海外情報  畜産の情報 2012年4月号

米国におけるアルファルファの需給動向
〜ひっ迫する最近の需給と様変わりする輸出情勢〜

調査情報部 中野 貴史 (現 総務部総務課)


  

【要約】

 アルファルファは、多年草のマメ科の牧草でたん白質量に富むことから、特に乳用牛に適した飼料として広く利用されている。

 日本は最大の生産国である米国の最大の輸出先である。かつては、日本は9割のシェアを占めていたが、数年前からUAE、中国が参入し、昨年の日本のシェアは37%にまで減少した。アルファルファの需給はひっ迫し、価格はかつてない高価格帯になっている。

 ただし、UAE向けは主にラクダ用であるため、日本向けの高品質のアルファルファとは競合していない。現在は、円高の恩恵を受けて、産地価格が最高価格を更新する中においても入手できているが、今後、円安になったときの懸念は残る。

はじめに

 アルファルファは、多年草のマメ科の牧草でたん白質量に富むことから、特に乳用牛に適した飼料として広く利用されている。ミネラルも多く含み、その栄養価の高さから「飼料の王様(King of Fodder)」とも呼ばれている。

 アルファルファは世界で広く栽培され、主な生産国としては米国、カナダ、アルゼンチン、フランス、スペイン、オーストラリア、中東、南アフリカなどがあげられ、全世界のアルファルファ生産量は約4億3600万トンとなり、最大の生産国である米国では年間約6000万トンが生産されている。

 米国産アルファルファは年間160万トン(2011年)輸出され、日本には59万トン仕向けられ、日本は米国産アルファルファの最大の輸出先となっている。かつては輸出の9割を日本が占めていたが、最近、UAE(アラブ首長国連邦)が米国産アルファルファに注目し、UAE向け輸出が急増している。UAEと比べやや少ないものの、中国向け輸出も増加しており、2011年の米国産アルファルファの輸出シェアは日本が36.5%、UAEが32.9%、中国が11.1%と、日本のシェアは以前の半分以下になっている。米国産アルファルファの輸出先は急激に様相を変えている。
アルファルファ乾草

 輸出需要が高まる一方、アルファルファの米国における作付面積は減少傾向にあり、生産量も減少している。これは、価格が高騰するトウモロコシなど他の競合作物の作付が増加しているためであり、決して需要が減ったわけではない。このため、アルファルファの需給はひっ迫し、かつてない高価格帯となっている。

 本稿では、米国産アルファルファの利用割合が高い我が国の酪農が今後とも持続的かつ安定的に米国産アルファルファを輸入し続けることができるのか、米国産アルファルファのひっ迫する需給の現況を取りまとめる。

1.米国におけるアルファルファの生産実態

(1)アルファルファの特性

 アルファルファはアラビア語の「al-fasfasah(最高の飼料)」を語源に持つと言われ、メソポタミア(現在のイラン辺り)を原産地とし、そこから地中海周辺のヨーロッパ、北アフリカへ広まっていったとされる。18世紀に「alfalfez」と呼ぶスペインからアメリカ大陸へ伝わったことから、米国ではアルファルファと呼ばれるようになった。英国やオーストラリアなどではルーサンと呼ばれている。

 アルファルファは多年草であることから、その種類や気候によっては20年以上の栽培も可能だが、連作障害により収量が減ってしまう。このため、経済作物としてのアルファルファは通常、4〜8年程度で他の作物へと転作される。アルファルファは、マメ科の特性として土壌にチッ素を還元することからローテーション・クロップ(輪作作物)として位置づけられており、他の作物に転作後、数年後に再び作付けされ、この周期を繰り返す。

 アルファルファは、小麦、トウモロコシ、大麦といった飼料に利用される作物の中で輪作される地域がある一方、レタス、トマト、タマネギやジャガイモといった野菜と輪作される地域もある。

