海外駐在員レポート  

さらなるBSE対策の合理化に取り組む欧州委員会
〜第二次TSE(伝達性海綿状脳症)ロードマップ(2010-2015)について〜

ブリュッセル駐在員事務所 前間聡、小林奈穂美


  
 

1.はじめに

 欧州委員会は2010年7月16日、EUにおける今後5年間の伝達性海綿状脳症(TSE)対策の指針となる第二次TSEロードマップを公表した。これは、第一次TSEロードマップの公表(2005年7月)以降の5年間に蓄積された知見・経験を踏まえ取りまとめられたものであるが、特に特定危険部位、飼料規制、BSEサーベイランス、BSE患畜同居牛の処分などのBSE関連対策については、以下の第二次TSEロードマップ序文にも明確に示されているとおり、現行の食の安全の水準を損なわない形で講じられている措置を見直すという方向性が示されている。


  この第二次TSEロードマップは、
・特定危険部位(Specified Risk Materials)
・飼料規制(feed ban)
・BSEサーベイランス(BSE Surveillance)
・スクレイピー撲滅措置
  (Scrapie eradication measures)
・BSE患畜同居牛の処分
  (Cohort culling in bovine animals)
・解体前/解体後迅速検査
  (ante-mortem and post-mortem rapid tests)
の6項目の戦略目標から構成されている。EUのBSE対策がどのように見直される可能性があるかについては後段で詳しく紹介するが、本稿を通じ第二次TSEロードマップの狙いが関連予算の削減や域内飼料自給率の改善といった個別の課題の解決にとどまらず、TSE以外の脅威に対する危機管理の整備を視野に入れていることについて我が国の畜産関係者に情報発信できれば幸いである。

2.第一次TSEロードマップ(2005-2009)の主要成果

 それではまず、2005年7月に公表された第一次TSEロードマップの主要成果について整理してみたい。表1は、第一次TSEロードマップに掲げられた短期的な戦略目標7項目について現在までに講じられた主な措置を示したものである。これをみると、項目により程度の差はあるものの全ての戦略目標について何らかの措置が講じられてきていることが分かる。中でも「BSEリスクに応じた各国のカテゴリー分け」と「英国に対する規制」については、所期の目的が達成されたと判断される。特に「BSEリスクに応じた各国のカテゴリー分け」では、現行のOIE(国際獣疫事務局)準拠システム導入以前はEUが膨大な時間と労力をかけ独自に加盟国および第三国のBSEステータスを評価していただけに、これらの作業をOIEに委ね、その結果を採用するという現行方式の導入はEUの人的、財政的資源の有効活用に大きく貢献したと考えられる。一方で「特定危険部位」、「飼料規制」および「TSEモニタリングプログラム」については、いわば現在進行形の状態となっており、これが第二次TSEロードマップ期間である2010年から2015年についても引き続き戦略目標として位置づけられることとなった理由といえよう。

表1 第一次TSE ロードマップに掲げられた戦略目標の進捗状況
資料:欧州委員会公表資料に基づきALIC ブリュッセル事務所で編集
  注:累計で約13,000 頭がモニタリング対象とされたが、陽性例は確認されなかった。


  表2は第一次TSEロードマップの公表以降見直されてきた主要TSE対策を時系列的に整理したものである。ここでまず注目されるのは、BSEの原発国とされる英国に対する規制がBSEステータス評価について現行のOIE準拠システムが導入されるのに合わせ、他の加盟国で講じられている措置に統合された点である。EUでは単一市場制度が導入されており、口蹄疫の発生など特段の理由がない限り加盟国間の家畜畜産物の移動に制限は課せられないことから、英国におけるBSE対策の進展に伴い、英国について特別に講じられていた措置が見直されたことは、英国の生産者のみならず英国以外の消費者にとっても恩恵を受けとことになったといえよう。

表2 EUにおける主要TSE対策の変換
資料:欧州委員会公表資料をもとにALICブリュッセル事務所で編集
注1:スウェーデンについては、最初のBSE陽性例が確認された2006年までBSEサーベイランスを抽出方式で実施することが許容されていたところ。
2:ただし、96カ月齢超の牛については、引き続き食用に供することを禁止。
また、「畜産の情報」(2009年2月号)の海外駐在員レポート1で報告した通り、BSEサーベイランスについては、EU15において2009年1月より対象月齢の下限が48カ月齢に引き上げ可能となったことも大きな動きの一つである。EU15に加えこれまでにスロベニアとキプロスについても同様の措置が認められており、EUの27加盟国のうち17加盟国については、既にBSEサーベイランスの対象が従前よりもより絞り込まれた形となっている。詳細は次章で触れるが、当該措置による財政支出削減効果も顕著となっており、今後は残る10加盟国への適用の拡大という横への広がりと、17加盟国におけるサーベイランス対象のさらなる絞り込みという二つの軸でBSEサーベイランスのさらなる効率化が進むものと予想される。
 
