調査・報告

第17回世界食肉会議から
─飼料高、地球温暖化対策の中での持続可能な食肉産業の姿とは─

調査情報部 調査課長 藤野哲也
(現所属:食肉生産流通部 食肉需給課長)


1 はじめに

 干ばつや洪水などの気象変動による穀物生産の減少やバイオ燃料の生産拡大による穀物需要の拡大を契機として、食料品価格は値上がりを続け、食料vsバイオ燃料の論議が世界的な広がりを見せている。

 そして、畜産業においても、飼料穀物の高騰を受けて生産コストが増加しており大きな影響を受けている。

 このような中、2008年9月8〜10日の3日間にわたり、南アフリカ共和国のケープタウンで第17回世界食肉会議が開催された。世界食肉会議は、2年に1度、パリに事務局を置く国際食肉事務局(IMS:International Meat Secretariat)が、世界各地域における食肉の需給や貿易動向に関する情報交換などを目的として開催するものである。今回は、国際機関、各国政府機関、学者、業界などの食肉関係者約500名が38カ国から集まった。

 この会議では、各地域を代表する31人の専門家などがそれぞれ食肉をめぐる情勢、需給見通しをはじめ農業政策や国際貿易の推進などのテーマに沿って報告を行い、国際貿易のセッションでは、当機構の伊地知総括理事が「日本の食肉事情」と題して、わが国の畜産物の需給動向について発表した。

 今回は、この会議で報告された食肉の需給見通しなどの概要を報告する。


ワールド・ミート・コングレスの司会を務めたホスト国のマリー・ブーセン氏



南アフリカ共和国のルル・シングワナ農業・農地担当相は開発途上国の厳しい現状を報告


2 食料、食肉をめぐる情勢─食料価格の安定やWTOの推進、バイオ燃料

(1)食料品価格の安定を要望

 今回の会議のホスト国である南アフリカ共和国のルル・シングワナ農業・農地担当相は、まず、世界の食料価格の高騰により開発途上国の厳しい現状を訴え、先進国がこの危機の打開に向けて努力するよう求めた。

 同農業・農地担当相は、先進国の食料輸出動向やエネルギー政策などが複雑に絡みあい、食料、エネルギーおよび飼料の価格が国際的に高騰した結果、南アフリカ共和国では2008年5月の食肉価格が前年同月比の14%高、加工品も同15%高となり、国民が食肉を購入することが困難となっていると現状を報告した。

 アフリカ地域にとって畜産は非常に重要な産業であり、畜産業の発展が安価なタンパク質を供給するためにも必要であり、アフリカはその可能性を十分持っていると述べた。また、南アフリカ共和国は口蹄疫(FMD)に関して、野生動物のいるクルーガー国立公園地域のみがワクチン接種清浄地域でそれ以外は、ワクチン非接種清浄地域であり、家畜衛生条件に問題がないにもかかわらず、同国からの畜産物の輸入を制限する国や地域に対して改善を求めるとともに、アフリカ諸国の畜産部門への積極的な投資を呼びかけた。

 さらに、輸出補助金が貿易を歪めていることや米国農業法がドーハラウンド交渉の決裂の主因であるとして非難し、自由貿易の必要性を訴えた。




EU委員会のフィシュラー委員はバイオ燃料政策の見直しにも言及

(2)食肉貿易推進のための世界的な枠組みの必要性

 EU委員会のフィシュラー委員は、7月21日からスイスのジュネーブで行われたWTO閣僚会合でモダリティ合意に至らなかったことについて触れ、食肉貿易の推進に寄与するドーハラウンド交渉が決裂したことは、先進国のみならず開発途上国にとっても莫大なチャンスを逸したと報告した。

 EUにとっては、これで、現在協議中のFTA交渉の推進がより困難になるとの見通しを述べるとともに、WTOパネル開催の頻度が急速に増加するとの見解を示した。

 また、同委員は、食品の安全性に関する問題が非関税障壁として扱われることに懸念を表明し、安全性に関する基準は適切で、透明性があり、かつ、一貫性があるものでなければならないとした。