表1 アルファルファ、トウモロコシ、大豆ミールの成分比較

単位:%

資料:日本標準飼料成分表(2009年版)
 注:すべて乾物中。

 アルファルファは、繊維質を含む粗飼料としての特性と、たん白質を多く含む等の栄養価の高い飼料としての特性を持ち合わせていることから、乳用牛向けの飼料として広く利用されている。また、肉用牛や馬、羊、ヤギなどにも給与されている。さらに、アルファルファのモヤシなど食用にも利用されている。

 飼料用のアルファルファは、通常、刈り取られてベール化(乾草を集めて圧縮し、直方体等の形状にすること)される。開花後は飼料としての栄養価が減少するため、開花前後に刈り取られるのが一般的で、アルファルファの草地に家畜を放牧することはない。
 アルファルファの生育には、乾燥したアルカリ性(pH 6.8〜7.5)の土壌が適正とされ、乾燥気候が良いとされる。酸性土壌でかつ湿度の高い日本の気候にはアルファルファ栽培は向いていない。

 アルファルファは米国の乾草の生産額で53%を占め、作付面積では35%を占める。米国における作物生産から生産されるたん白質は、大豆が3割強、トウモロコシが3割、そしてアルファルファは1割強を占めて3番目に位置付けられる作物である。(作物生産量に当該作物に含まれる平均たん白質含有割合を乗じてたん白質生産量を算出。)

 アルファルファは栄養価が高いため他の牧草より高値で取引されている。アルファルファの栽培には大量の水が必要であることから、乾燥した西部地域の80%以上は灌がいを用いて生産している。


(2)アルファルファ生産の動向と地域性

米国におけるアルファルファの生産は、長期にわたって7000万トン前後で推移している。しかしながら、この10数年間においては1999年の7657万トンをピークに下降傾向にあり、2011年は、ピーク時から22.6%減の5927万トン(前年比3.9%減)となる。

  また、アルファルファの収穫面積は、1990年以降減少傾向にある。これは、アルファルファを最も多く利用する乳用牛頭数が減少するなど酪農が減退しているためである。収穫面積の減少率が高いのはコーンベルトと中西部で、これは乳用牛頭数の減少に加えて、価格が高騰して収益性がより高いトウモロコシや大豆への転作が進められた結果であるとみられている。

図1 アルファルファの生産量の推移
資料:USDA/NASS「Crop Production」

 全米の傾向とは逆にアルファルファの最大生産地域の西部地域(アリゾナ、カリフォルニア、コロラド、アイダホ、モンタナ、ネバダ、ニューメキシコ、オレゴン、ユタ、ワシントン、ワイオミングの11州)では、収穫面積と生産量の増加がみられる。これは、搾乳牛頭数が1990年から20%増え、全米の生乳生産の38%以上を占めるなど米国最大の酪農地域であるからである。

 西部地域は全米のアルファルファの収穫面積の34%、生産量の43%を占める。
表2 アルファルファの地域別収穫面積
表3 アルファルファの地域別生産量
表4 アルファルファの地域別単収
資料:USDA/NASS

 アルファルファの1ヘクタール当りの収量は、西部地域が最も多い。最も少ない南東部の2倍以上になる。これは、この地域の8割は灌がい利用により生産され天候の影響を受けにくいことと、温暖な気候で生育が早く収穫回数が多いことが挙げられる。

 西部地域は灌がい利用率が高いことから、この地域の最大の関心事は水問題で、都市人口が増加しているため農業用水の規制に向けた動きがある。エネルギー・コスト、環境規制、病害虫、乾草の規格化なども乾草生産者の重大な関心事項である。
 ただし、西部地域とひとくくりに言っても南北・東西に1800kmほど有するため、気候も土質も大きく異なる。年間の刈り取り回数も地域によって2回から10回まで幅がある。

 西部地域の平均単収は1ヘクタール当たり9.4トンであり、全国平均より1割高い。西部地域の中で最も単収の低いのはモンタナ州で4.9トン/ha。モンタナ州では平均年間収穫回数は1〜2回となっている。一方、最大の単収を誇るのはアリゾナ州で18.6トン/haとモンタナ州の実に約4倍にもなる。アリゾナ州では灌がい利用により年間収穫回数は8〜10回に及ぶ。