  さらに飼料規制についても着実な進展がうかがえる。第一次TSEロードマップにおいては、ビートパルプやその他の飼料作物について収穫時に不可避とされる環境(野生動物)由来の骨片の混入をリスク評価に基づき一定程度許容することなどが提起されており、それが実行に移された形となっている。

  特定危険部位については、特定危険部位とされる脊柱の対象月齢が、当初の12カ月齢超から2006年と2008年にそれぞれ24カ月齢超、30カ月齢超に2段階で引き上げられている。いずれもEFSAによるリスク評価を受ける形でリスク管理措置として講じられたものであり、域内食肉事業者の負担軽減に寄与していると考えられる。

3.第二次TSEロードマップ(2010−2015)の論点

 本章では、第二次TSEロードマップの6つの戦略目標のうち、BSE対策として位置づけられる特定危険部位、飼料規制、BSEサーベイランス、BSE患畜同居牛の処分の4項目について紹介することとする。

(1)特定危険部位 (Specified Risk Materials)

戦略目標:
特定危険部位の安全な除去を継続することにより現在の域内消費者の保護水準を維持しつつ、新たな科学的意見に基づき特定危険部位の範囲および対象月齢を見直す。

 EUでは2000年10月以降、BSE伝達のリスクが高いと考えられる牛の組織を特定危険部位と定め、それらの除去および廃棄を義務付けることにより、食料・飼料チェーンへの経路の完全な遮断を図っている。これまでもEFSAによるリスク評価に基づき、特定危険部位のリストが見直されてきているところであるが、第二次TSEロードマップによれば、現在、EFSAによる特定危険部位のリストの再評価が進行中で、2010年中には最終的な意見として公表される予定とされており、特定危険部位のリストの見直しはこの評価結果を踏まえ行われるとみられる。

  EUは2007年6月より、BSEリスクに応じた各国のカテゴリー分けについてOIEによるBSEステータス認定に準拠する方式を採用しており、2010年5月現在のEU加盟国のBSEステータスは、27加盟国中23加盟国が我が国と同じ「管理されたBSEリスク」に位置付けられている。しかし、TSEの防疫、管理、撲滅に関する規則(999/2001/EC、以下「TSE規則」という。)における特定危険部位の規定は、OIEの「管理されたBSEリスク」に係る規定と対象となる組織の範囲および月齢が必ずしも一致していない状況にある。第二次TSEロードマップにおいては、リスク評価機関からの助言が得られれば、EUが独自に特定危険部位としての廃棄を継続している「腸」の取扱いを含め、特定危険部位のリストについてもOIEの規定に一致させる可能性に言及しており、今後の動向が注目される。

表3 特定危険部位に関する規定
資料:TSE 規則、OIE 陸棲動物衛生規約(CHAPTER 11.6)
  注:管理されたBSE リスクに係る規定

(2)飼料規制 (feed ban)

戦略目標:
条件が整えば、現在の完全な飼料規制の措置の一部を見直す。

 EUでは、1994年7月より哺乳動物由来の肉骨粉を牛および緬山羊に給与することを禁止するとともに、禁止物質が交差汚染により反芻動物用飼料に混入するリスクに対処するため、2001年1月1日より魚粉の非反芻動物用飼料への利用などの一部例外を除き、全畜種について動物性加工たん白(以下「PAP」という。)の飼料利用を禁止する完全な飼料規制を導入した。現行の飼料規制の概要は表4のとおりとなっているが、禁止されているPAPについては現時点で許容量が設定されておらず、これらが飼料中に検出された場合は直ちに飼料規制違反となる。

表4 EU における現行の飼料規制
資料: 欧州委員会 The TSE Road map 2 A Strategy paper on Transmissible Spongiform Encephalopathies for 2010-2015
  注:ただし、魚粉を含む代用乳については哺乳期の子牛用飼料として使用が認められている。


