調査・報告

鹿児島県奄美諸島におけるサトウキビ収穫残さの発生状況と
肉用牛生産への利用の可能性

鹿児島大学農学部生物生産学科 教 授 中西 良孝
鹿児島大学農学部生物生産学科 准教授 山 耕二
鹿児島県農業開発総合センター畜産試験場 主任研究員 高木 良弘
(現 鹿児島県大島支庁農林水産部農政普及課技術主査)

はじめに

 鹿児島県(以下「当県」という。)の2007年度サトウキビ産出額は137億円で、農業産出額に占める割合は3.4%であり、沖縄県に次ぎ、全国2位である1)。一方、当県の肉用牛産出額は816億円で、農業産出額に占める割合は20.1%であり、全国1位である1)。このように、当県においてサトウキビ生産と肉用牛生産は基幹産業であり、当県はわが国における主要な食料供給基地である2)。当県奄美諸島は奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島などから成っており(以下「大島地域」という。)、2007年度サトウキビ産出額は102億円と県内の70%以上を占め、当地域全作目で33.2%と最も多く、肉用牛も産出額は63億円で20.5%となっており、いずれの部門も大島地域における重要な基幹産業である3)。

 本調査では、大島地域の製糖業から発生する低・未利用資源を畜産分野における飼料、敷料等のバイオマスへ変換する可能性を探るため、大島郡喜界町、奄美市、大島郡徳之島町、同郡天城町、同郡和泊町および同郡与論町を調査対象地とし、各島にある民間製糖工場、たい肥生産施設、鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場、肉用牛生産農家などで聞き取りを行った(図1)。また、肉用牛生産農家における牛ふん堆積物の腐熟度を判定するとともに、特にハカマの栄養価や家畜による嗜好性を調べた。本報では、聞き取り調査の結果を概説する。

図1. 奄美諸島および各製糖工場の位置図

サトウキビの収穫とその際に生じる副産物

 サトウキビは人力または機械により収穫され、前者で夾雑物(原料茎以外の梢頭部、稚茎、枯葉、枯死茎、生葉、土砂、雑草など:トラッシュ)を含まない原料茎をクリーンケーン(写真1)、後者で夾雑物を含む原料茎をハーベスタ収穫原料(写真2および3)と称する。また、夾雑物除去施設をデトラッシャーと言い、与論島の製糖工場にはデトラッシャーが導入されていない。収穫残さとしてサトウキビ頂部付近の糖分が少ない部分で、5節から上部の茎葉として梢頭部、サトウキビ茎に付着する葉であり、梢葉と展開葉を含み、トラッシュの大半を占めるハカマ(写真4)、製糖副産物として濃縮汁ろ過残さ(フィルターケーキ)、圧搾汁残さ(バガス)、バガス焼却灰などがある。

写真1 クリーンケーン(徳之島南西糖業徳和瀬工場にて2008/12/19 撮影)
写真2.ハーベスタによるサトウキビの収穫(徳之島にて2008/12/19 撮影)
写真3.ハーベスタ収穫原料(徳之島南西糖業徳和瀬工場にて2008/12/19 撮影)
写真4.ハカマ(同左)

サトウキビ収穫残さの発生量と利用状況

 大島地域においては、サトウキビの収穫および脱葉作業の機械化はそれぞれ、27〜76%および32〜91%と島間で大きく異なっており、いずれも与論島で低く、約70%の農家が人力による作業を行っていることが明らかになった(表1)。製糖副産物に共通することであるが、この発生量は原料処理量の影響を受ける。元はサトウキビ生産量であり、栽培時の気象条件やハーベスタ収穫でのトラッシュ率が副産物発生量に大きな影響を及ぼす。製糖工場に搬入されたハーベスタ収穫原料のうち、主にハカマであるトラッシュの発生量は年間1,500〜25,000トン(原料に占めるトラッシュ割合は3〜11%)であり、発生量およびトラッシュ割合とも徳之島で最大であった(耕地面積が最大のため)。発生したトラッシュの大半はハカマが占めており、『軽くて、かさばる』ハカマの他の場所への運搬が容易ではないことから、製糖工場内で飼料や敷料利用に向けた処理を行う必要がある。しかし、与論島では、収穫時に全茎脱葉されることに加え、工場にはデトラッシャーがないため、トラッシュ発生はなかった。一方、ほ場に放置されるハカマについては回収して有効利用することが望まれ、宮部5)も指摘しているように、簡易型ハカマ回収機の開発が必要と考えられた。

