◎ 専門調査レポート


担い手

「ゴミを宝に」
資源循環型町作りに取り組む市民グループ
北海道「美唄スターダストクラブ」の活動

日本大学生物資源科学部 教授
小林 信一

1.食品残さを郷土の特産物(鶏卵・鶏卵製品)に

 「ゴミを宝に」を合言葉に、食品残さを飼料化して採卵鶏を飼い、その卵で地域の特産物を作り上げるという資源循環型町作り活動を行っているスターダストクラブは、平成10年に市内に在住する、あるいはかつて在住したことがある市民7名によって設立された。メンバーは農業経営者、大学教授、医師、病院事務局長、市会議員、ガーデニング工事会社社長、スナック経営者と多種多様だが、団塊の世代であるという共通点を持つ。その設立の動機は純粋に「地域に貢献したい」、「地域を良くしたい」という思いであった。設立当時、ごみ焼却に伴うダイオキシンの発生問題や地域のごみ処理場問題などがあり、また当クラブ会長が以前から家庭ゴミを使ったたい肥化に関心を持っていたことなどから、食品残さを有機質資源として活用する地域内循環システムの構築を目標とすることになった。設立当初は会の名称も「有機物資源の地域内循環を目指す会」であったが、「ゴミは宝」という考えをより端的に表わすものとして、「スターダストクラブ」(ゴミをスターに!)と改称している。


残さ飼料による養鶏に取り組む面々

 グループ設立後は、月1回の定例会での勉強や長井市(山形県)のレインボープランなどの先進地視察を行い、平成11年にフォーラムを開催して、美唄∞字型循環社会を提案している。∞字の2つの輪は、食品残さをたい肥と飼料としてそれぞれ循環的に利用するという考えを表わしており、「無限」にということも同時に意味している。定例会は現在までに100回以上に及んでおり、毎回の議事録を編集した報告書も出版している。また、フォーラムも3回開催するなど、一歩一歩着実に市民に自分たちの活動や目標を伝える努力を行ってきた。こうした地道な活動が、後に述べるような幅広い市民によるバックアップの背景となっている。


2.炭鉱の町「美唄」

 「びばい」はアイヌ語で、「ピパオイ」(カラス貝の多い所)から来たといわれている。美唄市は北海道の石狩平野のほぼ中心に位置し、西側を石狩川が流れ、中央をJR函館本線と国道12号線が通る交通の要衝である。現在は札幌へJR特急で37分、旭川へも51分の距離で、札幌へは通勤圏となっている。

 美唄の歴史は、明治19年に最初の移住者を迎え入れた時に始まった。20年には沼貝村となり、24年6月には屯田兵第1次100戸が国道沿線に入植し、屯田兵は以後27年の第4次まで続いた。この年の戸数は230戸、人口1,087人となっている。その後も農場の開設が続き、明治42年4月には一級町村制が施行され、戸数2,108戸、人口12,548人にまで増えている。

 しかし、美唄を有名にしたのはやはり炭鉱の町としてで、すでに明治7年にはライマン調査隊がビバイ・サンケビバイ炭田測量調査を行っている。大正2年に徳田炭鉱(後の新美唄炭鉱)や飯田美唄炭鉱(後の三菱美唄炭鉱)が、その後も、沼貝・錦旗・市川・上村・日石光珠などの中小炭鉱が続々開鉱された。5年7月には国鉄茶志内駅が開業し、9年10月の第1回国勢調査では、6,409世帯、人口32,321人と全国最大の村となった。15年には町名を美唄町と改称している。

 昭和期に入っても、炭鉱の町として発展を続け、昭和25年には市制施行により道内15番目の市として美唄市が誕生している。しかし、戦後はエネルギーの転換により炭鉱の閉山が相次いだ。38年に三井美唄炭鉱が閉山され、42年には三菱茶志内鉱、上村炭鉱、47年(三菱)美唄炭鉱と次々に閉山した。48年に三美炭鉱、北菱我路炭鉱が閉山し、この年で市内の全炭鉱が坑口を閉ざした。人口も昭和31年の世帯数17,139、人口92,150人をピークに減少に転じ、現在の人口は29,664人(平成17年2月末現在)と、往時の1/3以下にまで減ってしまっている。炭鉱の町の衰退という歴史的背景も、町おこしの強烈なエネルギーの一因になっているに違いない。


3.スターダストクラブの活動内容

 美唄スターダストクラブが現在行っている活動内容は、前述したように市内の病院や学校給食センターなどの食品残さを飼料化して、鶏卵の生産加工販売を行うという地域内循環システム作りである。当初は食品残さのたい肥化を優先させていたが、まず飼料化を実現させようということになり、平成14年に美唄市から補助金100万円を得て、養鶏モデル事業として食品残さを用いた鶏卵生産を開始した。

