特集:自給飼料生産の振興に向けて  畜産の情報 2013年3月号

エコフィードの一層の 普及・拡大に向けて

宮崎大学農学部畜産草地科学科 教授 入江 正和


 エコフィードは、食料・飼料自給率の向上、循環型社会の構築、畜産業の支援にとって極めて重要である。バイオエタノール生産、干ばつ、経済発展国の穀物輸入増加、運賃上昇、投機マネーなど多くの要因による穀物価格の高騰は、畜産物の生産コストを押し上げており、今後の不安材料となっている。このような中でエコフィードは、今後も飼料対策の有効な一手段であり続けることは間違いない。

 農林水産省の資料(平成24年11月発表)によると、平成21年度において食品産業から排出された食品残さは2270万トン程度にのぼり、うち66パーセントの約1500万トンが再生利用され、さらにそのうちの74パーセント(全体の約50パーセント)が飼料として利用されている。つまり、エコフィードは着実に利用が進んでいる。一方、残りの34パーセントは焼却や埋却処分されており、その中には品質的に飼料化が可能なものもあることから、さらなる普及拡大が望まれている。

 ところで、エコフィードがここまで普及するきっかけは何であろうか。当初、エコフィードに反対していた飼料メーカーや残飯利用を嫌っていた養豚経営者が、飼料が高いからといって簡単に利用を推進したという訳ではない。もともとわが国において家畜の重要な飼料資源であった食品残さは、多頭飼育に伴い、環境問題を含む取扱いの難しさ、畜産物への悪影響などにより、その利用は減少していった。このような状況の中、エコフィードを進展させた原動力は、何よりも技術革新や人・機関の連携、すなわちソフトの進展であると言えよう。

 つまり、飼料価格高騰を背景として、エコフィード利用による高品質畜産物生産技術の開発、環境に配慮した大規模処理技術の開発と施設の実用化、食品製造や流通側からの参入と連携などが、新たなエコフィード畜産を展開させる原動力となった。

 畜産物の高品質化技術の先例は、著者も関わった大阪の肉質向上研究会での取り組みであろう。安かろう、悪かろうで豚肉を生産していた残飯養豚の生産者達が、品質重視の時代に入り、廃業も余儀なくされる中で始まったのがこの研究会である。発足から20年近くが経過しようとしているが、この研究会からパン多給による霜降り豚肉生産技術が考案され、これが突破口となり、全国に普及し、パンは廃棄物から一挙に飼料化に進んだ。ここから生み出された初のエコフィード銘柄豚肉は、今なお高級品として取り扱われ、それらの生産者の間ではしっかりと後継者が育っている。

 飼料化技術も然りである。1990年、大阪府のグループによって生み出された天ぷら方式ともいわれる油温脱水処理法は、1998年札幌市において実用化し、大型エコフィード製造所の第一号となった。このエコフィードは、飼料メーカー利用でも第一号となった。現在では、様々な方式の大型飼料化工場が全国で稼働している。

 流通業界も現在はエコフィード事業に取り組んでいるが、突破口を開いたのは、コンビニエンスストア最大手の株式会社セブン - イレブン・ジャパンである。(株)セブン - イレブン・ジャパンの関連会社は苦労の末、宮崎大学も含む産官学連携によってエコフィード事業に大手流通業界で初めて成功し、流通業界がエコフィードに取り組む先陣となった。

 さらに多くの成功例(現時点で全国174カ所の製造事業所が存在する)をみると、エコフィードの処理方式やその対象家畜、規模の大小は様々であり、事業主体者も、自治体が先導的な役割を果たしている組織のほか、廃棄物処理業者、畜産経営、食品製造業者、食品流通業者、NPO法人組織、異業種からの参入と様々である。つまり、成功の事例は一様ではなく、多種多様にわたっている。これは、ケースバイケースで臨機応変に考えることが重要であることを示唆しており、今後も一律ではなく、様々なケースが出てくるであろう。

 多くのエコフィード事業が成功している一方で、失敗した例もみられる。一例として、巨額の資金を投入したにも拘わらず破綻した千葉県下の事例は、エコフィード利用自体が問題となったわけではなく、主な原因は過剰投資であった。食品残さの収集量の目測を誤り、巨額の資金を工場やその設備などにつぎ込んでいた(食品残さを運ぶロボットまで配置されていた)。実際には、想定していた量の食品残さが確保できず、また予想以下の価格でしか売れなかったため、短期間で破綻した。当時、既に関東圏ではエコフィード事業が進み、食品残さが取り合いのようになっていたこと、さらに、自社製品がどの程度の価値を持つのかの認識も低かったため、営業が立ち行かなくなったと言われている。このように、施設設備には資金をつぎ込むが、成分分析費用さえ惜しむというケースは多く、ソフトに投資せずに成り立たなくなった例が少なくない。また、別の事例として、エコフィードを活用して生産した畜産物を学校給食にまで広く普及させたが、飼料配合や栄養成分に問題が生じ、さらに肉質が低下したために破綻した例があるが、これもソフトを重視しなかったことが主原因である。

 以上から、今後のエコフィード事業の発展の鍵となるのは、ハードよりもむしろソフト、特に品質や連携(異業種、ヒト)と言えよう。エコフィードを作っても、あるいは、エコフィードを与えた畜産物を作っても、それらがうまく販売できなければ意味がない。さらに、少しでも高く売ろうとすれば、エコフィードや生産される畜産物の品質を重視しなければならない。そういった中で、すでにエコフィードやエコフィードを利用した畜産物の認証制度が始まっている。また、筆者らもエコフィードの栄養成分を簡易に測れる装置を開発するなど、肉質の評価や向上のための技術も進歩している。是非有効に活用されたいと思う。

 さらには、TPP問題が騒がれる中、有効な手立ては消費者との連携である。消費者はエコフィード利用に好意的であり、その利用が生産される畜産物に付加価値を与える時代にまでなり始めている。消費者にエコフィードをもっと認知してもらい、生産される畜産物の良さも知ってもらうことが、今後重要になるに違いない。


(プロフィール)
入江 正和(いりえ まさかず)

 1978年、京都大学農学部畜産学科卒業、同大学院を経て、1979年大阪府農林技術センター研究員となる。主任研究員、ゲルフ大学(カナダ)客員研究員を経て、2004年宮崎大学農学部教授に就任。日本学術会議連携会員、農林水産省技術会議専門員、農業資材審議会委員、日本食肉格付協会非常勤理事、肉用牛研究会会長などを勤める。

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