 また、他の作物への切り替えは温暖な地域で3〜4年、山岳地域など比較的冷涼な地域ではより長くなる傾向がある。

(3)アルファルファの単収と収穫回数

 アルファルファは、地域によってその収量は大きく異なる。アルファルファは再生力が強いため、温暖なカリフォルニア州などでは3月から11月頃にかけて10回程度収穫が行われる地域もあり、北部のワシントン州などでは6月から9月頃にかけて4回程度の収穫が行われる。標高の高いより冷涼な山間部などではさらに回数は少ない。よって、単収は、収穫回数の多いところと少ないところでは大きな開きがある。

 その結果、地域ごとの単収の推移にも特徴が見てとれる。生産量の少ない南東部地域では、2000年以降の単収の推移をみると、年によってはヘクタール当たり4トン以上の差があるが、最大生産地域の西部地域では灌がい利用率が高いことから天候の影響を受けにくく、その差は0.3トン程度となっている。
よって、全米の平均単収も、天候によって大きく変動する。平均単収の推移を図のとおり描写すると年により大きく変動しトレンドが読みにくいことが分かる。

図2 アルファルファの全米平均単収の推移
資料:USDA/NASS

 アルファルファは、一度播種されると数年間収穫が継続されるが、その収穫期間は、生産者が収穫量または品質を求めるかによって異なる。通常は4年で他の作物に転作される。

 また、アルファルファの年収穫回数は、少ない回数の方が品質が良い。高い収量を求める場合、長期間生育させることになるが、栄養価は生育とともに減少する。このため、高収量を求めると品質が低下し、高品質を求めると収量が減るという負の相関関係にある。

(4)アルファルファの生産コスト・収益性

 アルファルファにかかる生産費は、生産者の技量や規模、設備の状況によることはもちろん、土壌の物理的特性、土壌の肥沃度、灌がいの状況、気候などにもよって大きく異なる。

 アルファルファは多年生の植物であるので、投入経費は初年度と2年目以降で大きく異なる。米国農務省全国農業統計局(USASD/NASS)によると、2011年の収穫面積777万ヘクタールのうち93万ヘクタールは新しい作付地で、684万ヘクタールは2年目以降を迎える農地となる。

 アルファルファの生産費・収益については全米で算出した数値はないが、ウィスコンシン大学、ノースダコタ大学、アイダホ大学がそれぞれ独自に自州における作物を比較しているので紹介する。ただし、生産費の定義はそれぞれの調査により異なるので州の比較はできない。

表5 ウィスコンシン州における作物別
資料:ウィスコンシン大学
表6 ノースダコタ州における作物別
資料:ノースダコタ大学
表7 アイダホ州における作物別
資料:アイダホ大学

 この調査結果をみると、収益性はウィスコンシン州とノースダコタ州ではトウモロコシや大豆と比べ著しく悪い。地力改善のための転作はあっても、アルファルファは収益性の優位性はない。アイダホ州では、トウモロコシには対抗できるが、てんさい(ビート)には及ばない。

 ただし、2012年3月のアルファルファの生産者販売価格は前年同月を41.5%上回っていることから、上記調査時に比べるとアルファルファの収益性は改善していると考えられる。2011年は需給がひっ迫して価格が高騰し、10月にはトン当たり200ドルを超える最高価格を記録した。この高値の傾向は、2012年度の1番刈りが多く出回る6月頃まで続くと見られている。

 しかし、生産者の作付作物の選択判断には、単なる収益性だけではなく、リスク管理も重要な要素となる。先物市場を持たないアルファルファは、生産者にとってリスク担保ができないので選択する上でマイナス要素となる。

 このため、アルファルファの収益性が改善しても、2012年の作付面積はわずかな増加しか見込まれない。環境保全プログラム(CRP)(注)の保全地域は減少し、収益性の高い作物の作付地に変わってきているが、アルファルファの作付地は増えていない。