 バイオ燃料については、EU委員会としても、EUのバイオ燃料を含む再生利用可能エネルギーの利用促進策の見直しを行う方向であるとし、持続可能な農業政策を打ち立てるために努力するとともに、バイオ燃料政策が、食料や飼料コスト増大などのより多くの問題を引き起こすことのないよう措置すべきであると述べた。

 食肉貿易の推進に当たっては、ドーハラウンド合意という適切な枠組みが必要であるとした上で、EUが国際貿易を推進する中で食品安全と品質にも重点を置いて、EU共通農業政策を調整しながら、必要な任務を分担していくとした。

(3)バイオ燃料による飼料価格の値上がりとその副産物の利用促進

 ラボバンク・インターナショナルのビト・マーティエリ氏は、世界のバイオ燃料の生産能力が2015年にバイオエタノール1億4千キロリットル(2005年比の約5倍)、バイオディーゼル3,300万キロリットル(同約8倍)になるとし、その間の穀物などの需要量は、バイオ燃料需要や世界人口の増加から1億8千万トン増加するとした。これらの需要をすべて満たすためには、1億4千万ヘクタールの作付面積の拡大を行うか、現行の単収の3割増加が必要であると指摘し、その実現可能性の厳しい見通しを説明した。

 また、バイオ燃料の需要増加により、農産物価格の高騰、またこれに伴う消費者の買い控え、耕作地の長期的な不足が懸念される一方、畜産農家にとっては、エタノール生産用のトウモロコシの蒸溜かすであるDDGs(Distillers Dried Grains with Solubles)などのバイオ燃料の副産物の飼料への利用機会が増加するとともに、畜産由来の動物性油脂がバイオ燃料として利用されるなどの利益を享受できると述べた。

 しかし、畜産農家にとっては、飼料価格の上昇など生産コストの増加から経営リスクが拡大するとしている。特に、生産サイクルが長い牛肉部門では、フィードロットの生産体系が最も影響を受けることになるが、牧草肥育も土地価格の上昇から長期的には間接的な影響を受けるとしている。

 また、ナショナル・バイオフューエル・グループのブラッドリー・ウィトン取締役は、今後のバイオ燃料の生産動向は、原油価格やセルロース系原料によるバイオ燃料生産、政府の補助政策に影響を受けるとし、食肉とバイオ燃料は、北米地域を中心とする穀物肥育牛肉とトウモロコシ由来のバイオエタノールの間で主に競合するとした。

 ただし、バイオ燃料の副産物については、生産量の増加から価格も低下するので、その利用を図ることにより畜産物生産に寄与することになると報告した。

 バイオ燃料生産の生産コストに占める穀物の割合は、バイオエタノールが65%、バイオディーゼルが85%に上っているとしている。このため、バイオ燃料の生産は、穀物価格の動向に大きく左右されるとともに、原油価格などの他の要因も複雑に絡むことになる。いずれにしても、畜産業としては飼料としての利用価値の高いDDGsを積極的に利用すべきであると述べた。

 ただし、米国のトウモロコシ市場の動向が世界の飼料穀物価格に大きな影響を与えることから、米国におけるバイオ燃料政策の動向に加え、中国のトウモロコシ需要の拡大を今後とも注視する必要があると述べた。


3 食肉需給をめぐる情勢

(1)食肉全体

 GIRA社のリチャード・ブラウン分析官によると、人口増、経済成長、都市化などから世界の食肉消費は今後とも増加し、2015年の食肉の消費量は、3億1,520万トンと2005年比で21%の増加となると述べた。国別、地域別に見ると、中国31%増、北米地域5.6%増、南米地域3.9%増、中東地域および北アフリカ諸国3.6%増、独立国家共同体(CIS)3%増、EU1.5%増、極東地域1.9%増、その他5%増と中国の大幅な増加を見込んでいる。