この現行の飼料規制に対し、第二次TSEロードマップでは、
・家畜用飼料におけるPAPの許容量の設定
・非反芻動物(養豚、養鶏、養魚)に係る飼料規制の解除
の2点を論点として提起している。

  このうち前者については、禁止されているPAPの検出事例に際しリスクに基づく対応を図ることを前提として、一定の許容量を設定するというものである。欧州委員会は、2009年12月の時点でEFSAに飼料中に微量のPAPが検出された場合のリスク評価の実施を要請しており、このリスク評価結果は2010年中に示される予定となっている。将来的にはこの結果に基づき、現行のTSE撲滅対策を阻害しない範囲で、ごく微量のPAPの混入について許容量を設定する提案が行われるとみられる。

  一方、後者については、飼料利用が禁止されているPAPについて非反芻動物用飼料としての利用の可能性を検討しようというものである。現在飼料利用が禁止されているPAPについては、主に肥料やセメント原料として利用されているが、域内で自給できていない飼料用たん白の資源としての活用に舵を切ったものとして注目される。図1はEU27における配合飼料の用途別生産割合を示したものであるが、仮に現在禁止されているPAPが域内で消費されている配合飼料の2/3を占める養豚・養鶏用飼料について解禁されれば、その効果は相当なものとなることがうかがえる。

図1 EU27における配合飼料の用途別生産割合
資料:EUanimal?feed?manufacturers'?association


  ここで、飼料利用が禁止されているPAPの非反芻動物用飼料としての利用の解禁についての関係業界の動きを紹介したい。図2は、当ブリュッセル事務所も特別会員となっている欧州家畜・食肉取引業連盟(UECBV)のウェブサイトに掲載されている2010年3月2日付の文書2で、欧州配合飼料工業連盟 (FEFAC)、欧州油脂・ レンダリング協会 (EFPRA)、欧州農業組織委員会/欧州農業協同組合委員会 (Copa Cogeca)、欧州家きん加工・家きん取引業協会 (avec)、欧州食肉加工業連盟 (CLITRAVI)およびUECBVの広域6団体が連名で発出したものである。当該文書は非反芻動物由来PAPの非反芻動物用飼料としての利用解禁を求める内容となっており、その理由として、
・現行の飼料規制が導入された2001年以降飼料用たん白の域内自給率が30%未満に低下しており、未利用たん白資源の活用は、域内畜産業における価格の乱高下対策のみならず、持続可能性向上にも寄与すること
・非反芻動物由来PAPの飼料としての活用は非反芻動物部門のコスト低減に寄与し、域内畜産業の競争力強化につながること
・2007年にEFSAが公表した資料3によれば、同一畜種間のPAPの循環を防止する飼料規制が遵守されれば、豚のPAPを養鶏用飼料、鶏のPAPを養豚用飼料にそれぞれ解禁してもBSEが非反芻動物やヒトに伝達されるリスクは無視できるとされていること
・域内の食肉および飼料産業は、家畜副産物および飼料の衛生に係る法令に基づき既に有効なトレーサビリティシステムを導入していること
などを挙げている。

図2 非反芻動物由来PAP の非反芻動物用飼
料としての利用解禁を求める広域6団体の共同文書
資料: UECBV


  第二次TSEロードマップは、このような関連団体の要求実現に一歩近づいた形となったが、実際、第二次TSEロードマップの公表当日である2010年7月16日には、Copa-Cogecaがプレスリリース4を発出し、第二次TSEロードマップにおいて非反芻動物由来のPAPが同一畜種内での循環を防止する形で非反芻動物用飼料として解禁される方向性が示されていることを歓迎している。

  ただし、第二次TSEロードマップでは、非反芻動物由来のPAPの飼料利用解禁の必要条件として、PAPについて畜種を特定する分析手法が実用化されることを明記しているほか、規制の管理には自ずと限界があることを考慮し、PAP製造ラインを畜種別に適正に分離することが現行の飼料規制の見直しに当たって重要な位置を占めることになると言及されていることにも留意する必要があろう。

(3)BSEサーベイランス (BSE Surveillance)

戦略目標:
BSEの疫学的動向を監視する能力および講じられているBSE対策の有効性を評価する能力を維持しつつ、牛におけるBSEモニタリングシステムの監視対象の絞り込みを継続する。

