◎需給解説


飼料価格高騰下での食品残さ飼料利用への動き

調査情報部調査情報第一課 高島 宏子

飼料自給率向上と循環型社会への貢献、 二つの効果で注目をあびるエコフィード

 平成19年8月、平成18年度の食料需給表が公表され、食料自給率の低下が危惧されているところである。17年3月に示された新しい「食料・農業・農村基本計画」では、15年度現在40%であるカロリーベースの総合食料自給率を平成27年度までに45%に引き上げるという目標が掲げられている。このような中で飼料、特に輸入依存度が高い濃厚飼料の自給率引き上げは、自給率向上の大きなカギとなっている。

 具体的には、現在(18年度概算)、飼料のうち粗飼料については自給率77%であり、国産稲わらの利用促進や、水田放牧などの推進によって目標年度である27年度には、自給率100%を目指している。一方、カギを握る濃厚飼料の自給率は10%で、目標年度には14%に引き上げることを目標としている(図1)


図1 飼料自給率の現状と目標について



 わが国の国土で家畜飼料用の穀物をすべて供給することはコスト面などで困難であり、トウモロコシなどの穀物を海外に依存するわが国の畜産物の生産は、海外の穀物の作況や価格動向、為替動向などに大きく影響を受けることとなる。

 従って、濃厚飼料の原料である輸入トウモロコシなどの輸入穀物の依存度を少しでも下げることは急務であり、濃厚飼料自給率向上の可能性として食品残さの飼料化推進に大きな期待が寄せられている。

 一方で、自然環境のバランスが崩れ、資源が枯渇するなどの環境問題が深刻化する中で、わが国の食品の大量消費、大量廃棄の社会的システムからの脱却が大きな課題となっている。国は「エコアクション21」※1を立ち上げ、持続可能な循環型社会への転換を図っているが、食品業界も企業戦略の1つとして食品循環資源の再利用への取り組みを推進している。

 このように、食品残さの飼料化は飼料自給率の向上と循環型社会の形成という2つの効果をもたらすといえる。


エコフィードの定義とは

 社団法人配合飼料供給安定機構は、平成19年6月に「エコフィード」の登録商標を取得している。その定義は「食品循環資源を原料にして加工処理されたリサイクル飼料と同義であり、食品製造副産物(食品の製造過程で得られる副産物)や余剰食品(食品として製造されたが利用されなかったもの)、調理残さ等を利用して製造された家畜飼料を指す」とされている。食品残さ飼料は、食肉、乳、卵などの畜産物生産に欠かせないタンパク質、でん粉などを豊富に含み、穀物飼料に代わる資源として、従来から利用されていたが、その利用技術が未熟であったためか、良い評価は得られていなかった。しかし、市販の飼料に比べ、低価格で入手できることや給与技術の研さんなどから利用者が根付いてきており、養豚基礎調査((社)日本養豚協会調べ)によると18年8月現在で13.7%の養豚農家がパン類などを主体した食品残さ飼料を活用している。

 食品製造業、小売業などから排出される食品残さは焼酎かす、茶殻、果汁かす、豆腐かすなど種類が多い。(表1)

表1 食品製造・流通過程で発生する主な食品残さの種類



 エコフィードは、これらの原材料の劣化を防ぎ、異物を除去し、発酵や加熱乾燥などの加工処理を行って飼料化するのが一般的である。

 ただし、牛用飼料はBSE対策の法的規制から安全性確保のために「ほ乳動物由来タンパク質、家きん由来タンパク質、魚介類由来タンパク質を含まない」取扱となっており、動物性タンパク質と完全に分離した製造ラインで排出され、かつガイドラインに準拠した「A飼料」※2として管理されなければならないこととなっている。


法制度の整備で回収率の向上、飼料化が促進される

 このように注目を浴びつつある「エコフィード」の利用促進に関する政策は以下のようになっている。

 平成13年に「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」(以下「食品リサイクル法」)が施行された。当初の施策の基本方針として、第一に食品廃棄物の発生の抑制、第二に再利用、第三に減量化を三本柱とし、再生利用などの実施率を18年度までに20%にするとしていたところである。

 法施行後5年が経過し、一定の成果が認められるものの、企業の取り組みに業種間で格差が見られ、特に食品小売業および外食産業の取り組みが進んでいないことから、法律の改正が行われ19年12月に「改正食品リサイクル法」が施行された。(図2)