 鶏を選んだ理由は、まず「とりめし」、「焼き鳥」が美唄の特産品であり、地場産業振興に通じるということであった。「とりめし」は明治期に開拓された美唄市中村地区に古くから伝わる伝統料理で、お客をもてなすご馳走だったといわれている。今回の調査の折に、その中村地区の方が作ってくださった「とりめし」を味わう機会を得たが、しょうゆ味の鶏肉の炊き込みご飯で、素朴な味が郷愁を誘う。また、美唄の歓楽街には数多くの焼き鳥屋がある。「美唄やきとりMAP」と称する焼き鳥屋を紹介したチラシも配られているほどだ。焼き鳥屋は、かつて炭鉱の仕事を終えた人々のくつろぎの場として人気の場所だった。そして、今でも美唄の人々は、よく焼き鳥を酒のさかなやおかずとして愛好している。焼き鳥はどこにでもあると考えられがちだが、美唄の焼き鳥はわれわれがなじんでいるものの倍ほどの大きさで、1串に肉もモツも一緒になっており、その迫力には炭鉱の男の迫力を感じる。


美唄市の名物「とりめし」

ビニールハウスの鶏舎での平飼い

 また、鶏を選んだこのほかの理由としては、ふん尿処理が比較的容易であること、鶏は異物を除きながら食べることから、安全性が高いと判断したことなどであるという。鶏種についても、当初は白色レグホンだったが、その後ロードアイランドレッドや、シャモ、北海地鶏などの試験飼育などによる検討を行い、現在ではフランス産の赤玉卵イサブラウン種を飼養している。この鶏種に落ち着いた要因は、十勝地方のリサイクル養鶏先進事例であった「知的障害者更正施設清水旭山学園志農塾」の影響もあった。

 飼養方法は平飼で、有精卵を生産しているが、鶏舎は林の中のビニールハウスを利用している。これは、経費を掛けないための工夫でもある。鶏舎は2棟あり、どちらもビニールハウスで、大きい方の棟には約400羽のイサブラウン種が飼われており、うち300羽は450日齢でそろそろ廃鶏にする時期の鶏であった。もう一つの鶏舎にはイサブラウン種と新たに飼うことになったボリスブラウン種が200羽飼養されていた。積雪地方なので、ビニールハウスで大丈夫かという危惧はあったようだが、現在までのところ問題はないという。敷地は市有地である樹木の苗畑の一部300坪ほどを、電気・水道代のみ実費支払で、土地は無償で借りている。

 利用する食品残さは病院、給食センター、自衛隊、福祉施設などの調理残さや食べ残しのほかに、おから、あるいはAコープからの魚のあら、もみがらなども含まれる。しかしその中心は病院の食べ残しである。病院から出る残飯は、異物、特に薬などの混入の危険性が指摘されているが、この病院の事務局長がスターダストクラブの会員であり、クラブが提唱する「水分を少なく」(Dry)、「不純物を入れない」(Pure)、「新鮮なものを用いる」(Fresh)というDPF運動(第2回フォーラムで提唱)を順守してくれているので、問題はないという。


表1 食品残さの投入量と飼料製造量(1日当り平均)(平成17年7〜9月)

 飼料化の手順は、食品残さを朝晩2回回収し、飼料製造機に発酵菌とともに投入し、雑菌が死滅する70℃で10時間程度加熱する。さらに10時間程度のクールダウンを経て、投入した食品残さの3分の1程度の量の発酵飼料ができあがる。投入されるのは食品残さだけではなく、栄養分や増量のため、イモ、ぬか、配合飼料などが加えられている(表1)。例えば、昨年9月28日のケースでは、食品残さ162キログラムにイモ13キログラム、ぬか20キログラム、配合飼料1キログラムを混ぜ、合計196キログラムを飼料製造機に投入し、10時間加熱、10時間クールダウン後に取り出し、69キログラムの飼料を生産している。飼料の栄養価も、専門機関に依頼して分析してあり、それによると水分率21.9%、乾物中粗タンパク質20.6%、でんぷん13.2%、粗脂肪9.6%などとなっている。


