1.はじめに
広大で肥よくなパンパ地域に点在する牛の群れ、のんびりと草を食んでいるのはヨーロッパ品種の牛、これがアルゼンチンの原風景であり、大半の人がアルゼンチンと聞いて思い浮かべるイメージであろう。しかし、ここ数年、世界的な穀物需要の高まりから、対外的には米国に次ぐトウモロコシ輸出国であり、大豆についても、ブラジル、米国に次ぐ輸出国であるアルゼンチンに注目が集まる一方、国内では、大豆やトウモロコシを中心とした畑作の拡大に伴い、パンパ地域が放牧地から農地に転換され、その結果、牛は次第に北東部へ追いやられるか、または穀物肥育に移行するという変化が見られるようになってきたといわれている。
アルゼンチンにおけるトウモロコシの2006/07年度の国内消費量は、生産量2,250万トンの約3割となる670万トン、そのうち飼料用が480万トンで、残りが糖原料やコーンスターチなどの産業用と推計されている。飼料用のうち、300万トンが養鶏に、70万トンが養豚に向けられる。牛の飼料として現在は110万トンのトウモロコシが利用されているが、穀物肥育へ移行することにより、今後のトウモロコシの国内需要の拡大が見込まれることから、本稿ではアルゼンチンにおけるフィードロットの現状について報告する。
2.畜産をめぐる状況〜フィードロット進展の要因
穀物部門の収益性が高いことで、農業生産が畜産から耕種農業へシフトするのは当然であるが、一方、前政権から引き継いだ現政権の政策課題の一つであるインフレの抑制もその要因に挙げられる。畜産部門に関しては、輸出量の制限や生体牛の最高価格の設定、牛肉のポピュラーカット(ショートリブやトップサイド、シルバーサイドなど)の小売価格引き下げに関する政府・パッカー間の協定の締結などにより、国内価格を引き下げることを目的とした政策が相次いで採られている。こうした政府の政策も生産者の畜産から農業への転換への動機付けとなっているといえる。
(1)穀物生産と肉用牛生産の収益性
下の表は、2007年8月時点のパンパ地域におけるモデル経営の作物別の1ヘクタール当たりの収益をアルゼンチン農牧漁業食糧庁(SAGPyA)が推計したものである。同地域の土地当たりの収益性は、大豆>トウモロコシ>肉用牛となっている。
(1)ブエノスアイレス州南東部(所有面積600ヘクタール)
(2)ブエノスアイレス州西部(所有面積2,00ヘクタール) |
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資料:SAGPyA |
(2)と畜重量制限措置
政府は2005年8月、輸出需要と国内消費の増加に対応するための措置として、これまで設定されていなかった若齢去勢牛と未経産牛のと畜重量の下限などを定めた決議645/2005号を公布した。主な改正事項は以下のとおりである。
・ ほ乳子牛、子牛および生体重量が300キログラム以下の若齢去勢牛および未経産牛のと畜を目的とする家畜移動証明書(DTA)の発行を中止
・ 若齢去勢牛と未経産牛の半丸枝肉の最低重量を85キログラムとする。
・ 1973年3月28日付け旧食肉審議会決議J−379号に規定されている若齢去勢牛と未経産牛の各格付け別重量基準を半丸枝肉当たり7キログラム増加し、それぞれの最大重量クラスの上限を125キログラム、120キログラムとする。
・ ほ乳子牛および子牛のと畜を一時的に停止する。
・ この措置は2005年11月1日から実施され、180日間継続し、必要に応じて期間を延長することができるものとする。
さらにSAGPyAは2008年1月、先の決議を改正した決議第68/2007号(12月28日付け)により、ほ乳子牛および子牛の今年3月31日以降の最低重量の段階的引き上げなどを決定した。
と畜重量の下限は2005年8月に設定、11月以降実施されてきたが、2006年春の干ばつや2007年夏の水害や冬の霜害により、飼料供給に影響が出、その結果、必ずしも良好な仕上げ状態ではなくとも最低重量に達した家畜をと畜に回さざるを得ず、したがって期待された歩留まりを下回ったことを今回の改正の要因に挙げている。
