◎専門調査レポート


「豊後牛飼い塾」に 学ぶ担い手づくり

経済エッセイスト 秋岡 榮子

1.はじめに

 「担い手論」が盛んである。農業分野に限らず、地域コミュニティーづくりや環境保護の議論においても、盛んに「担い手」という言葉が登場する。人口減少が始まった日本では「一体それを誰がやるの?」というのは切実な問題だ。まもなく定年を迎える団塊世代は、企業の担い手から地域の担い手へとシフトすることが大いに期待されているし、彼らの帰農を歓迎する声も小さくない。

 「担い手づくり」とは「人づくり」である。しかし「人」というものはどんなに素晴らしいオフィスを与えられ、多額の成功報酬を約束されても、本人が「やるぞ」という意欲をもたなければなかなか仕事の成果は上がらない。農業においても、担い手をとりまく環境を整え、成功への道筋をつけたところで、意欲が伴わなければ担い手は育たない。

 担い手の育成には大きく分けて二つのかかわり方がありそうだ。一つは、農業でいう「土づくり」である。担い手のための環境整備だ。これは国の仕事だ。そしてもう一つは、丈夫で打たれ強いタフな種「人」をつくること。これには担い手との顔の見える関係が必要だから、県や地域が受け持つ役割になる。学習と経験を積めばどんどん丈夫な種になり、苦楽を共にできる仲間がいて、問題解決力がつけばその種は打たれ強くなりパワーアップする。

 今回調査をした大分県では平成13年から「豊後牛飼い塾」をスタートさせ、いち早く地域の畜産の担い手となる人々、その中でも地域のリーダーとなるような肉用牛経営者の育成に取り組んできた実績をもつ。これはまさしく先進的な「人づくり」のための試みである。私は畜産の専門家ではないので、塾生OBであり、肉用牛の繁殖を営む三組のご夫婦へのインタビューをもとに、「地域における人づくり」について考えてみたい。

 

2.大分県の畜産と「豊後牛飼い塾」

 大分の牛といえば「豊後牛」が銘柄牛として有名だ。豊後牛とは大分県で生産された黒毛和種のことである。最近では、平成14年の「第八回全国和牛能力共進会」の肉牛の部で日本一と認められ内閣総理大臣賞を受賞したことでも知られている。

 大分県の畜産の概要をみると、肉用牛の飼養戸数は2,530戸(平成18年2月)、全国シェア3.0%、全国第10位という位置にある。飼養戸数は右肩下がりであるが、飼養頭数は64,000頭前後を維持しており、その結果一戸当たりの頭数は昭和55年の5.5頭から平成18年の25.2頭へと右肩上がりで増加している。

 今回訪問をさせていただいたような50頭を上回る規模となると、その戸数はかなり少ない。

 総飼養頭数50頭以上という農家は平成13年に177戸、平成14年に229戸、平成15年以降は211戸と不変であり、シェアは全体の約8%にすぎない。

 このように、大分県内では阿蘇・久住の山ろくに広がる豊かな草資源や優秀な遺伝資源を背景とした黒毛和種「豊後牛」を代表とする肉用牛経営が営まれているが、かつては、高齢化の進展、国際化や産地間競争の激化などを背景に肉用牛飼養戸数、飼養頭数が減少していた時期もあった。

 このため、全国的な視点で肉用牛振興を検討し、県内に存在する優良経営を点から線、面へと拡大させる目的で、平成11年8月、県知事の私的諮問機関として大分県肉用牛増頭戦略検討委員会(以下「委員会」という。)が設置され、合計6回の検討委員会が行われた。

 平成12年8月25日、委員会から肉用牛増頭戦略に係る答申が出され、肉用牛振興を地域活性化のための戦略の核としてとらえることが求められた。具体的には、中山間地域が多く、高齢化・過疎化による担い手の減少、耕作放棄地の増大などの課題を抱える大分県では、土地利用型農業の展開を図り、地域農業の活性化を推進する上で、肉用牛経営が寄与するところが大きいとした。そして、肉用牛振興を図る上での課題と解決のためのアプローチ手法として(1)担い手確保、(2)生産形態の工夫、(3)地域の支援体制の充実、(4)実効ある施策の推進−を挙げている。

