◎需給解説


牛肉の需給展望
−需要回復を期待−

食肉生産流通部食肉課 課長  安井   護
                     玉井 明雄

 平成19年の食肉需給は、特に秋以降、顕著だったのが、「豚肉と鶏肉の好調な動きと牛肉の不振」ではなかったろうか。12月の量販店の販売状況は、牛肉が前年を割り込む中、豚肉は増加傾向を維持している(重量ベース、当機構POS調査)。

 この動きは継続するのか、それとも、新たな変化があるのか。平成20年の食肉需給はどうなるのか。先月号での豚肉に続いて、今月は牛肉について、量販店などを対象としたアンケート調査も踏まえて考察してみたい。


1.平成19年の食肉需給 豚肉・鶏肉が堅調

 まず、平成19年の食肉需給を振り返ってみよう。需要と供給を反映した結果である卸売価格は、牛肉が低下、豚肉と鶏肉が上昇となった。


表1 平成19年の食肉需給(見込み)

資料:農林水産省食肉鶏卵課、財務省、当機構調べ
注1:消費量、生産量、輸入量については、平成19年11月までの実績値に、12月の推計値(1〜11月の増減率等から推計)を加えて求めた。
 2:価格は、牛肉・豚肉は省令規格(東京・大阪加重平均)、鶏肉は農林水産省市況速報値で、1〜12月の平均
 3:下段の()書きは前年同期比


 ○牛肉
  米国産の輸入再開により輸入量が増加し、消費量(推定出回り量)も増加したものの、豚肉・鶏肉と比べた相対的な価格高などから、需要が弱含み、特に国産中級品の価格がかなり低下した。

 ○豚肉
  需要が非常に堅調なことから、輸入量は増加したが、国産品の引き合いが強く、卸売価格は例年低下する秋になっても高水準で推移した。

 ○鶏肉
  国産フレッシュ品に対する需要が強く、卸売価格は年末にかけて上昇した。


2.平成19年の牛肉需給 国産中級品の価格が低下

 平成19年の牛肉の需給を一言でいえば、「牛肉不振」となるであろう。そのポイントを種類別に見ると、次のようになる。

1)国産品:中級品の価格下落
  国産牛肉枝肉卸売価格は、2、3等級の中級品が値を下げ、16年以降の価格上昇のきっかけとなった15年12月の米国産牛肉の輸入停止前とほぼ同水準となった(図1)。この背景には、

図1 国産牛肉の卸売価格

資料:農水省「食肉流通統計」ほか
 注:東京市場、直近月は速報値


 (1)卸売価格上昇による量販店などのユーザーの販売意欲低下
 (2)ここ数年ブームであった焼き肉需要が一転して低迷したことよるばらの荷余り
 (3)相次ぐ偽装事件による消費者の買い控え

 などがあろう。さらに「増体重視の肥育による出荷牛の若齢化から、食味が低下したことも需要減の一因」と指摘する市場関係者もいる。

2)豪州産:現地高による輸入量減少
  16年以降40万トンを超えていた豪州産の輸入量は、現地の干ばつによる生体価格の上昇に加え、豪ドル高から輸入価格が上昇し、量販店などの需要が低迷したことから、輸入量も減少した。

図2 豪州産牛肉の卸売価格(チルド)

資料:当機構調べ


3)米国産:輸入量は限定的
  18年7月から輸入再開された米国産については、対日輸出条件である20カ月齢以下の生体の出現率が事前の予想よりも低いことなどから、輸入量は限定的であった。


3.量販店 牛肉「増加」が4割

 量販店を対象に実施したアンケートによれば、今年の牛肉の販売見通しについては、「増加」37%、「同程度」42%であるが、「減少」も21%あった。豚肉については、「減少」との回答が0と、販売意欲が引き続き強いのとは対照的な結果となっている(表2)。なお、量販店での食肉の取扱割合(重量ベース)を見ると、牛肉は26%に対し、豚肉44%、鶏肉30%となっている(表3)。

表2 食肉の販売見通し(量販店)

注:重量ベース

表3 食肉取扱割合(量販店)

注:重量ベース


 販売量が「増加」との回答のうち、「どの品種・産地を増やすのか」との質問には、交雑種と米国産がそれぞれ33%と同数であった(表4)。その理由については、「品揃え強化」が55%と最も多くなっている(図3)。量販店が扱う規格は3等級が中心となるが、「下がったとは言え和牛の卸売価格がまだまだ高い中で、品揃えを強化するため、交雑種を取り扱う量販店が増えている」(大手卸売業者)ようだ。また、米国産については、「安定的な輸入量が必要」との前提がつく。


表4 増加を見込む牛肉の品種・産地(量販店)

注:複数回答

図3 牛肉販売増加の理由(量販店)

注:複数回答

 品種・産地が多岐にわたる牛肉について、量販店がどのような販売戦略を立てているのか。個々の企業、個々の店舗によって、異なるのは当然であるが、アンケートから一定の傾向がうかがわれる。19年11月に行った別の調査によれば、調査対象27社のすべてが和牛を扱っていた。一方、交雑種は78%、乳用種は52%の社にとどまっている。乳用種を扱っていない量販店は、交雑種または豪州産で代替しているが、乳用種や交雑種ではなく、豪州産だけを扱う量販社も2社あった。

