需給解説

最近の生乳の需給動向について

酪農乳業部 総括調整役 村尾 誠

1 バターの品不足

 今春、各地のスーパーなどで家庭用のバターが陳列台から姿を消したり、陳列されていても販売制限がされ、一時は、TVや新聞などで大きく取り上げられた。その後、大手乳業メーカーによる優先的な製造や、生乳のバター・脱脂粉乳向けへの用途変更もあり、あるいは諸物価値上がりの影響で、消費者の購買意欲が減少したためか、現在は、スーパーなどで陳列されている光景をよく目にし、品薄状況はほぼ解消されたと思われるところである。

 バターの品薄や不足は、(1)国産チーズや生クリームの需要が増加し、バターの製造に向けられる原料乳が減少したこと、(2)豪州の干ばつによる輸出減少、中国・ロシアなどの輸入増加により、乳製品の国際市況が高騰し、国産品への需要が増加したことなどによるものであるが、原料乳の生産が、どのような傾向になっているのかを見てみる。


2 20年度は増産型の計画生産

 我が国の生乳は、その大部分が昭和54年以降、(社)中央酪農会議(以下「中央酪農会議」という。)のもとで需要に応じ計画的に生産されている。18、19年度については、飲用牛乳の消費減退や脱脂粉乳の過剰在庫の解消のため、減産型の計画生産となったが、19年期中に海外乳製品が高騰したことなどから国内乳製品需給がタイトになり、20年度については、増産型の計画生産に取り組んでいるところ。

(1)20年4月〜8月の生乳生産量は、前年同期比、北海道が+3.3%、都府県が−3.5%
 増産型の計画生産となったものの、一昨年秋からの配合飼料価格の値上がりなどによる生産コストの上昇を背景に、20年4月に飲用向け生乳価格が3円、加工向けについては、北海道の加工原料乳向け価格が5円、補給金単価が1円(期中改定により、さらに0.3円)と、いずれも引き上げられたものの、酪農家の減少の度合いは例年よりも厳しい状況にある。

 中央酪農会議の調査によると、20年4月の酪農家戸数は、3年前と比較して、全国では約13%の減、特に都府県で顕著であり約16%の減となっていて、このような都府県を中心とした減少傾向は6月の時点でも、継続している(図1)。続騰する配合飼料価格は、特に、購入飼料により多く依存する都府県での酪農家に影響し、生産基盤が弱体化したことから、都府県の生乳生産は17年12月以降、33カ月連続(18、19年については減産型の計画生産を実施)で前年同月を下回っている。一方、北海道の酪農家戸数は3年間で約7%の減少となっているが、生乳生産量は、生産者の努力もあり、19年8月から前年同月を上回って推移している。20年4〜8月の生乳生産量は、全国−0.3%、北海道+3.3%、都府県−3.5%となっている(図2)。

図1 酪農家戸数の推移(平成17年4月を100とした指数)

図2 北海道と都府県の生乳生産量の推移(月別の前年同月比)

(2)北海道が全国の生乳の1/2を生産
 都府県において生乳生産が減少していることに加え、7月から8月中旬にかけ、西日本を中心に高温が続き、牛が「夏ばて」したことから、7月に初めて北海道が全国の生産量の1/2を占めることとなった(表1)。

 また、都府県での生乳供給に不安感が出たことから、北海道からの生乳供給、あるいは欠品を懸念する量販店などへの牛乳での移出が増加し、「このまま、牛乳の需要期である9月上旬を迎えるのか」と心配する声が聞こえたが、幸いというか、8月下旬からの天候不順、猛暑の緩和などにより、混乱なく供給されたという状況になった。

表1 北海道と都府県の生乳生産量の推移(実数およびシェア)


3 今後の北海道の生乳生産動向

(1)北海道の生産にもかげり
 北海道の生乳生産は、19年8月から前年同月を上回り、20年4月以降、+3%台で推移している。しかしながら、ホクレン農業協同組合連合会(以下「ホクレン」という。)の旬別生乳受託乳量速報値によると、20年9月に入り、上旬+0.5%、中旬+1.9%、下旬+2.1%、9月の合計では+1.5%と伸び率は鈍化してきている。これは、生産量が1年前から前年同月を上回っていることによるもののほか、ホクレンによると「配合飼料給与量の調整などもあるが、乳牛の泌乳量のピークが過ぎていることからも、大きな伸び率は期待できない」とのことであるが、酪農家の方々の努力により、これからの計画生産の目標達成が期待される。

(2)酪農家への意向調査
 このような中、北海道の今後の生産動向を示唆する調査結果が20年9月12日に公表された。これは、北海道農協酪農畜産対策本部が21〜23年度の生乳安定生産対策の策定資料とするため、北海道の全酪農家・農協を対象に行った意向調査である。


調査結果の概要(抜粋)
ア 酪農家調査(対象戸数7,321戸、回収率57.3%)

イ 農協調査(対象数109農協、回収率100%)
(1) 全道の酪農家戸数は、21年度から23年度まで、毎年0.5〜0.9%程度の減少が想定
(2) 全道の生乳生産意向数量は、21年度から23年度まで、毎年1.2〜1.6%程度の増加見込み
(3) 全道平均の1戸当たり生乳生産意向数量は、21年度から23年度まで、毎年1.8〜2.5%程度の増加見込み


(3)生産者に生産マインドの高揚を
 ホクレン板東酪農部長はこの調査結果について、酪農家の回収率は57.3%とやや低いことが気になるとしながらも、次のような特徴を挙げている。

【注 第4期:H12〜14、第5期:H15〜17、第6期:H18〜20、今期:H21〜23年度】

(1)頭数の規模拡大意向が33%と、第6期35%、第4期36%と同水準にあること(第5期はこの項目の調査なし)
(2)農協における全体の生産意向数量は第5期までは3%内外であったが、今期は1%台(1.2〜1.6%)に低下したこと
(3)減産から増産へと、需給の大きな流れの影響をもろに受け、生産者のとまどいが大きいこと
(4)これまで、北海道の生乳生産は数年で400万トン(指定団体取扱分)程度までは行くだろうと考え、チーズ対策などを進めてきたが、現下の状況から離農せざるを得ない経営体や土地基盤に合わせた減産を検討する大型経営が多数存在し、「現下の飼料高・肥料高・資材高を乳業とともにいかに乗り越えていくか、生産者には生産マインドの高揚をいかに与えることができるか」が今後の方向を大きく分ける。


4 終わりに

 平成20年度も半年が過ぎ、国内の配合飼料価格は、依然、高値の状態にあるが、米国の金融不安により、シカゴの穀物相場が急落しているとのことである。

  2月の関連対策、さらに6月の各範にわたる追加対策が効果を発揮し、生産基盤の維持・拡大が図られ、安定的な生乳生産が確保できることを期待している。


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