食品残さの飼料

飼料製造機

 飼料分析や生産した鶏卵の分析も行っており、鶏種選択などのプロセスを含め、極めて科学的でち密な手順を踏んでいることに感心させられる。


4.スターダストクラブの活動を支えるネットワーク

 この循環システムに関わっているのは、残飯を提供する市内の病院や学校給食センターなど、次に残飯の収集と飼料化、および採卵鶏の飼養を行う知的障害者自立支援施設、そして生産された鶏卵を使って和菓子やプリンを生産販売している地元の菓子店・ケーキ店などである。スターダストクラブ自体は、現在はコーディネート役に徹しており、市内のさまざまな関係者の参画、協力によって地域内循環システムが作り上げられている。草の根の市民グループが、ネットワークの中心的な存在となっている点が、この事例の最大の特徴と言えるだろう。(図1)


図1 美唄スターダストクラブによる地域内循環システム

 こうした多くの人々、組織の協力は、メンバーのそれぞれのつながりやフォーラムの開催によって、徐々に作り上げられてきた。例えば、飼料製造機は十勝地方で食品残さを原料に養鶏を行っている前述の旭山学園志農塾が中古品を譲ってくれ、また市が補助金給付以外に鶏舎の用地を貸与してくれた。さらに、知的障害者自立支援施設である(社)北海道光生会共練寮が、残飯回収、飼料製造、鶏の飼養などの実作業を引き受けている。実際、実作業を障害者の人たちが担ってくれることになって、この循環システムが実現に向かって大きく動き出した。

 共練寮の69名(うちかよい19名)の障害者は、自立を目指して市内の事業所で働いたり、施設内で活動を行ったりしている。このうち平日は5名ほどが、土日は2名が職員2名とともに養鶏作業に従事している。午前中は9時15分から2時間半ほど食品残さの回収、飼料給与、採卵、除ふん、修理などを行ない、午後は1時半から2時間少しを作業に当てている。こうした養鶏作業を行うことで、障害者の自立に役立てようというわけである。美唄市は福祉都市を標ぼうしており、市内には多くの福祉施設が存在することや、十勝の旭山学園志農塾の先駆的な活動も、福祉施設がこのシステムに参画した契機となっている。平成17年4月からは、共練寮がスターダストクラブから養鶏事業の経営権を譲られ、経営主体となっており、17年に購入した素ひな代は共練寮が支払っている。

 また、毎日約300羽の鶏が産む約210個ほどの卵は当初鶏卵として販売していたが、平成16年からは地元のケーキ店「ヤマシタ」が当該卵をスターダストプリンとして加工販売し、人気となった。翌17年には和菓子店「かいや」が地元に飛来するマガンにちなんで「マガンのたまご」を、さらに新しくスターダストクラブのメンバーになった市内の製めん業者が、地元の米粉と合せてめんなどに加工販売するようになっている。ゴミが地元の名産に生まれ変わったわけである。


人気の「スターダストプリン」

銘菓「マガンのたまご」

 マガンは平成17年に市制施行50年を記念して、市の鳥となっている。美唄には国内で13番目のラムサール条約登録湿地である「宮島沼」がある。この沼はわずか30ヘクタールの広さしかないが、カモ、ハクチョウ類、マガンの渡来地として世界的に有名だ。特にマガンは、生まれ故郷のロシア極東地域と、越冬地である宮城県などの間の渡りを行うが、宮島沼には旅の中継地として春と秋の年2回、日本で越冬するマガンのほとんどに当たる約6万羽がやってくる。

 「マガンのたまご」(1個80円)は、スターダストクラブの卵と地元の米粉を使っているが、開発した菓子店のご主人の話では、1カ月ほどの試行錯誤の末、まずマガンの卵を見たことがなかったので役場にも協力してもらい、また米粉を使うところから、甘さなどに工夫を凝らしたという。共練寮の卵はコクがあり、黄色が薄いので本物のマガンの卵のように仕上がったと自信を持つ。月に100個ほど作るが、ホワイトチョコレートで包んでいるので、夏よりマガンが飛来する冬に良く売れるそうだ。ちなみに、黄身は「マガンのたまご」に使い、白身は焼き菓子「びば」に使っているとのことだった。

 また、「スターダストプリン」(1個160円)は平成17年2月ごろからテレビや新聞などが相次いで報道したために売れ行きが良くなり、現在では店頭売りが6割で、残りの4割はゆうパックによって全国に宅配されている。現在は1日134個のプリンを作っているが、これはオーブンの容量のためでもあるが、労力的にもこれ以上はできないところまで人気が高まっている。実際にほかのケーキ類に手が回らなくなってきており、ショーウインドーにも空きが見られた。ヤマシタでは現在プリンなどのために1日100個の卵を購入しており、これは生産された卵のほぼ半数に当たり、大きな供給先となっている。ちなみに地元の産品を使った商品としては、「スターダストプリン」より先に、地元産米粉を使用した「米米ボーイ」(ハスカップジャムとクリームを挟み込んだ焼きケーキ)やハスカップを使ったハスカップサンドなどもある。