 食肉消費の内訳を見ると、鶏肉が安価な動物性たんぱく質として健康志向や利便性に富み、また、宗教上の摂取制限もないことから最も大きく消費量が伸びるとしており、豚肉、牛肉がこれに続くものと見込んでいる。

 牛肉は、穀物価格の上昇や水資源、放牧地に制限があることや生産性が他の食肉に比べて低いことから生産は限定的であるものの、中国やブラジルでの生産量が増加するとともに、牛肉輸出の面では南米が重要な地位を占めるものと見込んでいる。

 また、米国食肉輸出連合会(USMEF)のエリン・ダレイ調査分析マネージャーは、開発途上国における人口増加や所得の増加による購買力拡大の結果、食肉の需要は増加するとしている。また、世界の人口は2020年までに現在の67億人から77億人に増加し、2050年には95億人にまで膨れあがると見込まれる。

 人口増加が著しい開発途上国では現在、食肉に対する高関税や非関税障壁が多く見られるが、食肉の自給率も低いため、今後食肉の貿易量は拡大するとの見通しを述べた。

(2)牛肉

 GIRA社のブラウン分析官によると、今後は、牛肉の生産コストの上昇が避けられないため、他の食肉との競合はますます激しくなるとした。

 また、牛肉の生産部門は垂直統合が他の食肉と比べ弱いものの、近年は、米国やブラジル企業による統合が進められていることから、特にブラジルの影響力が高まっているとし、今後の牛肉消費量は、主に中国とブラジルで増加するとしている。さらに、牛肉輸出量はブラジルで増加するものの、熱帯雨林の伐採に伴う環境破壊への懸念が輸入国側で高まっていることが不安定材料であると述べた。

 ブラジルのアグリポイント・コンサルティング社のミゲル・ロチャ・カルバカンティ氏は、ブラジルの肉牛価格がこの6年間で3倍に上昇しているため、輸出価格は過去最高ながら収益は低くなっていると報告した。このため、今後、子牛の生産量の減少が見込まれており、ブラジルでは既に牛肉の需要量は生産量を上回っていると述べた。

(3)豚肉をめぐる情勢

 GIRA社のブラウン分析官によると、世界的に食料品価格の値上がりが続いているにもかかわらず、豚肉価格は下降傾向で推移しており、生産コストが上昇している状況の中で、収益性が大きく悪化している。生産コスト増加に見合った豚肉価格の上昇が必要であるが、経済が減速し、販売価格の上昇から需要が落ち込むという悪循環になっている。従って、豚肉部門では生産効率性のさらなる向上が求められるとした。

 また、ジョエル・ハガードUSMEFアジア太平洋地域本部長は、世界の生産量の約5割を占める中国の今後の見通しについて説明した。それによると、中国では豚繁殖・呼吸器障害症候群(PRRS)の影響による生産減少があったものの、現在は国の補助事業による生産振興が図られており、大規模養豚への投資は引き続き拡大しているとし、2008年上半期の飼養頭数は、前年同期比3.7%増、繁殖めすは同12%増と今後豚肉生産は回復、拡大すると述べた。その一方で、生産者の収益性は、これまでの1頭当たり50ドルから10ドルへ大幅に低下し、また、豚肉価格もピーク時から15%下落している状況を説明した。

 今後、生産が増加するのは中国、ブラジルであるとの見方がある一方で、EUや北米での生産は短期的に減少するものと見込まれる。

 特にEUについては、会議の出席者から、飼料価格の上昇が生産量と収益に大きな影響を与えるとし、生産が今後減少し、豚肉価格が大幅に上昇するおそれがあるとの見通しも聞かれた。

 加えて、飼料価格の値上がりの影響から、EUにおける遺伝子組み替え体(GMO)の承認手続きの遅れなどに対する不満が高まっており、このままでは多くの養豚生産者が離農するおそれがあるとの意見が多く聞かれた。

(4)世界の食肉需給に対する開発途上国の役割が拡大

 以上のように、今回の会議では、今後の食肉生産量および消費量の増加分は、現在経済成長が著しいブラジルや中国などの開発途上国が中心となって担っていくとの見方が大勢を占めていた。