同決議では、若齢去勢牛および未経産牛の各格付け別重量基準の半丸枝肉当たり7キログラムの増加を維持するとしている。他方、2008年3月31日まで、骨付き半丸重量が132キログラム未満(生体重量240キログラム)、2008年4月1日から同年12月31日まで、143キログラム未満(同260キログラム)、2009年1月1日以降、154キログラム未満(同280キログラム)のほ乳子牛および子牛のと畜に対し、罰則が適用される。ただし、牛群を構成すると体の10%までが各期間について規定される最低と畜重量以下である場合は違反とは見ないとしている。
さらに同規定の順守が困難であるとされた「南パタゴニア地域」にあると畜施設で実施されると畜についても例外とすると定められている。また、酪農施設において生産される枝肉重量が50キログラム未満の乳用雄子牛についても対象外となっている。
これら一連の措置に対する政府の狙いは、牛肉供給量の増加によって国内価格を引き下げることにあると見られる。関係者からの聞き取りによると、生体重量260キログラムまでの肥育はこれまでの放牧肥育を中心とした飼養管理で十分に対応可能であるが、280キログラムまで仕上げるには、肥育後期に穀物肥育を行うことが不可欠になるのではとの見通しであった。
(3)放牧地の減少
SAGPyAによると、2007/08年度には主要穀物のは種面積は前年度に比べ、140万ヘクタール増大すると見込まれている。この140万ヘクタールは牧草地からの転換であることに疑いの余地はなく、関係者によると、最近10年間に農業の拡大により、約1,000万ヘクタールの土地が大豆などに転換したとされ、このうちの800万ヘクタールが牧草地から、残り200万ヘクタールが農地開発によるとされる。この800万ヘクタールにおよそ1,200万頭の牛が放牧されており、その大部分が肥育牛であったと言われているが、この10年間の牛の飼養頭数は約5千万頭と横ばい傾向で推移していることから、集約的な放牧肥育が進展していると見られる。
主要穀物のは種面積の推移
資料:SAGPyA
(4)今後の飼料用トウモロコシ需要の見通し
今後の国内の飼料用トウモロコシ需要について、アルゼンチントウモロコシ協会(MAIZAR)で話を聞いた。
その要点は、次のとおりである。
・ 牛肉に関する輸出規制や耕種作物との収益の差などから、大豆の栽培面積が拡大し、放牧面積は減少している。
・ 一方、フィードロットでは現在、後述するフィードロット経営に対する政府による補てんが収益増の要因となっていることから、この補てんが続く限り、フィードロットでのトウモロコシ需要は伸びるだろう(補てんについては、3の(3)で記述)。
・ しかし、残念ながら現在は、輸出税の引き上げや牛肉の輸出量制限など政府の農業部門への理解不足が影響している。一方、牛肉需要は高まっているため、畜産は伸びていくと考えられ、その結果、今後もトウモロコシの需要量も増加すると考えている。
3.フィードロットの動向
アルゼンチンでは、90年代初めから半ばにかけ、米国などの技術を取り入れ、フィードロット経営がスタートした。91年の1米ドル=1ペソの兌換(だかん)制度導入により、肥育牛の国内価格がドル価格で安定した穀物価格に対して上昇するに伴い、価格比が肥育牛に有利となったことでコストに見合う価格での取引が可能になり、フィードロットの普及が進んだ。当初は放牧地の一角で100頭程度を夜の間だけ囲い込んでいたものが、一日中囲い込むようになり、効率よく安定した品質の牛が出荷されるとの評価を得、買い手が固定化し、子牛を購入、肥育後、販売するようになり自然に発展していったことから始まった。最初に大型投資により施設を整備するオーストラリアなどとはタイプが異なる。
最近は、パンパ地域では農業にも適した畜産の土地(いわゆる肥育牛向け放牧地)を農業用に貸し、自身の牛は畜産しかできない土地(いわゆる繁殖めす牛向け放牧地)を借り、そこで繁殖めす牛を飼養するという傾向が見られる。この結果、放牧地が農業に転換され、繁殖めす牛が増加し、子牛の生産が増加している。子牛生産頭数の増加により、子牛価格が低下するため、フィードロット経営者は子牛を買いやすくなり、結果としてと畜向けの牛のフィードロットからの出荷が増えるとしている。
(1)フィードロットの現状
2007年の年間1,400万頭のと畜頭数のうち、およそ400万頭がフィードロット由来と言われている。150〜160キログラムでフィードロットに入り、平均120日程度の肥育期間に250〜300キログラムに仕上げられるのが一般的である。なお、公式な統計はないものの、SENASAでは、ブエノスアイレス州内の「肥育施設」を1,100程度と見積もっており、その他の州にはおよそ1,000程度が存在するものと推定している。
