調査・報告

食品製造副産物の食品製造工場から畜産農家への橋渡し役
〜愛知県 有限会社・青山商店〜

畜産・飼料調査所 御影庵主宰 農学博士 阿部 亮


1 はじめに

  食品製造副産物の流通の一つの形態としての産業廃棄物処理業の役割を見るために岡崎市の有限会社 青山商店を訪問した。青山太郎専務は、ヒアリングの冒頭で、「愛知県は酪農の盛んな地帯であり、飼料に食品製造副産物を利用していた農家も多く、その中で、仕事を始めて以来、ずっと食品製造副産物のみを対象としてやってきた。排出企業から処理料金をいただき、その分を畜産農家に出来るだけ還元するという考え方でやってきた」、と仕事の理念を語ってくれた。青山商店から紹介された西尾市で酪農を営む、小笠原牧場の経営主は、「この地域では、自給飼料を作るのには限度がある。しかし、人間には利用できないが牛が利用出来る物は多く、酪農という仕事の意義をそこに見いだして仕事をしている。家畜はライブストックアニマルであり、人間の食しえない食品製造副産物を使って、畜産物を生産してゆく、そういう価値を有効に利用することに酪農の意義を見いだしている」と話す。

 幸田町の清水正さんは、70歳の年齢ながら、ユーモアたっぷりのF1肥育農家である。同氏は、「人間の食べないものを食わせて牛は飼うべきもので、配合飼料を買い、自動給餌器での機械的なエサやりでは楽しみがない。いろんな飼料原料を集めて、配合して、糞の色など牛の様子を見ながら、牛を育てている。そして儲かっていくという楽しみが、私にはある。」と牛舎を背に腕組み、立ち姿で語った。

 一帯は三河の国であり、徳川将軍を育んだ人達の子孫には、独特なものの考え方があるのではないかと思われた。


2 全国の食品製造副産物の利用状況

 表1に全国での食品製造副産物などの種類とそのリサイクル率を示した。年間の発生量は490〜500万トン弱であり、その飼料化率は平成16年度に比較して平成17、18年度は高くなり、平成18年度は38%であるが、未再生の割合が24%で、約119万トンが潜在的に利用可能な賦存資源量と見込まれる。

 油粕類やヌカ類などの乾燥製品のリサイクル率は高いが、それに比較して高水分含量の素材の利用率は低いと一般的に言われている。飼料化の視点は主に、そこに向けられるべきであろう。

 それらについての利用者側の反応はどうであろうか。社団法人 配合飼料供給安定機構は配合飼料工場に対して、食品製造副産物(特に食品残さ)の飼料利用についてのアンケート調査を行っているが、「一定量の確保と安定供給」、「安全性の確保」、「品質の安定性」、「栄養成分の安定性」、「トレーサビリテイ」、「適正な価格」、「発生場所での製品化」などが課題として挙げられている(全国食品残さ飼料化行動会議・配合飼料供給安定機構、「食品残さの飼料化(エコフイード)をめざして、飼料化マニュアル」、平成20年2月)。

 一カ所で大量に、安定的に、しかも取り扱い易い形(乾燥製品)で排出されない低利用の素材を、誰が、どのような形で収集し、変敗させることなく保存し、輸送して、畜産農家に届けるか、食品関連事業者と畜産農家の間に介在して、素材(飼料)の橋渡し役を務めるか、それが過去からの課題であり、今後の課題である。

表1 食品製造副産物の発生量とリサイクル率および食品製造副産物などの種類


3 食品製造副産物を飼料利用することの意義と利用のための要件

1)酪農、特に都府県酪農の課題

 平成18年1月〜10月に1ブッシェル(25.4キログラム)が2.0〜2.5ドルであったトウモロコシのシカゴの取引価格が平成18年末から上昇し始め、平成20年3月には5ドル台、4月になると6ドルへ、6月10日には7.03ドルと高騰し、それは国内の配合飼料価格を押し上げ、「畜産の危機」をもたらした。