 経済協力開発機構(OECD)も同様の見方をしており、「OECD-FAO Agricultural OUTLOOK 2008−2017」によると、牛肉、豚肉、家きん肉合計の生産量および消費量の2007年(暫定値)と2017年予測の10年間における年平均伸び率を見ると、OECD諸国がそれぞれ0.6%、0.7%と微増なのに対し、OECD諸国以外はいずれも2.7%の増加と、OECD諸国の伸びを大幅に上回るものと見込んでいる(表1〜表4)。

表1 世界の食肉の生産量予測



表2 世界の食肉輸入量予測



表3 世界の食肉輸出量予測



表4 世界の食肉の消費量予測


 また、食肉貿易の見通しも同様の結果となっており、OECD諸国以外の輸入量は、安価な家きん肉に加えて、2016年には牛肉もOECD諸国を上回ると見込まれている。さらに、OECD諸国以外の食肉全体の輸出量も2010年にOECD諸国を上回るとしている(図1、図2)。

図1 食肉(牛、豚、家きん)の輸出量のシェア予測



図2 食肉(牛、豚、家きん)の輸入量予測

 このように、食肉の国際需給に占める開発途上国の役割は、今後ますます拡大することが想定されているが、経済発展や人口増加による国内消費量の増加程度が不透明であることや、家畜疾病対策が不十分な国が多く見受けられることなど、今後の食肉貿易における不安定要因となり得る可能性も否定できない。さらに、畜産物の生産は、今後の穀物価格の動向に大きく影響されるため、先進国におけるエタノール生産の動向と併せて注視する必要があると考えられる。

 なお、OECDは、国際機関としてEU19カ国、日本、北米地域(米国、カナダ、メキシコ)、オセアニア地域(豪州、ニュージーランド)など現在30カ国の先進国が加盟している。


4 環境問題─気候変動と地球温暖化防止に向けて

 畜産の環境問題に警鐘を鳴らした国連食糧農業機関(FAO)の「Livestock's Long Shadow」の著者の一人であるピエール・ゲーバー博士は、生産増加、規模拡大、垂直統合、生産地の移動、過密化により急速に発展している畜産の地球環境に与える影響について報告した。

 牧草地は地表面積の26%を占める34億ヘクタールで、開発途上国が占める割合は低いものの、中南米諸国で増加しており、さらに放牧地の2割が過放牧などで劣化しているとしている。また、飼料穀物の生産に利用される農地は全耕地の33%を占める4億7千万ヘクタールであると報告した。

 畜産部門は、71億トンの二酸化炭素を排出しているが、これは温室効果ガス排出量の全体の18%を占めている。二酸化炭素の要因別排出内訳は、土地利用などが36%、家畜ふん尿関係31%、家畜由来25%、飼料生産7%で加工および輸送部門はわずか1%である。

 また、気候変動は、干ばつや洪水といった異常気象などを引き起こし、家畜生産に重要な影響を与えるとともに、食品安全性や公衆衛生、食料安全保障や生物多様性にも影響を与えるものであると述べた。

 気候変動を緩和する方策としては、(1)土地利用の管理、(2)土壌中の炭素および窒素の維持管理、(3)反すう動物のメタンガス排出の抑制、(4)家畜ふん尿の適切な管理であるとし、資源の効率的な利用および持続可能な農業を強力に推進する必要があると述べるとともに、環境保護の重要性を訴えた。

 次に、デンマーク豚肉機構連合(DS)ラッセン会長がデンマークの養豚産業における環境保護の取組を報告し、畜産業界として積極的に対応していく必要性があると述べた。

 同会長によると、窒素の排出量について、1985年と2004年で比較すると、飼料効率の向上や飼料原料の見直しなどを通じて、肥育豚1頭当たりでは7.7キログラムから同5.1キログラムに、豚肉1キログラム当たりでは39%減少したとしている。また、同時期におけるリンは42%、アンモニアは50%それぞれ減少した。たい肥中の窒素の利用率は、85年の15%から2004年には75%にまで向上していると報告した。