(注)環境保全を目的に農地を休耕することで 補助金を受ける政府の環境プログラム。

2.米国におけるアルファルファの流通と価格動向

(1)アルファルファの流通

 米国で生産されるアルファルファの75%はその生産地で消費され、残りの25%が商業的に流通する。しかしながら、南西部の大規模酪農は流通飼料に高く依存しており、最近の大規模生産者の増加にともなって流通飼料が増加し、アルファルファの自家消費は減少傾向にある。

 かつては、作物生産者にとってアルファルファは商品価値の低い作物であったが、最近の価格の上昇に伴い、収益の出る経済作物とみられるようになった。
アルファルファには多種多様な流通ルートがある。最も一般的な流通は、生産者同士の取引である。最大の生産地の西部では生産者から販売委託を請け負う組織も存在する。また、ディーラーやブローカーを通しての販売も行われている。直接生産者と購入契約をしている大規模酪農家もいる。取引価格については、入札市場のある地域もあるが一般的には相対取引となる。
カリフォルニア州エルセントロのアルファルファ畑
左側は刈り取った直後、これから右側を刈り取る
アルファルファ刈り取り機械
下部のカッターで切り取った後、上部のローラーに巻き込む際に
ヒダで茎に折り目を入れて水分が抜けやすくする。

 アルファルファの流通形態は、一般的にはビッグ・ベールと呼ばれる約1.2×1.2×2.4メートルや0.9×1.2×2.4メートルの直方体に圧縮したものとなる。圃場で刈り取って乾燥後に集荷して圧縮し、直方体の形にしストリングを巻いてベールとなる。ベール化後では内部の水分が抜けないため、ベール化前に十分に乾燥させておく必要がある。米国国内の流通はもとより、UAEや中国向けなどもこのビッグ・ベールで輸出されている。ビッグ・ベールは、ベール化が容易で作業効率が良いことから流通形態の主流となっている。

 さらに、スモール・ベール(0.4×0.6×1.2メートル)という小さいものもある。小型であることからベール化後でも内部の水分が抜けやすいため、やや湿気のある状態でのベール化が可能となる。その結果、葉の形状が残される割合が高く、日本向け輸出はこの形態が多い。しかしながら、スモール・ベールは作業効率がよくないことから年々減少傾向にあり、最近はビッグ・ベールを裁断してスモール・ベール化されるものも多い。
圃場に積まれるビッグ・ベール

(2)アルファルファの価格動向

 USDA/NASSによると、アルファルファの生産者販売価格は、2000年以降は1トン当たり100ドル前後で推移していたが、2007年には減産による需給のひっ迫、さらに2008年の燃料費の高騰やトウモロコシ価格の高騰にもつられて上昇した。その後、世界経済の低迷の影響により価格は下落した。ただ、2011年は需給のひっ迫等が再び起き、上昇基調となり、10月には過去最高となる同203ドルを記録した。以降、200ドルをわずかに下回って推移していたが、3月は再び201ドルと大台に載せている。

 作物の生産には、土地、水、農業機械、燃料、肥料等の同様のコストを要することから、その価格動向に類似性が見られる。飼料価格をけん引するのはトウモロコシ価格である。図3のとおり、アルファルファの価格はトウモロコシ価格と同様のトレンドを示していることが見てとれる。

 また、内需の要因としては、アルファルファの最大の需要者である酪農の生乳生産がある。具体的には、乳価が高いとアルファルファの需要が高まり、あるいは、より高品質のアルファルファを給与する傾向になる。このような場合、アルファルファ生産者販売価格が上昇となる。

図3 アルファルファとトウモロコシの生産者販売価格の推移
資料:USDA/NASS「Agricultural Price」
 注:Sトン=ショートトン=0.907トン、200ドル/Sトン=221ドル/トン
   1ブッシェル=25.4キログラム、6.5ドル/ブッシェル=256ドル/トン
図4 アルファルファと生乳の生産者販売価格の推移
資料:USDA/NASS「Agricultural Price」