 実際に畜産農家への影響はどのようであったか。表2には筆者らの調査結果を示す。この表は筆者が日本大学に在籍していた平成16年夏、研究室の学生とともに、茨城県内の6戸の酪農家での搾乳牛への飼料給与量、乳量等の定量的な調査を行った結果を基礎とし、平成20年夏の飼料費と比較するために、平成16年夏の牛群検定時と同じ飼料給与内容、頭数、乳量で計算した場合に、飼料価格の上昇が、どれだけ酪農家の経営に対して影響を及ぼしているかを両年度の差異で示してある。飼料価格の上昇で、1日に約9,300円、月では約28万円の負担増である。

 このF農場の飼料給与の特徴として、トウフ粕を使用していることがある。乾物で1日に1頭当たり0.7〜1.0kgの給与である。その分量相当分の配合飼料TDNがトウフ粕TDNに置き換わっていると考えてよい。両飼料の価格差から計算すると、トウフ粕の使用によって1日約2,400円の飼料費が節約されていることになる。安価な食品製造副産物利用が経営への負担を軽減している。

 もう一つ考えねばならないことがある。それは都府県酪農の輸入乾草依存率の高さである。表2に示すようにF農場の飼料費に占める乾草比率は39%と高く、これは配合飼料のように価格補てんの対象にはならない。都府県酪農のアキレス腱はそこにある。

表2 茨城県F農場(搾乳牛33頭)の平成16年夏と平成20年夏の飼料費の比較

2)飼料ベストミックス化への移行とそのための要件

 平成18年後半からの輸入トウモロコシ価格の上昇に伴って生じた危機・混乱は、日本の畜産が画一的で均一的なホモ型の飼料構造になっていたことに大きく起因する。酪農で言えば、昭和50年以前には、水田型酪農、畑作酪農、放牧酪農、草地酪農、都市型粕酪農と地域性に富んだそれぞれに自前のメニューを持った飼料構造を構築していた。しかし、ニクソンショックの後、アメリカからのトウモロコシが安定的にしかも、廉価に供給される状況下で、トウモロコシ、大豆粕、輸入ビートパルプ、チモシーなどの輸入長もの乾草、輸入アルファルファキューブの組み合わせが、定番メニューとして全国的に拡大・展開してきた。人間の食で言えば、チェーン店メニューの普及と定着である。

 メニューを構成する主要な素材の高騰はたちまちにして全国の畜産農家の経営を一様に攻撃し、表2のような結果をもたらした。チェーン店メニュー構造には緩衝能がないのである。皆、輸入飼料の高騰により一斉に共倒れになってしまう。自給率を高めるということは、緩衝能ある飼料構造を作ることを意味する。それはメニュー的にはベストミックス化である。

 ベストミックス化はエネルギーの分野で言うとわかり易い。エネルギーの供給源を原油、原子力、風力、地熱、天然ガス、バイオエタノール、植物油脂燃料と多様化し、環境に配慮しながら資源の温存を図ってゆこうという手段である。平成18年後半からのトウモロコシ価格の上昇はアメリカ政府の「新エネルギー法」というベストミックス戦略に端を発している。

 飼料構造のベストミックス化とは輸入穀類と輸入乾草への依存度を低めて、緩衝能の高い構造を構築するという戦略であり、戦術としては自給飼料の生産力の強化と食品製造副産物を始めとした栄養価の高い素材の探索と利用である。

自給飼料と食品製造副産物を軸としたベストミックス化の一つの例を表3に示す。

表3 トウフ粕とトウモロコシサイレージを用いた黒毛和種去勢牛の肥育試験成績

 この試験は平成元年〜平成5年の間に行われた、「農産加工副産物、地域飼料資源を活用した新組成混合飼料による牛肉の低コスト生産技術の開発」プロジェクト研究の肉用牛飼養試験(肥育試験)成績の一つである。平成5年12月にガットウルグアイラウンドが実質的な合意に至り、牛肉については、「関税率を現行の50%から6年間で38.5%に削減」という妥結内容になった。