 さらに、と畜場のエネルギー消費量は3分の1に、また、水の使用量も3分の2に縮減するとともに、動物性残さを利用したバイオディーゼル工場は年間5万5千キロリットルの製造能力を誇るとしており、環境対策の現状を報告した。2015年の目標として、2002年比で豚のふん尿中の窒素を18%減少させるとともに、アンモニアの排出を40%以上減少させ、さらにエネルギーと水の使用量を抑える取組を推進すると発表した。

 また、ブラジルのアグリビジネス協会のルイス・アントニオ・ピノッサ理事は、同国がアマゾンの森林伐採防止のための保護活動に力を入れていると報告した。アマゾンの熱帯雨林は、畜産やバイオエタノールの原料となるサトウキビの主産地から離れているにもかかわらず、アマゾンの熱帯雨林伐採の国際的な非難の矛先がブラジルの農業に向けられていることから、同理事は、こうした国際世論はブラジルの現状を把握していないと批判した。

 アマゾンにおける森林伐採面積は、1970年は5万平方キロメートルと全体の1%であったものが、2007年には71万2千平方キロメートルと全体の17.5%にまで増加したが、近年の保護活動や不法伐採者の逮捕などを通じて伐採率は減少している。法律で定められているアマゾン地域は5億1千万ヘクタールでこのうち82%の4億2千万ヘクタールが保護地域として指定されているが、そもそも農業生産の主要地域のセラード地域はアマゾンには含まれていないと述べた。

 また、ブラジルの肉用牛は18カ月齢で510キログラムで出荷されるため効率的に肥育されており、放牧地1ヘクタール当たりの飼養頭数も0.88頭と適正であると述べるとともに、フィードロットからの出荷頭数も全体の5%を占める230万頭に上っているとした。加えて、浸食された草地の再生や動物福祉にも取り組んでいることを紹介した。

 さらに、ブラジル農務省クレッツ副大臣は、地球環境保護のための農業生産体系を確立する必要があると強調した。

 ブラジルの国土面積は、8億5,100万ヘクタールでその24%が牧草地で農業生産としては7%の土地が利用されているにすぎない。穀物生産量は年4.9%で増加しているが、耕作地の土地利用率は年1.7%未満の伸びであり、研究や技術支援による生産性の向上が生産の増加に寄与している。 輸出を可能とする畜産物の増産も、品種改良、飼料給与や疾病対策をはじめとする家畜管理のための投資を増加させている結果であるとした。

 また、同副大臣は、ブラジルがこれまでに16の連邦州、連邦政府の特別区と他の2州の一部がFMD清浄地域となっており、これらの地域は5百万平方キロメートルに及び、現在1億8千万頭の牛と2,300万頭の豚が飼養されていると述べた。

 家畜衛生に問題がないにもかかわらず、ブラジルは、検疫面および輸入量、輸入割当枠の設定、関税の割り増しや補助金などの商業的な障害のため、国際市場への参入が制限されている。同副大臣は、ブラジルは低コストで生産された農産物を輸出し、経済を向上させる必要があり、従って、検疫面については、輸入国が適切な処置をとり、SPS協定に基づく科学的な世界基準を確立する必要があると述べ、特に口蹄疫については、ワクチン接種清浄地域(国)からの輸入制限を講じている国々に対して食肉輸入を認めるよう発言した。


5 食肉貿易に大きな影響を与える家畜疾病問題

 人畜共通感染症の世界的な伝播速度は、国際貿易や人の移動などで飛躍的に増しており、動物のみならずヒトの健康被害にも大きな影響を与える事例が増加している。

 アルゼンチンのアレハンドロ・シューデル博士は、近年のEU、アジア、北米でのBSEや鳥インフルエンザなどの新興感染症が動物の起源のものであることを指摘した上で、家畜衛生と公衆衛生部門の双方が協力して問題に取り組むべきであるとし、国際的な協調の必要性を述べるとともに、防疫体勢の強化のための国際的なガイドラインにより、安全な食肉の貿易を確保する必要性があると述べた。

