【要約】
近年のはっ酵乳、乳飲料および加工乳の消費は、年度によってさまざまな需要動向をみせており、普通牛乳の消費にも大きな影響を与えている。当機構では、これら乳製品の需給を的確に把握するため、「はっ酵乳・乳飲料等の生産実態調査」を毎年実施しているが、今般、平成24年度のメーカーの生産実績に基づく調査結果を取りまとめたので、その概要を報告する。
1.調査対象
本調査は、「はっ酵乳」「乳飲料注1」「加工乳」の3品目について、アイテムごとの生産量、成分、原材料使用割合等を調査したものである。調査対象は対象品目を生産している全国135企業(現在廃業等により生産を中止した3社を含む)であり、有効回収は106社、有効回収率は80.3パーセントであった。
なお、本調査結果による過去5年間の生産量等のデータは、各年度の回収率や、規模の大きな企業の回答の有無に影響されることに留意が必要である。
注1 乳飲料は大きくわけて、牛乳をベースとして牛乳の栄養分や風味をそのままに
カルシウムや鉄、ビタミン、ミネラルなどの栄養分を強化した「白物乳飲料」と、
コーヒーや果汁などの入った色のついている「色物乳飲料」がある。本調査では、
風味にかかわらず、白いものを「白物乳飲料」、色のついているものを「色物乳
飲料」に区分している。
2.生産動向
(1)はっ酵乳
回答のあった企業(乳業者だけでなく非乳業者を含む)の平成24年度はっ酵乳生産量は、110万7093キロリットルと、健康志向など消費者ニーズに合致した商品として、毎年生産量を拡大させている。タイプ別注2のシェアでみると、「ハード」と「ドリンク」が上昇し、「プレーン」と「ソフト」が低下している(図1)。
注2 はっ酵乳のタイプを次のとおり分類した。
(1)ハード:寒天やゼラチン等で固形化したもの
(2)ソフト:果肉等を加えて流動性のあるもの
(3)プレーン:牛乳・乳製品等をはっ酵させたもの
(4)ドリンク:プレーンヨーグルトを液状化したもの
(5)フローズン等:上記以外のもの
図1 はっ酵乳の生産量の推移「種類別」
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※「フローズン等」は過去5年間の生産量シェアがいずれの年度も0.2%を下回っているため、
図中には記載していない。 |
企業区分別注3にみると、24年度は乳業系の生産量が95万6132キロリットル(前年度比25.0%増)と顕著な伸びを示している(図2)。
注3 本調査では、原則として、生乳処理場を持っている企業を「乳業系」、生乳処理場
を持っていない企業を「非乳業系」と分類した。
図2 はっ酵乳の生産量の推移「企業区分別」
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はっ酵乳は、消費者の健康志向の高まりを背景に需要が拡大しており、メーカーにおいては機能性などを重視した新商品の開発、プライベートブランド商品注4の拡大、商品のリニューアル、販売促進の強化など需要拡大に向けた取組が図られている。
注4 小売流通業者などが独自に企画販売する商品で、乳業会社に製造を委託する。
最近は、コンビニエンスストアや大型量販店の台頭によって、商品数も増加している。
(2)乳飲料
回答のあった企業の平成24年度の乳飲料の生産量は105万3292キロリットル(前年度比1.0%減)であり、全国生産量(農林水産省「牛乳乳製品統計」)134万5290キロリットルに対するカバー率は78.3パーセントとなった。
1)色物乳飲料
色物乳飲料の生産量は53万3637キロリットル(前年度比8.1%減)となった。商品タイプごとの生産量は、平成22年度から23年度の間ではすべてのタイプで増加傾向にあったが、24年度はいずれも減少する結果となった(図3)。これまで色物乳飲料の代表格であった「コーヒー」タイプのシェアが低下傾向にある一方、ココアやティーオーレ等が該当する「その他」タイプのシェアが徐々に拡大傾向にあり、コンビニ販売を中心としたカップ飲料など商品の多様化が進んでいるとみられる。
図3 色物乳飲料の生産量の推移「商品タイプ別
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※回答にあった色物乳飲料のうち、商品タイプが明確なものを抽出した。 |
なお、色物乳飲料の「乳業類型別注5」生産量のシェアは、大手3社が7割前後となっており、農プラ系が1割、中小系が2割強となっている(図4)。
注5 本調査では、企業区分を「大手乳業3社(以下、大手3社)」「農業プラント系
(以下、農プラ系)」「中小系」の3区分に分けて分析を行っている。「大手3社」とは
株式会社明治、森永乳業株式会社、雪印メグミルク株式会社の3社、「農プラ系」
は主に酪農生産者団体が出資する乳業会社、「中小系」は大手3社・農プラ系を
除いたその他の乳業会社をいう。
図4 色物乳飲料の生産量の推移「乳業類型別」
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※24年度は商品タイプが不明確なものも含むため、生産量が図3と一致しない。 |
2)白物乳飲料
白物乳飲料の生産量は、加工乳などからの生産シフトなどにより、51万9656キロリットル(前年度比7.7%増)となった。カルシウムやビタミンの添加により、健康面での機能性に訴求できる点や、牛乳と比べ価格面での優位性があることから、毎年生産量を拡大させている。
乳業類型別では、大手3社、農プラ系、中小系のいずれも生産量を拡大させており、それぞれのシェアは大手3社が約5割、農プラ系が約2割、中小系が約3割となっている。
図5 白物乳飲料の生産量の推移「乳業類型別」