 このプロジェクト研究はラウンド協議を横目でにらみながら、国内の肉牛生産をより低コストで行うための技術開発を行い、肉用牛農家にその成果を普及していこうという目的で行われた。

 表3の試験は、慣行的な肥育飼料体系の中のトウモロコシと大麦の一部をトウモロコシサイレージとトウフ粕に代替し、飼料価格を低減させながら、肉量を得て、格付成績の高い枝肉の生産を目指した試験である。

 その結果、トウフ粕区(ベストミックス区)の方が、慣行的な穀類多給区よりも飼料摂取量が多く、と畜時体重・枝肉重量も多く、ロース芯の脂肪交雑Noも高い値で、枝肉価格には大きな差異が認められた。

 飼料価格と枝肉成績の両方でベストミックス区が優れた成績を示した。その理由については、当時、滋賀県畜産技術センターの方々とつくば(農林水産省畜産試験場)の我々とで検討したが、1)ベストミックス区の飼料の嗜好性が良かったこと、2)トウフ粕のエネルギー含量の高さ、特に総繊維の消化率が高いことで、第一胃内での酢酸生成比率が高かったこと、3)トウフ粕の脂肪含量の高さが穀類デンプンのエネルギー代替効果と脂肪蓄積に貢献したこと、4)トウモロコシサイレージ中の子実デンプンが対照区のトウモロコシのデンプンの代替となったことなどが、ベストミックス区の好成績をもたらしたという考察を、第一胃液性状、血液性状さらにはロース芯の脂肪酸組成等を基礎に行った。

 輸入穀類デンプンの地域資源での代替は栄養学的な知識と情報を活用することで可能であることをこの試験は示してくれている。

 それでは、ベストミックス化を全国的な規模で展開するための要件は何があろうか。この報告の主題である食品製造副産物に関して言えば、それは以下のようになろう。

 (1)それぞれの地域にどのような食品製造副産物が排出されるかの情報の整理が必要である。

 (2)排出された食品製造副産物の畜産農家までの流通経路の整備が必要となる。その形には、1)食品製造副産物が直接、畜産農家に有価で引き取られる、2)食品製造副産物が産業廃棄物取扱業者の手によって収集され、それが処理加工されて畜産農家に供給される、3)食品製造副産物が配合飼料メーカー、TMRセンターなどの飼料製造業者に有価で引き取られ、処理加工されて畜産農家に供給される、などがあろうが、種々の事業形態が共存し合い、全国的に多様な形での流通・加工・供給の姿が持続性を持った形で定着することを望みたい。

 (3)食品製造副産物を用いて家畜を健康的に管理し、良質の畜産物を生産性高く得るためには、使用にあたって、下記の手順を踏む必要があり、その実践のためには、地域内の異業種の人達の連携・協力が必要である。手順は、1)利用できる量の評価、分別と安全性の評価、季節生産性の評価など素材の供給能力と安全性の確認、2)基本的な栄養素量の評価、3)小規模の家畜による嗜好性試験等のスクリーニングテスト、4)飼料設計のための詳細な飼料特性情報の収集、5)飼料設計、6)家畜を用いた泌乳試験や肥育試験の実施、7)農場での経済効果を含めた総合的な評価

 以上が飼料ベストミックス化の要件であるが、本報告では、愛知県の有限会社青山商店の活動を通じて、食品製造副産物の排出業者から畜産農家への橋渡し役の姿を紹介したい。


4 青山商店の活動

1)創業と事業理念

 昭和30年に焼酎製造工場の焼酎粕を処理することから今の事業が始まっている。中間処理施設(汚泥・動植物性残渣、混合)を持つ産業廃棄物処理業である。父親が創業した有限会社を現在は二人の子息、青山太郎氏と次郎氏が10名の従業員とともに引き継ぎ、運営している。会社の社是ともいうべき、経営理念が以下の内容で顧客に提示されている。

