◎今月の話題


飼料用米の利用促進に向けて

東京農業大学農学部畜産マネジメント研究室 准教授 信岡 誠治

1.はじめに

 米国のブッシュ大統領は2007年1月23日、一般教書演説で、米国内で消費されているガソリンを10年以内に20%削減させる目標を掲げ、その切り札としてバイオエタノールの利用を打ち出した。そのことが今わが国の畜産に大きな影響を与えている。

 バイオエタノールはトウモロコシを原料にエタノールを抽出、ガソリンと混合して使う石油代替燃料である。具体的には、10年後の目標として2017年までにバイオエタノールを350億ガロン(1ガロンは約3.78リットル)へと現在の2012年までの目標である75億ガロンの約5倍に生産拡大するというものである。これは2007年における米国のエタノール生産量が67億ガロンであるから5.2倍の生産拡大である。 

 これにより、米国は中東から輸入している石油を75%削減するとともに、ガソリン消費の15%をバイオエタノールで代替していく計画である。


2.食料・飼料と直接競合するバイオエタノール

 問題なのはバイオエタノールの原料であるトウモロコシは、同時に食料・飼料用の原料であることである。バイオエタノールの生産に振り向けられるトウモロコシが増加すれば、当然、食料・飼料用に回せるトウモロコシはひっ迫することとなる。

 ちなみに、トウモロコシ1ブッシェルからエタノールは2.8ガロンが生産できるので、350億ガロンのエタノールを生産するには約125億ブッシェルのトウモロコシが原料として必要となる。

 すでにトウモロコシの世界的な供給不足が生じることを見込んでヘッジファンドなどの投機マネーが穀物相場を押し上げており、トウモロコシだけでなく大豆や小麦価格も上昇してきている。そして、ここ数年は穀物相場の高騰は続きそうというのが穀物関係者の一致した見方である。


3.対応策としては飼料穀物の国産化も視野に

 当面の輸入トウモロコシ価格高騰への対応は急務であるが、燃料用と食料・飼料用が激しく競合する時代が到来したとなれば、これは全く新しい事態である。エネルギー農業という新しい産業が生まれ、農地は食料生産用だけでなく燃料用としても使われることから農地の価値が見直されるだけでなく、食料価格は原油価格とのバランスの中で決まることになる。

 これは米国農業だけでなくわが国の畜産にも根本的な変化をもたらすものとして理解しなければならない。

 これはわが国の畜産を支える前提となってきた「海外からの安い輸入穀物」という1つの条件が崩れることを意味する。これからは、一段と高い穀物価格をベースにした畜産経営を展開していかなければならないことになるだろう。

 そこで、中長期的な対応策としては穀物飼料の国産化戦略を視野に入れていく必要があると考える。その際、わが国の場合、最も有望なのは水田の活用である。すでに飼料用イネの普及が推進されており、飼料用米の研究も始まっているが、これを本当に実用化するには思い切った発想の転換と取り組みが必要である。

 これまでは飼料用米の国内生産は、最近の農林水産省の試算でも飼料用米のコストがキログラム当たり142円、輸入トウモロコシが同24.4円で5.8倍の格差があることから、非現実的とされてきたが、前提条件が変わってくるとなるともう一度再考して可能性を追求してみる必要があろう。


4.飼料用米・飼料用イネの実用化は可能である

 最近にわかに飼料用米についての関心が高まってきているが、果たして現実性があるのかという疑問はだれしも抱いている。「不可能である」というのが大方の常識であるが、最近の研究成果を見てみると「可能性はある」というのが筆者の個人的な見解である。

 飼料用米の生産コストを劇的に引き下げるカギは単収の向上にあるが、最近、飼料用イネなどの品種として開発されたものの中には粗玄米重で10アール当たり1トンの大台を超えるものも出てきている。

 現在、全国の稲育種の研究機関は、総力を挙げて超多収品種の開発に取り組んでおり次々と有望な品種が誕生しつつある。その一つとして「関東飼226号」が挙げられるが、筆者が今年初めて試験栽培してみても10アール当たり840キログラムは達成できた。相当な多肥栽培でも倒伏せず、脱粒もなく、大粒であり、何よりも惹かれたのは識別性があることである。もみすりすると玄米は乳白米であり、食用にするには適さない品種である。

 また、多肥栽培していることからタンパク含量が高いのも特徴で、醸造用など加工用米にも不向きである。逆にタンパク含量が高いことは飼料用としてはうってつけで、茎葉(ワラ)も畜産用に利用できる。

 畜産経営からは多量のふん尿が発生するが、これをたい肥にして水田に散布して利用できればたい肥流通も楽になり、地力の増強に役立つ。

 飼料用米の利用についても給与試験を行っているが、トウモロコシ全量を飼料用米に置き換えても、鶏の産卵成績、豚の増体成績には何ら問題はない。むしろ、人間の体に良いとされるオレイン酸など不飽和脂肪酸が増加し、逆にリノール酸など飽和脂肪酸が減少し畜産物の品質価値が向上してきている。

 現在、飼料用米の最終的な生産コストをキログラム当たり30〜40円を目標として、栽培方法や栽培体系も抜本的に見直し、飼料米の流通についてもさまざまな角度から検討を加えているところである。飼料用米の生産拡大と普及には耕種と畜産の連携が不可欠で、また、実用化には畜産サイドから積極的なアプローチが必要である。



信岡誠治(のぶおか せいじ)

プロフィール

1952年生まれ。日本獣医生命科学大学畜産学科卒業、岐阜大学大学院農学研究科修士課程修了。全国農業会議所を経て2006年より現職。主な研究成果として「遊休農地の畜産的土地利用に関する研究」(岐阜大学大学院連合農学研究科 2003年)、主な著書に「資源循環型畜産の展開条件」(農林統計協会 2006年 共編著)等がある。


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