(3)生産者の作付意向

 現在、アルファルファの高い価格にも関わらず、他の競合する作物も高収益が見込まれるため、生産者の作付意欲は高まらず、翌年度のアルファルファの作付面積が大きく増えるとはみられていない。コーンベルトや中西部の州では高騰しているトウモロコシや大豆への転換が進む可能性があるし、また初期投資が少なく、春先の雨の影響を受けにくく高単収が見込まれる春小麦も作付面積を増やす可能性もある。コーンサイレージは乾物重量ではアルファルファを上回り、かつ収穫期の天候に影響を受けないことが作付の選択においてプラスポイントとなる。麦芽用大麦も収益性が高い作物であるため、初年度のアルファルファと競合するが、現在作付けされているアルファルファから転作されることはないと考えられる。

 また、西部地域においては収益性の高い果物や野菜への転作の可能性が高いことから、作付面積の拡大は容易ではない。

3.米国産アルファルファ乾草の輸出動向

(1)アルファルファの輸出傾向

 2000年から2011年にかけて生産量は19.8%減少する一方、輸出量は2.5倍に増えている。また、生産に占める輸出の割合は、2000年の0.9%から2011年は2.7%に増加している。

図5 米国産アルファルファの生産に占める輸出の割合
資料:USDA/NASS, FAS

 2007年までは、米国産アルファルファの輸出は日本が牽引し、韓国や台湾が次ぐ状況であった。2008年に入るとUAEが米国産アルファルファを本格的に購入し始めた。UAE向けが急増した要因としては、2つ理由があるとみられている。先ずは、UAE産飼料の生産減である。農業用水の利用の制約が進み、これまで灌がいにより生産されていた飼料作物が輸入に順次切り替えられているためである。次に、従来EU産アルファルファを輸入していたが、米国の販促活動を受けて順次米国産に切り替えられていったことがある。今後、米国産の輸入がさらに増加して日本を抜いてトップになる可能性は高いものとみられている。

 ただし、UAEの用途は、主にラクダ用と言われている。ラクダ用には酪農用ほど高いたん白質含有量が求められていないことから、高品質なアルファルファを輸入している日本とは競合しないと考えられる。

図6 米国産アルファルファの仕向け先別輸出量の推移
資料:USDA/FAS

(2)2009年に急進した輸出量

 米国のアルファルファの輸出量は、2009年に前年比68.3%増と急伸した。日本向けが前年比22.8%増となっている他、UAE向けが4.8倍、中国も3.9倍に躍進した。これは、2008年夏、米国のアルファルファ価格の高騰から需要の減退が起こり在庫が秋以降積み増されたことから米国の輸出業者の販促活動が奏功したとみられている。

 2009年、中国は前年の3.9倍を超えるアルファルファを輸入し、米国の輸出先国の4番手につけると、翌年も2倍近く輸入量を伸ばし、2011年は韓国を抜いて3番手につけた。
中国は自国産の飼料の生産拡大を施策として進めているが、中国国内の需要の勢いはそれを上回っている。中長期的には飼料を自給することになると考えられるが、当面は人口の増加を背景とした牛乳・乳製品の需要増に応えるため、米国産アルファルファの輸入がますます増えていくものと考えられる。

輸出先国別にみられる単価の傾向

 国別アルファルファの輸出単価を比較するため、輸出額を輸出量で割って比較してみる。この数値は、各国向けの年間平均単価となる。日本向けの平均単価は高品質なアルファルファを輸出しているために高い。それをわずかに下回る価格で推移しているのが韓国向けである。日本向けの品質に近いアルファルファを輸出していることが推察される。

 一方、UAEは主にラクダ用であることから、乳用牛と比べ高たん白質のアルファルファが求められておらず、UAE向けは単価が低い。ただし、その価格差は縮小傾向にあり、低品質のアルファルファの需給がひっ迫し、価格が上昇していることが読み取れる。