 日頃大変お世話になっている『みなさん』に青山商店の理念をご理解いただきたいと願い次のような御願いをしたいと存じます。

 日本人の暮らしは大変豊かになりました。その陰には『ゴミ戦争』の中の暮らしもあります。
 
 地球上の動物、植物は物質の循環の中で暮らして居ますが、一部の人間だけが循環の外側で暮らして居ます。

 人間の暮らしと農業と畜産と自然との調和、これらはすべて再利用により、有機物の循環の中で人間の暮らしをしなければ、何年か先にはゴミの山の上で、次の世代の人達は暮らすことになります。

 そんな事にならないために再利用をして、農業と(肥料として)畜産(飼料として)に利用したいと考えておりますので御協力下さる様お願い申し上げます。

岡崎市  有限会社 青山商店

2)食品製造副産物の収集

 青山商店が取り扱っている食品製造副産物などは表4に示す通りであるが、以前にはこのほかにコーンスターチ製造工場からのコーングルテンフイード、ジャガイモ菓子製造工場からのイモ皮、カットクズを扱ったこともある。

表4 青山商店の取り扱っている食品製造副産物など


醤油粕の入ったタンク

 主力製品はトウフ粕と醤油粕である。トウフ粕は愛知県内の11のトウフ工場と千葉県のトウフ工場一ヶ所の12社から収集しているが、千葉県産のトウフ粕は栃木県の酪農家向けである。県内のトウフ工場にはフレコンバックを置いておき、密封貯蔵してもらい、傘下の「東海商運」が集荷して回る。集荷量は月に250〜300トンである。醤油粕は青森県から兵庫県にかけての13工場から月に450〜500トン収集している。トウフ粕と醤油粕に次いで多いのがミリン粕で、これは県内と関東周辺から収集している。聞き取りの中から、日常の配慮事項、最近の収集における状況などを以下に紹介する。

 (1)トウフ製造業者には、「しっかりと密度高くフレンコンバックに詰めて空気を遮断し、その上での密封を」とお願いしている。当初は時々それが出来ず、変敗するようなこともあったが、徐々に慣れてきて、今では安定的な品質のものを収集できている。

 (2)トウフ業界も大豆の値上りなどで経営が苦しくなっており、廃業する所も出てきている。以前から廃棄物として処理料金を頂いてきたが、トウフ製造業者からは「何とか有償にしてくれないか」との要望も強い。全国的な動きも微妙なところで、これからは、「無償(処理料金なし)から有価」へと変化してゆくであろう。

 (3)醤油粕はバラでは廃棄物で処理料金は頂くが、600キログラムのフレコンバックに充填した物は商品として有価となっており、少し前までは1〜6円程度であったが、配合飼料高の影響で高くなり、今、工場渡しでキログラム当たり4〜6円くらいとなっている。

 (4)北海道では、クズ小麦・クズ豆(規格外品)、デンプン粕、生ビートパルプが取り合いの状況になっている。

 (5)フレコンバックは一袋が1,500円程度の高価なものであるが、平均、2回くらいの使用しか出来ず、その経費負担が結構大きい。

3)収集品の処理・加工と製品の販路

 集荷された食品製造副産物は会社の持つ中間処理工場でトウフ粕の場合には、(1)単品で乳酸発酵させ、700キログラムのフレコンバックで畜産農家に配送する、(2)施設内のミキサーフイーダーでトウフ粕にフスマや糖蜜を添加し、混合品のTMRサイレージとして700キログラムのフレコンバックで畜産農家に配送する、の二通りの手法が採られている。