 一般的に敷料として知られているノコクズやバーク等の木質系副資材が流通しているのは奄美大島および徳之島のみである。これらの島外への搬出はなく、その他の島では肉用牛生産農家が梢頭部同様、自主的にバガスやハカマを確保し、敷料として利用している。特に、バガスを享受出来る肉用牛生産農家は限られている。また、徳之島を除く他の島の肉用牛生産農家にて処理された牛ふんのたい肥化状況を明らかにするため、製品に近いたい積物の炭素率(C/N比)および二酸化炭素発生量を分析したところ、炭素率はすべて15以下であり、牛ふんたい肥としては腐熟が進んだ状態であった(表2)。

 たい肥の材料としてのハカマの必要性は理解出来るものの、自給飼料の確保が緊急課題とされている昨今、ハカマの飼料利用の可能性を追究することは不可欠であるが、ハカマの栄養価や家畜による嗜好性に関する知見は皆無である。そこで、ハカマの化学成分と栄養価を調べたところ、粗タンパク質含量および可消化養分総量は稲ワラよりも低く、バガスと同程度であった(表3)。また、牛および山羊にハカマと4種類の粗飼料(市販乾草や稲ワラ)を単体給与して嗜好試験を行った結果、ハカマの嗜好性は最も低いことが判明した。したがって、ハカマは栄養価が低く、嗜好性も劣ることから、単体給与では問題のあることが示唆された。今後、ハカマを高度利用するためには、他の高栄養飼料と併給するかあるいは何らかの処理(発酵処理など)を施すことにより栄養面での付加価値を高める必要がある。特に、すでに飼料利用されている梢頭部や当該地域未利用資源(黒糖焼酎粕、糖蜜など)とのサイレージ調製またはTMR(混合飼料)調整が有望視され、これらに関する試験研究と情報蓄積が望まれる。また、地域内資源循環を目指した農業システムを構築するためには、製糖工場も肉用牛生産農家の自給飼料の必要性を知り、農家とともにたい肥センターとの緊密な連携を図る必要がある。

表1. 大島地域におけるサトウキビ収穫・脱葉作業の機械化ならびに製糖工場でのトラッシュ(主にハカマ)発生の状況
表2. 肉用牛生産農家における牛ふんたい肥中の炭素率(C/N比)および二酸化炭素発生量
表3. ハカマの化学成分と栄養価

おわりに

 大島地域においては、自給飼料生産は同じ土地利用作目であるサトウキビ生産と栽培面積拡大の面で競合しており7)、生産拡大が限界の様相を呈するとともに、急激な飼養頭数の増加により飼料不足分を輸入飼料で代替しているが、最近の飼料高騰の影響を受け、生産コストが増大し、そのことが肉用牛生産経営を圧迫している。また、ノコクズをはじめとする敷料やたい肥の材料に用いる副資材が容易に得られず、供給量が少ないことから、ふん尿処理段階においてたい肥化処理が不十分な状況にあり、副資材の確保が急務である。したがって、大島地域の飼料および副資材を確保するためには、新しい飼料作物(例えば、飼料用サトウキビ)の品種開発を進める8)とともに、サトウキビ収穫・製糖時に生じる副産物(梢頭部、圧搾汁残渣、糖蜜、付着葉など)を最大限に利用することが考えられ、特に、梢葉や展開葉を含む付着葉(通称、ハカマ)は、今後、注目すべきバイオマスであり、その発生量の把握と潜在価値の解明を行ったところ、大島地域(機械収穫が普及しておらず、製糖工場にデトラッシャーが導入されていない与論島を除き)においては、当該年の収穫原料量にもよっても異なるが、ハカマを主とするトラッシュが年間8,500トン(ハーベスタ収穫原料の約8%)発生することが明らかになった。また、ハカマの栄養価や嗜好性に問題があるため、飼料化については他の低・未利用資源との組合せにより高度利用を図る必要があり、敷料等副資材の供給量も絶対的に不足しているため、その代替物の素材としてハカマが飼料化と併せて今後、有望視されるが、ハカマについては吸湿性に問題があるため、解繊処理等の高度処理を施した後、敷料として利用を検討する必要がある。


