需給動向 海外

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回復の兆しが見えないEUの乳製品価格


◇絵でみる需給動向◇


直近では介入価格割れの事態も

 2007年夏に高騰したEU域内の乳製品価格は、国際価格に連動する形で昨年の秋以降下落傾向が続いており、2008年9月の価格を見ると、バターは100キログラム当たり255.0ユーロ(32,385円:1ユーロ=127円、前年同月比41.6%安)、脱脂粉乳は同219.4ユーロ(27,864円、同44.1%安)といずれも前年同月を大幅に下回っている。特にバターは、介入価格同246.39ユーロ(31,292円)並みの水準となっており、介入価格を下回る加盟国も見られる。

 EUには乳製品の価格支持の政策手段として、

 (1)脱脂粉乳については2006年6月以降、バターについては2007年6月以降それぞれゼロとなっている輸出補助金の再開
 (2)09年3月1日より実施予定の乳製品介入買入の前倒し実施
 (3)飼料用、ベーカリー用などの需要拡大のための補助の導入
 (4)民間在庫補助(PSA: Private Storage Aid)によるバターの市場隔離

 という選択肢が存在するが、すでに乳業関係団体では、比較的実現の可能性が高く、即効性が期待できる(1)の輸出補助金再開の可能性について、欧州委員会と意見交換を始めている模様である。

 一方、(2)については、関連規則の改正を伴うことから早期の実現は事実上困難な情勢である。

 また、(3)の需要拡大のための補助についても過去に実績はあるものの、自由貿易のさらなる推進を前提とした共通農業政策(CAP)の中間検証作業(ヘルスチェック)の議論が最終局面となっている中で、貿易歪曲的とされる補助の導入が同時に議論され得るとは考えにくい。

 なお、(4)のPSAによるバターの市場隔離については、08年8月より放出期(市場への売却期)に入っているところであり、在庫量も減少基調に転じている。次期の市場隔離は09年3月1日より開始されることとなっているが、これについては、(2)の介入買入れのように政府が買い入れるのではなく、民間の取り組みを支援するという仕組みであることから、より柔軟な対応が可能とみられている。実際、欧州委員会内では、実施時期を例年より2カ月前倒しして2009年1月1日に開始する方向で前向きに検討がなされている模様である。

バターの域内価格および介入在庫量の推移

 いずれにしても、域内乳製品の需給が緩んでいる現時点では、何らかの形で域内供給量の調整が進まない限り、域内乳製品価格が上昇基調に転じることは考えにくい状況にある。

乳業会社と生産者間の乳価交渉が激化する恐れも

 近年のEU域内の乳製品の消費は、チーズを除き、バター、脱脂粉乳とも加盟国が増加したにも関わらず減少傾向で推移していたところであるが、2008年秋に欧州を襲った近年例をみない経済危機により、さらに消費が冷え込むことが確実な情勢にある。

脱脂粉乳の域内価格の推移

 EU域内の乳業会社は、さらなる消費減退に対抗するため小売価格の値下げにも対応せざるを得ない状況にあると言われる。一方、生産者は、飼料穀物や原油などの価格高騰による生産コスト上昇を生産者乳価に反映すべきとして生産者乳価の値上げを求めており、乳業会社と生産者間の乳価交渉は今後さらに難しい局面を迎えると思われる。

2005年を基準としたEU域内における 乳製品の消費動向


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