(注)アンケートは、19年12月上旬に全国の主要量販店を対象に実施し、23社から回答を得た。


4.卸売業者 国産牛肉「増加」が7割

 卸売業者を対象に実施したアンケートによれば、今年の牛肉の販売見通しのうち、国産品については、73%が「増加」と回答しており、「減少」は0であった(表5)。増加の理由としては、客の要望、品揃えの強化が多くなっている(図4)。品種別には和牛が58%と最も多くなっていて、国産牛肉の増加理由のうち、「客の要望」が37%を占めることから和牛に対する強い要望が反映されている(表6)。


表5 牛肉の販売見通し(卸売業者)


図4 国産牛肉の増加理由(卸売業)

注:複数回答

表6 増加を見込む国産牛肉の品種(卸売業者)

注:複数回答

 主にテーブルミート用として使用される輸入チルドは「同程度」が60%だが、「減少」も30%と多くなっていて、卸売価格の上昇から今後も販売不振との見方のようだ。外食・業務、加工用が主体となる輸入フローズンについては、ほとんどの卸売業者が「同程度」とみている。

 なお、調査対象者の牛肉の種類別取扱割合(重量ベース)は国産が54%と一番多く、次いで、輸入フローズン、輸入チルドとなっている(表7)。また、種類別にエンドユーザーの割合を比較すると、国産は小売店が61%と一番多く、次いで外食・業務となっている。輸入チルドも同様の傾向だが、外食・業務の割合が高くなっている(表8)。

(注)アンケートは、12月上旬に全国の主要卸売業者を対象に実施し、13社から回答を得た。


表7 牛肉の取扱割合(卸売業者)

注:重量ベース

表8 牛肉のエンドユーザーの割合(卸売業者)

注:重量ベース


5.生産 わずかに増加

 最近の種類別と畜頭数動向、子牛の出生・取引動向、枝肉重量の傾向などを勘案した19年の生産量は、昨年をわずかに上回る程度の35.3万トン(前年比101.6%)と見込まれる。品種・性別には次のとおり。

(1)去勢和牛
  子牛の出生頭数と市場取引頭数の動向からみて、と畜頭数の増加傾向が継続し、生産量はわずかに増加

(2)めす和牛
  保留によると畜頭数の減少が続いてきたが、今年は減少幅は縮小し、枝肉重量が微増なので、生産量は前年並み

(3)乳用種去勢牛
  枝肉重量は増加傾向にあるものの、出荷適齢期を迎える牛が減少しており、生産量はわずかに減少

(4)乳用種めす牛
  生乳の増産型計画が予定されていることから、これまで減少してきたと畜頭数は下げ止まり、生産量はわずかに減少か、ほぼ前年並み

(5)交雑種
  これまでの増加も一服し、出生頭数がほぼ前年並みとなることから、生産量は前年並みか、わずかに増加


表9 牛肉の品種別生産見通し

注1:合計にはその他の品種などを含む
 2:19年の見込みについては、平成19年11月までの実績値に12月の推計値を加えて求めた。
 3:20年の見通しについては、最近のと畜動向、子牛の出生動向、枝肉重量の傾向などを勘案して求めた。



6.輸入 1万トン減少

 輸入商社を対象に実施したアンケートおよび聞き取りによれば、今年の輸入量は前年より1万トン減の46万トンと見通される(表10)。


表10 牛肉の輸入見通し(商社)

注1:19年の見込みについては、平成19年11月までの実績値に12月の推計値を加えて求めた。なお、グレインフェッドについてはMLA(豪州食肉家畜生産者事業国)AFFA(豪州農漁林業省)による対国牛肉輸出量(船積重量ベース)。
 2:合計には、その他の国からの輸入量を含む。
 3:四捨五入の関係で、計と内訳は必ずしも一致しない。


 豪州産は、グラスフェッドがほぼ前年並みであるが、グレインフェッドは現地の飼養頭数の減少から減るとの見通しである。干ばつによる飼料価格の高騰によりフィードロットの導入頭数が減少し供給が減ることに加え、生産コストの上昇、豪ドル高により、輸入コストの低下は見込めないため、「当面、量販店などの積極的な需要が期待できない」ようだ。

 米国産は、現行の輸入条件を前提に4.6万トン、月平均で約4千トンと見通す。現地の日本向け生産の増加などから、前年に比べれば1.2万トン増えるが、「現行の輸入条件ではこれ以上の増加は難しい」との意見が多かった。

(注)アンケート及び聞き取りを、12月下旬に主要商社を対象に実施した


7.需要回復を期待

 20年の牛肉需給の見通しをまとめると次の3点になる。

 (1)国内生産は、微増
 (2)一方、輸入量は、米国産は増加だが、豪州産はそれ以上に減るので全体では減少
 (3)需要は、量販店は強・弱両方の見通しがあるが、卸売業者は国産について強気の見通し

 なお、米国産牛肉については、現行の輸入条件を前提に調査を行ったが、「輸入条件が変更されれば、輸入量は増加する。しかし、その伸びは急ではなく、穏やかだろう」との意見が多かった。また、昨年、下げ幅が大きかった乳去勢については、卸売関係者から「価格低下から量販店の特売アイテムとして注目されてきており、底を打つのではないか」との見通しを聞いた。

 生産コスト、輸入コストが上昇しているが、国産品と輸入品を合わせた牛肉全体の需要が回復し、それに応じた価格形成がされることを期待したい。

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