図2 食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律の一部を改正する法律の概要


 改正法では、(1)食品廃棄物の発生量が一定量以上の事業者に対し毎年定期報告を行う義務を課すこと、(2)複数の市町村にまたがるフランチャイズ事業者からの食品廃棄物量の発生量は加盟者分を含めて判定すること、(3)認定計画に従って行う食品循環資源の収集運搬について一般廃棄物収集運搬業の許可を不要とすることなどが図られている。

 さらに、「食品循環資源の再生利用等の促進に関する食品関連事業者の判断基準となるべき事項を定める省令」の中に、再利用をする場合、「可能な限り飼料の原料として利用すること」と明記され、再生利用の手法として「飼料化」が最優先に位置付けられている。個々の事業者の再生利用実施率目標も毎年加算されることから、排出量の増量が期待される。

 これにより、ともするとコスト面や手法面から「肥料化」や「焼却」に仕向けられていた食品廃棄物の「飼料化」が推進されることとなり利用拡大の追い風となっている。

 「飼料化」は資源の持つ成分やカロリーを最も有効に活用できる手段であり、安全性を重視した上の有効な飼料化が推進されることとなった。

 一方で、BSE禍の教訓から食品残さを利用した飼料には、安全性確保が第一であることから、平成18年8月には「食品残さ利用飼料の安全性確保のためのガイドライン」(消費・安全局)が作成されており、原料収集、製造などに関する基本的な指針を示し、そのガイドラインの順守を周知しているところである。


食品廃棄物等の「飼料化」再生利用率は37%

 農林水産省では、食品リサイクル法施行以降毎年、食品産業に属する事業所を対象に食品廃棄物などの再生利用状況を調査している。

 これによると、施行当初の13年の食品循環資源の発生量10,919千トンのうち再生利用率は36%の3,946千トンであったのに対し、18年度は発生量11,352千トン、再生利用率59%の6,664千トンとなった。法の第一目的である発生量の抑制はみられるが再生利用率は、当初順調に上がっていたものの17年以降は横ばいとなっている。(図3)

図3 食品廃棄物等の発生量と再生利用率の推移


資料:農林水産省「食品循環資源の再生利用等実態調査」
(18年:調査時業者数2,517、うち回答事業者数1,887
([内訳 食品製造業796、食品卸売業329、食品小売業359、外食403])


 18年の食品廃棄物の発生量11,352千トンの内訳をみると、その44%が食品製造業由来、27%が外食産業、23%が食品小売業、残りの7%が食品卸売業からの発生となっている。これらの再生利用率(特に食品リサイクル法に規定されている用途である肥料・飼料・油脂および油脂製品・メタン原材料への利用)は、18年度食品産業全体で48%でありこれを業種別にみると食品製造業が76%とトップで、次いで食品卸売業59%、食品小売業29%、外食産業16%と続く。この順位は調査開始以降、変化はなく、廃棄物発生量の多い食品小売業、外食産業の再生利用率のアップを進めることは重要である。(図4)

図4 食品リサイクル法で規定している用途での再生利用率の推移


(食品リサイクル法で規定している用途「肥料化、飼料化、メタン化、油脂及び油脂製品」)

 また、再生利用を推進するに当たっての課題は、食品産業全体では「食品廃棄物等の保管場所の確保や臭気対策」が33%と最も高く、次いで「再生利用に要するコストの低減」が28%となっている。

 特に再生利用率の低かった2業種のうち食品小売業では「異物の除去等分別の徹底」、「食品廃棄物等の保管場所の確保や臭気対策」がそれぞれ27%、外食産業では「食品廃棄物等の保管場所の確保や臭気対策」が41%、「再生利用に要するコストの低減」が30%となっていた。

 次に再生利用の用途別仕向けをみると食品リサイクル法で規定している用途では、各年とも「飼料化」と「肥料化」が全体の8割程度を占めている。その推移をみると、13年においては、「飼料化」が1,539千トン(シェア39%)、「肥料化」が1.421(同36%)トンであったものが18年は「飼料化」が13年の1.6倍の2,466千トン(同37%)、「肥料化」は1.8倍の2,600千トン(同39%)となっており、飼料化に対し肥料化がやや上回る形で推移している。(図5)

図5 再生利用の用途別仕向け割合


注)再生利用の用途別仕向割合から換算


エコフィードの今後の方向性

 前述したように、改正食品リサイクル法では、省令によりそれぞれの食品関連事業者の再生利用等の実施目標を毎年度、前年度を上回るように設定しなければならない。

表2 事業者別基準実施率の年別ポイントの増加数



 例えば、今年度再生利用率が20%未満だった企業に対して、次年度は一律22%の達成率を課すことになるため、今後各業者の努力により、リサイクル率は向上するであろう。

 また、今回の改正で再生利用の手法として、「飼料化」が明確に打ち出されたことで、企業も方向づけが成されている。

 しかし、エコフィードの生産をしているだけでは、排出業者にも再生利用事業者にも経済的メリットはあまり感じられない。今後は「エコフィード」を利用した商品(畜産物)の評価を得ることが経済的発展のポイントである。