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(3)加工乳
回答のあった企業の平成24年度の加工乳生産量は7万300キロリットル(前年度比25.6%減)であり、全国生産量(農林水産省「牛乳乳製品統計」)14万411キロリットルに対するカバー率は50.1パーセントとなった。23年度からの大幅な減少傾向が継続しており、特に「低脂肪」注6の生産量は3万1639キロリットル(同36.3%減)と減少が顕著であった(図6)。
減少した要因としては、添加物の使用に制限があることや、加工乳の原料となるバターや脱脂粉乳といった乳製品の価格が上昇したことが挙げられる。
注6 加工乳は乳脂肪率によって「低脂肪(1.5%以下)」「普通脂肪(1.5%超〜3.8%
未満)」「濃厚(3.8%以上)」の3タイプに分類した。
図6 加工乳の生産量の推移「種類別」
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乳業類型別では、22年度は、大手3社の生産量が大きく増加していたが、24年度は1万2875キロリットルと前年に引き続き2万キロリットルを下回り、生産シェアも18.3パーセントと2割を下回った。カルシウムやビタミンの添加により健康面での機能性に訴求できることから、大手乳業を中心に加工乳から乳飲料の生産にシフトした結果である(図7)。
図7 加工乳の生産量の推移「乳業類型別」
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3.原材料使用割合の動向
各品目における原材料使用割合を調査した。ここでの使用割合とは、以下の算定式によって求められたものであって、乳製品以外の水やフルーツ等を含め、原材料ベースの重量で単純に算出したものである。
原材料使用割合(%)=原材料使用量(トン)÷原材料総重量(トン)×100
(1)はっ酵乳
はっ酵乳の原材料使用割合注7は、生乳が17.6パーセントと前年度よりも6.3ポイント減少し、脱脂濃縮乳が8.7パーセントと2.7ポイント増加した。生乳の使用割合はおおむね減少傾向にある一方、脱脂濃縮乳の使用割合は増加しており、その背景には低脂肪タイプのニーズが拡大しているものと考えられる。脱脂粉乳の使用割合は、需給動向に左右されると考えられるものの、おおむね5〜6パーセントで推移している(図8)。
注7 原材料使用割合のうち、「生乳」には「殺菌乳」「部分脱脂乳」などを含む。
図8 はっ酵乳の主な原材料使用割合の推移
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※「ホエイ類」は過去5年間の使用割合がいずれの年度も0.4%を下回っているため、図中には
記載していない。 |
(2)乳飲料
乳飲料の原材料使用割合は、生乳が10.9パーセントと前年度よりも0.5ポイント増加し、脱脂濃縮乳は3.0パーセントと前年度から0.7ポイント減少した(図9)。24年度の原材料使用割合を乳業類型別にみると、大手3社は生乳の使用割合が低い分、バターや脱脂粉乳、脱脂濃縮乳で乳固形分を確保している。一方、農プラ系は、これら乳製品の使用割合は低く、生乳の使用割合が高い傾向にある(表1)。
図9 乳飲料の主な原材料使用割合の推移
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表1 乳業類型別の乳飲料の原材料使用割合(平成24年度)
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(3)加工乳
加工乳の原材料使用割合は、生乳が23.1パーセントと前年度よりも1.5ポイント増加した。脱脂濃縮乳は12.0パーセントと前年度から1.9ポイント増加し、脱脂粉乳は3.1パーセントと前年度から0.9ポイント減少した。
平成20年度以降、生乳の使用割合は21.6〜26.5パーセント、脱脂濃縮乳の使用割合は5.7〜12.0パーセントと変動が大きい傾向にある(図10)。
図10 加工乳の主な原材料使用割合の推移
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4.おわりに
今回の調査において見られた特徴的なポイントは以下の通りである。
(1)はっ酵乳の生産増加と、脱脂濃縮乳の使用
本調査(乳業者と非乳業者を対象)におけるはっ酵乳の生産量は、平成20年度以降堅調に推移し、24年度には初めて110万キロリットルを上回った。消費者の健康志向の高まりを背景に、機能性を重視した商品を中心に需要が拡大しており、特にハードタイプやドリンクタイプは前年度比で大きく増加している。なお、はっ酵乳の原材料使用割合は、生乳が低下傾向にある一方、脱脂濃縮乳が上昇傾向にある。
(2)白物乳飲料は増加、色物乳飲料は減少
白物乳飲料の生産量は、平成20年度以降増加し続けている。これは、加工乳と比べカルシウムやビタミンの強化を目的とした添加が可能である点や、牛乳よりも価格面での優位性があることから、消費者のニーズが移ったためと思われる。
色物乳飲料は、生産量のうち大きな割合を占めるコーヒーが減少傾向にあることから、全体でも減少となっている。
(3)白物乳飲料への生産シフトによる加工乳の減少
加工乳の生産量は、平成21年度をピークに大幅な減少傾向で推移している。添加物の使用が出来ず機能性で価値訴求しにくいという点から、生産を白物乳飲料へシフトしたことが大きな要因である。また、21年度や22年度は、原料となる脱脂粉乳やバターの価格水準も低かったため、価格競争力の面で優位性があったが、23年度以降は、これら乳製品の価格が上昇したことから、メーカーにとって生産するメリットが薄れたという面もある。 |