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資料:ブエノスアイレス事務所調べ |
(参考) アルゼンチンにおける「フィードロット」の定義
厳密な定義付けはされていないが、「囲い込みをして、牧草へのアクセスがない」ことを挙げており、ウルグアイやブラジルなど南米における一般的な解釈と言える。
このため、生産者の中にはと畜前の90日程度の肥育期間のものについては、一部にフィードロット肥育とすることに異議を唱える声もあるが、全国の140のフィードロットが加盟しているアルゼンチンフィードロット協会(CAEHV)では「フィードロット肥育」と認めているとしている。
(2)フィードロットの形態
アルゼンチンのフィードロットの形態は大きく次の3つに分類され、主に穀物の調達が容易な繁殖地域に所在し、ブエノスアイレス州から離れたところには少ない。
(1) 商業的フィードロット
経営者(土地所有者)自らが素牛を購入する所有方式と預託方式があり、預託の場合、管理料1頭1日当たり0.30〜0.35ペソ(10円前後:1ペソ=32円)、衛生費(1頭当たり8ペソ:約260円)および飼料代を支払うこととなっている。預託は、干ばつや洪水などの非常時や、農業を拡大する生産者が一方で畜産も引き続き行う際に利用する場合もある。
2005年以降は、輸出パッカーが他者のフィードロットを使用して肥育を行うケースが顕著となる。CAEHVによると、パッカーの稼働率が95%以上であると収益が出る一方、93%以下では赤字となり、この2%を埋めるためにパッカーは所有する家畜を第三者委託で肥育、と畜する。プラントの稼働率を安定するために肥育牛の出荷はパッカーの判断により決定される。
そのほか、大手パッカーが自社でフィードロットを所有する形態も増えている。
(2) 一時的なフィードロット
通常の農場で牛の生体重や穀物と牛肉の価格の関係から、経営に有利であると判断した際に一時的に囲い込みをするものがある。
(3) 季節的フィードロット
パタゴニア地域は、年間を通じて低温、乾燥した気候の面から放牧肥育が不可能なため、フィードロット肥育が行われる。
フィードロッドの肥育牛の販売先は、9割が相対取引により、そのうちマタリフェと呼ばれる食肉処理加工施設のと畜場を利用すると畜業者(生産者から家畜を預かりあるいは購入し、と畜、処理加工、販売を行う。彼らは自らと畜場を持たないので、食肉処理加工施設でと畜と枝肉にするまでの処理を委託する(と畜サービス)を受ける)が6割を占め、国内市場向けパッカーが3割、スーパーマーケットが1割となっている。
フィードロットで肥育される家畜の構成は、2005年4月時点では、雄子牛64%、未経産牛・若齢去勢牛25%、去勢牛9%、経産牛2%だったものが、同年8月以降、子牛のと畜が禁止されたことから、カテゴリーの割合が変化し、未経産牛・若齢去勢牛35%、雄子牛35%、その他となっている。
(3)フィードロット経営への補てん
フィードロット経営の収益増に大きく貢献しているのが、政府による補てんである。政府は2007年1月、「穀物および油糧種子が国際市場で高騰を続ける中、生活基本食料品の国内価格安定が政府の重要課題である一方、農業部門が国内供給を支え、輸出を拡大し成長することも重視しているため」とし、大豆の輸出税を原資とした小麦、トウモロコシ、大豆、ひまわりを原料とする製品を国内市場で販売する企業に対する助成制度を定めた。当初の対象は、これらの穀物を原料として用いる畜産経営、製粉業、油脂製造業などであり、これに加えてフィードロット経営も組み入れられた。
この補てんは、牛肉供給が減少することを避けるため、フィードロット肥育を奨励するもので、補てん額は、飼料の牛肉1キログラム当たりへの転換率により算出され、トウモロコシは1日1頭当たり6キログラム、大豆は同3キログラムに相当する額が適用される。現時点では、それぞれの額は、1.2ペソ(38円)、1.4ペソ(45円)程度とされ、120日間の肥育で積算すると、1頭当たり300ペソ(9,600円)ほどの補てん額が支払われることになり、当然のことながら、トウモロコシおよび大豆の価格が上昇すれば、補てん額も上昇するため、フィードロット経営の収益増に大きく影響することになる。現在、およそ350施設が受給の対象となっている。なお、国内の牛肉供給を確保する必要性から、国内市場向けの肉牛生産を行うフィードロットが対象であり、輸出向けの経営は補てんの対象外となっている。また、新規の参入も認められていない。