図7 アルファルファの輸出上位4カ国の輸出価格の推移
資料:USDA/FAS

 中国の単価には注釈が必要である。米国農務省海外農業局(USDA/FAS)公表の輸出額は、輸出業者による申告価格である。本来はFOB価格(本船引き渡し価格)で算出した額を申告することになっているが、中国の申告価格には輸送費が含まれている可能性がある。中国向けの線グラフは、実際は下方に押し下げられるものと考えられる。よって、図では2009年と2011年に日本向けの単価を上回っているが、実際は日本の単価を上回る水準のアルファルファが輸出されているとは考えにくい。

 中国は所得の上昇などを背景に高品質の牛乳・乳製品の需要が高まっている。このため、生乳の品質を向上させるため、たん白質の高い米国産アルファルファに注目が高まっている。なお、中国乳業協会によると、米国産アルファルファは中国産のものと比較して、たん白質含有量が4割高いので、大規模生産者を中心に米国産の需要は強く、今後もさらに需要は強まるとみている(2011年9月ヒアリング)。ただし、中国向けの輸出が増加しても、日本の小規模生産者向けとは競合しないと考えられるが、大規模生産者向けとは競合しかねない。

4.日本における今後の安定供給の可能性

(1)米国産アルファルファ利用増大の要因

 米国産アルファルファの輸出は1970年代から始まり、輸出先国の筆頭は日本であった。乳用牛にとって非常に有用な栄養価をもち、価格も手頃な飼料であったため日本の輸入量は年々拡大していった。

 これまで米国産アルファルファが安定的に供給されてきたのは、西海岸の乾燥した気候がアルファルファの乾草生産に適し、西部地域に膨大な生産量があること(西部7州で1900万トン弱の生産量)、西海岸は日本との貿易量が多く、海上コンテナの確保と安価なフレートに恵まれていたことがあげられる。

 今後は、西部地域はカリフォルニア州やアイダホ州を中心にした乳用牛頭数の増加による需要が増加する一方、アルファルファの生産量は水問題や他作物への転換などから、さらなる増加は難しいものとみられている。
また、近年、中東・中国向け等への輸出が急増しており、米国産アルファルファの需給は一気にタイトな状況になっている。

(2)日本仕様

 日本向けのアルファルファの乾草は、3タイ(3本のストリングで縛ったもの)を圧縮加工したスモール・ベールが主体である。しかしながら、最近生産地では生産効率の向上でビッグ・ベール生産が急激に増加しており、UAEや中国の購入形状もビッグ・ベールである。そのような中、ビッグ・ベールを切断してスモール・ベールに加工したもの、ビッグ・ベールを再度圧縮して加工したもの等、様々な加工形態が出てきており、現在は3タイを圧縮したスモール・ベールは数量が限られるため価格が高値になっており、上述したビッグベール原料からの加工品の需要も徐々に伸びてきている。

 日本向けは、日本の生産者のニーズに応じ、1番刈や2番刈などプレミアムのものから比較的低品質ものまで様々ある。
最近の円高の恩恵で高い産地価格であっても、購入しやすい価格で入手できる。現在は高品質品の需要が圧倒的に多い。今後、円安になった時に引き続き現行の数量を輸入できるのかという懸念がある。

(3)米国産の優位性 

 日本におけるアルファルファの生産は、酸性土壌が多く湿潤な気候の日本には適さないため北海道や東北地方などで1万ヘクタール程度が栽培されるに過ぎない。アルファルファ生産に係る公式統計はないが、この栽培面積に米国の平均単収を使うと7.5万トンとなる。日本ではアルファルファは混播されていると聞くことから、実際の収量はこれをはるかに下回るものと考えられる。日本は、気候風土がアルファルファ生産に適していないことから、今後、国産アルファルファが輸入アルファルファに代わるような増産の可能性は極めて低いと考えられる。

