-1 摂食量

図4-2 SHRの体重変化

図4-3 血圧に及ぼす茶の長期摂取の影響

図4-4 体重100グラム当たりの副睾丸周囲脂肪量

5.自然発症高血圧ラット(SHR)の血圧に及ぼす茶殻ペーストペプシン消化物および茶ポリフェノールの影響(単回投与実験)

方法

 茶殻ペーストを脱塩水で希釈し、pH2.0に調製し、ペプシンで消化したものを凍結乾燥した。乳糖の効果を除くために、脱脂粉乳は透析後、凍結乾燥したものを用いた。これらを実験当日に生理的食塩水に溶解し、胃ゾンデを用いてSHRに経口投与した。血圧は、長期投与の実験と同様にMK-2000を用いて測定した。

図4-5 血しょうトリグリセリド濃度

図4-6 血しょう遊離脂肪酸濃度

図4-7 血しょうコレステロール濃度

結果および考察

 茶殻の長期摂取により血圧上昇抑制作用が認められたので、次に、茶殻ペーストの単回投与による血圧に対する影響を検討した。なお、この場合、胃ゾンデにより投与するため、まず、ペプシン消化した茶殻を、長期投与実験の茶殻5%群の一日の摂取量の10分の1量に相当する0.5グラム/キログラムしか与えられなかった。その結果、茶殻ペースト消化物の単回投与により2時間後に収縮期血圧が有意に低下した(図5-1)。さらに、茶殻ペースト消化物と同じ量の茶ポリフェノールを経口投与したところ、有意な血圧降下作用が認められ、その作用は茶殻ペースト消化物よりも強力であった。したがって、単回投与実験では茶葉の血圧降下作用は主に茶ポリフェノールによるものと考えられる。茶殻ペースト消化物の血圧降下作用が相当量の茶ポリフェノールよりも劣った原因としては、短時間では体内における茶殻からのポリフェノールの溶出が十分でないことによるものと考えられる。

 従来、茶と乳を一緒に摂取すると、茶ポリフェノールと乳タンパク質が速やかにコンプレッスクを形成し、ポリフェノールの作用が抑制されると考えられてきた(Langley-Evans SC. Int J FoodSci Nutr. 2000; 51(5):309-15)。しかしながら、SHRを用いた長期投与実験において、脱脂粉乳と茶殻を摂取した場合に血圧上昇抑制作用が認められたことから、乳タンパク質存在下でも茶ポリフェノールの血圧低下作用が阻害されない可能性が考えられる。そこで、脱脂粉乳と茶ポリフェノール混合物の血圧に対する作用を検討した。ポリフェノール単独投与群では、投与2時間後に最も血圧が低下し、その後、上昇に転じた(図5-2)。一方、脱脂粉乳+茶ポリフェノール投与群では、投与2時間後から8時間後までの持続的な血圧降下作用を示し、一過性の血圧降下作用を示した茶ポリフェノール単独投与群とは異なる血圧降下パターンを示した(図4-5)。したがって、乳タンパク質は茶ポリフェノールの血圧降下作用を阻害するのではなく、その作用を遅延するとともに持続性を付加することが明らかとなった。

 カテキンは、ほかの配糖体型のフラボノイドと比較すると血中濃度が最大になる時間が早く、健常者がエピガロカテキン100ミリグラムを摂取すると1〜2時間後に血しょうの遊離型エピガロカテキンは最大濃度を示し、その後漸減して、12時間後にはほとんど血中から消失すると報告されている(宮澤陽夫「食と生活習慣病」昭和堂186-199)。この報告は、茶ポリフェノール群が投与後2時間で最大の血圧降下作用を示した結果と一致している。茶ポリフェノールと乳タンパク質を同時に摂取することにより持続的な血圧低下作用が認められたことは、脱脂粉乳の有効利用を考えるうえで極めて有用な情報と言える。

図5-1 血圧に対する茶殻ペースト
および茶ポリフェノール単回投与の影響

図5-2 茶ポリフェノールの血圧降下作用に対する
脱脂粉乳の効果

6.マウスの学習能に及ぼす茶殻ペーストの影響

方法

 3週齢の雄性ddYマウスに茶ペースト5%および10%を含む試験飼料を3日間与え、ステップスルー型受動的学習実験装置を用いて学習能を測定した。

結果および考察

 茶殻ペースト10%群において、Step through latencyがコントロール群と比較して上昇し、学習能が増加する傾向が認められたが有意差には至らなかった。茶殻ペースト10%投与群では摂食抑制が無視できないので、長期投与はできなかったが、今後、最適条件を選んで実験を行う必要がある。

図6-1 マウスの学習能に及ぼす茶殻ペーストの影響


おわりに

 以上、脱脂粉乳の利用促進を図る目的で、脱脂粉乳に対する各種緑葉製品の添加効果を検討したところ、茶殻または茶殻ペーストを添加した場合にいくつかのパラメーターの改善が見られた。

 マウスを茶殻ペーストを5%添加した飼料(脱脂粉乳:茶殻= 7 : 1)で1週間飼育した場合に、体脂肪低下作用が認められた。この作用は主にカテキンによるものと考えられる。

 自然発症高血圧ラットを茶殻5%を含む飼料で2カ月間飼育したところ、成長に伴う血圧上昇が有意に抑制された。この場合は茶殻中のカテキン以外の成分も関与していることがわかった。単回投与の系では、茶殻ペーストよりカテキンの方が顕著な血圧効果を示した。カテキン単独の血圧降下作用は2時間しか持続しないが、脱脂粉乳と同時に投与することによって8時間後も血圧降下作用を示すようになった。従来、茶カテキンはタンパク質を凝集させると同時に、カテキン自身も不溶化するため、茶と牛乳の組み合わせは良くないとされてきた。しかし、今回の研究により、短時間しか持続しないカテキンの作用が、乳タンパク質との同時投与により、長時間の持続性を獲得することがわかった。このことは、脱脂粉乳とカテキンまたは茶との組み合わせが、脱脂粉乳の有効利用のみならず、カテキンの有効利用にもかなっていることを意味している。

 


「調査・報告」の詳細については、(社)日本酪農乳業協会ホームページ(http://www.j-milk.jp/)の酪農乳業関連情報をご覧ください。

 


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