 なお、英国養豚理事会(BPEX)のハードウィック国際課長は、EUにおける主に羊におけるブルータングの拡大について報告した。ブルータングは1999年にギリシャ、イタリアなどで発生したが、その後2006年はベルギー、ドイツ、ルクセンブルク、オランダで2,708件の発生が確認された。2006/07年の冬が温暖であったことから疾病は急速に拡大し、英国、ポーランド、チェコ共和国、およびデンマークからフランス中部にまで感染が広がり、2007年は40,931件と飛躍的に拡大した。ワクチン接種プログラムが現在行われているため、まん延は防止できるものの、ワクチン接種の費用が5億ポンド(1,020億円、1ポンド=204円)に上ると見込まれており、今後の被害の拡大が懸念されると報告した。ただし、疾病による羊肉産業への打撃はあるものの、消費者は比較的冷静に受け止めていると報告した。


6 持続可能な畜産に向けて─消費者の支持、信頼が必要

 アイルランド食糧ボードのジェラード・ブリックレイ局長は、牧草を活用した低コストで安全な牧草肥育牛肉の生産が増加していると報告した。EUでは酪農部門からの肉牛生産が大きな割合を占めていたが、生乳生産割当の実施に伴い搾乳牛頭数が減少を続けた結果、肉牛部門の生産の割合が増加し、現在は全体の生産量の半分を占めている。このような中、牛肉価格が上昇し、消費量も減少したが、消費が落ち込んでいるのは、安価なシチュー用やハンバーガー用であり、ローストやステーキの販売は逆に増加しているという。また、牧草肥育牛肉の品質保証とEUのトレーサビリティ・システムの活用により輸出国も増加しているとし、消費者の動物福祉、環境問題などへの支持を得たプレミアム牛肉の事例を報告した。

 また、マクドナルド社のゲイリー・ジョンソン・シニア・ダイレクターは、主要25カ国における調査によると、食品産業における企業の社会的責任(CSR)の認知は、ハイテク産業とマスメディアに次いで高いものとなっており、他の産業と比較するとかなり優秀であるとしながら、一方で、この数年で、カナダ、米国、フランス、豪州、中国といった国々はその評価が下がっていると警告した。2006年の研究によれば、EU、アジア、北米の7割以上の消費者が信頼できない企業の製品やサービスを購入するのを拒否すると答えており、産業全体の信頼性を確保するためには、食の安全・安心のみならず、環境問題や動物福祉などへの積極的な取り組みが不可欠であると指摘していた。


7 おわりに

 食肉生産をめぐる状況は、飼料価格の値上がりや燃料価格の高騰などから厳しさを増しており、生産・加工部門の規模拡大による効率化に加え、パッカーの海外資本による買収など食肉産業の国際化が近年特に顕著になっている。

 こうした中、食肉の需要は開発途上国を中心に飛躍的に増加すると見込まれており、食肉貿易の構造は今後大きく変化することも予想される。消費者は、BSEや鳥インフルエンザを契機として食の安全・安心への関心が高まっている一方で、顧客満足度の高い製品を選択したいという要望もますます強まっている。

 中国のメラミン混入乳製品問題に代表されるように、国際貿易の進展によるボーダーレス化は、一度どこかの国で問題が発生した場合、当該国のみならず全世界を否応なしに巻き込み、その産業全体にも大きな影響を及ぼすことになる。

 今回の会議は、食肉産業の持続的な発展を図るためには、地球温暖化対策などの環境対策への積極的な取組のみならず、食肉の安定的な生産や貿易に大きな影響を与える家畜疾病への対応を適正かつ迅速に行う態勢を、国や地域といった枠組みを越えて整えることがいかに重要であるかを畜産業全体が再認識する機会となったと思われる。


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