 畜舎・飼養管理方法などの「生産形態」については、低コスト投資による規模拡大のため、パイプハウス畜舎などの活用、広大な草地、耕作放棄地および育林放棄地への放牧の推進、さらに、醸造かすなどの未利用資源の活用など、増頭に向けた取組が示されている。

 ただし、この答申で最も重要かつ喫緊に取り組むべき課題として掲げているのは担い手の確保対策である。具体的には、
(1)全体のけん引役となる中核農家の「経営者」としての意識改革
(2)後継者の育成と新規就農の確保に向けた経営モデルの明示
(3)新たな視点でのネットワークなど女性の積極的な活用
などが重要であるとしている。

 大分県は、委員会の答申を受けて、担い手の意識改革などに資するため13年度に「豊後牛飼い塾」を設置した。

 大分県は地域活性化のための一村一品運動の先駆けとして知られているが、その運動の目標は人材育成であり、地域のリーダー育成のためさまざまな塾が数多く開設されている。農業分野では後継者のための「21世紀大分農業塾」が12年度に開設されたのに続き、2つ目の塾開催となった。

 豊後牛飼い塾は、肉用牛経営者の意識改革や全国各地の成功事例、異業種における経営管理理念などの大規模肉用牛経営の実現手法を学び、県内のモデルとなる肉用牛経営を実践するとともに、地域のリーダーとなる者の育成を目的としている。

 豊後牛飼い塾は1期2年とし、塾生は、年齢がおおむね50歳以下で、肉用牛の飼養経験が5年以上、肉用牛の飼養頭数が繁殖牛でおおむね30頭以上、肥育牛でおおむね100頭以上とし、将来の経営規模の拡大を志向する者に限定されている。

 このような中、1期生(13〜14年度)23名、2期生(15〜16年度)24名が卒塾し、3期生(17〜18年度)は「豊後牛飼いレディース塾」として、女性リーダーの育成、女性ネットワークの構築のため23名の塾生が現在、研修を受けている。

 「塾」にとって大事なことは、問題意識のある塾生が集い、塾生同士で意見や経験を交流しあって共に学ぶことであるが、もう一つ「塾長」という存在も重要な要素として見逃してはならない。「豊後牛飼い塾」「豊後牛飼いレディース塾」では農畜産業振興機構副理事長の菱沼毅氏が塾長を務めておられる。ほかには、東京大学名誉教授の今村奈良臣先生が「農民塾」「むらづくり塾」の塾長として二十数年来、全国を歩いて活動を続けておられることが知られている。今村塾長の下からも多くの地域リーダーが輩出されている。塾にはその分野で深い経験があり、塾生の成長を長い目で見守ることができ、自らの人脈で講師の招聘や、先進地視察の橋渡しができるような人脈の持ち主を塾長として戴くことがポイントである。というのは、これらの塾に参加する人は、意識が高く、普段からよく勉強しており、いろいろな情報を持っている。彼らが経営者としてさらにステップアップするために一番必要なのは「出会い」の機会をたくさんつくることにほかならない。塾生同士ももちろんだし、講師、視察先の肉用牛の牧場の経営者などとの出会いを通じて、彼らの頭の中にある「漠然とした思い」を「確信」へと昇華させていくことが担い手づくりにおける人づくりである。

 

3.〜牛に優しい経営をめざす〜  植木三雄さん 

 植木三雄氏は久住在住の50歳代の和牛繁殖農家だ。「豊後牛飼い塾」の第一期生の塾生代表を務めた人物であり、地域の畜産農家のリーダー的存在である。塾を卒業するときに彼が「大規模・低コスト実践計画書」に記した経営理念とは「自然や地域と共存しながら、牛に優しい経営を目指す」というものであった。

 和牛の繁殖と稲作を主体とする営農を目標としてきた植木氏であるが、平成15年3月時点での繁殖牛の飼養頭数は100頭、平成18年までにこれを130頭に増頭することが目標であった。現在、この目標は順調にクリアされ飼養頭数は150頭に達している。