製品を入れるフレコンバック


ミキサーフィーダー

 販売先は酪農家が最も多く、次いで肉用牛農家であり、豚・鶏は少ない。配合飼料工場にはコーンコブ(トウモロコシの芯)を納入している。販売地域は北海道から九州までの全国におよび、農家数は変動はあるが250戸前後である。最も多いのは北海道の100戸で、主に十勝、根釧、網走が多いが、富良野、早来など、道央・道南にも取引をしている畜産農家がある(TMRセンターへの供給については後述)。製品の輸送は複数の運送会社に依頼している。輸送料金は県内がキログラム当たり2.5円、遠隔地では、例えば北海道では地域によっても異なるがキログラム当たり11〜12円になる。

 以下に、苦労話も含めて、日常の様子を紹介する。

(1)北海道への進出は、三重県で取引のあった酪農家が北海道に移転したことを契機としている。そこを拠点として、最初はホテル住まいをしながら営業を行っていたが、平成7年に弟子屈町に営業所を設けた、

(2)北海道の十勝清水の酪農家までは20トントレーラで700キログラムのフレコンバックが30個、岡崎から4〜5日かけて輸送される、

(3)ここ数年、取引する農家数が増加している。また、以前からの顧客も量的な拡大を要求してくるようになった、

(4)農家への供給量の調整は青山商店が主体的に行っている。対象農家の消費量から出荷計画を策定し出荷している。製品は乳酸発酵製品でフレコンバックでの比較的長期の保存に耐えうるものなので、北海道の農家の場合には牛舎周囲のスペースをストックポイントとして利用できる。そのため、製造量の多い時期には多量の製品を出荷することが出来るが、都府県の場合にはそういうわけにはいかず、少量ずつの配送となり、製品の供給を決して「切らさない」ということで神経を使う、

(5)量的拡大の要求に迅速に対処することは困難だが、取扱食品製造業者数の拡大に向けて努力はしている。これからは、醤油粕やミリン粕は有価であるが、これらを増加させたいと考えている。農家には、醤油粕やトウフ粕の現在の需給構造を説明して協力・理解してもらっている、

(6)昨今の配合飼料価格高騰の中で、農家は粕を欲しがっており、我々には今のこの状況には感慨深いものがある。「粕の価値を認めてくれる時代になってきた。世間が目を向けてくれるようになったな」と思う。北海道では、社員が農家回りをすると、数年前までは、「そんなものはエサではない」と10件の農家の中で9件までから、ケンもほろろに玄関払いされ、「いや、大切で良い飼料だ」と評価して下さった希少な酪農家に、「癒しを求めて」、逃げ込んだ。それが今や、奪い合いになっている。少しくらい高くてもよいから「くれ」といってくる、

(7)しかし、何時、以前のような状態に逆戻りするかという不安は拭いきれない。だからこそ、今までのお客さんを大切にしたい。状況がこうだからといって値上げなどはしない。けれども、素材は「処理料金を頂く」から、無償引き取りへ、さらには有価での引き取りへと変化しており、奪い合いは、価格水準を高める方向に働いているので少し困った状況にある。

4)TMRセンターへの供給

 現在、国内では酪農家への飼料の供給構造が少しずつではあるが変化してきている。それはTMRセンターの設立と、酪農家へのTMR製品の配送・供給事例の増加である。平成15年には国内のTMRセンター数は34であったが、平成17年度には49と増加し、特に北海道での増加が目立っている(平成15年度は7カ所、平成17年度は20カ所)。

 青山商店は北海道内のTMRセンター(中標津、鶴井、阿寒)に主に醤油粕の供給を行い、所によっては、酒粕、デンプン破袋品、麦芽粕の供給も行っている。

 今後も増加するであろうTMRセンターへの食品製造副産物の供給に果たす中間処理業者の役割は、情報量、機動力などの面から大きくなると考えられるが、現状および課題については、以下のように語ってくれた。

 「需要量が多いので、要望される量をきちんと供給できない場合もある。そういう事態の回避策として、他の業者にも供給して貰うようにお願いをし、TMRセンター側もその事情は理解してくれている。また、醤油粕は長期間の保存に耐えるので、逆に多量にある時は前倒しで引き取ってくれている」。