5.スターダストクラブの意義と今後の課題

 スターダストクラブの以上のような活動は、さまざまな意義を持っている。一つには、もちろん地域内の資源循環システム作りに取り組んでいる点だ。しかもリサイクル率が低い残飯の飼料化を行っていることだ。二つ目は、市民がこのシステムを作るために協力関係を作り上げていることであり、またそのネットワークの形成に主体的にボランティアグループであるスターダストクラブが関わっている点である。そしてさらに、第3点目として障害者の自立に向けて、家畜飼養が活用されていることも特記されよう。

 しかし、同時にいくつかの課題も抱えている。まず現在は飼料製造機の能力の限界により鶏の飼養羽数が少なく、常時300羽飼養にとどまっている点がある。産卵率は70%程度で、鶏卵の販売単価は20〜25円なので、粗収益は年間150万円程度、コストは施設費や飼料費は抑えられているものの、飼料製造機の燃料費がかさみ、労働報酬としては全体で年間5万円程度にとどまっている。(図2)食品残さは、無料で回収しているが、旭山学園では課金しており、この点も収益を低めている要因となっている。

 

                    図2 飼養羽数と産卵率 (平成17年7月〜9月)
       


 

 この循環システムはゴミの循環的利用だけではなく、障害者の自立に向けた雇用創出という目的も持っており、この点は全国的にもユニークで先進的である。しかし、実際には従事者1人当たり数千円を配分できているにすぎず、とても雇用とまでは言い難い。施設側も障害者の自立支援のための福祉就労と位置付け、素ひな購入も訓練教育費から支出している。

 スターダストクラブ自体は、今後の地域内循環利用の拡大と雇用創出を図るために、5,000羽規模の養鶏への拡大を目標として掲げている。その際の課題としては、飼料原料となる残飯や調理残さは確保の見通しが立っているものの、1,000万円以上の飼料製造機の購入をはじめ、生産された鶏卵の販路確保などの問題が山積している。

 市民ボランティアによるこうした活動の大きな問題は、事業化するときの経営主体である。だれが、経営のリスクを負うかという点があいまいになれば、経営的自立は望めない。美唄のケースでは、前述したように経営主体は養鶏を実際に行っている共練寮に移行しており、その点は明確である。しかし、障害者施設がこうした大きなリスクを単独で負うことは実際には困難であろう。その際には、スターダストクラブとしてどのように経営に関与するのだろうか。また行政が、市内の食品残さの処理・利用という公的な意味を持つこの活動に対して、積極的な支援を行うか否かも、事業化の成否に影響を与えるだろう。

 さらに言えば、リサイクルそのものに関わることも大きな課題といえるかもしれない。平成12年6月循環型社会形成推進基本法が制定され、あるべき姿として示された循環型社会だが、実はリサイクル自体はさまざまな矛盾もはらんでいる。例えば、危険物混入の矛盾と呼ばれるものがある。これは例えば食品残さ中に何らかの危険物が混入した場合、たい肥や飼料を通して、最終的には人間が濃縮された危険物のろ過装置となってしまう危険性を指摘している。この危険性を避けるには、リサイクルの意義を関係者がよく理解し、分別収集の徹底を図ることが最低限必要である。スターダストクラブの例では、例えば病院の残飯は関係者の協力で分別の徹底化が図られているようだが、突き詰めれば、食品残さを排出したところでリサイクル利用がなされるなど、できるだけ狭い範囲での循環が望ましいのではないか。あるいは、より危険物の混入の危険性が低い事業系の食品残さ利用を拡大していくことも1つの方向だろう。

 また、資源を繰り返し使うために、化石燃料などの限られた(有限の)資源を消費する行為である持続性の矛盾などもある。食品残さは、「ゴミ」となれば結局は焼却処分されているわけなので、その飼料化に際し化石燃料を使うことが即問題視されるわけではない。しかし、将来的には鶏ふんボイラーやソーラーなどの自然エネルギー利用を考える必要がありそうだ。実は循環型社会はリサイクルだけではなく、無駄を出さないという「reduce」の思想も柱となっている。本来地域における残飯のリサイクルは、究極的にはリサイクルするものがなくなることが目標になるのかもしれない。そう考えるならば、供給の安定性の面で問題がある学校給食の残飯についても、食農教育の一環として食べ残しをなくす活動としてのリサイクルがあってもよいだろう。以上のことは、スターダストクラブ個別の活動に対してだけではなく、全国のリサイクルシステム全体にかかわることではないか。


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