話題

国民の健康な食生活とフードサービス

社団法人 日本フードサービス協会会長
田沼 千秋

1 外食産業の役割

 1970年代我が国に本格的なレストランチェーンが登場してから40年、外食産業はこの間大きく発展しました。食の外部化率は43%、中食を含む市場規模は30兆円超となっています。今や外食は、人々の食生活に大きな役割を占めており、消費者の健康の維持・向上という面からも外食産業に対する期待が高まっています。外食産業の店舗数は78万店、従業員数は464万人と地域社会における重要な産業となっています。

 こうした中、(社)日本フードサービス協会(JF)は業界団体として、外食産業の発展と地位向上のための取組み、企業の経営を支援する事業、行政への提言・要請など多彩な活動を行っています。特に最近は、消費者やマスメディアとの情報交換も重要性を増しています。現在、JFには正・賛助会員合わせて857社が加盟しています。正会員社の店舗数はおよそ7万店、総売上額は6兆円に達しています。

 1974年JFが設立されて来年で35周年を迎えます。今後、我が国経済社会の成熟化や少子高齢化などに伴い、食生活はこれまでとは異なった質的変化が生じてくると予想されます。より新しい視点や手法を取り入れ、国民の健康な食生活を担う産業としてその社会的役割を果たしてまいります。


2 食の安全・安心とコンプライアンスの徹底

 数年来、偽装表示、農薬中毒など食の安全・安心をおびやかす多くの問題が発生し、食品関連業界全体に対する消費者の信頼は大きく揺らいでいます。食の生産から消費に至るフードチェーンの一角を担う外食事業者にとっては由々しき問題であり、同時に責任の重大さを痛感しております。コンプライアンスを実践し誠実に食の安全を確保すること、日々これに向けた努力を重ねていくことが何にも増して求められていると考えています。そうでなければ、消費者から「安心」と思っていただくことはできず信頼を回復することは不可能だからです。

 このため、JFでは、「外食産業の信頼性向上のための自主的行動計画」を策定しました。(1)消費者基点の明確化、(2)コンプライアンス意識の確立、(3)適切な衛生管理・品質管理の実施と確認、(4)適切な衛生管理・品質管理のための体制整備、(5)情報の収集・伝達・開示という5つの基本原則を掲げ、これをもとに会員各社は自らの行動規範の策定や管理マニュアルの総点検を行い、積極的な実践に取り組むこととしています。


3 食料自給率の向上と農畜産業との連携

 我が国の食料自給率は40%と低く、外食産業が取り扱う食材も海外への依存を余儀なくされています。昨年来、原油価格が高騰する一方で、中国・インド等新興国の急激な経済発展、バイオ燃料向けの需要増などにより、世界の食料需要が増大し価格の高騰を招きました。このような中で、JFは、食料自給率の向上や地産地消の視点から、さまざまな取組を行っています。

 国内の農業との関わりについては、外食産業が良質な農畜産物を安定的に調達し、新鮮で豊かなメニューを提供する上で特に重要と考えており、「大切なパートナー」と位置づけています。

 具体的な取組みとしては、加工・業務用野菜や有機農産物を生産する農業者等との交換を行う「産地見学交流会」を年6回、全国各地で実施しています。現地において、生産者と直接接触しながら農作物について学ぶとともに、外食が求める食材ニーズをお伝えすることを通じ、具体的な商談に結びつけ、積極的なパートナーシップの構築に努めています。また、食肉や水産物等の主要な食材・資材についても、実務担当者を交えた試食検討会や情報交換会を行っています。

 さらに、これらの食材調達のニーズや取り組みを広く紹介する場の提供も行っています。外食産業と農業・食品関連産業との連携強化を図っていくため、毎年、農畜産業振興機構のご協力を得て、「フードサービス・バイヤーズ商談会」を開催しています。


4 牛肉消費の拡大

 景気後退に伴い食料消費が低迷しており牛肉も例外ではありません。牛肉については、2003年12月アメリカでBSE感染牛が発見されて輸入が停止、その後再開されましたが、「生後20か月齢以下」という条件付きの輸入となっています。このため、牛肉商品の品揃えやメニューの多様性の面で、消費者の期待に十分応えることができない状態が続いています。私どもとしては、世界の牛肉貿易の指針となる国際獣疫事務局(OIE)基準に基づき、「30か月齢未満」の輸入が認められるよう、生産者、消費者、マスコミ等様々な立場の方々との話し合いの中から、合意形成をめざして参りたいと考えています。


5 日本食レストランの海外普及と日本食・食材の市場開拓

 昨今、海外においては、日本食が健康的で理想的な食生活スタイルとして注目を集め、日本食ブームが巻き起こっており、日本食レストランが急増しております。日本食レストランは、外国の人々が日本食や食材、そこに内包される日本の文化に接する身近な機会を提供しており、日本食・文化の発信拠点となっております。昨年7月、日本の食の魅力を世界に伝え、日本食・食材の海外市場開拓に寄与するため、NPO法人「日本食レストラン海外普及推進機構」(JRO)が発足しました。JFはその事務局として、国内での経験を活かし世界の日本食レストランの活動をサポートしています。これまでに上海、バンコク、ロンドン、ロサンゼルス、モスクワなど世界8都市で支部が立ち上がっております。今後これらのネットワークを活用し、米、牛肉、野菜、果実、水産物など具体的な食材輸出に結びつけていくことが課題となっています。

田沼 千秋(たぬま ちあき)
株式会社グリーンハウス代表取締役社長、東京都出身
昭和50年3月 慶應義塾大学経済学部卒業
昭和55年6月 米国コーネル大学大学院ホテル経営管理学科卒業
平成5年6月 株式会社グリーンハウス 代表取締役社長就任(現任)
平成20年5月 社団法人日本フードサービス協会 会長(現任)


 

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