5)研究開発への参加・協力

 北海道では、特定非営利法人 環境リサイクル肉牛協議会が副産物を利用した飼料の利用方法を検討し、道内の肥育農家への情報提供を行っている。試験研究実施の実施主体は帯広畜産大学と北海道立畜産試験場である。平成15年には、ジャガイモ菓子製造工場から排出されるイモ皮を主体とした青山商店のサイレージを用いた種々の試験が大学と試験場で実施されているが、サイレージの原料組成を表5に、乳用種去勢牛を用いた肥育試験の成績を表6に示した(アグリサイクル、第3号、環境リサイクル肉牛協議会、2004)。肥育試験を担当した北海道立畜産試験場の佐藤幸信氏は、研究報告の最後で以下のように述べている。

 「イモ皮サイレージ20%給与区は肥育期通算の日増体量が対照区とほとんど差がないこと、肉質が対照区とほぼ同等か若干上回っていることから、配合飼料TDNの20%をイモ皮サイレージで代替する肥育方法が適当と考えられた。この方法ではイモ皮サイレージを約1.8トン摂取させることにより、配合飼料が約0.6トン節減できた」。

表5 イモ皮サイレージの原料組成

表6 イモ皮サイレージ給与による乳用種去 勢牛の肥育試験成績


5 愛知県西尾市 小笠原牧場

青山商店の製品を利用し酪農経営を行っている小笠原牧場を見学した。

1)経営の概要

 小笠原正秀さん(52歳)は30年のキャリアを持つ酪農経営者である。従業員3名、臨時職員6名に外国人研修生を含む有限会社の形で1日3回搾乳の経営を展開している。平成20年5月の牛群検定成績(表7)から分かるように大規模でかつ、高泌乳牛群を維持する経営体である。

 牛舎はフリーバーンでA〜Dの4つに牛群を分けている、Aは2歳以上、Bは初産牛、Cは病気療養牛、Dは分娩後7〜10日の乳牛である。飼料はTMR(1種類)を調製し、C、D群にはTMRに加えて、チモシー乾草を飽食としている。飼料設計はあかばねクリニックの獣医師である鈴木保宣氏に一任している。

表7 小笠原牧場の牛群検定成績(平成20年5月)

2)食品製造副産物の利用

 さて、このような大規模、高泌乳牛群では、どのように食品製造副産物を利用しているのだろうか。

 (1)TMRの調製は1日2回行い、1回に5トン、1日10トンのTMRを製造する、

 (2)使用している食品製造副産物はトウフ粕(青山商店からのものが700キログラム、トウフ店からのもの300キログラム)が1日1トン、ビール粕が1日350キログラム、味噌(蓋味噌、賞味期限切れの味噌など、アミノ酸の供給を企図)を1日100キログラム使用している。つまり、原物で10トンのTMRの中で、食品製造副産物などが14.5%含まれる。

 (3)トウフ粕は父親の代から利用してきた。昭和62年の牛乳取引基準の改正(乳脂率3.2%が3.5%へ)時に、近隣の酪農家のかなりが、トウフ粕の給与をやめてしまった。そのために、トウフ粕がダブついてしまい、価格はただ同然となってしまった。この時代からTMRを調製しており、その素材としてトウフ粕を利用していたが、品質管理(変敗防止)と第一胃発酵の正常化維持に努めていたために、トウフ粕の使用を継続出来た。トウフ粕はTMRの水分含量を最適水準とされる50%前後に調製するためにはとてもよい素材であり、嗜好性もよい、

 (4)食品製造副産物利用の有利性は、第一義的には価格が安いことで、労力がかかるという面はあるが、それを超えた価値を持つ。青山商店のトウフ粕サイレージは原物で1.3円と安い。水分80%と仮定して乾物当たりに換算するとキログラム当たり約6円と計算される。トウフ粕の乾物中のTDN含量は90.5%であり、配合飼料よりも高い値を持つ。小笠原牧場では大量購入のため、購入飼料の価格は安いが、それでも、以前と比べてキログラム当たり30円の配合飼料が55円に、イネ科の乾草が35〜40円のものが45〜50円になっている。そういった中で食品製造副産物利用は経営の安定化に対して一定の寄与をしている。