 今回の植木さんへのインタビューで非常に印象的だった一言がある。それは「牛から学ぶ」という言葉だ。「牛飼いが牛に飼われちゃならんぞ。牛はシグナルを出す。それを受け取ることが大事であり、それこそが牛飼いの基本である。牛は従業員。牛が働きやすい環境を整えて稼いでもらわなければ」とそれは続いた。

 植木氏は大分県でのほ乳ロボット導入第一号だそうだ。子牛を誕生後3日で親から離す超早期親子分離方式をとっており、ほ乳ロボット2機で約60頭の子牛が管理できるという。経営効率を向上させる基本は、母牛の受胎率を高め一年一産を実践すると同時に子牛が下痢をせずに順調に発育することである。ほ乳ロボットを使えば、ほ乳時の衛生管理が行き届くから、口から入った菌が原因で子牛が下痢をすることを防ぐことができる。もちろん、ほ乳ロボットにすべてを任せきっているわけではなく、何日目にはこうしようというマニュアルを作成している。「記録と記憶が大事だ」と言っておられた。

 雄子牛は3カ月までほ育・育成後、久住町のJA大分みどりキャトルセンターへ預託している。また、母牛は放牧主体で飼養管理を行い、共同牧野75ヘクタールのうち50ヘクタールの放牧地を積極的に活用することにより省力化を図っている。

 植木氏が「牛は従業員、牛が働きやすい環境を整えて稼いでもらう」と言われていたが、まさしく家畜は仕事のパートナーであり、収益の源泉である。家畜が元気で健康に育つことが畜産農家の利益を増大させ、食用に供される家畜の場合は、その命が絶たれた時に畜産農家の利益が確定されるという仕組みをもっている。植木氏は「多頭化を実現している人は、技術者だ」という。畜産における家畜への愛情とは、ペットに対するそれとは異なり、畜産農家が技術を磨くことだ。技術を磨くことが、牛が元気に育つことであり、経営者である畜産農家と従業員である牛の関係を緊密にし、それが収益力を向上させる。それが植木氏が言うところの「牛に優しい経営」であろう。


植木氏の低コストのパイプハウス育成牛舎

 

 植木氏の妻の陽子さんはもともとは県の職員であったが、いまは大事な経営のパートナー。年間農業従事日数の現状は三雄氏300日、陽子さん350日と陽子さんの方が多い。また、繁殖には女性のノウハウが大事と一目置かれる存在であり、夫婦で一緒の感覚をもって働けることを大事にしたいということだった。


豊後牛飼い塾について語る植木氏

 

 また、次男の俊輔さんは名古屋の大学を卒業してから、県の畜産試験場で1年間肉用牛の飼養などに関する研修を積んだ後、奥さんの美和さんとともに18年4月から後継者として繁殖経営に従事している。植木氏は、県全体での肉用牛振興のために増頭を進めていく地域の核となるリーダー的存在であった。


4.〜安心・安全のために〜  安藤民子さん

 安藤民子氏は豊後大野市在住で肉牛の繁殖経営を営んでおられる50歳代の畜産農家である。安藤氏から最初に伺ったのは、スタンチョン導入の時の話であった。実は、植木氏から「30頭、50頭規模にする時が一つの山。ここを超えると経営者の感覚ができる」と伺った後での、安藤氏へのインタビュー。安藤氏のスタンチョン牛舎の建設はまさしく30頭から50頭規模へと拡大しようとした時であった。低コスト肉用牛地域活性化事業(県単事業)を活用するとともに、この時、設計も施工も自分でこなし、鉄骨以外は間伐材を利用したという。平成7年当時で、総額500万円、平米単価約2万円かかったという。

 安藤氏は平成17年度の「豊後牛飼いレディース塾」の塾生である。平成17年6月当時の飼養頭数は80頭。現在の飼育頭数は72頭だ。飼養頭数が若干減少しているのは、昨年から系統の切り替えを図っているためである。

 入塾当時、安藤氏はすでに飼育頭数80頭という実績をもち、人工授精業務を行うなど地域のリーダー的存在として認められていたが、入塾願書にある入塾希望を見ると「安心、安全な農産物をつくるにはどうするか、という基本的な勉強をしたい」というのが動機と書かれている。安藤氏の仕事のポリシーは「管理をしないと牛が病気になる。予防が大事。獣医師とプロジェクトを組むが、薬はなるべく使わない。管理をして、強い体質の牛をつくる」というもの。これなら消費者は「安心・安全」だ。