謝辞:
本調査を実施するに当たり、ご協力いただいた当県大島郡喜界町の叶カ和糖業、同県奄美市の兜x国製糖および奄美市笠利総合支所産業振興課、同県大島郡伊仙町の鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場、同郡徳之島町の(有)南国パワーおよび鞄西糖業徳和瀬工場、同郡天城町の鞄西糖業徳之島事業本部、同郡和泊町の鞄栄糖業および(財)沖永良部農業開発組合、同郡与論町の与論町役場、与論町たい肥センターおよび蒲^論島製糖の各職員ならびに肉用牛生産農家の方々に衷心より感謝する。また、調査に際してご指導ご助言いただいた当県大島支庁農林水産部農政普及課の平山 司課長ならびに下玉利 勉係長、大島支庁徳之島事務所の岩田英稔農業改良技師、同県農業開発総合センター徳之島支場作物研究室の白澤繁清室長(現 同センター農業大学校農業研修課長)、大島支庁沖永良部事務所農業普及課の小田原浩二技術主幹(現 北薩地域振興局農林水産部農政普及課技術主幹)、鹿児島中央家畜保健衛生所徳之島支所与論町駐在機関の前田かおり獣医務技師に深謝する。さらに、調査に際してご助言いただいた鹿児島大学農学部生物生産学科農業経営経済学講座の坂井教郎准教授、資料収集とデータとりまとめを補助していただいた同学科家畜生産学講座学生の福澤陽生ならびに白石 徹の両氏に謝意を表する。

参考資料:
1)農林水産省大臣官房統計部(2009)農林水産統計.平成19年農業産出額(全国農業地域、都道府県別)〔2009年2月23日参照〕URL:http://www.maff.go.jp/toukei/sokuhou/data/sansyutu-k2007/sansyutu-k2007.pdfより引用.

2)農林水産省九州農政局(2008)平成19年度九州・農業・農村情勢報告.143pp.

3)奄美群島農政推進協議会・奄美大島流域森林・林業活性化センター・鹿児島県大島支庁(2009)平成20年度奄美農林水産業の動向.155pp.

4)鹿児島県農政部農産園芸課(2008)平成19年度さとうきび及び甘しゃ糖生産実績(平成19/20年期).105pp.

5)宮部芳照(2006)鹿児島県(沖永良部島、種子島)における機械化の現状〜地域の実情に適応した機械化の推進〜.砂糖類情報.〔2009年2月23日参照〕URL:http://sugar.alic.go.jp/japan/view/jv_0608b.htmより引用.

6)(独)農業技術研究機構(2001)日本標準飼料成分表(2001年版).245pp.

7)叶 芳和(2005)サトウキビ供給力の将来展望〜奄美群島南部離島の担い手調査〜.砂糖類情報.〔2009年2月23日参照〕URL:http://sugar.alic.go.jp/japan/view/jv_0506b.htmより引用.

8)寺島義文(2007)南西諸島の新しい飼料作物−飼料用サトウキビ新品種「KRFo93-1」の特性.畜産の情報.〔2009年2月23日参照〕URL:http://lin.alic.go.jp/alic/month/dome/2007/apr/chousa2.htmより引用.
 

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