2008年3月末現在、支給額は約7千万ペソ(22億4千万円)に達している。
(4)今後の見通し
フィードロットの増加
現行の牛肉価格水準を維持するため、政府は牛肉輸出に枠を設定するだけでなく、生産増強のため、肥育業界を助成せざるを得なくなっており、「現在、供給量は減少しており、フィードロットの参加がなければ危機的レベルに達するだろう」とする声も上がっている。
一方、CAEHVのトロンコソ部長にフィードロット産業の今後の見通しを尋ねたところ、「たとえ、トウモロコシ価格が高騰しても、あるいは政府の補助がなくても、フィードロット産業は拡大の一途をたどるだろう」と断言している。その理由を以下の二通りのケースで説明した。
(1) 穀物価格が上昇する一方、政府からの補助金がない場合、政府は牛肉価格のコントロールを解かざるを得なくなり、トウモロコシ価格の上昇に伴い、牛肉価格も上がり、採算が合うフィードロットでの生産は伸び国内への安定供給にはフィードロット由来の牛肉が必要とされるため。
(2) 穀物価格が低下した場合は、世界的な景気の悪化により、中国、インドなどの主要な需要国が輸入を控えることで、アルゼンチン国内に安い穀物が供給されることになり、フィードロットが進展する。
米国市場への期待
また、米国への輸出解禁への期待も大きい。パタゴニアの口蹄疫ワクチン不接種清浄地域のステータス取得に伴い、アルゼンチン産生鮮牛肉の米国市場への輸入再開が行われれば、輸出量の増加なしに輸出額を増大させるのに大きく貢献すると見込まれる。2007年の牛肉輸出量は47万6千万トン、輸出額は1億4千万ドルとなっているが、米国市場の解禁により、輸出額は2億ドルを超えると推定される。
米国市場は、重量級(450〜500キログラム)の去勢牛がメインのため、放牧のみの肥育では不可能であることから、解禁によって、フィードロットの増加が加速すると見込まれる。通常90〜120キログラムで導入するところ、300キログラムでフィードロットに導入後、150日間肥育で450キログラムに仕上げる必要があり、仕上がり重量が増えるほどに単位増体量当たりのコストが増加するが、米国向けに出されるのであれば、最終的な価格で収支が合うものと見込まれる。また、離乳から300キロに至るまでの肥育は、今までにないステージだったが、今後は盛んになるものと予想される。
(5)フィードロットに関する環境規制
現在のフィードロットの運営上の課題は畜産環境問題だが、地域の環境規制は憲法により、各州政府の権限と定められている。CAEHVによると、フィードロットの振興には、畜産環境問題の解決は避けて通れず、さらに法制化がなされない限り、大規模フィードロットへの投資も行えないと関係者は一様に認識しているため、各州政府との交渉が行われているとしている。
こうした中、主要な畜産地域の一つであるコルドバ州は2006年7月、フィードロット施設を規制する条例を定めた(その後、同年9月に一部改正)。集約的な飼養管理を行うフィードロット施設から、悪臭やハエの発生、水源汚染などの畜産環境問題が発生していたため、周辺住民から苦情が出されていたことによる。
同条例の主な内容は以下のとおり。
(1) 居住地域や水源地から半径3キロメートル以内の地域を、集約的な飼養管理を行うフィードロットの施設の設置に不適な地域(規制地域)として指定する
(2) 新たにフィードロット施設を建設する場合、関係市町村による証明を要する
なお、現在、細則の制定が待たれているところで、運用には至っていない。
また、隣のサンタフェ州やエントレリオス州でも同様に法制化が進んでいると伝えられている。
フィードロット経営の事例
(1) 搾油工場の副産物を利用するフィードロット(サンタフェ州、Vicentin社)