 経営の基本であるコスト管理についてもしっかりした視点を持っている。35頭を飼育していた頃、50頭規模の飼育に拡大すると粗飼料を購入する必要が生じるが、まとめて買ったほうがコストが下がることから、それならばと平成12年に50頭規模の牛舎を一棟増設したという。また経営の安定という視点から「牛、椎茸、花」を柱とする複合経営を行っていたが、「労力的に無理」と判断し、1ヘクタールの水田と4.6ヘクタールの畑で飼料作物を生産するほかは、牛の専業に転換した。


自ら設計、施工した安藤氏のスタンチョン牛舎

 

 飼料作物は集落で共同収穫・調製を行っており、現在30ヘクタールを5人で作業するとともに、くぬぎ林を放牧地として活用している。「経営の集中と選択」と口でいうのは優しいが、それまで手がけてきたことをやめるという判断は意外と難しいものだ。しかし安藤氏の場合は、新しい系統の導入など、節目節目のポイントとなる経営判断が明解である。

 牛の管理は民子さん、飼料管理と帳簿管理などは夫である豊作氏の担当ということで、ここにも「夫唱婦随」でも「婦唱夫随」でもない、お互いの得意技を認め合った経営分業システムが構築されている。この両者の役割分担、キャラクターで言えば「男は淡白、女は執念深い」ということになるのだそうだ。

 レディース塾について伺うと、塾でいろいろな人に会えたことが有意義だったという。多頭化を進めている人はまだ県の中でも1割に満たないから、隣近所にそうそう同じような状況の人がいるわけではない。相談できる相手は限られてくる。塾では牛にかかわる技術的な事柄の情報交換はもちろんだが、家のこと、時には晩御飯のおかずについても話し込んだという。


豊後牛飼いレディース塾で話をする安藤氏

 


牛舎裏の放牧地へ向かう雌牛(安藤氏)

 

 

5.〜100頭規模で給料制を目指したい〜矢方盛士さん

 矢方盛士氏は九重町在住である。平成15年2月時点では繁殖牛57頭の40歳代の畜産農家であったが、現在では繁殖牛73頭の規模に拡大し、子牛の生産も順調に伸びている。平成15年2月の豊後牛飼い塾「大規模・低コスト実践計画書」には、経営理念として「自給飼料生産で低コスト化をする」と書かれているが、増頭に合わせて借地による草地の拡大にも積極的に取り組んでいる。

 子牛のほ乳にはロボットを使っているが、3日で親から離し、その後4〜5日は手でほ乳し、ミルクを見せると子牛がついてくるようになると、ほ乳ロボットに切り替えるという。ここまできめの細かい観察と手順を踏んでいる理由は、子牛のストレスを少なくするためだという。いきなりほ乳ロボットに切り替えると子牛も戸惑うし、場所の移動もストレスになる。話を伺っていて、ほ乳ロボットの利用は人間が楽になるためではなく、子牛の発育にとってどうかということがまず基本であることが私もよくわかった。実際、子牛のほ乳はロボットにまかせっきりということはなく、ほ乳ロボットに記録されるほ乳量、ほ乳スピードなどのデータが矢方氏によって毎日チェックされ、これに長年培った矢方氏の経験がプラスされ日々の子牛の管理に反映されていく。

 「豊後牛飼い塾」で2年間学んだあとの感想の中で矢方氏はこう書いている。

 「この二年間で本川牧場(大分県:日田市)の規模の大きさや衛生管理の考え方、そしてたい肥舎と色々と勉強になりました。また、松永牧場(島根県:益田市)で和牛とF1雌牛による肥育の一貫経営の取り組みの進んだ考え方に驚かされました。そして、農家から企業の経営者になるには、どのような考え方、頭の切り替え方を少し学んだように思えます。・・・・今後は自分の経営や規模拡大に役だてていきたいと思います」


矢方さんご夫妻

 

