海外トピックス


中国産乳製品への対応(シンガポール)


当初は通常の海外における食品への毒物混入事例の扱い

 国内で消費される食料の大部分を輸入に依存しているシンガポールでは、輸入食品の安全性への関心が非常に高い。食品安全は農業政策や食料の安定供給、動植物検疫などと併せて農食品獣医庁(AVA)が所管しており、海外における食品への毒物混入などの事例に対しては、輸入の有無や国民への影響などの情報提供、店頭からの回収の指示などを行っている。

 一方、国民の約75%を中華系が占めており、中国関連の報道への関心も高い。こうしたことを背景に、中国産粉ミルクに有害物質のメラミンが混入されていた問題は発覚当初から大きく報道されていたが、問題となったメーカーの粉ミルクがシンガポールに輸入されていなかったことから、AVAは当初、当該製品が輸入されていないことを発表するとともに、国外で当該製品を購入した場合には即座に使用を中止するよう呼び掛けていた。


混入事例に対応して対応を強化、中国産牛乳、乳製品などの輸入、販売停止へ

 その後、香港の食物安全中心(食品安全センター)が9月16日、中国産アイスの1品目からメラミンが検出され、輸入業者がこのアイスを回収すると発表した。このアイスはシンガポールにも輸入されていた。また、中国本土で、発端となったメーカー以外のメーカー製の、粉ミルク以外の牛乳、乳製品からもメラミンが検出されたことが発表された。こうしたことを受けて、AVAは17日、国内の輸入、販売業者に対しては当該アイスを回収するよう、すでに購入した消費者に対しては当該アイスを食べないよう勧告するとともに、当該アイスを含む中国産牛乳、乳製品に対してメラミンの検査を実施していることを発表した。

 この検査の結果、当該アイスに加えて、別のメーカーの中国産乳飲料(イチゴ味)からもメラミンが検出された。AVAは19日、検査結果の公表と併せてこの2品目の回収、廃棄とともに、予防的措置として、業者に対して、必要な調査および検査が終わるまでの間として、中国産の牛乳、乳製品およびこれらを原料とする製品の輸入、販売停止を命じた。併せて、中国産の粉ミルクはシンガポールに輸入されていないこと、シンガポールで販売されている粉ミルクは安全であることを改めて発表した。

 21日には、広く親しまれているブランドのあめからメラミンが検出された。AVAは改めて、中国産の牛乳、乳製品およびこれらを原料とする製品が、チョコレートやビスケットのような菓子を含めて輸入、販売停止中であるとともに、違反者は食品安全法に基づき罰せられることを発表した。

消費者の混乱や批判、疑念への対応

 これらの発表は、報道を通じて行われるとともに、AVAのホームページにも掲載されている。AVAのホームページにはメラミンが検出されたブランドの品目名しか掲載されていないが、新聞には、販売停止中である中国産の牛乳、乳製品を原料とした製品のブランドの一部が掲載されている。こうしたブランドの中には、同一のブランドであっても生産地や原料が違うものがある。中国産の原料を使用していなければ同じブランドでもその品目は販売可能だが、消費者には混乱が見られ、AVAや新聞に質問や苦情が寄せられた。また、新聞には、AVAが香港の事例までメラミンの検査を実施していなかったことへの批判や、どの程度メラミンが検出された食品を飲食すれば有害なのかといった質問が寄せられた。

 こうした混乱や批判、質問への対応として、AVAは23日、保健省との連名で、消費者に対して、シンガポールで検出された食品中のメラミンの濃度は低く、過度に心配する必要はないとし、併せて多く寄せられる質問への回答を公表した。メラミンが検出された各々の食品について、米国食品医薬局によるメラミンのTDI(耐容一日摂取量:食品の消費に伴い摂取される汚染物質に対して人が許容できる一日当たり摂取量、メラミンは0.63mg/kg 体重)を体重60キログラムの大人、30キログラムの子供について換算した摂取量を示した。また、質問への回答には、メラミンは食品への使用が認められておらず、世界的にも通常の食品安全検査の対象ではないとの説明や、メラミンによって引き起こされる障害の症状を挙げ、心配であればまず家庭医に相談するようにとのアドバイスなどを掲載した。

 さらに、シンガポールで最初にメラミンが検出されたアイスの焼却現場を報道機関に公開するとともに、飲食店の衛生事項を所管する国家環境庁の衛生担当者が、パン屋や菓子屋で中国産の原材料を使用していないかどうかの対面調査を実施するなど、消費者の過度の不安への対応を実施している。


引き続き検査を実施、新たに混入も判明

 こうした中、AVAは24日、新たに5品目からメラミンが検出されたと発表した。このうち2品目は、先に検出された乳飲料と同じブランドのメロン味とバナナ味の乳飲料、1品目は全粉乳を材料とするポテトクラッカー、2品目は全粉乳を材料とする米菓である。今回は、TDIを換算した摂取量に加えて、以前に検出された3品目を含む8品目について、検出濃度も併せて公表した。

 また、30日には、新たに2品目からメラミンが検出されたと発表した。うち1品目は、24日に混入が判明したポテトクラッカーのトマト味、もう1品目はイチゴ風味のディップ(クラッカーなどにつけるクリーム状の味付けソース)である。ポテトクラッカーは全粉乳を、ディップは乳固形分を原材料としていた。

 さらに10月9日には、3品目からメラミンが検出されたと発表した。うち2品目は牛乳を原材料として含むチョコレート菓子、1品目は業務用全粉乳である。

 この結果、シンガポールでメラミンが検出された製品は13品目となった(10月9日現在)。
 AVAはこのうち12品目の食品について、検出されたメラミンの濃度は低く、大量に長期間摂取しない限り、健康に悪影響を及ぼす危険性はないとしている。

 また、今回シンガポール国内で初めてメラミンが検出された業務用の全粉乳については、原材料用途のため店頭に並ぶことはなく、9月19日販売中止以降倉庫に保管されており、食品の製造には使用されていないとしている。

【シンガポールでメラミンが検出された製品と検出濃度】(10月9日現在)


紛らわしい広告に対し、中国産製品の輸入、販売停止を改めて強調

 30日の公表に併せてAVAは、安全が確認されるまで、中国からの牛乳、乳製品などの輸入、販売停止を継続することを改めて表明した。AVAは、問題発生以来1000余りの品目について検査を実施中であり、これからも新たに混入が判明する可能性があるとしている。

 また、中国産の製品を回収する一方で、中国産の原材料を使用していないという理由で自社の製品は安全であるという広告を出している食品会社に対して、AVAが安全を証明しない限り、こうした主張はするべきではなく、中国産である限り、AVAはその牛乳および乳製品の輸入と販売を停止すると強調している。こうした広告に対しては、地元紙に対して、AVAの回収命令と矛盾するものであり、AVAと食品会社のどちらを信用すればいいのかといった消費者からの混乱や質問が寄せられていた。

 報道によれば、AVAは、シンガポールに輸入されているペットフードはすべてAVAに認可された施設で製造されているとしながらも、中国産の食品、飲料の検査が終了し次第、ペットフードや飼料のメラミン検査を開始する予定とのことである。


【参考】AVAホームページURL
    http://www.ava.gov.sg/


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