図3 EUにおけるBSEサーベイランス対象頭数の推移
資料:欧州委員会

 第二次TSEロードマップにおいては、BSEサーベイランスの目標は、「複数年にわたりBSEの有病率の動向を追うことにより、飼料規制や特定危険部位の除去などのBSE対策の効果を把握し、評価すること」と明記されている。2001年以降TSE規則の規定に基づき、30カ月齢超の健康と畜牛全頭と24カ月齢超のリスク牛全頭がこのBSEサーベイランスの対象とされてきたが、2009年1月1日以降、一定の条件を満たした加盟国について健康と畜牛およびリスク牛についてサーベイランスの対象を48カ月齢超に絞り込むことが可能となり1、2010年8月現在、EU15にスロベニアおよびキプロスを加えた17加盟国がその対象となっている。図3はBSEサーベイランスが開始された2001年以降のサーベイランス対象頭数の推移を示したものであるが、近年横ばいで推移してきたサーベイランス対象頭数が2008年から2009年にかけて26%減少しているのは、この措置変更が結果として表れたものである。

図4 EUにおけるBSE陽性例数および摘発に要した経費の推移
資料:欧州委員会


  図4は、BSE陽性例1頭を摘発するのに要した経費の推移を示したものであるが、EU15を中心とするBSEサーベイランス対象の絞り込みの効果が顕著に表れている。2001年以降BSE対策の進展に伴いBSE陽性例が急減した一方、サーベイランス対象頭数は図3のとおりほぼ横ばいで推移したことから、1頭当たりの摘発費用が増加の一途をたどり、2008年には1頭当たり14.15百万ユーロ(約16.0億円、1ユーロ=113円)となっていた。しかしながら、2009年1月1日以降EU15を中心としてBSEサーベイランスの対象の絞り込みが行われた結果、BSE陽性牛の摘発効率が向上し、2009年には初めて前年の値を下回り10.10百万ユーロ(約11.4億円)となった。

図5 2008年におけるBSEサーベイランスの月齢分布(EU15)
資料:欧州委員会


  図5は、2008年時点におけるEU15のBSEサーベイランスの月齢分布を示したものである。この図から、サーベイランスの対象を48カ月齢超に絞り込めば約3割の削減が期待できることが読み取れる。また、2008年時点で総頭数の87%を占めていたEU15において2009年よりサーベイランス対象が48カ月齢超に絞り込まれた結果、EU全体のサーベイランス対象頭数が前年比26%減となったことは期待通りの効果が表れたといえよう。

  第二次TSEロードマップにおいては、上記のようなBSEサーベイランスに係る措置の見直しを評価しつつも、以下の3つの選択肢を提示してさらなる見直しの必要性を提起している。
・健康と畜牛およびリスク牛全頭を対象としたサーベイランスに係る対象月齢の下限の段階的引き上げを継続する案(現行のサーベイランス体系を維持しつつ、サーベイランス対象月齢の下限をさらに引き上げる。)
・それぞれの対象牛群(健康と畜牛およびリスク牛)について一定月齢を超える個体を統計学的に抽出してサーベイランスを実施する案(一定月齢を超える個体を対象とする悉皆方式から抽出方式に移行する。)
・それぞれの対象牛群について各個体の生年月日および飼料規制の効果的実施時期を考慮しサーベイランスを実施する案(飼料規制が効果的に実施された日以前に出生した個体のみサーベイランスの対象とするなど、月齢ではなく生年月日に着目したサーベイランスへ移行する。)
これら3つの選択肢について優先度は特段示されていないが、いずれの選択肢が採用されるにしても、BSEの再流行や新たなTSE株の発生を引き続き検出できる制度でなければならないことはもちろんのこと、EUの単一市場や加盟国間の自由な牛生体の移動を阻害することのないよう、新たなサーベイランス制度においては、管理体制が現行制度同様容易でなければならず、さらに、加盟国がOIEによるBSEステータスを維持する際の障害になってはならない旨言及されている。OIEによる「管理されたBSEリスク」の要件の一つとして、「10万頭に1頭のBSE感染牛の検出が可能なサーベイランスの実施」が規定されており、これは必ずしもEUの現行制度のような悉皆方式を意味するわけではないものの、BSEサーベイランスについて一定の強度を確保することが必要となっており、今後具体化することになるBSEサーベイランスの対象のさらなる絞り込みにあたっては、このOIEの要求水準を満たす必要性も当然考慮されることになろう。

(4)BSE患畜同居牛の処分
   (Cohort culling in bovine animals)