 また、米国産以外のアルファルファは公式統計にはないが、豪州やカナダなどからも輸入されている。しかし、品質面と物量面、さらに価格面で米国産に比べて優位性がなく、米国産アルファルファの代替の可能性は低い。

(4)今後の競合状況

 米国産アルファルファの輸出は、日本とUAEが2大輸出先となっている。UAE向けは、主にラクダ用のアルファルファであることから高品質のアルファルファではなく、安価なアルファルファを求める米国の一部の酪農家と競合している。その結果、米国の酪農家にはUAEの買付けに不満の声も多いと聞く。中国は、乳用牛用の飼料として輸入しているが、日本の小規模生産者向けの高品質アルファルファとは競合しないとみられる。

 現時点においては、サウジアラビアの米国産アルファルファの輸入量は日本の1%以下と非常にわずかではあるものの、サウジアラビアには搾乳牛6万頭規模の生産法人がいるなど酪農に力を入れている国である。現在、灌がい利用によりアルファルファを自給しているが、今後は他の中東諸国と同様に遅かれ早かれ飼料を輸入に切り替えると言われている。その場合、200万トンという日本の4倍もの数量を輸入する可能性があるとの観測もあり、今後、米国国内でアルファルファの増産がなければ、日本向け輸入にも少なからず影響を与えるとみられる。

表8 日本と競合する米国産アルファルファの輸入国

おわりに

 アルファルファと一口に言っても収穫するタイミングで栄養価が大きく異なる。栄養価は生育とともに減少するので、高い栄養価を求めるとつぼみが開く前後に刈り取ることになる。収量を求めるにはさらに生育させた方が多くなるが、栄養価は下がる。

 また、季節によっても品質が変わってくる。気温が低い時期の方がアルファルファの生育が遅いために養分が全体に行きわたり栄養価が高い。一方、夏季は気温が高いことから生育が早く養分が十分に行きわたらないうちに収穫期となるため栄養価が低くなる。栄養価の低い夏季のものをサマー・ヘイと言って、一般的に価格は弱含む。

 さらに、刈り取った後に雨に当たると品質が劣化してしまうが、露が降ると適度な湿気が葉の形状を維持し高価格なものになるなど、天候・風土・気候によっても生産されるアルファルファの品質は異なる。アルファルファのたん白質含有量が15〜22%と幅があるのもこのためである。つまり、多種多様なアルファルファが多様な価格であるということになる。

 また、利用する生産者の使い方によっても違ってくる。例えば、酪農家の場合、たん白質含有量の高いアルファルファが好まれるが、規模の小さい生産者の場合、アルファルファを手掴みで給与することから葉の形状が残っていることが求められる。アルファルファのたん白成分は葉に多くある。一方、大規模生産者などTMRで給与している場合は、混ぜ込んでしまうので、葉の形が崩れていても支障はない。

 酪農用には高いたん白質含有量のアルファルファが所望されるが、価格との関係で酪農家の希望するアルファルファのグレードも異なってくる。

 特に米国国内酪農家のアルファルファ需要は、品質が高いものから低いものまで幅広い。UAEの米国産アルファルファ・マーケットへの参入は、品質の低いアルファルファを利用していた酪農家と競合している。現在、米国の乳価が下降基調にあり、このままだと価格の高いアルファルファに対して需要減退が起こり価格が弱含むのが既定路線だが、UAEや中国といった輸出需要がアルファルファの価格を下支えするとみられている。米国のアルファルファの需給構造に変化が見られている。

 米国におけるアルファルファの生産は、肥沃な土地と気候に恵まれ、比較的低コストで生産されることから、米国は引き続きアルファルファの輸出市場においてメインプレーヤーであり続けるだろう。今後、アルファルファの国際的需要はさらに増し、輸出マーケットに新たな国が加わってくることも考えられる。そこに投機的な動きが加わって、アルファルファの価格は更なる上昇が起こることになるかもしれない。

 今後もアルファルファの需給動向から目が離せない。
輸出業者の保管風景


 
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