3)耕畜連携

 西尾市は水田地帯であり、小笠原さんを始めとする酪農家と水田農家との連携内容を小笠原さんは以下のように話してくれた。

 「水田耕作は作業受託のオペレータ集団がやっており、一人の作業受託者の請負耕作面積は20〜40ヘクタールで、酪農家の堆肥を散布するという余力はない。しかし、この地域で特色のある米を生産しなければならないという危機感が水田農家にはあった。そこで、低農薬・低化学肥料での特別栽培米生産が計画され、堆肥は西尾市の17戸の酪農家が生産と散布を引き受け、市はそれに対して助成を行いながら、オペレーターへの負担を軽減する形で特別栽培米の生産が行われ、現在は軌道に乗っている。農協ではカントリーエレベータで、他の米とは分離した精製を行い、ブランド化している。これからは、この米を食農教育の素材として学校給食でも利用しようと考えている。私の家は、酪農教育ファームにも参加しているが、子ども達はしぼりたての生乳を“牛乳ってこんなに温かいものなんだ”と言う。子供達は牛乳を冷蔵庫の中の物としか知らないために、冷たいものだと思っている。食農教育というのは大事だ。また、水田から出る稲ワラは肥育農家に販売し、その収入で乾草を購入することによっても、耕畜連携の恵みが酪農家に与えられる」。

4)目標

 小笠原さんは今まで、200頭飼育による2億円の販売額で2,000万円の所得を目指して努力してきたが、種々の資金等の返済時期が迫っている中で、従業員も多く抱えているところから、300頭飼育による3億円の販売額で3,000万円の所得を念頭に置いた経営を目指さなければならないと考えている。「従業員とのコミニュケーションと目的意識の同一化」、「消費者への配慮」、「量販店が力を持つ中での牛乳価格の適正化」、「資源・物質循環酪農への貢献」と言った課題の中での努力が今後も力強く続けられていくことと思う。


6  愛知県幸田町 清水牧場

 今回の調査の最後の訪問先は清水一正さん(70歳)の肉用牛牧場であった。45歳の時に食肉センター勤務から身を転じて、育成・肥育の仕事に従事している。文頭に記したように飄々として、洒脱な方であった。

 現在はF1の雌を100頭、ホルスタイン種などF1以外の品種を50頭飼養している。子牛は岡崎市場から5〜6万円で購入し、26カ月齢出荷で、体重は670〜680キログラム、枝肉重量で400キログラム、B−2の牛が多いという状況である。

 使用している食品製造副産物等は、トウフ粕(1日500〜600キログラム)、パンクズ、ポテトチップスのクズ、大麦荒ぬか、トウマメのクズ、トウモロコシのダメージ品、小麦粉(ラインの洗浄粉)と多様であり、その他に濃厚飼料原料として圧ぺん大麦、2種混トウモロコシ、大豆粕を購入し、これらが牛舎入り口の攪拌機で混合される。粗飼料は輸入のストロー乾草である。

 昔は電卓をたたきながらの飼料計算をし、鼓張症などの第一胃ガスの産生に苦労しながら、時々に素材が変化する中で清水さん独自の飼養体系を確立し、冒頭に述べたような哲学を持ちながら、畜産を楽しんでいる姿を拝見した。


7 おわりに

 平成18年後半からのトウモロコシ価格の高騰によって、食品製造副産物に熱い視線が注がれるようになってきた。しかし、それは今まで、傍流の目立たない、地味で隠れた飼料資源であった。いや、資源という認識を持つ関係者は必ずしも多くはなかった。そのような中で、青山商店を始め、いくつかの事業体が営々として食品製造副産物の畜産的利用を推進してきた。その一筋の流れが、「エコフイード」という政府の飼料施策に継承されていると考えたい。

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