 ここで、今までに「畜産の情報」で取り上げたエコフィード利活用などの事例から、そのタイプや特徴について考えてみたい。

(1)都市周辺地域内循環型(養豚):地域内のスーパーや給食センターなどから発生する食品残さを再生利用事業者が飼料化し、そのエサを給与した豚肉生産、さらにその豚肉を同地域内の学校給食や小売店で販売し、リサイクルループの形成が期待される事例。


(例)横浜市はまぽーく、沖縄くいまーる豚肉


横浜市有機リサイクル協同組合による食品残さの回収運搬の様子(H19.12月号)


沖縄くいまーるプロジェクトの流れ図(H17.7月号)


(2)食品工場残さ(パンくず、菓子くずなど)自家配合型(養豚):食品工場から排出される残さを回収し、配合飼料や粗飼料などを混合して調製し、リキッドフィードや独自の配合を行って飼料を低コスト化した事例

(例)(有)ブライトピッグ、京都ぽーく

上段、(有)ブライトピッグのパンの耳やヨーグルトを利用したリキットフィード(H16.12月号)
下段、菓子くずなどを利用したエコフィードと生産豚肉を利用したハムのラベル(京都ぽーく)(H18.2月号)


(3)TMRセンター型(酪農、肉用牛):植物由来のかす類、焼酎かす、ビールかす、豆腐かすなどの単味原料を回収し、コンプリート飼料(高品質飼料)を生産して利用者に販売する事例

(例)(有)TMR鳥取(牛用飼料)、雲海酒造(株) など




上段、(有)TMR鳥取の飼料センター外観(H19.10月号)
下段、乾牧草や配合飼料を混ぜた雲海酒造(株)のTMR飼料(H19.11月号)







図6 エコフィード利用体系イメージ図



 また、食品リサイクルに関わる大手コンビニエンスストア、ファストフード業態など企業側のメリットとして、循環型社会形成の担い手として、CSR(社会的責任を果たせる企業)の成果を評価され、企業イメージのアップに繋がっている。

 エコフィードの利用拡大を図るためには、その資源となる原料の情報を集め、供給先の可能性、素材としての特徴を見極め、素材の加工や保存、給与体制をどうするか考える必要がある。さらに作り上げられる成果物(畜産物)が消費者に受け入れられるおいしい食品になってこそエコフィード利用のメリットとなる。これらを推進するためには、兵庫県※3が行っているような供給側と需要側のネットワークを構築するとともに、ユーザーごとのエコフィード利用方法の情報提供なども必要であろう。

 さらに、低コスト飼料の利用は、長期間肥育を可能にし、霜降り豚肉などの肉質向上が各地で実証されている。折からのロハスブームなどから、エコフィードの「認証制度」の動きも見られている。

 地方農政局を通じた調査(平成19年8月現在)によると全国で171ヵ所の食品残さ飼料化施設があり、飼料化に取り組む事業所が増加しているという。

 地方行政に対する施設の許認可体制、農家が独自に食品残さを回収する場合の業者間の壁、畜産物の評価体制などエコフィードの利用を円滑に進めるために今後解決すべき課題も多い。しかしながら、法律の整備とともに社会的貢献の立場からも様々な業界が協力体制を築きつつ、食品循環に取り組み始めたことから、今後の全国各地でエコフィード利用の推進が図られることが見込まれる。

※1 エコアクション21とは、広域な中小企業、学校、公共機関などに対して「環境への取り組みを効果的・効率的に行うシステムを構築・運用・維持し、環境への目標を持ち、行動し、結果を取りまとめ、評価し、報告する」ための手法として環境省が策定したエコアクション21ガイドラインに基づく、事業者のための認証・登録制度

※2 「A飼料」とは、飼料等及びその原料のうち、農家において反すう動物(牛、緬羊、山羊及びしかをいう。)に給与される又はその可能性のあるものとして動物性由来タンパク質等が混入しないように取り扱われるものをいう

※3 兵庫県では、県内の供給側、需要側のデータベースを作り公開することにより情報の共有を進めている。(「畜産コンサルタント,2007.12詳細掲載」)

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