 「豊後牛飼い塾」を通じて、矢方氏は自分が取り組むべき「経営」に関して大きな刺激を受けている。たとえば、牛舎は、現在7棟あるが、その増築の話を伺っていても、「最初が国の補助事業で、次が県の低コスト肉用牛地域活性化事業」という具合に、増頭に伴う資金繰りの話がすらすらと出てくる。増頭すれば、牛舎を増やさなければならない、同時に低コストで飼料を賄うためには草地の拡大も必要だ、それには投資が必要だし、もちろんトラクターをどうするか、ということも考えなければならない、という具合である。一般に事業を拡大しようとすると、意欲ばかりが先行して、「いや、想定外の費用がかかりまして・・・」という話をよく聞く。たとえば、家を一軒買うというときでも、家の値段ばかりに気をとられて、不動産取引に関する税金、新しい家を買えば家具も新しいものが欲しくなる、といったことをまったく考えずに資金が足りなくなる人がいるが、事業もそれと同じである。しかし、矢方氏の場合は、事業展開に必要な要素と関連コストがもれなく想定されているという印象を受けた。綿密な経営である。現在は夫人と娘夫婦による家族経営であるが「100頭規模になれば、給料制をとりたい」という抱負ものぞかせていた。

 塾での感想を伺うと「同じレベルの人と話が出来て切磋琢磨できた」という答えがすぐ返ってきた。


矢方氏のパイプハウスほ乳ロボット牛舎(パトックの奥)

 

 

6.インタビューを終えて

 塾の仲間達は市場などで出会うと、お互いに手を貸したり、市場での仕事が終わった後に夫婦同士で連れ立って食事にでかけることもあるという。担い手を育てるというと、一人一人の担い手にピンポイントで目がいってしまいがちであるが、実はもう少し俯瞰的にみて、担い手同士を結んで、何らかの共通項のある人たち同士で交流できる場をつくることが能力を高めるきっかけになるし、人材育成という意味でも大きな意義があることを再認識した。正直なところ「塾では同じレベルの仲間と議論できる」ということがこんなに大きく評価されていることは驚きであった。

 インタビューの中で、牧野を中心とした100頭規模の繁殖農家の集積のあり方や、市場を高速道路沿いに建設すれば利用度が高まるはずであるという提案があったが、塾生の議論が畜産ビジョンや地域づくりのあり方についてまで及んでいることは心強い。普段出掛ける機会がないような県内各地から塾生が集まっていることも県が主催する塾であることの利点である。牛一頭の話から県全体、10年先の話まで、これからも大いに議論を重ねていただきたい。

 豊後牛飼いレディース塾は、仲間づくりに加えて、行動範囲を広げて考える機会をつくるという意味で大きな役割を果たしているようだ。いま農村の女性は大変元気であるが行動範囲はそう広くない。活動の拠点は地元中心だ。家事や子育てなどの関係から、視察に出掛けたくてもなかなか言い出せないという人もいる。「塾」という大義名文があれば、家族の理解が得られやすいという声も聞いたことがある。意欲のある女性農業者を塾はどんどん応援してほしい。

 塾のあり方について感想を述べれば、私は松下村塾に吉田松陰を慕った門下生が大勢集まったように、塾スタイルの担い手づくりは塾長を囲む私塾のような雰囲気があっていいと思っている。経営規模が同じというだけでなく、志を同じくする人が集まるのが塾である。いずれ、県や地域をまたいで農業経営者が自ら塾長を戴いて立ち上げる塾も出現するのではないのだろうか。

 もう一つ、この場を借りて、私は女性農業者の方たちにお願いしたいことがある。私が牛飼いレディース塾に参加した時に「私は生産者ですが消費者でもあります」という発言があり印象深かった。いま都市部の消費者はどんどん「消費するだけの人」になり、生産現場への創造力を失っている。「日本人がおいしくお腹いっぱい毎日食事ができる」という傘の下で、「生産者」と「消費者」は対になって雨や嵐をしのぐ努力をするべきなのに「お金を払って買っている」という意識だけの消費者が増えているのは残念だ。農村の女性には、生産者の枠を越え、消費者としてももっと発言して欲しいと期待している。


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