戦略目標:
BSE発生牛群における処分方針を見直す。

 BSE患畜が確認された場合、現行TSE規則においては、患畜の同居牛(例:患畜の生年月日から前後12カ月以内に同一牛群で出生した牛および患畜に給与された飼料と同一の汚染された恐れのある飼料を摂取した牛)は殺処分の上廃棄することとされている。一方、TSE規則の例外規定(TSE規則第13条第1項)により、加盟国側から申請がなされれば患畜の同居牛は経済動物としての生涯を全うした段階で殺処分と廃棄を行うことが可能とされているが、これまでにこの申請がなされ、欧州委員会より認可を受けたのは2007年のドイツのみにとどまっている。また、患畜が雌牛であった場合、BSEを疑う臨床症状が確認された時点から過去2年以内に出生した牛についても同様に殺処分の上廃棄しなければならないこととされている。

  しかしながら、EUにおいてはこれら同居牛におけるBSEの摘発例数がごく少数(2008年:2件、2009年:0件)にとどまっていることから、現行制度によるこれらの同居牛の殺処分と廃棄を停止し、と畜場におけるBSE検査の結果が陰性であれば食用に供することを認めることが提案されている。

  ただし、第一次TSEロードマップ(2005年7月)の時点で「特にBSEの発生がないかまたは非常にまれな加盟国では、消費者の視点からは同居牛全頭を殺処分の上廃棄することの方が好まれるかもしれない。」と言及されるほど取扱いの難しい問題であったこともあり、本提案をめぐる議論がどのように展開されるか注目される。

4.おわりに

 当地においても第二次TSEロードマップは農業専門誌を中心に盛んに報道されており、飼料規制緩和の可能性が最も注目を集めているもようであるが、本稿では最後に第二次TSEロードマップ最終頁に記載されている結論について触れることとする。この結論においては、TSEより重大な影響を与えかねないサルモネラなど他の疾病により重点を置き、EUの予算配分もそれに応じて再設計する必要性を示唆している。つまり、TSE対策に投じられている膨大な予算を必要十分な範囲まで見直し、他の脅威の対策に再配分するという問題意識が示されている。


  この問題意識は新たなものではなく、2008年9月に欧州委員会によって採択されたEU家畜衛生戦略に係る行動計画においても同様の姿勢が既に示されている。これらから読み取ることができるのは、BSEは家畜衛生および公衆衛生において重要な疾病であることに変わりはなく、必要な措置が講じられなければならないものの、必要性が薄れたと思われる措置については見直した上でBSE以外の新たな脅威に人的財政的資源を再配分するという姿勢である。


  家畜疾病の侵入や拡大のリスクが高まる中で、人的財政的資源の配分をいかに最適化するかという困難な課題について欧州委員会は明確な戦略に基づき取り組みを進めつつある。欧州委員会のこのような取り組みがどのような成果を生み出すこととなるのか、今後とも注目してまいりたい。

(注)
1:EUにおけるBSE検査月齢変更の経緯および背景について(2009, 独立行政法人農畜産業振興機構)
 http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2009/feb/gravure03.htm
2:Joint EU feed chain briefing paper on PAPs - future use of non ruminant Processed Animal Protein (PAP) for non ruminant farm animals and farmed fish, excluding intra-species recycling (2010, UECBV)
3:Opinion of the Scientific Panel on Biological Hazards on a request from the European Parliament on Certain Aspects related to the Feeding of Animal Proteins to Farm Animals (The EFSA Journal (2007) Journal number 576, 1-41)
4:COPA-COGECA WELCOMES TSE ROADMAP AND CALLS FOR ACTION TO BE TAKEN (2010, Copa-cogeca)

(参考資料)
・ACTION PLAN for the implementation of the EU Animal Health Strategy (2008, European Commission)
・The TSE Road map 2 Strategy paper on Transmissible Spongiform Encephalopathies for 2010-2015 (2010, European Commission)
・Commission Staff Working Document accompanying the Communication from the Commission to the European Parliament and Council on the TSE Roadmap 2 (2010, European Commission)
・The TSE Roadmap (2005, European Commission)
・Report on the monitoring and testing of ruminants for the presence of transmissible spongiform encepyalopathy (TSE) in the EU in 2008 (2009, European Commission)
・Regulation (EC) No 999/2001 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL laying down rules for the prevention, control and eradication of certain transmissible spongiform encephalopathies


 
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