訪問したフィードロットは、1929年に経営者の祖父と2人の兄弟が落花生の乾燥業を開始、綿花や油脂生産などで事業を拡大したVicentinグループに含まれる。グループ全体の売り上げは17億ドル(約1,717億円)。アルゼンチン国内では、Estrellaというブランドの脱脂綿、綿棒で広く知られている。また、Vicentin社は、搾油工場に併設して2007年よりバイオディーゼル工場の稼動を開始し、現在稼動している工場としては、アルゼンチン国内において最大規模を誇る。
同フィードロットは2007年5月に設立された。通常、フィードロットは年間雨量が300〜400ミリ程度の土地が適すると言われているが、同地域は、雨量が1,000〜1,200ミリと多い。しかし、飼料原料の調達先である油脂工場に近く、製油と配合飼料の生産工程が似ていることから、以前に製油工場として使っていたプラントの配合飼料工場への転換が容易であったことなど、インフラがすでに整っていたことからこの地でのフィードロット経営が行われることとなった。
現在の収容頭数は9,500頭で、傘下の輸出パッカーであるFRIAR社へ全頭出荷していることから、去勢牛は350キログラムで導入、450〜480キログラムで出荷と平均の仕上げよりも重い。トレーサビリティとして、耳標以外にさらに工場内部向けにbolo
de ruminoと言われる胃の中に装着するセラミック製の個体識別装置も使用しており、導入時に装着し、と畜されたパッカーで回収、データをリセットして、リサイクル使用している。
スペイン製で1個当たり3ドル
FRIAR社の主要な輸出先はEU、ロシア、ベネズエラであり、その他イスラエル、チリ、南アフリカなどにも輸出している。
自社での繁殖は行っておらず、コリエンテス州などの北部からサンタフェ州の中部を中心に1歳の子牛を購入する。品種はこの地に多いブランガスやブラッドフォードのほかにホルスタインも含まれる。
フィードロットを開始してから間もないことから、1月当たりの出荷頭数は1,300頭である。
ここでは、自社の油脂工場からの副産物を利用した配合飼料を与えている。数種類の原料(トウモロコシペレット、ソルガムペレット、ひまわりペレット、綿実ペレットなど)に医薬品を加え、加熱、加圧処理したもので、原料のひまわり、綿実を自社工場から調達し、ソルガム、トウモロコシは購入している。
責任者のSergio Vicentin氏によると、同飼料は独自に開発し、現在、特許申請中で、消化率が90%と非常に高いことが特徴(通常の配合飼料は75%程度)、繊維が含まれていないが、あたかもあるかのように反すうされるとのことであった。繊維を加えた通常の飼料の場合、牛肉1キログラム当たりの転換率は8キログラムに対し、この飼料は現在、7.7キログラムで、数ヵ月後には6.3キログラムにすることを目標としている。軽量家畜の場合にはこの転換率は普通だが、輸出向けの重量級の場合は達成が難しいとのことであった。
かつてはアルファルファ中心の牧草地が大豆に転換されている現状から、この新しい配合飼料は画期的なものと自負している様子がうかがえ、フィードロットを開始したばかりのため、自社内での消費のみでいわば試験段階にあるが、今後、成果が明らかになれば、将来的には商品化も目指しているそうだ。
特許申請中の配合飼料
また、畜産環境問題については、以下のようなコメントであった。
(1)この土地で地下水の調査を行ったところ、深さ8メートルの水脈が地表から最も近く、その上に粘土層があることから浸透しないため、地下水を汚染することは少ないと見られる。
(2)使用している配合飼料は消化率がよいことから排せつ物が非常に少なく、バイオエネルギーへの利用を考えていたが、少なすぎて断念したほどとのこと。
(3)スラリータンクを作り、水分は蒸発、たい肥は近隣の農家に販売するが、排出量が少ないため、それほど量は取れない。
環境調査に訪れた人がにおいのなさに驚いたとのこと
責任者のSergio Vicentin氏
なお、同農場は輸出向けのため、国内向けのみが対象となる補てんは受けていない。
(2)北部のフィードロット(サルタ州、Mollinedo農場)
放牧地の農地への転換は穀物肥育の増加とともに、パンパ地域から北部地域への移行にも影響を与えていると言われている。この動きは、2005年頃から顕著となり、パンパ地域で畜産を行っていた生産者が北部に土地を購入し、家畜の飼養を開始したが、インフラ整備が遅れているため、密林を開き道路を作るところから始まった。
Mollinedo農場は5千ヘクタールを有し、そのうち500ヘクタールを畜産で使用、同農場とは別の自社の繁殖農場から移されたブランガス種の去勢牛のみ400頭を飼養している。ブランガス種は、ダニや暑熱に耐性があることから、乾燥したこの地域での飼養に適している。放牧ののち、フィードロット肥育(トウモロコシ、ソルガム)に180〜200キログラムで導入され、18ヶ月齢340キログラムで州内にある食肉パッカーに出荷される。仕上げに時間がかかる輸出向けにはせず、すべて短期間で出荷でき、サイクルの短い国内消費向けである。昨年の出荷頭数は700頭であった。
企業全体では、サルタ州内に借地を含め、2万ヘクタールを所有し、うち大豆1万2千ヘクタール、トウモロコシ3千ヘクタール、豆3千ヘクタール、その他ひまわりなどを作付けしている。
一般的な方法により開墾された土地
耳標の義務付けについては未実施
1966年に経営者の父親が、現在農業と肥育を行っているMollinedoの農場で、繁殖経営をスタートした。降雨がある地のため、農業に転換する一方、一部を肥育として使用した。2002年に同農場から北東に150キロの地に土地を購入し、開拓の後、繁殖用の農場とした。繁殖農場は1万ヘクタールを有し、現在はそのうちの30%を使用するのみで、未開地が残っている。4,500頭のブランガス・コロラドを飼養し、このうち3,000頭が経産牛である。
この地で一般的な密林から農地への転換は、以下の方法によることが多い。
(1)2台の木を切り倒す機械の間に船の碇に使うほどの太いチェーンを渡し、林の中を通して、伐採。(2)小型機で空から牧草の種をは種。(3)草が育つ間、ひと夏経過。(4)牛の歩行のため、次の冬に樹木を燃却。
一方、同農場が取り入れているのは、ローラーを使う方法で、ローラーで木を倒すのと同時に伐採し、は種を行う。この場合、家畜の日陰用として残したい木を選べるというメリットがある。1千ヘクタールを耕すのに、チェーンの場合は20日間、ローラーでは1カ月と時間がかかるのが難点だが、ローラーの場合は家畜がすぐに放牧地に入ることができる。伐採した木は、適当な大きさに切り、炭にしスペインへ輸出している。
今後の見通しについて尋ねたところ、北部においても農業の進展が進み、畜産は隅に追いやられている感があるとのことであった。サルタ州の年間降雨量は550ミリメートルと少ないが、農業技術の改善による農業の拡大の可能性をその理由に挙げた。ただ、現在の繁殖農場の1万ヘクタールの土地を100%使用できるようになれば、経産牛は現在の倍の7千頭、全飼養頭数は1万3千頭に増頭が可能であり、今後は同農場で繁殖から肥育までを行い、フィードロット飼養の去勢牛の出荷を目指していくとしている。
綿実をタンパク源として給与
経営者のLucas Elizalbe氏
4.おわりに
関係者によれば、畜産で必要とする降水量は年間1千ミリメートル、他方、トウモロコシは600ミリメートル、大豆は400ミリメートルであり、技術改良が進むことで農作物が必要とする降水量はさらに少なくなると言われている。こうしたことから、今後、農業面積は拡大する一方、畜産は頭数を維持しつつも、放牧地の面積は縮小していくというのが大方の見通しである。
一方、アルゼンチンでは牛肉はなくてはならない生活基本食糧であり、年間1人当たり65キログラム以上の牛肉消費を維持するためには、現状の頭数が維持される必要がある。このため、農地面積が拡大するほどにフィードロットの役割は重要となるが、と畜重量の引上げとともに肉用牛肥育における穀物使用の割合は今後ますます増えていくことから、トウモロコシの国内需要の増加要因となることは明らかである。
先に示したようにフィードロット肥育によると畜頭数の増加は目覚しいものがある。1年間の生産頭数の伸びを30万頭と見た場合、30万頭のフィードロット肥育に必要なトウモロコシは28.8万トン(30万頭×120日×8キログラム)となり、飼料需要量に大きな影響を与える。こうしたことから、世界的な穀物需要の高まりに対し、政府の国内のインフレ抑制に特化した政策とともに、フィードロットを中心とした国内需要の拡大によりアルゼンチンのトウモロコシの輸出動向は変化することが予想される。
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